院選の戦略を語る
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12年前の参議院選挙では、いわゆる「消えた年金」の発覚もあり、自民党は大敗。
その後、第1次安倍政権は退陣した。
そしていま、「老後2000万円必要」の報告書をめぐり、追及を強める野党。再び、年金問題を争点にする構えも見せる。
選挙で党勢を拡大し、反転攻勢につなげられるのか。
野党各党の選挙責任者に、その戦略を聞いた。
(政治部・野党クラブ 山枡慧、森田あゆ美、喜久山顕悟、清水阿喜子、鈴木壮一郎)

まずは「3分の2」を崩せ

選挙戦全体の勝敗のカギを握るとされる、定員1人の「1人区」。全国32のすべてで、野党5党派は候補者を一本化した。

立憲民主党は7つの選挙区、国民民主党は6つの選挙区、共産党は1つの選挙区で公認候補を擁立する方針で、残りの18の選挙区では、野党側の候補者が無所属での立候補を予定している。
与党側を利することになる「共倒れ」を避け、「野党勢力の最大化」を図るのが狙いだ。

野党第1党の立憲民主党の長妻選挙対策委員長は、次のように語る。

「『1人区』で、『与野党一騎打ちの構造』に持っていくのは、国民から見ても分かりやすい。野党側の議席を増やし、全体で3分の1以上を獲得するのが前提条件だ。議席を増やせば、政府・与党も傍若無人のふるまいは出来ない」

参議院では現在、憲法改正に前向きな勢力が3分の2の議席を占めている。長妻氏は、国会本来の役割を取り戻すとして、まずは「3分の2勢力」を割り込ませ、野党側の議席の上積みを図りたいとして、戦略を描く。

躍進のカギはこれだ

躍進のカギは、政権に対峙(たいじ)する明確な姿勢だと強調する。
「野党の象徴として、野党第1党の責任は大きい。われわれの政策を堂々と訴え、明確に安倍政権との違いを示していく」

そして参議院選挙の公約のスローガンに掲げた「令和デモクラシー」を推し進めていく考えを示した。

「『令和デモクラシー』として、ひとつひとつの政策だけでなく、『進めていく方向性自体が違う』ということを正面から打ち出していく」

今回の選挙で、立憲民主党が掲げるのは、「暮らしの安心の回復」だ。
「現在や将来の不安を直視し、解決策を提示することに尽きる。家計をあたためる経済にするため、政府がコントロールできる最低賃金を上げていくことや、残業代を支払う仕組みを作ること、介護や医療、保育の分野の賃金を底上げし、安心を高める」

おしゃべり会議

一方、若者対策にも力を入れる。SNSでの発信を強化するだけでなく、高校生や大学生がお菓子を持ち寄って党に所属する議員と対話する「おしゃべり会議」を開催。5月の会合には、枝野代表も参加した。

「当事者」を候補に

LGBTと呼ばれる性的マイノリティーや聴覚障害など、さまざまな分野の当事者などを候補者として擁立することも決めている。

「『多様性を力に』ということが、コンセプトの1つだ。LGBTの候補者もいるし、障害者の当事者、子育て真っ最中の人、DVの被害者、被爆二世がいて、生き方やライフスタイルに国家が干渉しないというのは私たちの党是でもある」

そして、こう強調した。
「党の選挙対策委員長として、目標は全員当選に尽きる」

認知度アップのチャンス

去年5月に結成された国民民主党にとって、今回の参議院選挙は、初めて挑む全国規模の国政選挙になる。岸本選挙対策委員長は、選挙に臨む意義を次のように語る。

「野党第2党というのは、大変悲しく、『自民党が何かコメントすると、野党第1党がコメントして終わり』となり、認知度が上がらない。支持率がなかなか伸びないのは、国政選挙をやっていないからで、参議院選挙は、絶好のチャンスだ」

「うさぎ」投入

知名度をアップするため、玉木代表が「永田町のユーチューバーになりたい!」と宣言するなど、とりわけ、20代から30代をターゲットに、あの手この手を、試みてきた。

そして今回、新たに投入したのが「こくみんうさぎ」だ。「国民の声を聴く長い耳」がチャームポイントで、性格は「さみしがり屋」なのだそうだ。

「いかにも政治的なパンフレットは、もう、受け取ってくれない。うさぎのキャラクターで、『政治じゃない』と思わせておいて、裏を見ると政策が載っているという作戦。反応は、すごくよくて、とてもいい効果を与えている」

家計第一と「ど真ん中」

ただ、こうしたいわば「空中戦」は自民党もかなり力を入れている。(※与党の戦略編参照)そして、「こくみんうさぎ」の認知度が選挙までにどこまで高まるか、と考えると、すぐさま効果が出るかは未知数だ。

そこで「空中戦」だけでなく、「家計第一」の党の政策とスタンスを地道に訴えていくとしている。
「アベノミクスは、大企業や一部のお金持ちを中心とした政策で、普通の人に恩恵は下りてきていない。児童手当の拡大や家賃補助といった形で、家計をあたためることを地道に訴えていくしかない」

「『エネルギー政策や外交・安全保障は現実的に』『LGBTのような心の問題はリベラルに』という『ど真ん中の政党だ』ということを、どれだけ聞いて頂けるかだ。現有で改選の8議席プラスアルファを目標に政策を訴えていきたい」

「暮らしに希望」を重点に

今月15 日に結党97年を迎える共産党。政権を追及する能力に定評がある共産党だが、穀田選挙対策委員長は、「希望と安心の日本を」を新たなスローガンに掲げた意味を強調する。

