千葉県の市原市と大多喜町(おおたきまち)とを結ぶローカル線「小湊鐵道(こみなとてつどう)」。東京都心からも1時間余りで訪れることができ、毎年春と秋の観光シーズンには菜の花畑や紅葉があふれる里山を走るレトロな車両を撮影しようと、沿線は多くの鉄道ファンや家族連れでにぎわっていました。
(千葉放送局カメラマン 大溝浩)
そんな人気ローカル線を襲ったコロナ禍。一時は乗客が2割ほど減少し、イベントも多くが中止になってしまいました。このため観光客をどう呼び戻し、乗客数の回復へつなげていくかが大きな課題となっています。
3年ぶりに行動制限のない夏休みとなった今年。このときを待ちわびていた小湊鐵道の社員がいます。鉄道部運輸課の飯村大介さん。飯村さんは小湊鐵道が開くイベントの多くを取り仕切っています。
「コロナが流行する前から比べて輸送人員が下がっていますので、まずはコロナ前の水準に戻ることを目的にイベントを考えています」
この夏、まず飯村さんが実施したのが五井(ごい)駅にある車両基地を見学するイベントです。
ふだんは入ることができない基地の中に入り、古い車両のディーゼルエンジンを間近に見たり、運転席に座って操作レバーを握ったり、参加した鉄道ファンは大興奮。イベントは見事に成功しました。
「みなさん好きな方ばかりでしたので、楽しめていただいてよかった」
さらに飯村さんが集客の起爆剤にしようと企画したのが、里山のグルメを売りにした特別列車の運行です。昔懐かしい車内販売を復活させました。
販売する商品にも飯村さんのこだわりがキラリ。地元の漁協や農場から焼きたてのアユやご当地弁当を取り寄せました。
車両に乗り込んだ飯村さんは、みずからワゴンを押して乗客に積極的に営業を。さらに受けた注文を業者に連絡したりと一日中大忙し。乗客の反応も「ヘルシーな弁当だったので、おいしくてとてもよかった」と上々です。
いま、飯村さんが温めている計画があります。それは地元の食材を生かしたあらたな名物弁当を作ること。
そこで飯村さんが目を付けた食材が、野生動物の肉「ジビエ」です。近年、沿線では田畑を食い荒らす野生動物の被害を減らすためジビエ普及に力を入れています。それを生かした新たな弁当をつくり、小湊鐵道の新たな目玉として観光客をさらに呼び戻したい。
飯村さんはジビエ料理を扱っている地元の企業とともに開発に乗り出しました。
これが完成した新しい「ジビエ弁当」です。
イノシシや鹿の肉、さらに地元でとれた農産物がふんだんに使われています。
「おいしいです、地のものが勢ぞろいみたいな感じで。彩りもすごくいいですし本当に千葉らしい房総を感じられる。県外から来た方でもとても喜ぶ内容じゃないかと」
「列車に乗ること自体がお客様の旅を満足させるツールになってますので、そういうものを味わいに来てもらえれば。失敗を恐れずに、いろんなことをやってみようじゃないか、そういう気持ちでできるところが面白いと思います」
里山ならではのグルメを武器に乗客を呼び戻し、さらに視線はその先へ。飯村さんの暑い夏が続いています。
枕木の匂い、きしむ台車、ディーゼルエンジンの響き、かわいらしい木造駅舎・・・
大きく開いた車窓から風に吹かれるとまるでタイムスリップしたかのような錯覚にとらわれます。
小湊鐵道の飯村さんはボックス席のある車両が増えたことをきっかけに「昔の鉄道旅を再現したい」と車内販売列車を企画しました。
私も小さいころに特急列車でお弁当やお菓子、お湯の中にティーバックを入れる緑茶を買ってもらったことを思い出しました。
飯村さんは「今後、沿線でのウォーキングツアーなど、鉄道とスポーツを融合させたイベントを作りたい」と話していました。
皆さんも都会のけん騒を忘れて、里山の旅を楽しんでみてはいかがでしょうか。