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離島・佐渡に熱視線 ベンチャー企業続々「NEXT佐渡」の挑戦

  • 2022年04月25日

    加茂湖の湖畔、優雅に「とき」の飛ぶ姿を眺めながらデスクワーク…。という自然豊かなテレワーク環境だけじゃないんです。新潟県内でも人口減少が急速に進む離島・佐渡島。手厚い行政の支援(佐渡市雇用機会拡充事業補助金)もありますが、今、民間企業の経営者が「NEXT佐渡」という団体を結成し、ビジネスモデルの作り方や人脈の紹介まで、さまざまな支援を行っています。官民連携の「佐渡モデル」とも言われる、企業誘致の実態を取材しました。
    (新潟放送局 記者 野口恭平)

    目指せ成功率ナンバー1の島

    まだ雪もちらつく今年1月、佐渡市で行われたビジネスコンテスト。
    会場の「あいぽーと佐渡」ではエントリーのあった16社から選ばれた4組が熱いプレゼンを繰り広げていました。

    チューニング イワモトユウさん
    大学時代に佐渡に合宿に来て以来佐渡が大好き。視聴した音楽に思い出や感想を載せてシェアできるサービスを佐渡から展開したい。

    プロッセル 横山和輝さん
    高等専門学校の生徒向けに、就活をかねたビジネスコンテストを提供したい。

    メレパレカイコ 舘恭志さん
    佐渡の人口減少を食い止めるには、まず島内で結婚する人を増やすこと。婚活支援とともにアイランドウエディングを提案したい。

    このビジネスコンテスト、島内に拠点のある企業経営者らで作る団体「NEXT佐渡」と佐渡市が連携して開きました。

    グランプリを獲得したのは音楽関連のサービスを展開したいと訴えたイワモトユウさん。

    さっそくこの春にも島内に引っ越して、事業を進めたいと話していました。

    佐渡市で急速に進む人口減少

    こちらは全国と県、佐渡市の国勢調査のデータです。

    灰色が全国、オレンジが新潟県、青は佐渡市です。

    平成2年を100とした場合の増減ですが、佐渡市は急速に人口減少が進んでいることが分かります。

    こうした中、佐渡市の渡辺市長は企業を増やすことで佐渡に何とか活気を取り戻したいとしています。

    渡辺市長
    人口減少が急速に進んでいるが、起業家の皆さんがチャレンジしている姿勢が地域に元気を与えてくれる。民間の皆さんと連携しながら起業家を増やし『起業の島、そして成功率ナンバー1の島』にして、元気にしていきたい。

    佐渡市の支援とは?

    このコンテスト、入賞すると国の制度をもとに佐渡市が作った「佐渡市雇用機会拡充事業補助金」という補助を受けやすくなります。

    ビジネスコンテストのHPより

    雇用を増やすなどの条件がありますが、この補助金を使って、企業は人件費や設備費、広告宣伝費などにあてることができます。

    また、これとは別に、入賞者には市が認定している古民家などを活用したオフィスの賃料も補助されます。

    佐渡市雇用機会拡充事業補助金を市に申請し、採択された件数は急増しています。

    佐渡市雇用機会拡充事業補助金 採択件数

    内閣府の担当者に話を聞きましたが、こうした補助制度を設けている全国の離島の中で、「佐渡市の伸びはかなり大きい」ということでした。

    NEXT佐渡の仕掛け人

    「佐渡モデル」が注目を集めているのは行政の支援制度だけではありません。

    佐渡市出身でIT企業「tane CREATIVE」を経営する榎崇斗社長。

    10年前に佐渡市の古民家を改装したIT企業を立ち上げ、企業のホームページ制作などを手がけています。

    生まれ故郷を元気にしたいと、2015年に経営者仲間で作る「NEXT佐渡」を設立しました。

    行政からの支援は受けておらず、それぞれのメンバーのボランティアで本業の隙間を縫って活動しています。

    榎社長
    佐渡で、この20~30年の間に、ある程度成功した企業が少ないなと感じていて、その課題を解決するチーム作ろうと立ち上げました。行政サービスと勘違いされて問い合わせを受けることもあるんですが、ボランティアなので結構大変です・・・。

    先輩経営者の熱血指導

    しかし、佐渡を盛り上げたいと熱い志をもった皆さん。「佐渡モデル」ならではの手厚い支援に取り組んでいます。

    その一つが、「メンター」として島内で起業する人たちへの指導です。事業計画の作り方や経営のノウハウを伝えます。

    この日は、飲食店やブライダル関連の仕事をしたいという男性の相談にのりました。

    飲食店に挑戦したいということだけど、佐渡はどうしても冬には観光客が少なくなる。なのであくまでブライダルで来てくれた親戚やお友達に特化して店を開いて固定費がかからない形にしてみては?

    すでに何度も厳しい指摘を受けています苦笑。離島ならではの独自の考え方も含めたアドバイス頂けるので、ありがたいです。

    コロナの追い風も 加茂湖畔のオフィス

    実際に榎さんたちが支援して進出した企業は増えています。

    両津港にほど近い、加茂湖畔に並べられたこちらのトレーラーハウスのレンタルオフィス。

    入居するのはアプリ開発などを手がける東京のIT企業「YAZ」です。

    テレワークの普及で、去年12月にオフィスを立ち上げました。

    ここで人事や広報の仕事をしているこちらの女性。

    長年、東京で働いてきましたが、家族の介護のため、おととし佐渡に移り住みました。

    「10時から11時45分で佐渡市役所とミーティングさせてもらいました、17時から18時45分でインスタの写真編集と文書作成、投稿を行っています・・・」

    取材に訪れた日も朝から本社とオンラインで会議。社長に業務を報告したり、同僚と雑談することもオフィスにいるかのように、オンラインで行えるということです。

    目の前の加茂湖畔を眺めうと気分もリフレッシュできます。「とき」が飛ぶ姿を見かけることもあるといいます。

    「とき」が飛ぶ様子を激写

    仕事などの合間に佐渡の海の幸や自然も堪能しています。

    女性
    自分のキャリアを考える上でも、佐渡に住みながら東京や都会の会社で働けないかと思っていました。母親の生まれ故郷の佐渡で、生活と仕事が両立できてるのはすごい良かったです。

    YAZ 田中康之CEO

    田中CEO
    佐渡オフィスはSNS効果抜群。最初は佐渡?って思った部分もありましたが、自治体の支援が手厚いだけでなく、どんどん色々な会社が進出して注目を集めていたりして、非常に面白い。佐渡でビジネス拡大を目指したい。

    誘致合戦の中で独自色を

    これはNEXT佐渡の活動内容です。

    アイデアや人脈、経営ノウハウ、資金不足…。
    榎社長はさまざまな悩みへの相談に乗ることで安定的に利益を出せる会社を増やし、着実に企業を増やしていきたいとしています。

    榎社長
    起業とかベンチャーという言葉で、もしかするとイメージされるような、「ビジネスを『当てて』、株式公開して一気に事業を拡大しよう」という考えはありません。いかに安定して利益を出せるようにするか。要は「失敗させない」ことが大事なのです。
    コロナ禍で、都会の企業が地方に注目し始めていますが、一方で、地方の企業誘致合戦も加速している。私たちは佐渡ならではの方法で支援を行い、佐渡を成功率ナンバー1の島にするお手伝いができればと思います。

      • 野口恭平

        新潟放送局 記者

        野口恭平

        2008年入局 徳島放送局、報道局経済部を経て新潟放送局へ。幼いころから南魚沼市で年末年始を過ごす。現在は経済や人口減少問題を担当。

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