「歴史上の人物を診る【第3弾】」① ~藤原道長~

24/05/13まで

健康ライフ

放送日:2024/01/22

#医療・健康#カラダのハナシ#歴史#大河ドラマ

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【出演者】
早川:早川智(はやかわ さとし)さん(日本大学医学部 教授)
聞き手:田中孝宜 キャスター

藤原道長は糖尿病だった?

――早川智さんは産婦人科の医師であり、微生物・感染症のご専門でもあるんですが、一方で歴史上の人物と病気の関係についても研究していらっしゃいます。
今週は、2024年の大河ドラマ「光る君へ」に関係する人物をご紹介していただきます。
早川さん、2024年の大河の主人公は紫式部、平安時代の人物ですよね。

早川:
はい。平安時代はおよそ400年も続いた長い時代ですが、2024年の大河ドラマは、貴族である藤原氏が力を持っていた平安中期ごろのお話です。
私は、古文書の原本や歴史書をもとに歴史上の人物の病気を考察しておりますが、平安時代は具体的な文研的資料が少なく、診断や治療経過の検討が難しいのです。その中でも、背景などから推察できる人物を取り上げたいと思います。

――では早速、お聞きしていきましょう。
今回のテーマは「藤原道長(ふじわらのみちなが)」です。
「光る君へ」では柄本佑(えもと たすく)さんが演じるんですが、藤原道長、どんな人物でしょうか。

早川:
藤原道長は、11世紀初頭、摂関政治の全盛を築いた最大の権力者です。道長は自分の娘を天皇に嫁がせ、生まれた子どもを次の天皇にする、つまり天皇家の親戚として権力を握りました。

――そんな絶大な権力を得ていた藤原道長の病気、早川さんの診断は。

早川:
「糖尿病」です。

――道長が糖尿病だった、と考える根拠は何でしょうか。

早川:
同じ時代のお公家さん、藤原実資(ふじわらのさねすけ)という方が『小右記(しょうゆうき)』という日記を書いておられるんですけれども、道長は貴族社会の頂点にあった51歳ごろからしきりに水を飲み、2年後には急に痩せてきて目も不自由になり、時々胸の痛みに苦しんだと記されております。
当時のお医者さんは「消渇(しょうかつ)」と診断しています。これは今でも漢方医学の診断名としてありますが、糖尿病のことです。背中や腹部にたびたび腫れ物ができて化のうした、という記録も残っております。

――胸の痛みに苦しんだっていうのも、糖尿病が関係してるんですか。

早川:
糖尿病から狭心症を起こしたのではないかと考えます。糖尿病は動脈硬化を起こす危険因子のひとつなんですけれども、血糖が正常な人よりも高いと、心筋梗塞や狭心症、こういった「虚血性心疾患」を起こしやすくなってまいります。

――糖尿病になると、いろんなところに影響が出てくるんですね。

早川:
糖尿病は自覚症状がないままに進行し、全身の血管が傷害されます。悪化しますと、網膜症、腎疾患、心疾患、神経障害で歩行困難になるなど、全身にさまざまな影響が出てまいります。さらに感染症にもかかりやすくなりますし、最近では認知症も発症しやすくなることが分かってまいりました。

――糖尿病ということですけれども、食事が大きく関係していたんでしょうか。

早川:
はい。当時の宴席のメニューが残っているんですけれども、まあ、なかなかごちそうが出てきましてカロリーが高い。それからお酒も大変お飲みになっているようですし、庶民の質素な食事に比べますと大変よいものを召し上がっておられたんじゃないかと思います。
あと、運動量が戦国武将よりも圧倒的に少ない。それから宮廷内の権力闘争がございますので、こういったストレスも原因になったんではないかと考えております。

――やはり、生活習慣やストレスが大きく関係するんですね。

早川:
それから、道長の親類縁者、お父さんとか伯父さんとかこういった方々なんですけれども、多くが「飲水(いんすい)病」、これを患っておられまして、中年以降に痩せてきて視力が低下し、30~40代で亡くなっています。
こういったことを併せて考えますと、道長を含めて藤原氏の嫡流に「2型」の糖尿病の遺伝子があったのではないかと考えております。

――糖尿病にはタイプがあるんですね。

早川:
はい。糖尿病には「1型」と「2型」がありまして、1型はウイルス感染などがきっかけとなりまして発症するんですけれども、これは遺伝は関係ございません。2型というのは、これが日本人で一番多いんですけれども、一般的に「生活習慣病」といわれております。これは遺伝的な要因に運動不足や食べ過ぎ、こういった生活習慣が関わってまいります。
ですから、道長のようにご家族に糖尿病の方がいらっしゃる方は、発症していなくても食生活や運動習慣など、若いときから気をつけていただきたいと思います。

藤原道長へ現代医学の治療を行うなら

――もし、早川さんなら藤原道長の糖尿病、どんな治療をしますか。

早川:
まず、糖尿病の程度を正確に診断するために、食事前後の血糖値を調べ、食事内容を検討いたします。それから体重管理も大切ですので、運動管理を行いたいと思います。さらに、飲み薬でインスリンの分泌を高めたり、また最近では糖の吸収を抑えたり、お小水に余分な糖を排出する、こういった薬がございますので、いきなりインスリンを注射するのではなくて、飲み薬を組み合わせてコントロールすることになると思います。
ただし、そういった薬には副作用もありますので、必ず内科の先生、できれば糖尿病専門のお医者さんにかかっていただきたいと思います。
最近では、糖尿病で処方される薬を減量目的で自費診療で処方する例もあるんですけれども、あるいはネットでお買いになる方もいらっしゃるんですが、これは危険ですので絶対にやめていただきたいと思います。
また、極端な糖質制限を進める方もいらっしゃるんですが、やはり危険を伴いますのでやめていただきたいと思います。

――もし、藤原道長が現代医学の治療を受けていたら、中世の歴史、どうなっていたでしょうか。

早川:
発症前、発症後の早い時期に治療できていたら、合併症を防いで天寿を全うされたと思います。ただ、宮廷内、一族の中の権力闘争は避けようがありませんので、摂関家による外戚支配というそのころの政治体制自体は変わりようがありませんので、治療をしても時代は変わらなかったと思います。

光る君へ

日曜日 [総合] 午後8時00分/[BS・BSP4K] 午後6時00分

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【放送】
2024/01/22 「マイあさ!」

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