横浜市長選 山中竹春氏当選
立民が推薦 共産・社民が支援

菅首相支援の小此木氏・現職の林氏及ばず

過去最多の8人が立候補した横浜市長選挙は、立憲民主党が推薦した元横浜市立大学教授の山中竹春氏が菅総理大臣が支援した元国家公安委員長の小此木八郎氏におよそ18万票の大差をつけて初めての当選を果たしました。

横浜市長選挙の結果です。

▽山中竹春 無所属 新 当選
50万6392票
▽小此木八郎 無所属 新
32万5947票
▽林文子 無所属 現
19万6926票
▽田中康夫 無所属 新
19万4713票
▽松沢成文 無所属 新
16万2206票
▽福田峰之 無所属 新
6万2455票
▽太田正孝 無所属 新
3万9802票
▽坪倉良和 無所属 新
1万9113票

今回の選挙戦は、神奈川県内に緊急事態宣言が出される中で、過去最多の8人が立候補し、カジノを含むIR=統合型リゾート施設の横浜市への誘致計画や、感染の急拡大が進む新型コロナウイルス対策などを争点に論戦が交わされました。

立憲民主党が推薦し共産党と社民党が支援した元横浜市立大学教授の山中氏が元国家公安委員長の小此木氏におよそ18万票の大差をつけて初めての当選を果たしました。

山中氏は、埼玉県出身の48歳。
横浜市立大学の医学部の教授として新型コロナウイルスのワクチンの有効性などに関する研究を行いました。

菅首相支援の候補敗北で政権運営への影響不可避か

与党内では菅総理大臣の地元の選挙区も含む横浜市で菅総理大臣にも近い小此木氏がやぶれたことで政権運営への影響は避けられないという見方が出ています。

また自民党総裁選挙は今週26日に投票日などが決まる予定で、今回の結果を受けて「衆議院選挙の前に実施して、党の政策論争をアピールすべきだ」という声が相次いでいます。

ただ「当面は政府与党一体で新型コロナ対応に専念すべきだ」として総裁選挙の先送りを求める意見もあり、総裁選挙をめぐる動きが活発になる見通しです。

一方、立憲民主党など野党側は新型コロナの感染拡大に歯止めがかからない中、菅政権への不満や批判が示された結果だとしていて、直ちに臨時国会を召集して対策の強化などの議論に応じるよう迫る方針です。

また、今回の山中氏の勝利を衆議院選挙への弾みにしたいとして選挙協力の調整などを急ぐ考えです。

菅首相「大変残念な結果 謙虚に受け止めたい」

菅総理大臣は23日午前、総理大臣官邸で記者団に対し「大変残念な結果であった。市民の皆さんが市政が抱えているコロナ問題など、さまざまな課題についてご判断をされたわけであり、そこは謙虚に受け止めたい」と述べました。

そのうえで「政府としてはコロナ対策最優先で今取り組んでいるが、できるかぎり説明させていただきながら、急激な感染拡大を阻止し、安定したかつての日常を1日も早く取り戻せるように全力で取り組んでいくことがいちばん大事なことだ」と強調しました。

一方、記者団が自民党総裁選挙に立候補する意思に変わりはないかと質問したのに対し、菅総理大臣は「『時期が来れば、出馬させていただくのは当然だ』という趣旨の話をさせていただいた。その考え方に変わりはない」と述べました。

【解説】総裁選・衆院選への影響は

政府・与党からは「政権への強い不満の表れだ」といった厳しい受け止めが出ている。
横浜市には、菅総理の選挙区もあるが、その地域での得票も、山中氏が小此木氏を上回った。
一部の党幹部からは「一地方選挙にすぎない」という声も聞かれるが、政権へのダメージを危惧する見方が広がっているのが実情だ。

