自転車事故は「小学生×アート」で減らす?【高知県で1ミリ動いた!】
世の中の困りごとを様々なアイデアで1ミリでも解決することを目指す番組「1ミリ革命」。
「自転車事故をどう減らす?」という課題解決のために、「少年少女発明キッズクラブ」の子どもたちから出てきたのは、「目の錯覚を利用したアート」で交差点の一時停止を促すアイデアでした。
この案を実現させたアーティストは、実は放送後もさらなる可能性を探っていました。
そして今回、高知県にある小学校での新たな挑戦につながりました。
(この記事は、2021年9月23日放送、 1ミリ革命「自転車事故をどう減らす?」に追加取材を行い作成しています)
つい、止まりたくなる『トリックアート』
2021年9月、従来のルールや常識にとらわれない自由な発想を求めて声をかけたのが、日夜、自由研究に励む、全国1万人の「少年少女発明キッズ」のみなさんでした。
一時停止や左側通行といった自転車の交通マナーをどうしたら守りたくなるのか、子ども目線で考えてもらうためのアイデアを募集。
全国から続々と反応があり、38ものアイデアが集まりました。
詳細を知りたい方は別記事
「その手があったか!自転車事故を減らすための“発明キッズ”のアイデア」
「自転車に乗る人が、交差点で必ず止まるにはどうすればいい?」というお題に対し多く寄せられたのは「絵を描くこと」。動物や花、キャラクターや落とし穴など、ふだん道路にあるはずのないものを描くことで、停止線に注目してもらい、「つい止まりたくなる気持ち」になってもらおうというアイデアです。
番組では、「落とし穴」と「カルガモ親子」のトリックアートを東京都江戸川区の交通公園で実現。地元の子どもたちに走行してもらう実験を行いました。
すると,トリックアートを前に自然に停止する子が!止まってくれた子に話を聞いてみると・・・。
「ひながいたから、まだまだ生きてもらいたい」
「カルガモさんをひいてしまうのはかわいそうだから」
停止線の手前を歩く(ように見える)カルガモ親子を助けるために、自然と止まりたくなることがわかりました。
子どもたちの柔軟な発想に、実験に立ち会ってくれた江戸川区役所のみなさんも手応えを感じていました。
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江戸川区土木部施設管理課 中沢清人さん
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「僕らは、交通安全を考えるときに、どうしても法律とかそういう仕組みの中で、枠の中で物事を考えちゃうのですが、えっ、そんな考え方があるのかというところが、ほんとに参考になりました」
このとき、発明キッズたちのアイデアを形にするトリックアートを描いてくれたのが、日本建築アート協会のアーティスト、金久保いづみさんとユキンコアキラさん。
この取り組みを通して、2人は社会問題を解決するために、アートを使って人の心に訴えかける方法に可能性を感じ、放送後、アートを用いて交通ルールを学ぶプロジェクトを独自に企画。
同じく1ミリーガーとして協力してくれた、文教大学情報学部准教授、松本修一先生から紹介を受け、国土交通省土佐国道事務所、土佐市役所、土佐市教育委員会の協力のもと、高知県土佐市の市立蓮池小学校で金久保さんによる交通安全授業が実現しました。
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日本建築アート協会理事長・金久保いづみさん
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「1ミリ革命での実験を通して衝撃を受けたのが、子どもたちがカルガモを認識して『かわいそうだから止まった』『ひきたくないと思ったから止まった』という意見があったことです。
人の感情を動かして、結果的に人を止めることにつながることをアートで表現できることを私自身も学ぶことができました。
以来、アートの力を使って、何かできないかとずっと考えていたんです。
私たち大人が考えるのは、固定観念が強くて難しい。でも、まだこれから学んでいく子どもたちだったら、どんなことを考えるのか期待しています。アートを使って、ちょっとでも優しい未来が作れたらいいと思っています」
アートを使って安全な学校を作る
このプロジェクトに手を挙げてくれた土佐市立蓮池小学校は、2年前に高知県交通安全モデル校の第一号に選出され、昨年度から4年生の総合学習の時間を使って、子どもたちに「じぶんごと」として交通安全を考えてもらう授業に取り組んでいます。たとえば、昨年度の4年生は、学校のみんなが楽しく交通マナーを覚えられるように「交通安全マスター」という歌を作り動画投稿サイトで公開したり、今年の4年生は身近な学校の中から事故を減らそうとピクトグラムを使ったオリジナルの学校標識を作ったり…。子どもたちの自由な発想で事故をなくす取り組みを行っています。
