徹底分析
“野党一本化”は成功?失敗?

野党は巨大与党にどう立ち向かえばいいのか。

10月の衆院選では、野党連携のあり方が大きなキーワードとなり、敗北を受けた立憲民主党の代表選挙でも議論は続いた。

今度の夏には参院選があり、32ある1人区での野党の対応に再び注目が集まる。

衆院選での野党一本化はどう総括すべきなのか。

出口調査の結果などを徹底分析して考えた。
(石井良周 関口紘亮)

野党一本化は“不発”?

今回の衆院選で立憲民主党・共産党・国民民主党・れいわ新選組・社民党の5野党は、289の小選挙区のうち213で候補者を一本化する戦略をとった。
結果は、立民などの野党側が59勝で勝率は28%と3割を下回った。

前回、これらの選挙区で立憲民主党・希望の党・共産党・社民党・野党系無所属の合計は54勝で、伸ばした勝ち星は5つにとどまった。
27選挙区で与党側から議席を奪った一方、22選挙区で議席を失った結果だ。
野党候補の一本化は関係者の期待ほどの議席増にはつながらなかった。

ただ、敗れた野党候補と当選した候補との差が5ポイント以内の接戦だったのは33。
紙一重の選挙区も少なくなかった。
立民、共産などが一本化せずに複数の野党が候補を立てた選挙区の勝率が8%だったことを考えると、野党一本化の効果は否定されるものではなさそうだ。

一本化213選挙区を徹底分析

では、どうして期待していたような結果につながらなかったのか。

立民などの野党が候補を一本化した213の選挙区をさらに詳しくみるため、2つのパターンに分ける。
①前回も今回も一本化していた 57選挙区
②前回は複数の野党系候補がいて、今回は一本化した 156選挙区

①のケースに該当する選挙区では今回は14勝。
前回は23勝と勝率4割の「実績あり」の選挙区だったが、議席を減らす結果となった。

与党から議席を奪ったのは3選挙区(宮城2区、新潟6区、香川1区)で、前回は勝利したものの今回は敗れ、”一本化効果の継続“に失敗したのは12選挙区だった。

この12選挙区に立候補していたのは、いずれも立民の候補者で、現役最多の18回目の当選を目指した岩手3区の小沢一郎氏や民主党政権で文部科学大臣などを務めた三重2区の中川正春氏などが含まれる。
12人中7人が前回、野党系無所属の候補として当選していて、立民の看板を背負って選挙を戦うのは今回が初めてだった。また、4人が70代だった。

今回は一本化の“156”選挙区を見る

続いて②今回は一本化のケースを詳しく見てみる。
前回、複数の野党系候補が立候補したことで分散したとされる与党への批判票をまとめ、野党が勝利を期待した選挙区だ。

該当する156のうち今回は45勝で勝率は29%。前回の31勝から勝ち星は14増えた。
24選挙区で与党側から議席を奪ったが、10選挙区では議席を失った。
東京1区の海江田万里氏や、茨城7区の中村喜四郎氏(いずれも立民)などが小選挙区での議席を守れなかった。

議席を奪った24選挙区を見ると、前回、野党系候補の得票合計が勝利した与党候補を上回っていたのが18選挙区、下回っていたのが6選挙区だった。
18選挙区では野党の一本化が「期待通り」の結果となり、自民の石原伸晃・元幹事長を破った東京8区などが含まれる。
また6選挙区では「期待以上」の成果を出したと言え、神奈川13区では自民の甘利明幹事長を破った。

9割で合計「得票率」に達せず

さらに、今回は一本化の156選挙区を「得票率」という別の角度から見てみると、立民などの野党側が苦戦を強いられた状況が見えてくる。

比べたのは、「今回の野党候補の得票率」と「前回複数いた野党系候補の得票率の合計」だ。
156選挙区のうち、前回の合計を上回ったのは18で、残りの約9割の138選挙区では前回の合計を下回った。一本化で目論んだ野党票の合算が大半で達成できていなかったことがわかる。
だが、必ずしも前回の合計を上回ることが勝利の条件ではなかった。勝利した45選挙区の得票率を平均すると、前回合計の94.5%に踏みとどまっている。
一方で、敗れた111選挙区では87.3%だった。この差が明暗を分けたと言える。

出口調査で見る一本化

156選挙区を対象にNHKが投票日当日に行った出口調査をもとにした分析もしてみたい。
そして、選挙区を見るにあたって「維新の候補がいたか」を重要な要素と考え、分けた上で見てみる。
「与党vs野党一本化vs維新」という三つどもえの構図となった選挙区は約3分の1の56選挙区が該当した。

維新が候補擁立で三つどもえ

一例として、福岡2区を見てみる。


まず前回、自民の鬼木氏が3回目の当選を果たし、希望の稲富氏は比例で復活した。一方、希望と共産の得票率を合わせると52%と鬼木氏を上回っていた。
今回は共産が候補を立てず、立民の稲富氏で一本化。自民の鬼木氏との再戦に臨む中、維新が新人を擁立し三つどもえとなった。
そして、自民の鬼木氏が4回目の当選を果たし、立民の稲富氏は前回に続き比例復活。
維新の新開氏が11.5%を獲得し、稲富氏の得票率は前回よりも1.7ポイント下がった。

さらに、NHKの出口調査で、支持政党別にどの候補者に投票したかを比較した。


まず、前回の無党派層の投票先では、希望の候補者と共産の候補者を足すと71%に達していた。
では、今回の無党派層はどうだったか。立民の稲富氏は前回よりも5ポイント下げていた。
維新の新開氏が15%で、共産との一本化で上積みが期待された無党派層からの立民・稲富氏への支持は維新に吸い取られた格好だ。

