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能登半島地震 糸魚川市京ケ峰地区 擁壁被害相次いだ背景は

  • 2024年02月11日

能登半島地震で最大震度5強の揺れを観測した糸魚川市。市内でも特に被害が大きかったのが、京ケ峰地区です。地区では住宅の土台となっている擁壁が崩れるなどの被害が相次ぎました。
なぜ被害が相次いだのか、その背景を取材しました。(上越支局 記者 阪本周悠)

放送の動画はこちら

地震で擁壁崩れ 住宅被害相次ぐ

糸魚川市中心部から近い山あいにある京ケ峰地区。能登半島地震のあと、住宅の土台となっている擁壁が崩れたり、緩んでたわんだりするなどの被害が出ています。

市が地区を対象に実施した応急危険度判定では、167件のうち、4割を超える76件が「危険」と判定されました。

なぜ被害が相次いだのか。地区の成り立ちから問題が明らかになってきました。

地区の成り立ちに被害の背景

まず京ケ峰地区はどのような場所なのか。市の担当者が見せてくれたのは昭和40年度の糸魚川市の事務報告書でした。

糸魚川市建設課 長﨑英昭課長
「京ケ峰用地建設について」というところに、昭和40年ごろに県の住宅供給公社が団地を造って、建売住宅と宅地分譲合わせて200戸分を建設分譲することになったと記載されています。

市の事務報告書や広報紙など当時の資料によると、京ケ峰地区がつくられたのは昭和40年ごろです。

国土地理院の空中写真で当時の様子を確認してみると、昭和40年には地区には田んぼや山林が広がっていましたが、昭和49年になると東側の山が切り開かれ、住宅が建ち並んでいます。

住宅需要の高まりを背景に、県の住宅供給公社が6万6000平方メートルの土地を造成し、住宅や宅地を販売しました。

「空積み」工法に問題か

市によりますと、このとき、住宅の土台となっている擁壁には「空積み」と呼ばれる工法が使われていたということです。

この「空積み」工法は、コンクリートのブロックを積み重ねただけの工法で揺れに対する強度が高くなかったとみられるということです。

 

糸魚川市建設課 長﨑英昭課長
「空積み」については背後にコンクリートが注入されていない状況で、うしろは玉砂利を敷設したものです。今回の地震によりこうした工法で作られていた擁壁が崩れました。

県によりますと、擁壁の工法について現在は、高さ2メートルを超えるものを作る際、ブロックの裏に
コンクリートなどを流し込んで強化する「練積み」などで行うよう、建築基準法で定められています。

しかし、当時はコンクリートのブロックを積み重ねた擁壁について規定はなく、京ケ峰地区の「空積み」も規制の対象にはならなかったとしています。

工法と地盤の弱さ要因か 専門家が調査

専門家も「空積み」工法のぜい弱性を指摘しています。糸魚川市にあるフォッサマグナミュージアムの学芸員、香取拓馬さんです。

フォッサマグナミュージアム学芸員 香取拓馬さん
ブロックの中を見ますと拳大の玉砂利が敷き詰められていて、玉砂利の間は結構空洞が大きくて大きい砂利と砂利どうしが支え合っている形なので揺れに対しては非常に不安定な状態です。

香取さんは被害が確認されたあといち早く現地に入り、地区内のどのような場所で被害が大きくなったかなど、記録するなどの調査を行ってきました。

香取さんは、被害が拡大した要因として、地区周辺の地盤が軟弱だったことも指摘しています。

フォッサマグナミュージアム学芸員 香取拓馬さん
被害が1番大きかった通りのすぐ東側のあたりに昔川が流れていました。造成前は地区で1番低かった場所なのかなと思っています。川が流れている場所は地下水位も高いと思いますし地盤も軟弱な場合が多いです。

香取さんによりますと、京ケ峰地区はもともと山あいの谷だった場所に作られていて、かつて川が流れていたことから地盤が軟弱だということです。

さらに地区内では地震や大雨などの災害で崩れるリスクがあるとされる「盛り土」が多用されていることもわかりました。

フォッサマグナミュージアム学芸員 香取拓馬さん
もともと谷だった場所を同じ勾配にならしているので、かさ上げの盛った土の量というのも、川沿いでは高いと考えています。

地区住民からは不安と苦悩の声

工法や地盤などが原因とみられる今回の被害。地区の住民からは安全性への懸念や経済面での苦悩の声が上がっています。地区に住む丸山次郎さんです。

丸山さんの家でも擁壁が大きく崩れました。擁壁の修理には数百万円程度かかる場合もあり、加入していた保険では補償外とされていたことから経済的な負担は大きいと話します。

地区に住む 丸山次郎さん
本当に次この状態で揺れたら隣のお宅に被害を与える可能性があるので直したいんですけれど。擁壁が崩れたことについて地震の共済が使えないというのが地震のあとはじめのショックでした。応急復旧的に直すのであれば100万円程度で直るようですけど、同じように擁壁が崩れたお宅はすでに修復作業始められて、見積もりの金額で250万円くらいと聞いています。

一方、地区の地盤が弱いことから高い修理費用を払ってなお不安を抱えて地区に住み続けるか、それとも家を取り壊し移住するか。丸山さんは、大きな決断を迫られています。

地区に住む 丸山次郎さん
この家を取り壊すことも選択肢として考えていて、1番ベストな方法は何か探っている状態です。早く直せれば1番いいんですけれど、地区を離れることも検討してたりするので、それで少し工事に取りかかるのに時間がかかっています。

糸魚川市では、擁壁などの補修や補強をするために最大30万円を補助する独自の制度を設けていて、少しでも役立ててほしいと呼びかけています。

同様のリスク 全国でも

現地で調査をした学芸員の香取さんによりますと、京ケ峰地区のように昭和40年代に作られ、工法などが共通する造成地は全国にあるということです。

当時造成された地区では今後の地震によって擁壁が崩れるなどの大きな被害が出る可能性があると警鐘を鳴らしています。

自分のいま住んでいる建物や地区にはどのようなリスクがあるのか改めて確認し、場合によっては耐震性を高める工事を行うなど災害に備えることが必要です。

  •  阪本周悠

    新潟放送局 記者

     阪本周悠

    2021年入局。
    主に上越地域を担当。農業や伝統文化などを取材。 

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