今年、学校内外の危険箇所を地図に落とし込み、全校生徒に伝えるという授業に取り組んだとき、子どもたちからは「横断歩道の前にシマウマの像を置く」「トリックアートで落とし穴を作りたい」などの意見が出たものの、子どもや教師だけで実現にするにはいくつか課題があったといいます。どんな絵を描けばいいのか、どうしたらより効果的なものを作ることができるのか・・・そのヒントを探るため、今回のプロジェクトに名乗りをあげてくれました。
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土佐市立蓮池小学校 𠮷門直子 校長先生
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「子どもたちは結構いろんな発想を出すんですけど、それを実現するためのスキルであったりそれをどう表現したら効果的なのかプロの方のレクチャーを受けたり、そういうものに触れることで『あ!そうか!』という気づきや、今後のアイデアに変化があるんじゃないかと思って、ぜひうちでやらせてほしいと思いました。
アートは「おや」という意外性がありますよね。口で言うよりも絵が描いてあるだけで、人の心理に働きかけて行動が変わっていくのがアートなんじゃないかと思うので、そこに大きく期待しています」
子どもたちと一緒に「歩きたくなる歩道」ついて考える
2022年11月、金久保さんは土佐市立蓮池小学校を訪ねました。
今回子どもたちに挑戦してもらうのは「ギミックアート」という人目をひく面白いアイデアや仕掛けをアートで表現するもの。立体的に絵が浮き出て見えるトリックアートとは異なり、特殊な技術を使わなくても、何を描くか?というアイデア次第で人の心をつかむことができます。
授業に参加したのは、4年生44人。まずは世界にある交通安全にまつわるアートを学んだあと、グループに分かれ、2つのお題についてアイデアを出し合ってもらいました。
1つ目は「歩きたくなる歩道」について。
蓮池小学校の周辺には細い道が多く、車とすれ違うときに危険なスポットがあるため、地域の子どもたちがどうしたら白線の内側や歩道を歩いてくれるのか考えます。
「どんなアートが描かれていたらその道を歩きたくなるか?」。
出てきたのは「動物の足跡マーク」です。
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4年生
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「動物の足跡は、幼稚園児や小学生も喜んで止まってくれると思うからこのマークにしました」
つい足を合わせたくなってしまう動物の足跡を矢印と組み合わせたイラストを連続して地面に設置することによって、右側通行を知らせながら歩いてもらうことができるのではないかというアイデアです。
「子どもたちが歩いてくれるのは、どんな形か。動物だったらかわいくて、ちゃんとこの道を選んで歩いてくれるかもしれないですね」
次に出てきたのは、「ハンバーガー」?!
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4年生
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「ハンバーガーはおいしいからみんなが踏んでくれると思いました」
「おいしそう」という感情を利用して、みんなが好きな食べ物を次々と道路に置いておけば、そのアートに引き寄せられて歩いてくれるのではないかと考えました。
「「あ!おいしそうなハンバーガーだ!」と、ちゃんと通るかもしれないですね。みんながおいしそうと思うもので歩道に引きつける、素晴らしいアイデアです」
ほかにも、行列があったらその先に何があるか気になるという気持ちを利用して「アリの行列を描いておく」というアイデア。
水たまりがあったら順番に入りたくなる気持ちを利用して「水たまりを連続して描いておく」など、ついそこを歩きたくなってしまうアイデアが続々と発表されました。
子どもたちと考える「つい止まりたくなる仕掛け」
2つ目のお題は、「校門の前で一時停止してもらうにはどうしたらいい?」というもの。
蓮池小学校は、車通りの多い細い道に面していて、校門の目の前に横断歩道があります。
さらに、昇降口から校門までは坂道になっているため、坂道を走ってそのまま校門から横断歩道に飛び出す生徒が多く、校内で最も危険な場所だといいます。
校門の前で一時停止をし、左右を確認してから横断歩道を渡ってもらうためには、どうしたらいいか考えました。
「なにかそこで止まりたい!って思うものを考えてみて。ちょっと難しいかもしれないけど」
つい止まりたくなってしまうことを意識して考えられたのが、「宝箱」のアイデア。
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4年生
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「大人も子どもも興味を持つと思うから描きました」
「みんな見えますか?宝箱です。おもしろいアイデアですね。
