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夜の突然死が防げない?宮崎のAED8割に利用不可の時間帯 

  • 2022年05月18日

1日におよそ200人。これは日本で前触れなく心臓が止まって亡くなる人の数です。
こうした心停止による突然死を防ぐ強い味方がAED。
しかし宮崎県内にある自治体把握のAEDの実に8割に、夜間など使えない時間帯があることがわかりました。いったいなぜなのか、実態に記者が迫りました。

息子が突然の死 母の無念

延岡市北浦町に住む末永里美さんです。
おととし、46歳の長男を亡くしました。

亡くなった琢弥さんは、中学生と大学生の2人の子どもを持つ父親でした。

末永里美さん
「私もすぐそこにおったんですけれども
(琢弥さんが)『なんかちょっと、気分が。ちょっと変だわ』って言って
 そのまま、ここに頭を向けて、寝たんですよね」

琢弥さんが倒れたのはおととし9月の夜10時すぎ。ちょうど里美さんとテレビドラマを見終えたところでした。

倒れ込んだ琢弥さんは、しばらくすると、まぶたがけいれんし、呼吸も浅くなっていったといいます。

末永里美さん
「ちょっとの間ですよ。ほんとうにちょっとの間に。すぐに近所の人に電話をかけて、助けをもとめました。元消防団の人がいて、心臓マッサージをしてもらって。みんなで『近くのAEDはどこだ』ということになって・・・」

集落の30世帯余りの住民総出で、近くにあるAEDを探しました。
そのなかで、車で5分ほど離れた学校に置いてあったことがわかり、近所に住む女性がAEDを取りに駆けつけました

学校に到着すると、玄関にはカギがかかっていました。自分の車にあった緊急脱出用のハンマーを使い、何度もガラスを割ろうとしましたが、強化ガラスは割れず、AEDは取り出せませんでした。

AEDを取りに行った女性
「自分がAEDを取り出すことができていれば、結果は変わってたのではないか。当時を振り返ると、心が引き裂かれる思いがする」

“自分たちは最善を尽くせたのか?”

その思いが今も遺族や地域の人たちを苦しめています。

末永里美さん
「AEDがあれば息子は助かっていたかもしれないという気持ちは今でもあります。使ったけれども間に合わなかったということであれば、少しは納得できて今みたいな気持ちもなかったのかもしれません。」

「なんでこんな風になったとかなぁ・・・」

24時間使えないAEDが8割も

こうしたAEDは県内にどれほどあるのか、NHKは宮崎県内26市町村が把握する1395か所のAEDについて調べました。すると全体の8割にあたる1186か所で利用できない時間帯があることがわかりました。

なぜ24時間使えるようになっていないのか。AEDに詳しい専門家はそもそもの位置づけが影響していると指摘します。

京都大学医学研究科 石見拓教授
「AEDを設置する時には、まずはその組織や施設の内部向けという意識が当然ある。ただ特に自治体が所有するAEDであれば、組織にいる人だけでなく、地域みんなのためにあるというポリシーを共有することはとても大事だ」

学校だけでなく 地域にも開いたAED

“地域に開かれたAED”を実現するにはどうしたらよいのか。さきほどの学校では、この一件のあと玄関のガラスをあえて割れやすいものに変更し、緊急時は取り出せるようにしました。また宮崎市の宮崎東中学校では、設置場所を校舎の外に移しました。

もともとは鍵のかかる扉の奥にありましたが去年、玄関の外に移設したのです。

発案した養護教諭
「AEDが必要な事態が起きたときにすぐにとりだせるのか、以前から不安に思っていました。私たちが勤務している時は場所をしっかりわかっていますが、やはり地域の方の利用や部活動を考えた時にわかりやすく、すぐに取り出すことのできる外に設置するのがよいかと考えました」

さらに県外では、こうした“地域のためのAED”に市を挙げて取り組んでいる事例もありました。愛知県の尾張旭市では、10年前から取り組みを進め、すべてのコンビニに市の負担でAEDを設置。それだけでなく学校についても、市内12の小中学校すべてで“外付け”を実現しています。

こうした地域に開かれたAEDが根づくことは、命が助かる可能性が高まること以外にも意味を持つと専門家は指摘しています。

京都大学医学研究科 石見拓教授 
「救急の現場に遭遇すると、結果が良くても悪くても当事者や周囲の人たちが大きなストレスを感じるということが分かってきています。『やるべきことはやったんだ』あるいは『提供すべきAEDはちゃんと提供されていたんだ』という事実があれば、そういうストレスは徐々に和らいでいくと思います」

遺族の願い いつでも使えるAEDを

2年前、息子を突然亡くした延岡市の末永里美さんは、今も毎日、夫婦で夕方に息子のお墓参りに行っています。

日課は、息子のお墓を優しくたたいて今日一日の報告をすること。

末永里美さん
「AEDで助かる命があれば助けてもらいたいから、AEDがみんなに行き届くようにね。天国から力を貸してください」

  • 宮崎コンテンツセンター 記者

    坂西 俊太

    県政を担当

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