10月の衆議院議員の任期満了まで2か月を切る中、この結果が今後に与える影響は小さくないと見られる。
去年9月の菅総理就任以降、4月の衆参の補欠選挙や再選挙、先月の東京都議会議員選挙などで自民党の敗北や苦戦が続いている。
しかも、新型コロナの感染拡大に歯止めはかからず、内閣支持率も低下していて、与党内では、衆議院選挙は厳しい戦いを強いられるという懸念が高まっている。
それだけに党役員会のメンバーの1人は「党が行う選挙情勢の調査結果によっては、執行部の刷新を求める声が出ることも否定できない」と危機感をにじませている。

総裁選挙の具体的な日程は今週26日に決まる予定で、小泉環境大臣は、先週、菅総理再選を支持する考えを示した。
ただ、今回の結果を受けて「衆議院選挙に向けて党の政策論争をアピールすべきだ」として、無投票ではなく、複数の候補が名乗りを挙げて総裁選挙を来月実施するよう求める声が相次いでいる。
一方で「いまは政府与党一体で、新型コロナ対応に専念すべき時だ」として、総裁選挙の先送りを求める声や菅総理の無投票再選が望ましいという指摘もあって、今後総裁選挙をめぐる動きが活発になる見通しだ。

立憲民主党など野党側は、新型コロナの感染収束が見通せず、菅政権への不満や批判が明確に示されたとしている。
立憲民主党の福山幹事長も「菅内閣のコロナ対応に極めて厳しい判断が下されたということだ」と話していて直ちに臨時国会を召集して、対策の強化などの議論に応じるよう迫る方針だ。
また、今回の選挙結果を衆議院選挙への弾みにしたいとして、野党間の選挙協力の調整などを急ぐことにしている。

支持政党別の投票先は NHK出口調査

NHKは、22日有権者の投票行動や政治意識を探るため、出口調査を行いました。調査は市内32の投票所で投票を終えた有権者4607人を対象に行い、66.1%にあたる3044人から回答を得ました。
一方、21日までに有権者のおよそ13%が期日前投票を済ませていますが、これらの方々は調査結果に含まれていません。

IRの誘致計画に反対し、新型コロナのデータ分析などにあたってきた経験をアピールした山中氏
▼立憲民主党や、共産党の支持層のおよそ70%を固めました。
▼また、無党派層からも最も多い40%台半ばの支持を集めました。
▼自民党や公明党の支持層も1割余りが山中氏を支持しました。

一方、閣僚を辞任して立候補した小此木氏も、IR誘致計画への反対を打ち出し地元選出の菅総理大臣や自民党の多くの市議会議員、それに公明党の支援を受けて組織戦を展開しました。
▼公明党の支持層の60%台後半を固めましたが、自民党の支持層からの支持は30%台後半にとどまりました。
▼無党派層からの支持はおよそ10%にとどまりました。
菅総理大臣が支援した小此木氏が及ばなかったことで衆議院選挙などを控え菅総理大臣の政権運営に影響を与えることも予想されます。

また、自民党の一部の市議会議員の支援を受け、4期目を目指した現職の林氏も、IRの誘致計画の推進などを訴えましたが届きませんでした。
林氏は▼自民党の支持層の20%あまりから支持を得ました。

IRの賛否は

出口調査ではカジノを含むIR=統合型リゾート施設の横浜市への誘致についても尋ねました。

▼「賛成」が12%、▼「どちらかといえば賛成」が14%、▼「どちらかといえば反対」が21%、▼「反対」が54%でした。
どちらかといえばを含め反対と答えた人がおよそ4分の3を占めました。

山中氏「IRの誘致行わない宣言を早期に」


山中氏は「感謝の気持ちでいっぱいだ。市民一人ひとりと向き合いながらすばらしい横浜市を作っていく。ワクチン接種の加速化、感染源のいち早い特定、そして感染した人への治療機会の確保、この3つの効果的な対策を行っていきたい。カジノを含むIRの誘致に関しては行わないという宣言を横浜市として早期に出す」と述べました。

