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他者に恋愛感情や性的感情を抱かない“アロマンティック・アセクシャル”で悩む女性32歳が、気持ちを誰かに伝えたいとVR空間に飛び込んでみたら…自分に自信を持った/『プロジェクトエイリアン』出演者のその後

現実社会では出会わないような4人が、自分が何者かを伏せたままVR空間上でエイリアンのアバターに身を包んで交流する番組「プロジェクトエイリアン」。

参加者の1人で、他者に恋愛感情や性的感情を抱かない“アロマンティック・アセクシャル”のひつじさん(32歳/仮名)。恋愛を重視する周囲の価値観になじめず自分の生き方につらさを感じる日々を過ごしてきました。VRでの交流を経て、いったい何を感じ取ったのか、取材しました。

(「プロジェクトエイリアン」ディレクター 中村貴洋)

【関連番組】 NHKプラスで11/26(日) 午前1:21 まで見逃し配信👇

恋愛感情や性的感情を抱かないつらさ

『プロジェクトエイリアン』では、VR空間を舞台に、見た目に影響されないアバターでの交流を通じて、ジェンダーや国籍などを理由とした“分断を乗り越える”きっかけとなる場を作ろうとチャレンジしています。恋愛感情や性的感情を持たないひつじさんは、自分のこれまで感じてきた気持ちを誰かに伝えたいと、この場への参加を希望しました。

ひつじさん

「自分と世間とのずれを特に感じたのは思春期の時でした。思春期になると、みんな恋愛をし始めるじゃないですか。性的なものに興味を持ったりだとか。そうすると女の子たちの中で『私、誰々くんが好きなの。ひつじちゃんは好きな人いない?いるでしょ、教えて』と言われるのですが、『いないよ』って言うと、『そんなはずはない』って言われる。人の恋愛の話を聞いたりとかカップルを見たりしてもそれに対して興味もわかないですし、自分だけ別の世界を生きてるんじゃないかみたいな気持ちを持っていました」

恋愛を重視する周囲の価値観になじもうと、その後自身も恋愛にチャレンジしますが…。

ひつじさん

「人とつきあってみてセックスをしてみたら、この人のことを好きになるのかもしれない、だってたぶん世の中の好きな人たちはみんなセックスをしているだろうからという理由で、マッチングアプリで出会った男性とおつきあいをしまして…家に招かれたんですね。その時に『男の家に来るっていうことは、そういうことだよね』っていうふうに言われて、それに応じたんですけど…うーん…。早く終わってほしいとか疲れたとか、やっぱりセックスしても私、何も変わらないじゃんって。もう無理だな、この生き方はしんどいって思っていたんです」

そんななか、ひつじさんを支えたのが同性のパートナーの存在でした。

ひつじさん

「そんな時に、今のパートナーが理解を示して寄り添ってくれまして。今のパートナーは私のことが好きだって言ってくれているんですけど、『私、恋愛感情ないみたいだわ』って言ったら、『そうだろうね』って最初から受け止めてくれてた。やっぱり理解してもらったりとか、共感してもらえるとうれしいじゃないですか。それでパートナーシップ制度を利用して友達っていう関係から家族っていう形になりました」

パートナーに支えてもらうことで徐々に自分に自信を持ち始めたひつじさん。しかし、アセクシャル・アロマンティックゆえの偏見に悩むときが今もあると語ります。

ひつじさん

「アセクシャルか、じゃあ結婚したくないんだね、子どもがほしくないんだねって言われたことがありますね。別にアセクシャルであることイコール、子どもがほしくない、結婚したくない、家族をほしくないじゃないんで。そう言われちゃうと、いや違うんだけどなっていう。いつもどこかにやっぱり子どもがほしいなという思いがあります」

VR空間で“エイリアン”になってみて気づいたこと―

番組では、現実社会では交わり合わない4人が外見や素性を伏せて、エイリアンのアバターに身を包みVR上で一緒に月面旅行をしてもらいました。ひつじさんには、プロジェクトエイリアンの世界はどのように映ったのでしょうか?

ひつじさん

「アバターで交流すると外見の印象に左右されないのがいいですね。相手の心と交流できた気がします。私は髪も長いし、着ている服の印象で、かわいい、お上品そう、と思われがちなので、中身だけで話し合えるのはうれしかったです。でも自分が何者であるかを明かすことはすごく緊張しました。自分が少数派の人間であることはわかっていたので、実際に手に汗をかいちゃっていました。一方で、皆さんの素性を知っていくと、やっぱり性欲や恋愛感情があったらあったで、自分にその感情がなくてよかった、と思いました。ちょっと失礼かもしれませんが。私には恋愛は良いことばかりのように見えていたので、困ることもあると皆さんの話をきっかけに気付きました」

そんななか3人を前に、恋愛感情を持てないなかで始まった“結婚生活”について新たな悩みを語ったひつじさん。皆がその悩みに寄り添うなか、特に覚えているのは性依存で苦しむ女性・ブランさん(34)の言葉でした。

ひつじさん

「私のパートナーはセックスを求めてきますし、『ひつじが性に応じてくれないと、風俗とか利用したくなる』って言われるんですけど、私は別にいいかなって思っちゃうんですよね。やっぱり私には性愛の感情が欠落しているなって思われたり、自分でも思っているところがあったんですけど、ブランさんに『セックスだけが愛じゃないし、セックスが愛とはかぎらないよ』って言ってもらって、すごくうれしかったです。いろんな方とお話させていただいて、パートナーに対しては恋愛感情を返せないっていう罪悪感がずっとあったんですけど、それがキレイになくなった気がします。自分に自信が持てるようになりました、前よりも」

他者との交流のハードルを下げ、さらには距離感を縮めることも可能なVR空間。「VR×社会課題」プロジェクトでは、今後もVRの有効活用法を模索していきたいと思います。

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この記事のコメント投稿フォームから番組への感想やひつじさんへのコメントをお待ちしています。

みんなのコメント(2件)

感想
匿名
50代 女性
2024年1月2日
アセクシャル・アロマンティックの夫と暮らして もう30年経ちます。
結婚当初は 本当に独りで悩んでいました。最近になりこの言葉とその意味を知り 少し合点がいきました。夫はそれがどうした?何が悪い?と どこ吹く風で私の存在は無視です。こき使われているようで私は何だかやるせないです。もっと早く この事を知りたかったです。
この事で私は悩みすぎたせいかうつ病を患いました。未だ回復していません。もう何もかも 遅過ぎました。当事者さんも悩んでいらっしゃると思いますが 家族も悩んでいます。今までの自分が何だったのか 途方にくれています。もう疲れました。
感想
鯛焼き
60代 男性
2023年11月23日
アロマンティック・アセクシャルという言葉を初めて知りました。そして世の中には様々な価値観で生きている方がいらっしゃることにハッとしました。「プロジェクトエイリアン」はVR空間を舞台に、見た目に影響されないアバターでの交流を通じて、ジェンダーや国籍などを理由とした分断を乗り越えるきっかけとなる場を作ろうとチャレンジしている番組ですが、出演者ではない私にとっても分断を乗り越えるきっかけとなったと思います。それぞれの個性(価値観)を受け入れ尊重することが、社会生活において私たちに必要なことだと、改めて気づかされました。「ひつじ」様にご出演いただいたこと、番組を制作いただいた制作者の皆様に感謝します。