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記録的大雨から2か月 「サケのまち」村上に危機 新潟

  • 2022年10月17日

2022年8月の記録的な大雨から2か月がたちました。先日には農業の被害についてWEBリポートでお伝えしましたが、被害は漁業にも及んでいます。サケ漁やサクラマスのふ化・放流が盛んな新潟県村上市では大雨の影響で漁の設備が壊れたり、育てていた魚が死んだりしました。サケは近年、深刻な不漁が続いていて地元は「不漁」と「災害」という2つの困難に直面しています。(新潟放送局記者 米田亘)

不漁と災害 「サケのまち」村上を襲う危機

村上市内の軒先につるされるサケ

村上市では水揚げの季節を迎えると年末年始の食材として市内あちこちの軒先にサケがつるされ「サケのまち」村上の風物詩になっています。

江戸時代には、村上藩の藩士が世界で初めてサケの自然ふ化と増殖に成功したと伝えられています。

塩引き鮭をはじめ食べ方は100種類を超えるとも言われ、大切な存在として生活に根付いています。

一方で、近年はサケの不漁が深刻です。
地元の漁協によれば、市内を流れる三面川での2021年の漁獲量はこの5年で最低になりました。
2017年は4万7000尾ほどでしたが2021年には1万8000尾余りと半分以下に減少しています。

災害で壊れた漁業設備の補修工事

こうした状況に追い打ちをかけたのが8月の記録的な大雨です。

三面川にも土砂や流木が流れ込んでサケが遡上しにくくなりました。

災害前の「ウライ」 川幅いっぱいに設置されていた
災害後は土台が崩れ「ウライ」を半分しか設置できず

さらにサケを捕獲するための仕掛け「ウライ」が大雨の影響で思うように設置できなくなりました。
ウライは村上市でサケ漁の主力となる漁法で、漁協では例年漁のシーズンになると川幅いっぱいにウライを設置し、すき間から入り込んだサケを両端の「落としかご」でとらえます。

ことしは大雨の影響で川底にある土台のブロックが崩れ、一部でウライを設置できなくなりました。

平田茂伸さん

こうした状況に頭を悩ませているのが、地元漁協の副組合長を務める平田茂伸さんです。

ウライを設置するブロック。半分から向こうの部分が崩れてしまった。
少し傾いてしまってウライを設置できる状態ではない。

サケ漁は漁協の収入の半分を占めます。漁の開始を直前に控えた9月、設備を全面補修するには時間が足らず「応急処置」として被害箇所を土のうで塞ぎました。サケの不漁に災害が重なったことで平田さんはことしの漁獲量のさらなる減少を心配しています。

やっぱり切ないですよね。(例年は)10月になると村上はサケ。
どこでも並ぶ商品であり、村上の顔でもある。なくてはならない存在だと思う。

育成中のサクラマス11万超が死ぬ ほぼ全滅

 

浸水被害で死んだサクラマス

被害はサクラマスにも及びました。

漁協ではサケのように川を遡上するサクラマスのふ化や稚魚の育成も盛んに行ってきましたが、大雨でふ化場も浸水。サクラマス11万6000匹が流されるなどして死にました。生き残ったのはわずか400匹。
被害額は4500万円に上ります。

稚魚の放流の見通しが立たなくなったことで、平田さんは将来の資源の減少を懸念しています。

他の漁協に出荷する予定のサクラマスも流失

さらにこの漁協は県内外の漁協に稚魚などを出荷してきたため、影響は地元にとどまりません。

うちの分としては54万7000尾。
うちから(新潟県新発田市の)加治川漁協に行っているのが20万3770尾。  
これがすべて放流できない状態になっています。
今回放流できないというのは、他の漁協に迷惑をかけているのかなと。
サクラマスは希少な魚なんでよそから手配しようとしてもできない。

不漁と災害という二重の困難に見舞われた被災地の漁業。
平田さんは1日も早く元通りの姿を取り戻すための一歩を踏み出そうとしています。

平田茂伸さん

予想もしてない状況なんでね、水害なんていうのは。本当に痛手。            (サケが)取れなければやっぱり採卵できないから次につながっていかないわけですよ。
我々は次につなげていかなくちゃいけない仕事なんで、やはりとれてくれないと困る。
もうだけど整理つけないとね。我々職員一同、まずサケが上ってくるんだから、
もうそのことは忘れて、いちから頑張ろうっていう気持ちです。

最大の懸念は長期的な影響

サケやサクラマスは数年かけて川に戻ってくる魚です。ことしサケの水揚げ量が大きく減ればそれだけ採卵数が減り、次の年に放流する稚魚の数が減ります。サクラマスについても漁協は数年先を見据えて親魚や稚魚を計画的に育ててきましたが、ほぼ全滅してしまったいま、数年間は稚魚の放流数を減らさざるを得ません。1年で解決する課題ではないのです。

サケ漁は今月21日から本格的に始まるほかサクラマスは他県から一部を融通してもらうべく調整が重ねられているとのことです。資源量減少の危機に直面する村上市の今後の動きをこれからも伝えていきます。

  • 米田亘

    新潟放送局 記者

    米田亘

    平成28年入局。札幌放送局、釧路放送局を経て、新潟放送局3年目。災害や一次産業を中心とした経済取材を担当。

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