院選の戦略を語る
自民 公明

いよいよ参議院選挙が公示され、政治決戦の火ぶたが切って落とされる。
12年前、第1次安倍政権では大敗し、民主党政権の誕生につながっただけに、今回は、何としても安定した政権基盤を維持したい与党側。
21日の投票日に向けて、どう戦おうとしているのか。
その戦略を聞いた。
(政治部・与党クラブ 有吉桃子、加藤雄一郎、谷井実穂子)

焦点は16の「激戦区」

選挙戦全体の勝敗のカギを握るとされる定員が1人の「1人区」。
自民党では全国に32ある「1人区」を、情勢に応じて3つにランク分けした。

まず、前回3年前の選挙で自民党が勝利した「安定区」が11。
栃木、群馬、富山、石川、福井、岐阜、和歌山、山口、熊本、宮崎、鹿児島の各県だ。

また、前回勝利したものの、警戒を必要とする「警戒区」が5つ。
奈良、岡山、鳥取・島根(合区)、香川、長崎の各県。

そして、前回敗れた、あるいは勝利したものの野党側の統一候補と接戦が予想される「激戦区」に、1人区の半分にあたる16の選挙区を指定した。
青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島、新潟、山梨、長野、三重、滋賀、徳島・高知(合区)、愛媛、大分、佐賀、沖縄の各県だ。

「激戦区」には、幹部が次々と入り、引き締めを図っている。

甘利明選挙対策委員長は、「1人区」の重要性を強調する。
「議席が1つで、こっちに行くか、あっちに行くかで、議席の差が2つになる。だからこそ大事で、まさに与党対野党の決戦場。ここを勝ち抜かなければいけない」

イメージ戦略の成否は

自民党の伝統的な選挙戦と言えば、組織戦だ。組織や団体をフル稼働させて、集めた名簿をもとに支援を呼びかける。

そうした伝統的な「地上戦」に加え、今回はSNSなどを使った「空中戦」に力を入れる。若者の獲得が狙いだという。

人気ゲーム「ファイナルファンタジー」のキャラクターデザインなどに携わった天野喜孝氏による広告を展開。党本部の壁には巨大なイラストが掲げられた。

また、さまざまな分野で活躍する若者が夢を語り、安倍総理大臣がそれを受け止めるというコンセプトの動画を作成。(画像はYouTubeより)

これらを載せたサイトも設けた。いずれも自民党を前面に打ち出さず、イメージ戦略に徹しているのだという。

こうした戦略を主導する甘利氏は。
「『自民党』を押しつけると若者と政治との距離が遠くなる。自民党を押しつけないで、『ワクワク感』で持って行くと距離が縮まる。政治全体に関心を持ってもらえば、一番シェアの大きい自民党が得をするということになる」

ただ、実際のネットでの反応としては、
「自民党、えらいかっこいいサイトやな。もうちょいサイトが軽いと良いんだけど」
という好意的な反応もあったものの、「前面に出さない」はずの甘利氏自身が、「あれは安倍総裁」と発言したこともあって、
「天野喜孝氏による安倍総理が美化されすぎ」
「安倍さんを支持する方もあきれています」
などという反応が相次いだ。政治へのワクワク感というより、むしろ安倍総理大臣や自民党が前面に出た形だ。

炎上しても構わない

6月には、女性向けファッション雑誌とタイアップしたネット広告も展開した。
これに対しても、やはり「モデルを政治利用している」「ファッション誌を機関誌にするな」などと批判が出たが、甘利氏はそれでも構わないのだ、という。

「注目されたから、いろいろな議論が巻き起こった。話題になったら必ず炎上する。炎上で終わっちゃうかどうかは、中身がすぐれているかどうかだ。中身については、『すごいね』『よくぞ自民党がやったね』という評価がバンバン来ている。閉塞感を打破するためにも、個性的で能力的にとがった人材を育てる環境を整えていく政策を重視するわが党の姿勢を、こうした動画や広告で知ってほしい」

果たして本当に「イメージ戦略」が若者に刺さったのか、あるいは「自民党すごい」になったのか。その評価を示す具体的なデータは、まだ不明だ。

「憲法を争点に」

安倍総理大臣は、最大の争点は「安定した政治のもと、改革を前に進めるか、混迷の時代に逆戻りするかだ」と訴えている。

争点にしたいのは、憲法改正論議への姿勢だ。
安倍総理大臣は「審議にすら応じない政党を選ぶのか、真面目に国会議員としての責任を果たすために議論する政党を選ぶのかを決める選挙だ」と述べる。

自民党は、特に若者に憲法改正の意義を訴えたいとして、「自衛隊の明記」に理解を求める漫画冊子を作り、20 万部を配布することにしている。

参議院選挙で勝利し、憲法改正論議に弾みをつけたい考えだ。

勝敗ラインは「過半数」

勝敗ラインについて、安倍総理大臣は「自民・公明両党で過半数を確保することだ」と述べている。

ただ過半数と言っても、非改選の議席を含めた全体の数か、改選議席の過半数かで違ってくる。

非改選の議席を含めれば、与党で53議席以上の獲得で全体の過半数となる。

ところが改選議席の過半数なら、63議席以上の獲得が必要となり、ハードルは上がる。

この「過半数」が何を示すのか、自民党の中でも表現が分かれている。

菅官房長官は、与党で「非改選の議席を含め過半数」の確保を目指す考えを示した。
二階幹事長は、目標は、与党で「改選議席の過半数」だと説明している。
河村元官房長官は「自民党単独で過半数の議席を持つことは安定政権の条件でもある」

