勝者なき都議選
衆院選へ悩める与野党

秋までに行われる衆議院選挙の前哨戦と位置づけられた東京都議会議員選挙。
与党側は当初、楽観ムードだったが、蓋を開ければ大苦戦の結果となり、衆院選への影響を懸念する声が相次いでいる。
一方の野党側も、悲喜こもごもだ。批判票の十分な受け皿になったとは言えず、衆院選への共闘に向けた温度差は埋まっていない。
新型コロナウイルスの感染再拡大の不安も広がる中、与野党はどう動くのか。
今後の政局を展望する。
(徳橋達也、徳丸政嗣)

7月4日に投開票が行われた都議選。

自民党は、選挙前を8議席上回る33議席と、4年ぶりに都議会第1党を奪回したが、
過去最低だった前回・4年前に次ぐ2番目に少ない議席にとどまった。
公明党は、擁立した23人の候補者全員が当選したが、与党が目標としていた自民・公明両党での過半数には届かなかった。

前回大勝した都民ファーストの会は、特別顧問を務める都知事の小池百合子から全面的な支援が得られず苦戦が予想されたが、結果は選挙前より14議席減らしたものの、31議席と自民党に2議席差に迫る第2党に踏みとどまった。

自民に衝撃 「勝ちとは全く言えない」

「第1党を確保できたとは言え、勝ちとは全く言えない」
「大惨敗だ」
開票速報で獲得議席の状況が報じられると、自民党内では悲痛な声があがった。

党関係者によると、6月に行われた党の調査では、自民単独で50議席の獲得も可能だと予想されていたという。党幹部の間でも公明党とあわせた過半数=64議席の確保には楽観的な見方が多かった。それだけに結果への衝撃は大きかった。

「自民党への反発が予想以上に強かった。新型コロナ、オリンピック、政治とカネ、全部が影響しているんだと思う」(閣僚経験者)
「ワクチン接種、特に職域接種の申請受け付けの休止が一番の原因じゃないか」(別の閣僚経験者)
「認識が甘かった。自民支持層も一部が流れている。無党派層も取り込めていない」(中堅議員)

開票日の2日後に開かれた党の役員会で、幹部から同様の意見が飛び交う中、
総理大臣の菅義偉は、結果を謙虚に受け止め、次の衆院選に向けて要因を詳しく分析するよう指示した。

「小池知事おそるべし」

もう1つ、自民党内で大きな敗因とされたのが、都知事の小池の動きだ。
前回『小池旋風』で都民ファーストを大勝に導いた小池は、今回は態度を明確にせず、選挙の告示直前に過度の疲労で入院した。選挙戦後半まで表舞台に姿を現さなかったが、投票日2日前に、突如、記者会見を開いて都民ファーストにエールを送り、選挙戦最終日には候補者の応援に駆けつけた。この絶妙な立ち回りが、選挙結果に大きな影響を及ぼしたという見方は強い。

「小池知事の動きで全てが変わった」(現役閣僚)
「最後の週末で一気に潮目が変わった。小池さんへの同情票が都民ファーストにいってしまった。小池さんは天才だ」(党幹部)

 

4年前の都議選と衆院選では、自民党と小池は全面的に対決した。
しかし、その関係は徐々に変化し、去年7月の都知事選で、自民党は独自候補を断念。かつて同志の関係にあった幹事長の二階俊博と小池との個人的なパイプもあり、友好的な関係が保たれていた。

それだけに、自民党内には、小池は今回の都議選には深く関わらないのではないかという見方が専らで、それを歓迎する向きもあった。

“密約”は破られた?

都議選告示の2週間前のこと。自民党幹事長室を訪れた小池は、二階らに対し、新型コロナ対策の強化への協力を求めた。
同席した二階側近の幹事長代理・林幹雄は、会談の話題は都議選にも及び、自民党側から小池の選挙への関わり方について、ある提案をしていたことを明かした。

「我々からは『自民、公明、都民ファーストの3党が、小池都政を支える与党という認識なので、(小池さんが)応援するのであれば、3党同じようにしてくださいな』と。『難しければ、どこも応援しない方がいい』という提案はした。『わかりました』という返事はなかったが、理解してもらえたんじゃないか、という気はした」

これがいわゆる「密約」なのか、そして小池の動きは「密約」を裏切ったものなのか、見方はさまざまだ。ただ、党内には「小池にしてやられた」との声が後を絶たない。小池が国政復帰を図るのではないかという警戒感も再燃し、逆に選挙後を見据えて連携を期待する声すら出始めている。

衆議院 解散・総選挙はいつ?