小此木氏「もう選挙には立候補しない」


小此木氏は記者団の取材に応じ、今回の市長選について「私自身の無力さはもちろんあったが、この選挙戦の間、市民の皆さんに関心を持っていただいたことは感じた」と振り返りました。

IR誘致の取りやめを主張したことについては「市長になったらひっくり返すのではないかと疑念や不安をもたれた方が少なくないと感じた。説明してきたが、説明不足、力不足を感じた」と述べました。

支援を受けた菅総理に携帯電話のメッセージで「ありがとうございました」と伝えると、「ご苦労さま」と返信があったということです。

また、今後の政治活動については「もう選挙には立候補しない。開票の結果をしっかり受け止めた上で、今後は地域にどう貢献できるか考えてきたい」と述べました。

林氏「IR 反対の嵐の中で生きてきた」


林氏は「今回の選挙戦で支援して頂いた経済界や市民の皆様にこのような結果になったことをお詫び申し上げたい。『IRを始める』と2年前に記者会見してから反対の嵐の中で生きてきた。コロナ禍になって市民との距離が遠くなり、IRの内容について市民から見えにくくなってしまった」と述べました。

自民 柴山幹事長代理「大変厳しい結果」

自民党の柴山幹事長代理は、NHKの取材に対し「大変厳しい結果となったことを重く受け止めている。原因はしっかりと分析しなければならない。政権の諸施策について国民に理解してもらえるよう、与党としても努力していく必要がある」と述べました。

自民 幹部「政府のコロナ対応への不満が批判票に」

自民党幹部は、NHKの取材に対し「保守分裂で自民党支持層の票が割れてしまったことに加え、政府の新型コロナ対応への不満が批判票となって集中したことが敗因だ。知名度で勝る小此木氏が差をつけられたことは衝撃で、 衆議院選挙に向けて影響を最小限に抑えなければならない」と述べました。

自民 閣僚経験者「総裁選は先延ばしにし衆院選は任期満了で」

自民党の閣僚経験者の1人は、NHKの取材に対し「非常に厳しい結果だ。国民の声は『コロナ対応をしっかりしてほしい』ということだと思う。とにかくコロナ対応を最優先にし、自民党の総裁選挙は先延ばしにした上で、衆議院選挙は任期満了で行うべきではないか」と述べました。

自民 幹部「党内が混乱する恐れも」

自民党幹部は、NHKの取材に対し「選挙戦を通じて、政府の新型コロナ対応だけでなく、菅総理大臣を批判する声も有権者から聞かれた。今後、衆議院選挙に向けての情勢調査の結果次第では、党執行部の刷新などを求める声が広がり、党内が混乱するおそれもある」と述べました。

公明 幹部「政権への影響は避けられない」

公明党幹部は、NHKの取材に対し「これだけ差がついた結果となると、政権への影響は避けられない。事実上の保守分裂の構図となったことも敗因となった。菅総理大臣のおひざ元でありながら、勝利できなかったことは、衆議院選挙に向けて、不安が出てくることもありえる」と述べました。

立民 福山幹事長「菅内閣のコロナ対応に厳しい判断」

立憲民主党の福山幹事長は、NHKの取材に対し「『カジノはいらない』という市民の意思が明確に示された。また、菅総理大臣のおひざ元で、こうした結果になったことは、菅内閣のコロナ対応に極めて厳しい判断が下されたということだ。政権は謙虚に受け止めて国会を開き、コロナ対応に全力を尽くすべきだ。今回の有権者の野党への期待を次の衆議院選挙で全国に広げられるよう努力したい」と述べました。

投票率49.05% 前回を11.84ポイント上回る

横浜市選挙管理委員会は、今回の市長選の投票率について、前回4年前の選挙を11.84ポイント上回る49.05%と発表しました。
市長選と衆議院選挙が同じ日に行われた平成21年の68.76パーセントには及びませんでしたが、平成以降では2番目に高くなりました。