なぜ若者は自民党に投票するのか?

自民党が単独で過半数を超える議席を獲得し、事実上勝利した先の衆議院選挙。

NHKの出口調査では、若者が自民党を支持する傾向がはっきりと読み取れた。
少子高齢化の中で、意見が政策に反映されにくいとされる若い世代がなぜ政権与党である自民党を選んだのか。

新型コロナウイルスの問題は投票先の判断に影響しなかったのか。

調査結果や専門家などへの取材から読み解いた。

(内藤貴浩、石井良周)

若い世代ほど自民党に

まずは、こちらのグラフを見ていただきたい。
NHKが衆院選の投票日に行った出口調査で、比例代表の投票先を年代別にまとめたものだ。


自民党に投票したと答えた人は、18・19歳で43%、20代も41%でともに4割を超えた。
30代が39%、40代と50代が36%、60代が34%、70代以上が38%となった。

つまり、60代以下では、若い世代ほど自民党に投票したと答える割合が高くなっているのだ。

岸田内閣を支持するかどうかも尋ねているが、10代・20代は「支持する」が70%で、すべての年代の中で最も高くなった。
性別で違いはあるのだろうか?
自民党に投票したと答えた人を男女別にみると、10代・20代では男性が44%、女性が38%で、男性のほうが高くなっている。

自民党が若者から支持を集める傾向は、実は今に始まったことではない。


出口調査によると、20代で自民党に投票した割合は自民党が旧民主党から政権を奪還した2012年は33%だったが、徐々に割合が増え、2014年は44%、2017年は50%と半数に上った。

41%だった今回は、むしろ陰りが見えるとも言える結果となった。

それでも最近3回の衆院選では、20代で自民党に投票した割合は、上の世代より高い状態が続いている。

“コスパ、タイパ”で自民党?

若者の自民党支持。
背景には何があるのか。

若い世代に政治や選挙を身近に感じてもらおうと、インターネットを使った模擬投票などの取り組みを行っている「学校総選挙プロジェクト」のプロジェクトリーダー、石井大樹さん(45歳)に話を聞いた。

プロジェクトでは、9月から10月にかけて全国の29歳以下の若者を対象にインターネットで投票してもらい、「期待する政党」とその理由を調査した。
この調査でも、自民党が58.2%を占め、2番目に多かった立憲民主党の4倍以上の支持を集めたという。

石井さんは、3万あまりの回答の中から、自民党に期待すると答えた人が挙げた特徴的な理由を紹介してくれた。


「政権が変わっても、日本は変わらないと思うし、それだったら変わらない方が混乱はない」(29歳・男性)

「他党に比べての信頼があるから、自民党に任せておけば大丈夫だと思うから」(18歳・男性)

「現在の日本で生きていて、ものすごく不便なことや、絶対にこれは困るといったことなどが思い当たらない為」(23歳・女性)

「コロナで目立ちはしないが携帯料金引き下げなど、実際の功績は多い」(21歳・男性)

石井さんは、政治の変化を望まず、安定を重視する若者が多いことが自民党支持の広がりにつながっているのではないかと話す。

「10代後半から20代の多くは、物心がついてからずっと自民党政権で、大きな不利益を受けたこともなく、日本は平和でいい国だと思っている。この世代は『コスパ=コストパフォーマンス』や『タイパ=タイムパフォーマンス』という言い方をよくするが、政権交代のリスクとそれによって返ってくるリターンを考えた時に、自民党には安心感があり、リスクを冒して代えるほど悪くないと思っているのではないか」

政府のコロナ対策も、感染者数が減少に転じたこともあり、評価する意見が多いという。
「『初めての出来事で誰がやってもうまくいかない中で、よく頑張っている』という若者もいる。自民党の取り組みに100%満足しているわけではないが、よくないところは変えてくれればよくて、政権を代えるところまでいっていない」

新たな価値観では不満も

若者の意見を政治に反映させるため政党に政策提言などを行っている「日本若者協議会」の代表理事、室橋祐貴さん(32歳)は、まず若者の政治意識は着実に上がっていると指摘する。


「コロナで政治を意識したというのは絶対にあり、関心が底上げされつつある。世界中の同世代が社会問題に積極的に関与していることを知り、日本でもオンラインによる署名運動が広がっていて、多くを10代・20代が立ち上げている」

その上で室橋さんが感じるのは、政治家に求めるものをめぐる世代間のギャップだ。

「若い世代からすると経済、環境、気候変動、ジェンダーなどいろいろな社会問題があることは当たり前に知っていて、それをどう解決するかを政治家に期待している。逆に、60代以上は安保法制の是非などを政治家に期待している。60代以上が年齢を重ね、投票率が低下すると、若い世代が求めていた政治家像のボリュームが増えていくことになる」

