直近選挙から読み解く各党の“地力” 衆院選への課題は?

区議選の結果から各党の地力を分析

「早ければ秋にも衆議院の解散・総選挙があるかもしれない」
そんな見通しの下、各党は候補者の擁立作業などの準備を急いでいる。
いま、各党の地力はどうなっているのか。力関係に変化はあるのか。
直近の選挙結果や、専門家への取材から読み解いた。
(西林 明秀)

区議選結果から“地力”がわかる?

今回、分析の材料にしたのは、ことし4月から5月にかけて行われた東京・特別区の区議会議員選挙だ。

23の特別区のうち葛飾区を除く22の区で選挙が行われ、自民党・立憲民主党・公明党・日本共産党は、すべての区で複数の公認候補者を擁立した。日本維新の会も20の区で複数の公認候補者を立てて、しのぎを削った。

地方政治に詳しい法政大学大学院の白鳥浩教授は、区議選の結果から、衆院選に向けた各党の地力や勢いを、一定程度推し量ることができると話す。

法政大白鳥教授
法政大学大学院 白鳥浩教授

白鳥教授
「一般に、都会の地方議員は個々の知名度が高くなく、有権者は政党のイメージやラベルで投票する人も多い。つまり、党の地力がダイレクトに個々の議員に反映される可能性があると考えられる。また、無党派層が多い東京のトレンドは、衆院選の小選挙区の勝敗を決するといわれる全体の無党派層のトレンドを示唆する可能性がある」

22区議選の結果は

さて、区議選の結果を見ていこう。
我々は、22の区議選で各政党の公認候補が獲得した票数を足し上げ、党派別の得票数と得票率を出し、前回選挙と比較した。その結果がこちらだ。

▼自民党は、11万875票の減で、率にして-5.1ポイント。

▼立憲民主党は、2万3049票の増で、率にして+0.3ポイント。

▼日本維新の会は、19万2787票の増で、率にして+6.0ポイント。

▼公明党は、4万9781票の減で、率にして-2.4ポイント。

▼日本共産党は、3万9309票の減で、率にして-1.8ポイント。

区議選各党得票の前回比較①
得票数とその「比較」の値は、小数点以下第1位を切り捨てて表示しています。
  得票率とその「比較」の値は、小数点以下第2位を四捨五入して表示しています。
このため、表中の得票数・得票数の差と「比較」の値は、一致しない場合があります。

また、すべての区議選に候補者を擁立したわけではない政党を見ていくと、

▼国民民主党が1万4365票の増で、率にして+0.4ポイント。

▼社民党が1万7919票の減で、率にして-0.6ポイント。

▼東京の地域政党「都民ファーストの会」が4万8837票の増で、率にして+1.5ポイント。

このほか、前回選挙での実績がないため比較はできないが、

▼れいわ新選組が5万255票、全体の率にして1.6%。

▼政治家女子48党が1万2719票、0.4%。

▼参政党が5万1996票、1.6%の得票となった。

区議選各党得票の前回比較②
得票数とその「比較」の値は、小数点以下第1位を切り捨てて表示しています。
  得票率とその「比較」の値は、小数点以下第2位を四捨五入して表示しています。
このため、表中の得票数・得票数の差と「比較」の値は、一致しない場合があります。

また、こちらが各党の立候補者数・当選者数・当選率を比較した結果となっている。

各政党の当選率の前回比較


コロナ禍の“組織政党”離れ

選挙結果からまず注目されるのは、政治的なスタンスは問わず、自民党、公明党、共産党など組織力を強みにしてきた政党が今回軒並み、得票率や当選率を落としていることだ。立憲民主党も、票数自体は増やしているが、全体の得票率比較では、ほぼ横ばいの結果となった。当選率は落ちている。

その要因は何なのか。
白鳥教授は「新型コロナウイルスの存在が、“組織政党”の足腰を弱めている」と話す。

「各党個別の事情はあるにせよ、この3年余、緊急事態宣言などで行動制限が課されるなどして、組織的な集会活動・運動を行うことが難しくなり、組織が選挙マシーンとしてうまく機能しなくなってきた。組織を十分に動かすことができなかったことで、集票力の低下に繋がっている」

また今後についても「コロナ禍からの活動回復は進んでいるが、組織としての戦いが、再び力を発揮するのには、まだまだ時間がかかるだろう」と付け加えた。

法政大白鳥教授

割って入る “リモート政党”

一方、今回伸長したと言えそうなのは日本維新の会やれいわ新選組、参政党といった、比較的新しい政党だ。

白鳥教授は、これらの政党を“リモート政党”と表現している。

「コロナ禍でも、あまり組織に頼らずに、SNSやホームページ、あるいは動画サイトなど、デジタルの形で、有権者に働きかけ、集票を上げてきた。区議選でも候補者個人の主張よりも所属政党の政策や政党代表のイメージなどを強く訴えかけているのが特徴的だ」

特に今回、日本維新の会の勢いは各党関係者の目を引いた。

得票率の伸びは6ポイントと各党の中で最も高く、当選率は96%。このうち8つの区議選ではトップ当選を果たした。

白鳥教授は維新好調の背景にも、新型コロナが深く関わっていると指摘している。

「例えば大阪の吉村知事のコロナ対応はよくニュースになったが、当時の全国の有権者はリモートワークやリモート授業の生活を送るなどして、家でメディアを見る時間が増えていた。コロナ禍という特殊状況の中で、大阪の試みが大きく全国に宣伝されていくということが起きた」

では、維新はどのような層から支持を集めたのか?

白鳥教授は自民党の票が主に維新へ流出しているという見方を示した。

「保守的な体質を持っている日本維新の会は、自民党と支持者が重複する。自民の票が維新に流れると考えるのは不自然なことではない」

法政大白鳥教授

新たなムーブメント“女性政治元年”

今回の区議選では、『少子化対策・子育て支援』が大きな争点の1つとなった。そんな中、白鳥教授は有権者の中に新たな動きが芽生えていると指摘する。

「今回の選挙では、若い子育て世代の候補者や、女性の候補者の多くの躍進を見ることになった。『女性政治元年』と言ってもいい状況になったと思う。衆院選でも大きな争点となれば、やはり同様に子育て世代や女性の候補者が躍進する可能性がある」

この動きは結果にも表れている。杉並区議会議員選挙では定員48のうち、24人が女性となり半数に達した。また、総務省によると今回の統一地方選として行われた21の区議選では、301人の女性が当選。過去最多の人数となった。

一方、衆議院選挙は、内政以外に、外交や安全保障なども争点になる。区議選で見られた新たなムーブメントが、どのような展開を見せるのか注目される。

戦いのカギを握るのは

自民・公明両党が組織力の結集に苦心する一方、政権批判の受け皿となる野党票も分散化が進み、状況は不透明感を増している。

白鳥教授が特に注目するのは各党間の選挙協力の行方だ。

「与野党、選挙協力を行うという点については、不安要素を抱えている。与党にとってもマイナスがあって、野党も有効な手立てが見いだせていない。お互いにとってマイナスの中で、どちらがより『マシ』な選挙を行ったかという結果になりかねない」

コロナ禍を経て、選挙をめぐる環境が大きく変化したいま。疲弊しつつある組織の立て直しを図りながら、新しい時代の選挙にどう対応していくのかが、今後のカギをにぎっていると言えそうだ。

選挙プロジェクト記者
西林 明秀
2015年入局。松江局、沖縄局を経て2023年から報道局選挙プロジェクト。