同性婚「見るのも嫌だ」荒井総理大臣秘書官を更迭 岸田首相は…

同性婚をめぐって「見るのも嫌だ」などと発言した荒井勝喜総理大臣秘書官について、岸田総理大臣は、政権の方針と相いれない発言で言語道断だとして、更迭したことを明らかにしました。

【リンク】首相秘書官の仕事は 荒井氏の経歴は

荒井秘書官は2月3日夜、オフレコを前提にした記者団の取材に応じた際に、同性婚についての見解を問われ「見るのも嫌だ。隣に住んでいたら嫌だ。人権や価値観は尊重するが、認めたら、国を捨てる人が出てくる」などと発言しました。

しかし、発言への批判が相次いだことから改めて取材に応じ、不適切な発言だったとして撤回し、謝罪しました。

岸田総理大臣は、訪問先の福井県で記者団に「大変深刻に受け止めており、秘書官の職務を解く判断をした。本人からも辞意があった」と述べ、荒井秘書官を更迭したことを明らかにしました。

そして、荒井氏の後任には、経済産業省の伊藤禎則秘書課長の起用を決めたと説明しました。

その上で、荒井氏の発言について「今の内閣の考え方には全くそぐわない言語道断の発言だ。『性的指向』や『性自認』を理由とする不当な差別や偏見はあってはならない」と述べました。

また、みずからの任命責任を問われ「任命責任を感じているからこそ今申し上げた対応をとっている」と述べました。

荒井氏は、経済産業省出身で、岸田内閣が発足したおととし10月から総理大臣秘書官を務め、広報やメディア対応を担当し、岸田総理大臣の演説などの原稿の執筆役も担っていました。

4日は岸田総理大臣の地方出張に同行する予定でしたが取りやめていました。

岸田政権が多様性が尊重される包摂的な社会づくりを目指す中、実務を担う秘書官の不適切な発言による更迭は政権へのさらなる打撃となりそうです。

荒井勝喜秘書官とは

荒井氏は、現在8人いる総理大臣秘書官の1人で、経済産業省出身です。

おととし10月の岸田内閣の発足に伴って起用され、経済や産業分野に関わる政策などで調整役を担いました。

また、広報やメディア対応も担当し、海外も含め岸田総理大臣のほとんどの出張に同行し、記者会見や演説などの原稿を中心となって執筆するスピーチライター役の1人でした。

立民 泉代表「更迭は当然で遅すぎる」

立憲民主党の泉代表は、訪問先の徳島市で記者団に「更迭は当然で遅すぎる。岸田総理大臣自身が包摂や多様性を尊重する姿勢であるならば、同性婚と夫婦別姓を認めるのかどうかを問うていきたい」と述べ、国会で追及していく考えを示しました。

そして、「岸田総理大臣は繰り返し任命責任と言うが、その責任が何なのかを国民に説明したことはなく、明確にしてもらいたいし、同性婚と夫婦別姓を認めることを明言して、多様性と包摂を具体化すべきだ」と述べました。

立民 安住国対委員長「極めて差別的だ」

立憲民主党の安住国会対策委員長は、「極めて差別的だ」と批判し、岸田総理大臣の任命責任を追及していく考えを示しました。

安住国会対策委員長は青森市で記者団に荒井秘書官が同性婚をめぐって「見るのも嫌だ」などと発言したことについて、「多様な社会をつくって世界の水準に引き上げることが日本の課題だが、発言は全く逆で極めて差別的である種の暴言だ」と批判しました。

その上で「去年の臨時国会では大臣ばかりクビになり、通常国会では秘書官ばかり問題になっている。岸田総理大臣は『聞く力がある』と言うが、人を見る力はないのではないか」と述べ、岸田総理大臣の任命責任を追及していく考えを示しました。

また、同性婚をめぐって、岸田総理大臣が国会で「家族観や価値観、そして、社会が変わってしまう課題だ」などと述べたことについても、岸田総理大臣の考え方をただしていく方針を示しました。

木原官房副長官“極めて深刻 信頼回復努める”

同性婚をめぐる差別的な発言で総理大臣秘書官が更迭されたことについて、木原官房副長官は、NHKの日曜討論で「あってはならない発言で極めて深刻に受け止めている。岸田政権は、もともと多様性を尊重し、重んじることで包摂的な社会をつくっていこうと一貫して取り組んできた。そうした政権の方針とも全く相いれないものだ」と述べました。

そのうえで「われわれの立場をしっかりと丁寧に説明し、もう一度、政府として信頼回復に取り組んでいきたい」と述べ、多様性を尊重する岸田内閣の方針を丁寧に説明し、信頼回復に努めていく考えを示しました。