「批判だけではなく、『希望を語ろう』というところに重点を置いている。長く続いた安倍政権のもとで、政治にも嫌気がさしている方がたくさんいる。『8時間働けば、まともに暮らせる社会を作ろう』『社会保障を充実させよう』と、暮らしに希望を持たせられる特長を出していきたい」

動画アプリに進出

共産党が抱える課題の1つは、党員の減少と高齢化だ。
そこで、若者に人気の動画共有アプリ「TikTok」を活用、支持者がスローガンを掲げたポスターの前で踊る様子などをアップしている。(画像は共産党のTikTokより)

「若者が将来を担っているわけで、『若い人たちが主人公だ』ということを知ってもらい、掘り起こしをしっかりとやっていきたい。『政治をみんなで一緒に変えよう』と訴えていくし、若者は特に重要視していきたい」

ただ、現時点でのファンの数は、ご覧の数字の通り。どれほど若者にリーチできるか、これからの取り組み次第だろう。

候補者を取り下げてでも…

野党側が32の「1人区」で候補者を一本化したことで、共産党は、21の選挙区で候補者を取り下げた。穀田氏は、最重要課題と位置づける「安倍政権打倒」のため、候補者の取り下げは必要だったと説明する。

「政府・与党は、改憲勢力が全体の議席の3分の2の多数を持っていることを力の根源として、『暴走政治』をやっている。これをやめさせるには、野党が連携してやる以外にない。一方で、共産党として、比例代表で850万票を獲得し、選挙区と合わせて10議席以上を目指す」

大阪ダブル選は制したが…

4月の統一地方選挙では、いわゆる大阪ダブル選挙を制した日本維新の会。

今回、「1人区」を一本化した野党連携とは一線を画している。
課題は、大阪以外での支持の拡大。選挙対策本部長を務める馬場幹事長に聞いた。

「北海道、東京、神奈川、愛知で、首長を経験している方や、地域のローカルパーティーで政治活動をしている皆さんと連携していく。日本維新の会は、『自立する地域』を標ぼうし、『地域のローカルパーティーの集合体がナショナルパーティーだ』という考え方だ。本当に地域の実情を分かっている皆さんと連携が出来る」

大阪での成功体験を全国に

大阪で実現した改革を全国にも広げていくとしている。中でも若い世代に向けた政策をアピールし、党勢の拡大を図りたい考えだ。

「例えば、大阪では、私立高校の授業料の無償化は8年前からやっており、今後、経営統合される大阪府立大学と大阪市立大学についても、吉村大阪府知事は、授業料の無償化を先駆けてやると表明している。高齢者を大事にしていくことは、もちろんだが、一定程度、税金の使い道を若者にシフトしていくことで、若者が政治に興味を持ってもらえるようにしたい」

「しがらみのない」を前面に

業界団体や労働組合などの支援を受けていない政党として、今回、「創れ、日本の新たなかたち 目指せ、もっと自由で安心な社会」をスローガンに掲げ、「しがらみのない政策」を前面に打ち出していくとしている。

「わが党は、お金がないので、知恵を使ってやっている。企業や団体、労働組合といった組織ではなく、いわゆる普通のサラリーマンや中小企業の経営者など、第一線で頑張っている方々に支援を頂くことを目標にしている。そういう方々に理解を頂ける政策をマニフェストとして出していく。改選7議席を上回る議席数を目指す」

政党としての存亡をかけて

前身となる社会党の誕生から70年余りとなる社民党。平成元年の参議院選挙では、自民党を過半数割れに追い込み、当時の土井たか子社会党委員長は、「山が動いた」という名文句を残した。

その老舗政党が最大の危機に直面している。今回の選挙結果次第では、公職選挙法上の政党要件を失いかねないからだ。

党の選挙対策委員長を兼務する吉川幹事長は、現状を次のように語る。

「今回は、社会党時代を含め、最も大変な選挙になる。『比例代表の得票率2%以上』か、今回の結果も含めた『5人以上の国会議員』のどちらかを確保しないと、国政政党としての要件を失う。党の存亡のかかった選挙だ」

「自己責任」ではなく「助けて」に応える

存亡がかかった戦いに臨むにあたり、社民党が目指すのは「支えあう社会」だ。

「2000万円の問題を含め、安倍政権のもとで、自助が強調され、自己責任という言葉が行政や政権から出てきているが、政治の責任放棄にほかならない。苦しいときや、どうしようもないときに『助けてほしい』という声を、自己責任という言葉ではなく、受け止められるような社会を作っていかなければならない」

憲法を守る

そして、力を入れて訴えるのが、結党以来、掲げている憲法を守る立場だ。
「安倍政権のもとで、集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈の変更と『戦争法』が強行採決された。仮に中東で紛争・戦争が発生し、集団的自衛権の行使をアメリカ側から強く求められた時、トランプ大統領にべったりの今の政権は、はねのけられるのか」

「戦後、戦争に参加しなかった日本の歴史が大きく悪い方向に変えられてしまうという危機感を持っている。憲法9条を変えようという今の安倍政権は倒さなければいけない」

第2次安倍政権の発足後、4回あった国政選挙は、いずれも与党が勝利した。

今回の参議院選挙を迎えるにあたって、野党側は、「衆参同日選挙」を警戒し、衆議院の「解散風」に振り回された。そうした中でも、野党側は、6年半余りに及ぶ長期政権の弊害を訴え続けている。
その訴えが、有権者の心をつかみ、自民党の「1強多弱」とも言われる政治状況にくさびを打ち込むことができるのか。

12年に1度の政治決戦が、まもなく始まる。

※与党の戦略編にも注目を!