稲富氏は立民支持層と共産支持層の92%を固めた一方、国民支持層は66%だった。国民支持層は稲富氏以外の2人にそれぞれ17%ずつが投票していた。
一本化候補が期待した無党派層からの支持を維新の候補が取り込んでいたケースは多くの選挙区でみられた。

一騎打ち選挙区では

では、維新が候補を立てず、事実上の与野党一騎打ちの構図となった選挙区はどうだったのか。
こちらも一例として茨城6区を見てみる。


前回は自民の新人の国光氏が初当選を果たし同じく新人で希望の青山氏は比例で復活した。希望と共産の得票率を合わせると54.1%で国光氏を上回っていた。
今回は共産が候補を立てず、自民の国光氏と、立民の青山氏の一騎打ちの構図。
結果は国光氏が2回目の当選を果たし、青山氏は2回連続で比例復活だった。青山氏の得票率は前回の野党合計の9割弱にとどまり、逆に国光氏が得票率を伸ばした。

さらに、NHKの出口調査で支持政党別にどの候補者に投票したかを見てみる。


無党派層の投票先では、前回、希望の候補者と共産の候補者を足すと71%だった。
今回の無党派層の投票先を見ると、立民の青山氏は、前回の野党の合計に9ポイント届かず、逆に自民の国光氏が支持を増やす結果となっていた。
青山氏は今回、立民支持層の93%、共産支持層の90%、れいわ新選組支持層の84%を固めた一方、国民支持層は57%だった。また、自民支持層は21%で、前回(22%)とほぼ変わらなかった。
出口調査の結果からは、一本化によって与党への批判票をまとめ上げるという戦略が特に無党派層では十分機能しなかったことがうかがえる。

野党間で熱量に差?

さらに分析を進めるため、各地の出口調査を統合してデータをまとめてみた。

213選挙区のうち立民の候補者は160人。これらの選挙区全体で見ると、支持の内訳はどうなっていたのか。


すると、立民支持層の91%、共産支持層の84%、社民支持層の79%を固めていた。一方、れいわ支持層は68%、国民支持層は65%とほかの3党に比べると固めきれなかったことがうかがえる。

次に、一本化選挙区に39人いた共産候補者全体の支持の内訳はどうだったか。
共産支持層の85%を固めていた以外は、いずれの支持層も5割を下回っていた。
立民、れいわが44%、社民が41%で、国民支持層に至っては28%にとどまった。

続いて、7人いた国民民主党の候補者の場合はどうだったか。
国民支持層が93%、立民支持層が85%、共産支持層が80%で、いずれも高い割合で固めていた。

これを見ると、共産支持層は候補者の所属政党に関わらず、一本化候補に投票したものの、立民や国民の支持層は候補者の所属政党によってバラツキがあり、特に共産候補には距離を感じていたことがわかる。

この構図は、野党連携をめぐる各党支持者の複雑な視線と熱量の違いを反映したものと言えそうだ。

一本化 共産に“痛み”

小選挙区の出口調査を見ると、他党の候補を“アシスト”する状況が目立った共産党。
実は、比例代表の票の出方を分析すると、一本化は共産党にとって一定の覚悟が必要なものであることがわかる。

前回2017年、共産党は全国の小選挙区に計206人の候補者を擁立し、比例代表では約440万票を獲得した。
今回、小選挙区の候補者数は105人と半減。比例の得票は23万票余、率にして5.4%減らすことになった。※

前回・今回の候補者の擁立状況をもとに分類すると、続けて共産党が候補者を擁立したのは289の選挙区のうち95か所。
これらの選挙区では比例得票の減少率は平均で1.9%にとどまった。

一方、前回の選挙で共産党が候補者を擁立したが今回見送った111の選挙区では、得票の減少率は9.9%に達した。
最も減少率が高かった熊本3区では前回の9996票から今回は6440票と35.6%減らしたほか、兵庫12区も32.4%減、広島5区も31.4%減など、111の選挙区のうち減少率が3割を超えたのは5か所、2割を超えた選挙区も19か所にのぼった。

比例代表の候補者は小選挙区と異なり、ポスターの掲示板が設置されない、選挙用のはがきを有権者に送ることができない、テレビやラジオで候補者個人の経歴放送が行われないなど、公職選挙法上さまざまな扱いの違いがある。
今回、小選挙区の候補者を大幅に減らしたことが、比例代表でも注目度の低下や得票の減少を招いたのかもしれない。

ただ志位委員長は、衆院選の総括を行った党中央委員会総会の場で、今回の選挙での野党共闘について「支配勢力に攻め込み追い詰めた。過小評価すべきではない」と発言。来年の参院選でも野党共闘を行うべきだという考えを示している。

与党に勝つためには

今回の衆院選では、立憲民主党などの野党が候補者を一本化することに一定のメリットがあることが確認された一方、野党票の足し算が容易ではないことも実証された。
候補を1人に絞るだけでなく、無党派層を中心にどう支持の幅を広げられるか。
立民と距離をとる維新が野党第2党になるなど、各党の力関係も流動化する中で、参院選に向けた大きな課題となることは間違いない。

(文中・一部敬称略)
※小選挙区とは違い、比例代表で開票所を分けていない仙台市太白区(宮城1区・3区)と横浜市都筑区(神奈川7区・8区)については、それぞれ区内の有権者が多い宮城1区と神奈川7区にすべての得票を計上して計算しています。

選挙プロジェクト記者
石井 良周
2011年入局 高知局 仙台局などを経て11月から選挙プロジェクト
選挙プロジェクト記者
関口 紘亮
2009年入局 札幌局 青森局 ニュース制作部を経て21年11月から選挙プロジェクト