与党内で今回の都議選の結果に懸念が強まっているのは、衆院選が控えているからにほかならない。解散・総選挙のタイミングにはどう影響するのだろうか。

7月23日には東京オリンピック、8月24日にはパラリンピックの開幕が控える中、政権幹部の間では、衆議院の解散・総選挙の時期は、9月5日のパラリンピック閉幕後になるという見方が大勢で、その見方はますます強まっている。
そうなった場合、選択の幅は限られるが、閉幕直後の9月上旬に解散に踏み切るという見方がある一方、任期満了ギリギリまで感染状況などを見極めるべきだという意見もあり、最も遅い場合は11月下旬に投開票が行われる可能性も取り沙汰されている。

また、9月30日までの菅総理の自民党総裁としての任期との兼ね合いもある。党内では、総裁任期を延長して、衆院選のあとに総裁選挙という案がある一方、予定通りに総裁選挙を実施すべきだという意見も出ている。
総裁選挙の日程は、8月末までに決めると規定されており、今後の焦点だ。

公明 “クギを刺す”?

こうした中、今後の政治日程について、政権幹部の1人が踏み込んだ発言を見せた。
公明党代表の山口那津男だ。

山口は、都議選2日後の記者会見で、衆議院の解散・総選挙の時期について見解を問われると「新型コロナのワクチン接種が進むことによって、有権者が候補者や政党の訴えを聞ける機会が広がった方がいい。一般論で言えば、遅い方が望ましいと言えるかもしれない」と指摘した。
さらに、民放のBS番組では、自民党の総裁選挙の後に衆院選を行った方が望ましいという認識を示した。公明党幹部が、自民党の総裁選挙の日程に言及するのは異例で、自民党内からは不快感を示す声も聞かれた。

公明党幹部は、山口の発言に込められた思いを次のように解説する。
「自民党に対して『衆院選では同じ調子ではまずいよ』という思いを込めて引き締めるというか、クギを刺す効果を狙ったんじゃないか」

オリンピック次第で政局も?

実際、自民党内でも、次の衆院選は与党にとって厳しい結果になると憂う声は日増しに高まっている。

「この逆風は続くだろう。このまま衆院選になったら取り返しのつかないことになる」(中堅議員)
「野党に転落した2009年の衆院選に雰囲気が似てきた」(ベテラン議員)

こうした声の背景には、ことし4月に行われた参議院広島選挙区の再選挙や、長野選挙区の補欠選挙など、菅政権のもとで、選挙での敗北が続いていることもある。
そして、表だった動きは今のところないが「菅総理のままで選挙は戦えるのか」(中堅議員)と、いわゆる「菅おろし」の可能性に触れる声も出始めた。

これに対し「選挙前に党の顔を変えるなんて国民をバカにしているし、すべきではない」(党三役経験者)などと、選挙前に党内が混乱することは避けるべきだという意見も多い。
前総理大臣の安倍晋三は、9月までの任期以降も菅が続投すべきだという考えを重ねて示しており、党執行部は、次の衆院選の勝敗ラインを「与党で過半数」と想定し、これをクリアした上での菅続投のシナリオを描いている。

ただ、オリンピックの開催を機に感染が急激に広がるような事態になれば、先行きの不透明感は一気に増すだろう。

立民 受け皿になりきれず?

方の野党。各党、悲喜こもごもだ。

野党第1党の立憲民主党は「悪くもなく、よくもなく」と言えるかもしれない。
議席は、選挙前の8から15へと倍増したものの、擁立した候補者の半数近くにあたる13人が落選した。

大勢判明直後、幹事長の福山哲郎は「一定の支持をいただいた」と語ったものの、その後、党内では「政権批判票が多くあったのに他党に流れ、受け皿になれなかった」という声が、多く聞かれるようになっていた。

選挙2日後、党の役員を前にあいさつした代表の枝野幸男。

「自民・公明両党への不満が明らかになった」と指摘しつつも、党内の空気を察してか、
「『自民党に代わる選択肢は、われわれしかいない』ということが十分に届けきれなかった」と語り、反省と教訓をふまえて、衆院選に臨む考えを強調した。

一定の成果を生んだ立共連携

ただ、議席を増やしたことも事実だ。功を奏したと見られているのが立共連携だ。
今回、立憲民主党と共産党は、一部の選挙区で候補者が競合しないようにすみ分けを行った。
その結果、すみ分けた選挙区では立憲民主党の候補者7人のうち6人が当選。

国会対策委員長の安住淳も成果をこのように語っている。
「如実に成果が出ているので、国政選挙でも参考にしないといけない。衆院選が近づいているので、冷静に『リアルパワー』は何なのかを見ることが大事だ」

再び政権交代を果たすには、本当に組織力のある政党や団体との連携こそ、鍵になると強調したように感じられる。

共産 衆院選ではさらに共闘を

一方、共産党も、獲得議席を選挙前から1つ上積みし、19議席を確保した。
委員長の志位和夫は、こう強調した。

「共闘こそ、いまの政治を変える力を発揮する王道だと示された」
そして、衆院選でも政権構想の共有などを行って、さらに踏み込んだ共闘態勢を築くべきだとして、立憲民主党に協議を急ぐよう迫った。

