再出港の佐渡汽船「みちのり流」改革なるか 尾渡社長に聞く
- 2022年10月18日
赤字が続き、厳しい経営状況が続く佐渡汽船。東北のバス会社などを傘下に持つ「みちのりホールディングス」から出資を受けて子会社となり2022年3月に再出発しました。地道なコスト削減と売り上げ増に取り組み安定的に黒字を出せるようにすることに加えて、老朽化が進む船舶の更新など大型投資の資金も捻出しなければなりません。佐渡汽船の改革の状況と尾渡英生社長へのインタビューの詳しい内容をお伝えします。
(新潟放送局 野口恭平 記者)
3年連続の最終赤字 みちのり傘下へ
佐渡と本土を結ぶ唯一の公共交通機関である佐渡汽船。その経営は厳しい状況が続いています。
上越市の直江津港と佐渡市の小木港を結ぶ航路が慢性的に赤字になっていたところへ新型コロナウイルスによる旅客の落ち込みも加わり、決算は2021年12月期まで3年連続で最終赤字に。負債が資産を上回る債務超過の状態も続いていました。
広く支援先を探った結果、関東や東北のバス会社などを傘下に持ち、企業再建を続けてきた「みちのりホールディングス」から出資を受けて子会社となり2022年3月に再出発しました。
「モノレール」出身の社長が陣頭指揮
新体制で佐渡汽船の社長に就任したのが尾渡英生さんです。
直前まで、みちのりホールディングス傘下で神奈川県にある「湘南モノレール」という会社の社長を務めていました。
ダイヤ改正や交通系ICカードを導入して利便性を高めたり、イベントを開催してファンを増やしたりして就任初年度は1031万人だった利用者を新型コロナ拡大前には1120万人にまで伸ばした実績を評価され、佐渡汽船の再建を託されました。
毎週開催の「再生会議」
佐渡汽船グループ全体とみちのりホールディングスが一体となって改革を進めるため、毎週開いているのが「再生会議」です。
みちのりホールディングストップの松本順 代表取締役も参加しています。
会社の大きな課題は2つ。いかに自力で売り上げを増やすか、そしてコストを削減して安定的に黒字を達成できるようにするかです。
出資や金融支援の結果、債務超過の状況からは脱しましたが2022年6月までの半期も収益は赤字です。
県から借りていた上越市や佐渡市の港にあるターミナルビルのスペースを返却したほか、コスト削減やデジタル活用などさまざまなテーマで議論を続けています。
会議にはグループ各社から議題にあわせて担当者レベルまで参加して進捗を確認していくということです。
デジタル発信強化 モニターツアーも
売り上げ増のため取り組んでいるのがデジタル発信の強化やサービスの改革です。
会社はLINEの公式アカウントを8月に開設して発信を強化しているほか、インスタグラムを使ったフォトコンテストも開きました。
加えて国の補助事業を活用したモニターツアーも開催。SNSで活発に発信している人などに参加してもらって旅行商品の開発に役立てるのと同時に、参加者のSNSでの発信を通じて佐渡旅行がネット発の口コミで広がることを期待しています。
10月前半、県内外から応募した人たちが参加したツアーに同行しました。
砂金t取りなど定番の観光スポットに加えて予約制の坑道ツアーも体験。
船好きの少年として全国放送のテレビ番組にも出演したことがある小学生は、たらい船やフェリーに乗ったことをさっそく発信していました。
船好きの小学生
佐渡のゴールドパークで砂金とりを親子で協力して体験したのが楽しかったです。フェリーも、乗り心地、操船技術、アナウンス、船員の優しさ、それに何だかちょっと座りやすい席、設備が充実している、それから…あとなぜか前にテレビがあったこと、この7つがよかったことです!
小学生の母親
たらい船のお姉さんたちと撮影してもらった写真を発信しています。素敵な人との出会いとか息子の勉強の1つにもなりますし、こういうことで発信して佐渡に来たい、佐渡汽船に乗ってみたいという方がいらっしゃったら、それはそれでうれしいことです。
バスガイド → コンシェルジュ
社内では業務を見直そうという動きも出ていました。
グループ会社でバスガイドの仕事をしてきた佐渡市出身で島内在住の門間純子さん。
10月に新設された佐渡汽船観光の「コンシェルジュ課」に配属となりました。
団体旅行から個人旅行に旅のスタイルが変わるなか、バスガイドとして蓄積してきた豊富な知識や、佐渡出身だからこそ知る魅力などの知識をいかして富裕層など個人向けのツアーの調整にも取り組みたいと意気込んでいます。佐渡おけさの着物を着てサプライズも行っていました。
コンシェルジュ課 門間純子さん
個人の旅行が増えて目的や旅の楽しみ方も変わっている。観光地だけでなく「地元のスーパーで旬なものを買いたい」とか。佐渡に来て、さらにリピーターになってもらうためにいろいろ挑戦していきたい。
「みちのり」とのシナジーは?
