“複業”と“副業”で収入アップ
移住で仕事どうする?

東京から地方に移住する人がいま、増えています。

去年1年間、東京23区の転出者数は転入者数を1万4828人上回り、初めて「転出超過」を記録しました。
豊かな自然やおいしい食事など、地方には魅力も多いですが、実際に移住を検討する際に、ネックとなることの一つが“仕事”ではないでしょうか。
島根県の海士町では、地域で安定した雇用を生み出すことで、移住者の受け皿をつくろうと取り組みが進められています。自由な働き方で、収入の増加や、やりがいにもつながっているケースも。

キーワードは、“複業”と“副業”です。
(おはよう日本・矢内智大)

複数の仕事掛け持つ“複業”

海士町が位置するのは、島根県本土から高速船で1時間半、フェリーで3~4時間、日本海に浮かぶ隠岐諸島です。
2020年11月、東京からこの町に移住してきたのが、雪野瞭治さん(29歳)。
東京では、コンサルティング会社に勤めていましたが、いまの職場は冬の日本海。スルメイカを狙う定置網漁の船で漁業に従事しています。

いまは漁業ですが、雪野さんは海士町に移住してから、食品加工業や地域づくり事業にも従事しました。複数の仕事を掛け持つ、“複業”を実践しています。

雪野さんが所属しているのが、おととし11月に設立された“海士町複業協同組合”です。
地域の人手不足解消のために国が創設した「特定地域づくり事業協同組合」という制度に基づいて設立されました。
複業組合は、雪野さんを含めて、移住者6名を正規職員として雇用しています。

複業組合には、林業や畜産業、食品加工業など、町内の15の企業などが参加しています。
移住者は、複業組合の職員として、およそ3か月ごとに繁忙期を迎えた現場を移りながら働きます。
毎月の収入は、20万円ほど。複業組合が、国の補助も得て、毎月の給料を支払う仕組みです。

(海士町複業協同組合・太田章彦事務局長)
「地方は繁忙期の差が激しかったりするので、通年雇用がなかなかかなわない現場が多かったりするんですけど、それらをつなぎあわせて1人の雇用を生むという発想。いろんな仕事してる中で、自分の居心地のいい場所を探していったりとか、本当にチャレンジしてみたい業種を見つけたりとか、判断材料をちゃんと揃えることができるっていうのもいいところなのかなと、思います」

安定した仕事=安心材料にも

安定した収入が得られる仕事の存在は、移住を決める上で安心材料になったと、雪野さんはいいます。

「正職員という形で、ちゃんと働き先だったり、保険が完備されているっていうのは、けっこう安心材料、安心して飛び込めるっていうふうに思いますね」

人手不足抱える現場にとってもメリット

一方、人手不足の課題を抱えている現場にとっては、繁忙期に働き手が来てくれるメリットがあります。

(海士町漁業協同組合・藤澤裕介さん)
「魚に関する仕事っていう事で、募集をしてもなかなか人が来ないような状況で、困っていた時に派遣してもらってすごく助かりました」
(株式会社ふるさと海士・奥田和司社長)
「とにかく、繁忙期というのは、もうみんなどこも人手がとにかく欲しいんで、そういった特に派遣してもらうのは本当にありがたいですね」

子育てしやすい環境

雪野さんは、妻と1歳の娘と3人暮らしです。
住宅の家賃は毎月2万8000円、食費も1万5000円程度と、生活費は東京にいた頃よりずっと安く済んでいるといいます。
きれいな海も身近にあって、子育てがしやすいそうです。

(雪野亜実さん)
「東京いた時は、ちょっと電車に乗るのも逡巡する感じだったんですけど、海士町の環境はとてもいいです。子育てをしていると、みんなちっちゃい子に話しかけてくれて、さっきもすれ違った人と挨拶してワハハってなったんですけど、なんかそういう面で居心地がいいですね」

“複業の副業”

いま、雪野さんは、“複業の副業”に挑戦しています。

海士町の複業組合では、複業をきっかけに個人のビジネスを新たに始めることを自由に認めているんです。
雪野さんは、移住前の仕事のスキルを生かして、去年働いた町内の食品加工会社から、ホームページづくりの仕事を個人で受注。
いまでは、週の3日間は漁業、2日間は個人事業にあてています。
こうした自由な働き方は、収入の増加や、やりがいにもつながっているといいます。

(雪野瞭治さん)
「必要とされる、それから自分のできることをするっていうのが結びつく機会が本当に無限にあるのが、こういう地方。長く住むことになるんじゃないかなって、そういう予感はなんかしますよね。環境を変えるってことはものすごく大変ではあったりするんですけど、そこに一度飛び込んだあとは挑戦することへのハードルが一気に低くなるような気がするので、試しに勇気を持ってキャリアを変えてみるとかって、けっこういいことがいっぱいあるんじゃないかなっていうふうに思います」

取材を終えて

移住者の皆さんが働く現場を取材して、とても印象に残っているのが、地域の方々が仕事のやり方を丁寧に教えている姿でした。
移住者を“働き手”としてみているだけではなく、一緒に地域をつくっていく仲間として受け入れているようにも見えました。
移住者の受け皿づくりのためには、“仕事づくり”がもちろん大切ですが、居心地がよくて、居続けたくなるような、人間関係や環境づくりも大切だと感じました。

おはよう日本ディレクター
矢内 智大
2015年入局。札幌局を経て現所属 神奈川県出身