「歴史上の人物を診る【第3弾】」④ ~光源氏~

24/05/16まで

健康ライフ

放送日:2024/01/25

#医療・健康#カラダのハナシ#歴史#大河ドラマ

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24/05/16まで

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【出演者】
早川:早川智(はやかわ さとし)さん(日本大学医学部 教授)
聞き手:田中孝宜 キャスター

光源氏の生き方には「浮気遺伝子」が影響?

――早川智さんは産婦人科の医師であり、微生物・感染症のご専門でもあるんですが、一方で歴史上の人物と病気の関連について研究されています。
今回のテーマは「光源氏」です。紫式部が書いた小説の主人公ですよね。早川さん、架空の人物でも診察できるんでしょうか。

早川:
源氏物語は全部で54帖(じょう)もある長編小説で、紫式部にとって生涯で唯一の物語作品です。私はまだダイジェスト版で読んだだけで、今は原文と現代文の対訳版を読み進めています。
千年も前に書かれたものなんですけれども、物語の構成や登場人物の精細な心理描写などから、その人物像や病状を感じ取ることができます。

――興味深いですね。光源氏といえば、美少年で女性にモテモテのプレーボーイというイメージなんですけれども、どんな人物なのか改めて簡単に教えてください。

早川:
光源氏は、平安時代の公家の設定です。桐壺帝(きりつぼてい)の皇子として生まれながら、生後まもなくお母さんと死別し、皇族から臣籍降下、つまり皇族から離れて源の姓を賜りました。幼い頃から美貌と才知に恵まれ、父である天皇の後宮に入った藤壺(ふじつぼ)と密通し、冷泉帝(れいぜいてい)をもうけます。成人してからはあまたの美女と恋愛遍歴を繰り広げ、やがて愛の破綻で無常を悟り、出家を志します。
物語の中では光源氏の死は描かれていないんですけども、出家した2~3年後、50代半ばと推定されますが、亡くなっておられます。

――光源氏を、医師の立場からどう読み取ってるんでしょうか。

早川:
新しい恋を追いかけることに異常なほどの情熱を燃やしている様子から、「恋愛行動に関わる遺伝子」の影響があったんではないかと考えます。

――ん? 恋愛行動に関わる遺伝子、ですか?

早川:
あくまで仮説の段階です。実は最近の研究で、浮気を含む性行動は遺伝子と関係があるのではないかと言われるようになりました。これは実験に使うマウスではなくて、人里離れた森や草原に生きているノネズミの生態から明らかになってまいりました。
ノネズミの仲間は、種によって多様な社会構造をとります。アメリカの草原に生息するプレーリーハタネズミは一夫一妻制をとるのに対して、近い種類で山の中に住むサンガクハタネズミは複数の相手と性的な関係を持つという特徴があります。その違いが何かということを調べたところ、脳の一部で作られるホルモンに結合する“レセプター”の構造でした。つまり、そのレセプターの構造を決定する遺伝子の配列が違うんです。
もちろん、人とネズミでは遺伝子も脳の構造も違いますが、人では、興奮したり快感に関係する神経伝達物質“ドーパミン”に結合するレセプターに違いがあることが分かっています。そのレセプターの遺伝子の違いによりまして、新しい物事や刺激が好きなタイプと、こういったことがあまり好きではない保守的なタイプに分かれています。そして、新しいことが好きな遺伝子を持っている人は浮気の頻度や離婚回数が多く、「浮気遺伝子」などと呼ばれるようになりました。

――浮気遺伝子!? 浮気は遺伝子のせいということですか?

早川:
もちろん遺伝子だけで人間の行動が決まるわけでありません。ここは大変大事なことなんですけれども。
平安時代と現代では社会規範も法律も違いますので、現代人が本能のままに生きるということはないんですが、新しいことが好きな遺伝子を持っている人はそういった性質を持っているのかもしれません。あと、この遺伝子は別に浮気するために存在するのではなくて、何かイノベーティブな仕事をしたり、冒険家になったりなど、何か新しいことを見つけることにたけているといわれております。

――新しい物事や刺激が好きなタイプと、新しい物事があまり好きではないタイプの遺伝子があるということですね。

早川:
おっしゃるとおりだと思います。

光源氏のモデルは在原業平?

――ちなみに、光源氏には実在のモデルがいたんでしょうか。

早川:
恐らくいたと思います。一般には藤原道長(ふじわらのみちなが)と言われておりますけれども、行動から考えると、もう少し前の在原業平(ありわらのなりひら)が近いかと思います。
在原業平は平安時代初期の歌人です。業平は825年に平城(へいぜい)天皇の皇子の第五王子として生まれました。お母さんは桓武天皇の皇女で、両親ともに皇族でしたが、光源氏と同じく臣籍降下して在原姓を名乗りました。
「日本三代実録」によりますと、出世にはあまり興味がなく、次々に新しい恋を求めたとされております。

――確かに光源氏の人物像とかぶりますね。

早川:
はい。

光源氏はマラリアにり患していた?

――あの、光源氏の晩年は描かれていないようですけれども、早川さん、ほかに気になる点はありますか。

早川:
光源氏がなぜお亡くなりになったかというのは紫式部に聞かないと分からないんですけれども、マラリアにり患したのではないかと言われております。
瀬戸内寂聴さんが現代語訳した源氏物語で、源氏の君はわらわ病みにおかかりになり、あれこれとまじないや加持祈祷(きとう)などをおさせになりますけれども、一向に効き目がありません、と書かれています。
「わらわ病み」はマラリアといわれています。このころ、日本は大変温暖でして、瀬戸内海から京都辺りまでマラリアが流行していたといわれています。実在の人物である藤原道長の「御堂関白記(みどうかんぱくき)」にもマラリアの対処を加持祈祷に頼ったと書いてありますので、源氏物語はこういった実際の病気をモデルに盛り込んで書いたんじゃないかと考えております。

光る君へ

日曜日 [総合] 午後8時00分/[BS・BSP4K] 午後6時00分

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【放送】
2024/01/25 「マイあさ!」

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