永田町に振り回された
地方組織のいま

「政治的には民進党は解党されている。だって、衆議院選挙で候補者を立てなかったんだから。それで存続というのは、本当に大変な立場に追い込まれているんです」。民進党の篠原孝選挙対策委員長は、党の現状をこう言い切りました。民主党が政権を失ってから、すでに5年。民進党に名前を変えて、ことしの衆議院選挙では分裂。分裂後の党を率いる大塚代表は、政権交代に向けた野党の結集を目指すとしています。こうした永田町の分裂劇を党の地方組織はどんな思いで見つめているのか。各地の現場を取材しました。
(政治部記者 野党担当 相澤祐子)

地方組織は存続

党を存続させるのか、党名を変更するのか、新党に移行するのか。低迷から抜け出せずにいる民進党は、今後の党のあり方をめぐって議論を進めています。

党内では、“同じ家で暮らしていた兄弟”だった立憲民主党、希望の党との連携を模索する動きもありますが、思惑の違いもあり、先行きは見通せていません。

こうした中、民進党が目を付けたのは、党の地方組織の存在でした。民進党は全国の地方組織は存続させるとしており、地方組織を軸に3党の連携が図れないかというのです。ただ、ひと言で民進党の地方組織と言っても、地方議員の数やほかの政党の関係など、地域によってかなり差があります。私は早速、各地に行って、関係者に話を聞くことにしました。

”民主王国”では

3党の連携で今後のモデルになりそうなのが、”民主王国”とも呼ばれた愛知県です。愛知県には、民進党の大塚代表のほか、立憲民主党の赤松広隆・衆議院副議長、希望の党の古川元久幹事長と3党の幹部がそろっています。

衆議院選挙前は、赤松さんも古川さんも民進党の愛知県連に所属しており、民進党の愛知県議らは、国政政党の所属は違っても、引き続き連携していくための受け皿として、「地域政党の設立」というアイデアを出しました。「地域政党」があれば、民進党を離党した地方議員も、議会や選挙での連携が可能で、分裂の影響を避けることができるのではないかという狙いがあります。

民進党愛知県連の幹事長を務める塚本久県議会議員です。塚本さんは、今回の衆議院選挙での党の分裂について、「分裂して、国会議員に振り回される状況になった。私どもとしては、地方議員として、もう一度、自分たちが政治を志した原点に返る形で、地域の皆さんの声をきちんと聞かないといけない」と話していました。

また、立憲民主党や希望の党との連携については、「今まで一緒にやってきた仲間であり、そう考え方が違う訳ではないので、できるところは協力したい」として、「地域政党」を設立し、民進党出身の地方議員などに参加を呼びかけたいとしています。

一方、衆議院選挙の結果、勢いに乗る立憲民主党は、「永田町の数合わせには関与しない」としており、愛知県でも独自の動きを加速させています。11月の名古屋市議会議員の補欠選挙では、枝野代表も応援に入り、地方選挙で初めて公認候補を当選させており、これに先立って党の愛知県連も設立しました。

12月13日現在で民進党は、定数102の愛知県議会で32議席、定数75の名古屋市議会で16議席となっており、いずれも自民党に次ぐ勢力を持っていますが、衆議院選挙のあと、3人の県議会議員が離党の意向を示し、1人の市議会議員が離党するなど、永田町での分裂劇が地方にも波及しつつあるようです。

希望の党代表のおひざ元は

衆議院選挙の直前、当時の民進党の前原代表が事実上、合流する方針を決めた希望の党は、地方では、どういった動きがあるのでしょうか。希望の党の玉木代表のおひざ元、香川県を訪ねてみました。

民進党の香川県連には、玉木さんと小川淳也衆議院議員の2人の国会議員が所属していましたが、今回の衆議院選挙では、2人とも希望の党から立候補し、当選しました。この結果、香川県では、民進党の国会議員はいなくなりましたが、今のところ、民進党香川県連の地方議員に離党の動きは見られません。

民進党香川県連の代表代行を務める山本悟史県議会議員です。「地方議員は今まで頑張ってきて、国会議員の都合でまた振り回されて、『どこに行くか好きにしろ』という話は、そもそもおかしいという感じでしょうか」。