また、気になるのはみちのりグループ各社とどのように連携しシナジーを生み出すのかという点です。
コスト削減などの経営改革自体がグループのシナジーだということですが、情報発信にも取り組んでいます。
みちのりグループのバスに備えられている広報誌では佐渡の観光案内などを発信しているほか、傘下の各社では佐渡を目的地とした旅行商品も開発しているということです。
こうした細かな取り組みを続けることで収益力を高めていくとしています。
老朽化進む船への投資も課題
一方、投資の負担が大きい船舶をどう整備するかも大きな課題です。
2022年7月には、直江津港と小木港を結ぶ航路に活用するため愛媛県の海運会社から中古のカーフェリーを購入する方針を明らかにしました。
取得費用は8億7000万円。会社では県や地元自治体に支援を求めながら、来年3月にも稼働を開始する計画です。
また、既存の船の改修も検討しています。
1等は「いす席」の需要が高いことから、カーフェリー2隻(「おけさ丸」と「ときわ丸」)の1等いす席をそれぞれ数十席増やす方針です。1等ジュータン席を来年2月と3月に「いす席」に改修します。利便性向上とともに収益力を高める狙いがあります。
「おけさ丸」は完成から約30年がたち、当初2025年度までに新たな船に更新する計画がありましたが、新体制になってその計画はなくなったということです。会社では環境に優しい燃料の開発など技術開発の状況を見極めて、いつ新たな船を導入するか判断する方針です。
また同じく老朽化が進み、新造船の計画が一度持ち上がったジェットフォイルの「ぎんが」については「おけさ丸」のあとに更新する方針だということです。
安定的な黒字化とともに船舶への投資をどうねん出するか難しいかじ取りが続きそうです。
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Q この半年をどう振り返るか、船に例えるならどのような状況か
スタートして6か月でいろいろなことが始まったばかりというのが現状です。出港したばかり、非常に厳しい経営状況の中でスタートしたので、波は本当に高いと思います。
佐渡汽船グループとしての経営については12社全体のグループをいかに経営再建していくか、事業再生していくか、価値をいかに向上させるかが1つ。そして900人弱の社員がいるのでその現場と我々が、いかにコミュニケーションをしっかりとっていくか。この2点は非常に気にしながら経営しています。全員と一対一で話すのはできないのでいくつかグループに分かれてもらって私から経営方針を話させてもらったり、みちのりグループというのがどういうグループなのかということから、コミュニケーションを始めました。
Q 湘南モノレールの社長としての実績、どう経験をいかすのか
2015年10月に湘南モノレールで仕事をスタートしたのですが、それ以前に年間の乗降客数が1000万人を切っていました。安全な運行、お客様の利便性を向上させるために駅舎をバリアフリー化し、交通系ICカードが使えなかったので使えるようにしました。いろいろな施策を取り組み、結果として新型コロナ拡大前には1130万人まで13%ほど利用者が増えました。鉄道としては大きな伸びだったかなと思います。湘南モノレールでやってきた自分の中に持っているものを佐渡汽船でもアウトプットできているかなと思います。
小木-直江津の航路も便数が増えて、2022年の大型連休初日にイベントをして盛り上げる取り組みをしました。ファンや地域の方とコミュニケーションをとっていく、そういったことは佐渡汽船でもすぐ取り組みましたし、最近はLINEの公式アカウントとしてお友達アカウントを設けてオンライン上で佐渡汽船のファンにいろいろな情報を見てもらえる環境も作っています。
Q モノレールとの違いは
佐渡汽船の場合は佐渡と本土を結ぶ唯一無二の移動手段であるというところ。佐渡の市民の社会生活を支えるインフラなので、毎日運航をしっかりやっていかないといけない。湘南モノレールでも同じことですが、運航をしっかりやっていくというところには相当に気を使っています。
Q 半期決算や経営環境について
過去の大きな赤字体質からするとかなりいい方向に改善ができている。ことし1年をしめて何とか黒字体質にしようと頑張っているところです。
7月、8月は第7波の影響を受けて少し利用が落ちましたがこの9月からまた、5月、6月のような回復を見せています。「全国旅行支援」が始まりもう一段アップするんじゃないかと思います。外部環境は少しずつ良くなっていると思います。
Q 来期の黒字化は可能なのか
グループの総合力が試されている。船舶の運航事業、陸運の事業といくつかありますが、1つ1つの収益力をつけていくということかと思います。簡単に言えば売り上げを伸ばす、コストを落とす、1つ1つしっかりやっていくことで来期黒字化し、さらに黒字の額を増やしていく。
