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宮崎の観光地・堀切峠のナゾの棒は座礁船!なぜ放置された?

  • 2022年06月02日

(投稿者)ミケネコさん
「大学時代によく行った堀切峠まで先日家族とドライブしたのですが、堀切峠から青島方面の海に、2本の長い棒が突き出ているのが見えました。私の学生時代には無かったと思うのですが、あれは何なのでしょうか?」

ミケネコさんから疑問が寄せられた宮崎県の絶景観光スポット・堀切峠の海に刺さった2本の棒。取材を進めるとその正体は外国籍の座礁船ということが分かりました。「放置座礁船」問題の実態と漁業関係者の思いを取材しました。

なぜ「座礁船」は放置されたのか?

大前提として事故の責任を負い、船の撤去を行うのは国や県ではなく、船舶所有者となっています。2010年の堀切峠での事故の場合は、船を所有する中国の会社Aにあります。Aは撤去を行う必要がありますが、費用は数億円と高額なため、契約していたロシアの保険会社Bの保険でカバーしようと考えます。AはBに保険の支払いを求めましたがBはこれを拒否しました。

実は、Aは船が港を出航した日である10月22日(金)にBに保険料の送金を行いましたが、Bが入金を確認したのは土日を挟んで25日(月)、一方、事故が起きた日は24日(日)だったのです。そこでBは事故が起こった時には支払いを確認できていないため保険の契約は成立していない、と主張し支払いを拒否したのです。

そうすると、撤去費用はAの自己負担になるのですが、Aは費用を支払うことなく音信不通の状態になってしまいました。つまり、逃げられてしまったのです。もちろん地元の宮崎市漁業協同組合も黙っていません。

地元の宮崎市漁協はAとBの双方に撤去費用を請求する裁判を起こしました。しかし、Bへの請求は日本の裁判の管轄ではないと却下されました。Aには損害賠償金を支払うことが認められたものの、日本の裁判の判決は中国では執行できず、結局未払いのままとなっています。出入りする船舶の管理を行う国に対しても請求を行いましたが、過失は認められないと請求は棄却されています。

さらに取材を進めたところ、堀切峠のケースのような外国籍の放置座礁船が各地にあることが分かりました。国交省によると、現在確認できているもので全国に10件あり、しかもそのうち8件が九州・沖縄にあるとのことでした。ではなぜ、こうした外国籍の船が撤去されず、放置されてしまうのか。専門家に話を伺いました。

日本海難防止協会の鏡信春さん
海外の保険会社はピンキリで、経営状況がいいところもあればかなり悪い保険会社もあります。いい船主ですとちゃんとした保険会社に入りますが、質の悪い船主だと経済状況の悪い保険会社に入る関連性はあると思います。最初は連絡をとれていたけど、支払いが困難になると逃げてしまう。船舶会社自体がなくなってしまうというケースもありました。

こうした実態を受け、現場が被害を受けないように対策が取られています。

座礁船撤去の対策と漁業者の思い

日本海難防止協会の鏡信春さん
2019年に「船舶油濁損害賠償保障法」が改正されました。被害者が船骸撤去にかかった費用を保険会社に直接請求することができるようになったのです。そのため、これまでは船舶所有者の行方が分からなかった場合は請求ができなかったのですが、法改正によって被害者が保険会社に直接請求することができるようになりました。

仮に宮崎の事故があった2010年にこの改正された法律があれば、保険会社への請求が認められていたかもしれません。今回の事故は外国籍の船でしたが、この法律は日本など52か国が加入する条約に基づいているため、外国籍の船でも適用されるということです。

法律が改正されたのは一歩前進ですが、堀切峠の海岸事故までさかのぼることはできません。さらに、当時を知る人も減り事故が風化しています。そうした現状について、前回の取材でもご協力いただいた漁師の岩切さんにお話をうかがいました。

漁師の岩切亮一さん
最近は棒が最初の頃よりどんどん傾いているように見える。危ないですよ。(調査で撮影したという海中写真を見ながら)残骸が多すぎますよね。魚は住んでる可能性はあるけど、伊勢エビはいないです。本当にやるせないです。

岩切さんが見せてくれた海中写真

宮崎市では事故の5年後に新たな魚礁を周辺の海域に設置して、漁獲量の回復をはかる取り組みを行っています。一方、座礁船の撤去には数億単位の費用がかかり、簡単なことではないという現実もあります。難しい問題ではありますが、今回の記事を見てのご意見やご感想などございましたら、番組あてにメッセージをお送りください。今後の取材にいかしていきます。

NHK宮崎では、みなさんの身近な疑問やお悩みをお待ちしています、次回もお楽しみに!身近な疑問・お悩みはこちらから https://www.nhk.or.jp/miyazaki/tegetan/index.html

  • 玉田祐也

    宮崎局・ディレクター

    玉田祐也

    2017年入局

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