民進党香川県連は、希望の党に移った玉木さんと小川さんとは、引き続き連携していく方針を確認しており、今後、議決権のない「オブザーバー」という形で県連の会合にも出席してもらうことにしています。

12月10日には、民進党香川県連と党の支持団体である連合香川との意見交換会が開かれ、希望の党の玉木代表も出席しました。

玉木さんは「地域事情を十分、勘案しながら、よりよい関係を模索したい」と述べ、当面、香川県には希望の党の県連組織を置かないとして、理解を求めました。

意見交換会のあと、山本さんは「民主党、民進党と続いてきた流れは必要な政治勢力なので、残して、発展させていくべきだ。これからどうなるのかは、誰も正解が言えないが、個人的には、今、ばたばた動いてもしょうがないと思っている」と話しました。

3党の支持率は、12月のNHKの世論調査では、民進党が1.8%、立憲民主党が7.9%、希望の党は1.4%となっています。地方組織をめぐる3党の動きには、それぞれの地域事情だけではなく、分裂後の党勢の差が、地方議員の心理などに影響を与えている面もあるのかも知れません。

野党3党ゼロの県では

山形県では、民進党出身の前の衆議院議員などがすべて落選し、3党の衆議院議員が不在となっています。民進党山形県連の会長だった近藤洋介前衆議院議員は、選挙の直前、党の方針に従って民進党を離党し、希望の党から立候補しましたが、議席を失いました。

山形県連は12月7日に衆議院選挙の総括をまとめ、「選挙の現場は非常に混乱し、候補者も悩んだ末に立候補する政党を決めた」などとして、今後は、原点に回帰して地方主権などを念頭において活動していくとしています。

民進党山形県連の幹事長で、当面、会長代行も兼務することになった吉村和武県議会議員です。吉村さんは、「民進党の政策がよいと思ってやってきたが、国会議員の事情で、こうした態勢で選挙をやってしまったことは非常に残念だ」と話しています。

そして、希望の党から立候補して落選した近藤氏について尋ねると、「復党の申し出があれば、協議することになる。そもそもけんか別れした訳ではなく、近藤さんの選挙を一生懸命やったので、仲間だと思っている人がほとんどだと思う」と話していました。

永田町では”新党”も

一転、永田町では、今後の党のあり方をめぐる議論が続いており、執行部は、地方組織の意見も聞いて、年内にも方向性を決めたいとしています。党内では、平成31年の統一地方選挙や参議院選挙に向けて、「民進党のままでは、戦えない」といった指摘が相次いでおり、立憲民主党への入党も念頭に、複数の参議院議員が離党を模索しています。

12月13日の党の常任幹事会で大塚代表は、通常国会に向けて立憲民主党や希望の党との統一会派の結成を目指し、将来的な合流の可能性も模索したいと提案し、出席者からは「国会対応などで、ほかの野党と連携し、まずはより大きな勢力になる道筋をつけるべきだ」といった意見が出されました。

民進党はどこに?

今回の取材では、民進党の地方組織が「国会議員に振り回された」という複雑な思いを抱えながらも、引き続き理念や政策を実現するため、それぞれの実情に合わせて立て直しに奮闘している姿をかいま見ることができました。国政政党が、国会で政策を掲げ、理解を得ながら党の支持を広げていくためには、地域の声をくみ上げる役割を果たす地方組織は欠かせない存在です。

与党が衆議院全体の3分の2を超える議席を獲得した現状においては、野党が少しでも存在感を示さなければいけない状況だと言えますが、先の特別国会でも、分裂した野党が連携して巨大与党に対じしていく姿を見せることはできなかったと思います。

年明けの通常国会、さらには平成31年の統一地方選挙や参議院選挙に向けて、民進党はどのような結論を導き出すのか。私たちに身近な存在である地方組織も含めて、今後の動向を追い続けたいと思います。

 

政治部記者
相澤 祐子
平成14年入局。長野局を経て政治部へ。現在、野党担当。