「さらに願わくは今まで通り、憲法改正に前向きな勢力が3分の2の議席を確保することも1つの目標だ」と述べた。

甘利氏は、「自民・公明両党で枢要な委員会に委員長を出しても、安定的な運営ができる議席を目指していきたい」と述べ、安定多数の議席の確保を目指す考えを強調。

そして、3年前の参議院選挙で自民党が56議席を獲得したことを念頭に、「前回の選挙結果を1つでも上回るよう頑張りたい」としている。

甘利氏は、参議院選挙では、安倍政権の真価が問われるという。
「6年前の参議院選挙は雰囲気で勝って、3年前は、われに戻って、平時の状況。今回はその平時をちゃんと維持できているのか、アベノミクスや安倍外交を完成形まで持って行けるのかということだ」

目標は「13議席以上」

公明党は、定員が複数の7つの選挙区で候補者を擁立する。
埼玉、東京、神奈川、愛知、大阪、兵庫、福岡だ。
このうち東京と大阪を除く5選挙区は、激戦も予想されるとして自民党から推薦を得た。目標は、7選挙区すべてと、比例代表で6議席以上のあわせて13議席以上の獲得だ。
達成すれば、非改選の議席とあわせて、参議院で27議席となり、現行の選挙制度では過去最高を更新する。

ターゲットは兵庫

公明党が、最も厳しい情勢だと分析し、力を入れるのが、定員が3人の兵庫選挙区だ。
4月に統一地方選挙が終わるとすぐに“兵庫対策”に一斉にシフト。
党幹部らが次々と応援に入っている。

山口代表は、国会が閉会した翌日、党所属議員に向けて力説した。

「とりわけ今、厳しいと言われている兵庫選挙区に力を寄せて、全選挙区で勝利したい。21日の投票日を目指して、一致団結して全力で戦っていこうではないか」

組織戦 全国から結集

公明党の選挙戦と言えば、徹底した組織戦だ。

国会議員の秘書も、兵庫に集結し、「拡大対策」を担う。
団体や企業から推薦を受けても、従来は自民党を支持していた組織も多いため、推薦を実のあるものにするため、とにかく足を運ぶのだという。

今回、支持母体の創価学会も、兵庫で「全国交流」を展開している。全国各地から兵庫に集結し、知人や友人に支援を呼びかけるというものだ。これだけ兵庫に力を集中させていることに、ほかの選挙区の関係者からは、兵庫以外での活動が手薄になるのではないかと懸念する声も聞かれるほどだ。

佐藤茂樹選挙対策委員長は、この取り組みの意義をこう解説する。

「団体とか企業だけでは網がかけられず、声がかけられない層というのは、いっぱいいる。そういう方々に、人脈を通じてお願いに行っていただいている」

「小さな声を、聴く力」

公明党は、公約のスローガンに「小さな声を、聴く力」を掲げた。

立党精神の「大衆とともに」の原点に立ち返り、庶民目線の政治を実現していく姿勢を強調した形だ。
公約の目玉には、国会議員の給与にあたる歳費の10%削減を打ち出した。

歳費の削減をめぐっては、連立を組む自民党内に慎重な意見もあるが、消費税率を10%に引き上げて、国民に負担を求める以上、国会議員みずから「身を切る改革」を行う必要があると判断したのだという。

自衛隊明記には慎重

一方、憲法改正については、「否定するものではなく、新しい価値観や課題などが明らかになれば、必要な規定を付け加える『加憲』によって改正する」としている。

ただ、自民党が目指す「自衛隊の明記」については、「多くの国民は自衛隊を違憲の存在とは考えていない」などとして、慎重な立場を示し、自民党と一定の距離も取った形だ。

存在感高められるか

10月には、自民党との連立政権発足から20年となる公明党。
佐藤氏は、今回の参議院選挙では、安定した政権基盤の維持とともに、公明党の存在感を高められるかが問われているという。

「内外とも非常に課題の多い時なので、政治の安定をしっかりと進めていくことが大事だ。与党としては、改選議席の過半数の獲得をしっかり目指したい。その上で、『小さな声を、聴く力』を、政党として持っているのは公明党だ。
国民の皆さんの声に耳を傾け、政策にしていく政治をしっかり進めていくことを訴えたい」

※「野党の戦略」編にも注目を!

政治部記者
有吉 桃子
2003年入局。宮崎局、仙台局を経て政治部。現在、自民党を担当。
政治部記者
加藤 雄一郎
2006年入局。鳥取局、広島局を経て政治部。現在、自民党麻生派を担当。
政治部記者
谷井 実穂子
2008年入局。和歌山局、熊本局、千葉局を経て政治部。現在、公明党を担当。