維新 馬場代表「時代錯誤も甚だしい」

日本維新の会の馬場代表は、記者会見で「発言は常識外で時代錯誤も甚だしい。LGBTだけでなく、誰もが日本の中で生き生きと暮らしていける社会をつくっていくことがわれわれの目標だ」と述べました。

公明 山口代表「首相は厳しく受け止めるべき」

公明党の山口代表は、記者団に対し「更迭はやむをえず、岸田総理大臣は厳しく受け止めるべきだ。秘書官を更迭したことが岸田総理大臣の任命責任の具体的な第一歩だが、国会で総理の明確な方針を分かりやすく国民に訴えていくことが重要だ。社会の変化にきちんと目を向けて認識し、多様性を尊重する言動を期待したい」と述べました。

そのうえで「岸田総理大臣や官邸のスタッフが当事者の声を聞いたらいいのではないか。私自身も当事者の声を聞きたいと思っているので、ともに政府・与党として謙虚に取り組んでいくべきだ」と述べました。

また「超党派でLGBTの人たちへの理解を促進するための法案を用意しているが、自民党がなかなか応じてこない状況だ。今回のことを契機に、まず国民の理解を広げる動きをつくっていくべきだ」と指摘しました。

LGBT法連合会が声明 「国際的に日本の立場が問われる発言」

全国の当事者団体などで作る「LGBT法連合会」は4日、ホームページ上で声明を発表しました。

この中で「極めて深刻な状況であり、G7議長国として国際的に日本の立場が問われる発言であると指摘せざるをえない。秘書官が発言を撤回したあとも首相の見解が問われてしかるべきである」としています。

また、性的マイノリティーへの意識を尋ねた全国調査の結果から、社会的な嫌悪感は急速に改善しつつあるとしたうえで、「発言は社会の多くの人が適切と考える認識と大きくかい離するものだ。こうした時代錯誤の認識こそが、性的マイノリティーの自死未遂率の高さや、仕事と育児の両立などの諸課題に対して、十分に対応できないことの原因である」と指摘しています。

そのうえで、今回の発言のような認識が持たれてしまう背景について、「社会における法規範の遅れに大きく起因している」としていて、性的指向や性自認をめぐる差別を禁止する法律を今の国会で制定するよう訴えています。

海外メディア「恥ずべきこと」「政権に新たな打撃」

海外のメディアも反応しています。

このうちロイター通信は、日本以外のG7=主要7か国では同性婚かそれに準じる権利が認められていると紹介したうえで「この出来事はG7のリーダーたちをことし5月に招く準備をしている岸田総理大臣にとって恥ずべきことだ」と伝えています。

また、イギリスの公共放送BBCは、日本では伝統的な男女の役割や家族観が根強く、同性婚を認めていないと紹介したうえで、「岸田政権は、ここ数か月の間にさまざまなスキャンダルで多くの閣僚が辞任し、政権の支持率が急落している。そうした中で、荒井氏の更迭は政権にとってまた1つ新たな打撃となった」と伝えています。

林外相「多様性の尊重 国内外に丁寧に説明する努力続ける」

林外務大臣は、「G7広島サミット」に伴う関係閣僚会合が開催される岡山県倉敷市を視察したあと、岡山市内で記者団に対し、「政府の基本的な考え方は、多様性が尊重され、すべての方々の人権や尊厳を大切にし、生き生きとした人生を享受できる共生社会の実現だ」と述べました。

そのうえで「こうしたことを改めて国内外に政府として丁寧に説明していく努力を続けていかなければならない。外務大臣の立場から、その職責をしっかり果たしていきたい」と述べました。

国会 野党は追及の姿勢

同性婚をめぐって「見るのも嫌だ」などと発言した荒井勝喜前総理大臣秘書官が4日更迭されたことを受けて、政府は多様性を尊重する岸田内閣の方針を丁寧に説明し、信頼回復に努めていくとしていますが、与党側からは審議への影響を懸念する声も出ています。

これに対し、野党側は「発言は常識外で時代錯誤も甚だしい」などと一斉に批判しており、審議を通じて岸田総理大臣の任命責任を追及するとともに、多様性に対する内閣の姿勢を厳しくただしていく方針です。

岸田首相「丁寧に内閣の姿勢 説明していく」

岸田総理大臣は6日朝、総理大臣官邸に入る際、記者団から「野党が国会で追及する構えだが、どのように説明するつもりか」と問われたのに対し「丁寧に内閣の姿勢を説明していく」と述べました。