では、これからも若者の自民党支持は続くのか?
室橋さんは、自民党が若者から積極的な支持を得るためには、新しい価値観への対応も求められると述べた。

「選択的夫婦別姓とか、同性婚をめぐる対応に不満はあるものの、安倍政権以降、経済はそんなに悪くないと感じているため、自民党に投票したというのが今回の傾向だったと思う。ただ、自民党がジェンダーなど新しい価値観に対応できていないことは明らかで、そこへの不満は、全体をひっくり返すほどのボリュームはまだないが、新しい価値観にも対応していかないと、10代・20代の支持をこのままの割合で獲得するのは難しいかもしれない」

野党は若い人の選択肢を奪うな

比較政治学が専門の京都大学法学部の待鳥聡史教授(50歳)は、若者が自民党を支持する理由として、自民党の認知度の高さと野党の信頼度の低さの2つを挙げた。

「政治のニュースに触れる機会が限られた年代でもあり、自民党は野党に比べて圧倒的に認知度が高い。立憲民主党については、選択肢に入るほど実態を知らない人が多いと思う。また、野党は若い人が求めている経済対策やコロナ対策について、この党を信じてもよいと思う有効性のある政策を出していない。政策の魅力の乏しさや信頼度が低いことが与野党の差になっている」

それでは、ここで自民党以外の政党が出口調査でどんな特徴があったか見てみよう。


まずは、立憲民主党。18・19歳では17%、20代では16%だったが、50代以上になると2割を超え、50代は21%、60代は25%、70代以上は26%だった。
自民党とは対照的に高齢であるほど投票先に選ぶ傾向が見られた。

そして、議席を伸ばした日本維新の会。
18・19歳は9%、20代は11%だったが、30代は16%、40代は18%。自民党には及ばないものの、30代、40代の働き盛りの世代では立憲民主党を上回った。

待鳥教授は、代表が辞任に追い込まれた野党第1党に警鐘を鳴らした。
「立憲民主党は、今のことしか言っていないと思われている。しかも自民党より(内容が)悪いと思われている。今の政策の信頼度の低さと、将来の政策のピントのずれ方を直さないと固定客だけを相手にする店になってしまう」

その上で、立憲民主党が自民党に代わる選択肢として存在感を示すためには、有権者が最も重要だと考える争点を見つめ直す必要があると話す。
「立憲民主党はネットやツイッターに出ているとがった意見を見すぎだ。そこに平均値はない。世論はどういう構造で、有権者がどう考えているのか、政策をどう訴えなければならないのか考え、最重要争点で十分競争相手になるという信頼を勝ち取る必要がある。立憲民主党は、権力の私物化を許さないと自民党を批判するが、権力の私物化が起こるのは政権交代の可能性がないと思われているからだ。若い人たちから選択の機会を奪ってはいけない」

一方で、働き盛りの世代が日本維新の会を支持したことについて、待鳥教授はこう分析した。
「30代・40代になると、自分の家族の生活、特に自分の子どもの生活に関わってくるので、将来に対する想定がリアルになってくる。人口が減り、国際社会での日本の存在感がどんどん落ちていくのはまずいと思うようになると、現状維持的な政策ではダメで、具体的に上向きになっていく政策を唱える党を支持しやすくなっている」

現状維持から抜け出せ

そして、自民党の課題を指摘した。
「自民党は現状維持色が強いと思われている。下り坂で下るペースを緩めることを言っている政党だと思われている。上向きにするにはどうするかを主張しないと若者の支持は広がらない」

野党への信頼が低いために、自民党に集まった消極的な支持。4割という数字ほど、若者の自民党支持は必ずしも盤石ではない実態が見えてきた。
自民党は若者の支持をより強固なものにできるのか、野党の動向によっては、支持が離れることもあるのか。

しがらみや固定観念にとらわれることの少ない若者がどのように動くのか。参院選でも大きな鍵を握っていると言えそうだ。

NHK出口調査
10月31日に全国の4046か所で実施
調査対象は53万3937人
33万8649人(63.4%)が回答

選挙プロジェクト記者
内藤 貴浩
2012年入局。松江局、千葉局を経て19年から選挙プロジェクト。
選挙プロジェクト記者
石井 良周
2011年入局。高知局、仙台局などを経て11月から選挙プロジェクト。初めて投票に行ったのは2010年の参議院選挙。