Q「再生会議」の位置づけは
グループ経営のため、社員たちとの双方向のコミュニケーションをとってくというところで毎週の再生会議は非常に重要だと思っています。タスクをみなで確認してPDCAをしっかり回し改善策を実行しています。
テーマは広範囲で、デジタルトランスフォーメーション、コーポ―レートトランスフォーメーション、売り上げをいかに伸ばすか、コストをいかに削減するか、営業面のPRをどうやっていくかといったことです。シナジーを上げていく余地は無限にあると思っています。
Q コスト削減の余地は
まだまだ余地はある。物品購入の金額を1つ1つ精査していく作業はずっと続けていくことで、いくらでも改善の余地はある。また、船舶の維持管理に相当なコストがかかるのでここの削減余地もかなり大きい。船舶を定期的に点検したり、補修したりしていかないといけないわけですがその見直しで削減を図っていきたい。
Q 人員削減は
これから事業を伸ばしていくため増員をしないといけない部分と、効率化することで削減する部分とのバランスをとっていかないといけない。基本的には雇用は守る。自然減で退職等でやめる方もいるので補充もしっかりしないといけないし、事業拡大で増員を図っていかなければいけない。適材適所で皆さんに働いてもらうことが重要になる。どういう風に組織を作り、人を配置していくかは考えていかないといけない。
Q みちのりホールディングスとの連携は
「みちのり」が佐渡汽船の株主になって、過去のみちのりグループ各社の中でやってきた改善策がまずいかされている。みちのりの中に「横串メンバー」という人たちがいて有楽町の本社に拠点をおいてIT関係担当のメンバー、安全担当メンバーなどプロがいて、その人たちがグループのいろいろな会社で横串で見て改善活動を行っている。佐渡汽船にも入って改善活動をやっています。それは大きなグループの力だと思います。
また、みちのりグループ各社が観光旅行事業をやっているので、各社に佐渡への旅行商品を作って売ってもらい誘客にも取り組みます。
Q 新カーフェリーの活用方針や行政に求める支援は
小木-直江津の航路がジェットフォイルの運航になっていて「人の移動には便利だが貨物の輸送は担えていない」ということで地元からカーフェリーを導入してほしいという声があり、中古船を導入するにいたった。2023年3月末から運航を開始する予定です。そこに向けていろいろな準備をしている。予約システムの準備、船としてもいくつか改造工事がある。3月の就航に間に合うようにいろいろな訓練もしていかないといけない。そういうことをやりながらいろいろなPR活動をしたり誘客をしたりして3月を迎えるという段取りをしています。小木―直江津の航路が慢性的な赤字の航路になっているし、これからも赤字が続いていくんだと思います。ただ我々としては新潟-両津と小木-直江津の航路は絶対維持していかなければいけないと思っています。赤字の部分を少しでも国・県・市に支援をいただきたい、航路を共に維持するところでの支援をお願いしたいと思っています。
Q 既存船の収益力向上は
1等のいす席の人気が高いので、いす席の数を増やそうと考えています。改修の工事は(おけさ丸が)来年の2月、(ときわ丸が)3月を予定しています。1等の中でいすではない部分をいすに変えていく、それぞれ数十席を増やします。
Q 建造から時間がたつおけさ丸の新造船の検討は
具体的にいつ、新たな造船を始めるかといったところはまだまだこれからです。特に今は我々としては経営再建にある中で少しでも今後の経営をよりよくしていくためにいつ新造船を入れるかも含めて検討をしているところです。今年度中に契約などが進むということはない。今一番悩んでるのが新しい燃料で何がいいんだろうというところです。(環境技術など)技術がどんどん変わっているので、何にしたらいいんだろうと。技術開発の見通しがある程度たってきてから判断ということになると思います。
Q ジェットフォイルの「ぎんが」は新造船計画が一時持ち上がったが
ジェットフォイルはかなり長い年月使えると確認しているので、そういう意味では少しでも長くジェットフォイルを使っていきたいと思う。
Q まずはおけさ丸、その次にジェットフォイルということ?
そうです。
Q 経営で大事にしたいキーワードは
「グループ力」(ボードに記入)
佐渡汽船のグループ12社がいかに力をあわせて企業価値をあげていけるか。まだまだ本当にスタートして半年なのでこれからです。佐渡の社会生活を支える非常に重要なインフラなのでこれを維持・発展させていき、利便性を向上させていくために力を注いでいきたいと思います。