両党が、一定の成果を認める連携。志位が言うように衆院選でさらに進むのか。
現実はそう簡単ではなさそうだ。

志位が、立憲民主党に秋波を送った同じ頃。
福山は、野党連携に関連し、記者団にこう語った。
「国民の期待が得られる一本化した野党候補がいれば票がくる可能性が広がった。衆院選では、まず国民民主党や社民党と候補者調整し、そのあと共産党とどういう形で協力できるか調整していきたい」

立憲民主党にとって、野党連携と候補者の一本化は重要だが、共産党とは国民民主党や社民党の次に考えると言っているに等しい。
双方の温度差は明らかだ。

都議選での成果を認めながら、腰が引けているように見えるのはなぜか。
立憲民主党の幹部は、こう解説する。
「共産党の支持者が比較的多い東京都では連携の効果が発揮された。ただ、全国的に見れば、共産党へのアレルギーがある人はまだ多い。あまり踏み込みすぎると、わが党を支持するリベラル層を逃がし、無党派層も取り込めないという反作用が起きる可能性もある」

現に、立憲民主党を支援する連合は共産党との共闘を考え直すよう強く促している。

衆院選に向けて、立憲民主党と共産党の候補者が競合している選挙区は70近くある。どこまで一本化されるかが焦点だ。
接戦区では共産党の組織票を頼りにしたい一方、頼りすぎると、本来の支持層が離れてしまうおそれもある。そのバランスに腐心する衆院選になるのだろうか。

国民 痛恨の極み

国民民主党は、共産党と連携する立憲民主党とは一線を画した。選挙前の議席は0だった。
今回初めての議席確保を目指し4人の候補者を擁立したが、全員落選した。
代表の玉木雄一郎は「痛恨の極みだ」と結果に肩を落とした。

「政策先導型」の野党になると強調する形で戦ったが、結果は出なかった。
国民民主党の議員の1人は、こう口にした。
「党の『中道路線』は、都民ファーストの会との違いが分かりにくい面があり、埋没してしまった」
玉木は、今後の衆院選などに向けて、選挙戦略を見直していく考えだ。

維新 躍進ならず

日本維新の会もつらい選挙となった。
本拠地のある大阪とは状況が異なり、東京都議会では、選挙前の議席はわずか1。
全国に根を張る足がかりにしたいと、今回13人の候補を擁立した。
選挙では、代表の松井一郎らも街頭に立ち、行財政改革などの必要性を訴えたが、同じ1議席にとどまった。

党幹部の1人が敗因にあげたのは、また都民ファーストの会だった。
「政権と是々非々の日本維新の会のスタンスは、同じような印象を持たれてきた都民ファーストの会を前に埋没し、存在感を示せなかった」。
幹事長の馬場は、次の衆院選について「国政に都民ファーストの会という政党はない。新たな改革プランを示し、わが党に投票してもらう戦略でやっていく」と述べた。

社民 衆院選には擁立

社民党は、都議選では候補者は擁立せず、立憲民主党や、野党系の無所属の候補者の支援に回った。党首の福島瑞穂は「党として候補者を出せなかったのは残念だが、命と暮らしを守る政治に変えろという有権者の声を強く感じた」と語った。衆院選に向けては10人の候補者の擁立を決めていて、現有1議席からの上積みを目指す方針だ。

議席獲得ならず

れいわ新選組は、都議選では初議席の確保を目指して3人の候補を擁立したが、実現はならなかった。代表の山本太郎は「既得権に縛られない政党の必要性を訴えたが、残念ながら敗北だ」とコメントを発表した。衆院選では、20人の擁立を発表していて、党勢拡大を図りたい考えだ。

また、嵐の党も、都議選で2人が立候補したが、こちらも議席確保はならなかった。党首の立花孝志は「『少数の意見を大切にする』と訴えてきたが、結果は予想通りで驚いていない」と話した。衆院選には1人の擁立を発表していて、改めて党名を変えて臨むことも検討している。

鍵を握るオリンピック開催と新型コロナ

どの党が勝ったのか評価しづらく、“勝者なき”結果となった今回の都議選。
衆院選に向けて、いずれの党も大きく勢いづいたとは言い難い。
そうした中で、今後の政局のカギを握るのが、東京オリンピック・パラリンピックだ。
都議選でも争点の1つとなった大会の成否は、政権与党への評価に直結する。
開催によって新型コロナの感染状況がどう変化するかも大きな焦点だ。
“前哨戦”が終わり、永田町はしばらく夏の休戦に入ることになるが、“一大決戦”に向けた準備は、東京大会と感染状況、双方の行方をにらみながら、進めることになりそうだ。

政治部
徳橋 達也
2000年入局。京都局を経て政治部。自民党や外務省、防衛省などを取材。去年8月から与党キャップ。
政治部
徳丸 政嗣
2001年入局。高松局を経て政治部。自民党や旧民主党、外務省などを取材。去年8月から野党キャップ。