「議長になれ!」「嫌だ!」議長になりたくない 議会は大混乱

議員なら誰でもなりたいだろうと思われる議長。しかし、富士山のふもと、山梨県忍野村の議会では、議長のなり手がおらず、2022年2月から不在になっている。
これ以降、議会での審議はずっと行われず、村の予算案は審議されないまま相次いで廃案になっている。
小さな村の議会の“異常事態”。どうなってしまうのか…
(宇佐美貫太、立町千明)
議長選出めぐり議会が紛糾
「幼稚園児か!」
「おまえなんて辞めてしまえ」
山梨県の忍野村。忍野八海で知られる村の議会が2022年9月、紛糾した。
定員12の議会は、村長派と反村長派で、6人対6人の真っ二つに割れていて、採決に加われない議長を出すと少数派になってしまうことから、議長の押し付け合いが続いているのだ。
そもそも両派による対立は、地区の違いや、村長選挙をめぐる対立から、若干のメンバーが入れ替わりながらも長年続いていて、過去からの因縁を引きずり続けている。

くじ引きでも議長決まらず 混乱をきわめる議会
混乱は、3年近く務めてきた村長派の前議長が、2022年2月に辞任したことから始まった。
3年前、村長派は多数を占めていたが、その後、村長の公務中の飲酒疑惑などを受けて、反村長派に移る議員も出たため、両派は現在、6人と6人の同数に。
3月の定例議会での議長選挙の投票でも結果は6対6の同数になった。

「議長になれ!」
「嫌だ!」
双方の議員の間で繰り返される押し付け合い。
2022年3月と6月の議会では、予算案が審議されないまま廃案となり、議会の議決を経ずに村長が決定する「専決処分」に。9月の議会は、開会すらせずに流会となった。
議員の対立さらに激化 “場外乱闘”へ
こうした対立は、議会の中にとどまらず、“場外乱闘”の様相になる。
10月には、新聞の折り込みチラシでの戦いに発展した。

これに対し村長派は「村民に誤解を与える」と反発。「批判を超えた誹謗中傷の許し難い内容だ」などと応酬したほか、正常な議会に戻すべきだとして「村議会解散を願う」と書かれたチラシを出した。
これには村民たちも半ばあきれ気味だ。
議会の“異常事態” 当事者たちは
議会の“異常事態”とも言える状況を当の議員たちはどう受け止めているのか。

「正常な議会運営ができていないのは残念だ。議員には解決に向けた模索を続けてほしいし、執行部としても努力を重ねるしかない」
“村議会の事態は地方自治の破壊”
全国町村議会議長会によると、これほど議長が決まらない議会は「聞いたことがない」という。
また、地方自治の専門家は、地方議会の存在意義を否定する行為だと手厳しい。
この状態が長く続くならば、議会の存在意義を住民主体で考えていくべきだと指摘している。

「忍野村議会の事態は地方自治の破壊であり、自らの存在意義を否定する自殺行為だ。議会は厳しい目を持って行政のチェックをすることが基本になる。それを政争で議会を開かないなどとは言語道断。どこを向いているのか、住民おきざりの状況を許してはならない。まずは、表面的にでも和解して議論をする場を設けるべきだ」
進展は見られず、決着も見通せない。取材を進めても両派が雪解けする雰囲気は感じられない。
忍野村の議会事務局は、12月の定例議会を前にどうにか正常化させたいと対応に追われる。
2023年4月の統一地方選挙では、村議会議員選挙が行われるが、どのような審判が下されるのか。
住民の思いに応えるためにも、正常な議会運営に戻るよう期待したい。

- 甲府局記者
- 宇佐美 貫太
- 2019年入局。初任地甲府局、県警や県政担当を経て、去年から富士吉田支局。

- 甲府局記者
- 立町 千明
- 2009年入局。富山局から政治部を経て甲府局へ。現在は県政キャップ。選挙取材などを担当。