こんなのが足下にあったら、思わず駆け寄って止まりたくなりますね。大人も子どももみんな止まりたくなりますね。素晴らしいアイデアでした」
次に出てきたのは、「地面に空が広がっている」というアイデアです。
あるはずのないものが地面にあったら止まってくれるのではないかと考えました。
「足下に空があるなんて現実じゃ想像できないですね。
まさか足下に空があるなんてって止まりたくなりますね。そこにお魚さんがいたらさらに。すごくおもしろいアイデアでした」
ほかには、おいしそうな「アイスクリーム」。
そして、「怖いな」という気持ちにさせ、減速してもらう「がけの綱渡り」など、止まってもらいたい相手の気持ちを考えて、アイデアを出し合いました。
ポジティブな気持ちが人の行動を変える
その後、「カルガモの親子」のトリックアートを校庭に設置して、子どもたちに自転車に乗って体験してもらい、授業は終了。その授業の中である「気づき」がありました。
「歩道を歩きなさい」とか「一時停止しなさい」と“注意”するのではなく、「おいしそうだから見てみたい」「宝箱があるから止まりたい」という“ポジティブな気持ち”が人の行動変容につながるということです。
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授業を受けた4年生
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「いままで止まると言われたら、止まれの標識とかシンプルなものを一番先に考えていたけど、ギミックアートとかで人の心をわくわくさせて止まらせる方法もあるんだなと知れてすごく楽しかったです」
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授業を受けた4年生
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「いままではみんなに注意してきたりして、交通安全を広めていこうとしていたけど、きょうはギミックアートをつかって、“楽しいこと”で“危ないこと”をやめさせるようにすることがこれまでと違うと思ったし、そっちのほうがいいと思った。学校の坂のところにギミックアートを作って、1年生とかみんなが止まれるようしたいです」
昨年度から4年生と一緒に交通安全の授業に取り組んできた担任の濵口高彰さんは「どうしたら学校のみんなに止まってもらえるか?」を生徒たち自身が楽しみながら、相手と同じ目線に立って考えることで、交通安全が「じぶんごと」となると改めて実感したと言います。
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濵口高彰 先生
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「金久保先生が子どもの発想をすべて思いっきりほめてくださったので、子どもたちもさらに挑戦したい、もっとやりたいという気持ちが生まれてきていて、本当によかったと思いました。子どもたちがアイデアを考えることで自覚を持ち、まずは自分たちが絶対に安全行動をやらなくてはいけないと気付くことができますし、その子どもたちの発想を生かすことで、年齢の近い子どもたちにも気をつけてもらうことができると思います。
校門の前の下り坂のところは実現させてあげたいです。これからうれしいとかみんなが喜ぶというプラスの視点をもってイラスト案を考えていきたいと思います」
子どもたちや先生たちの反応に金久保さんも手ごたえを感じていました。
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金久保いづみさん
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「私がアートを教えに来ているはずなのに、彼らはおもしろいアイデアや新しい発想を独自に持っていて、どんどんどんどん出てくるから、私が考えさせられる授業でした。
ハンバーガーもおいしそうだから止まる。
空もなんだろう~すごく気になるから止まる。
感情の動きやそれによって行動が刺激されることをちゃんと彼らは理解していて、止まらせるというのにつながる感情をちゃんと考えているんだなとすごく思ったんですね。
そんなユーモアって凝り固まった大人たちは出てこないから「ダメ」「危険」「やっちゃだめ」という今までの概念を覆すような、楽しい、おもしろい、優しくなれるアイデアや、行動を変え問題解決ができるアイデア、新しい発想ができているなって思いました。子どもたちが考えれば、いろんなところで明るい道路づくりができるんじゃないかな。アートの力って偉大だな、明るい未来を作れるんじゃないかなって思います。一番身近なところからこのアイデアを使って、自分たちで実際に描いてみる。そういうことをやれたらすごいいいな。そこに私が、みんなのアイデアを現実化するのに、お力添えできたらうれしいです」
昇降口から校門までの道のりにギミックアートを描こう!
授業を通して、制作意欲が高まった子どもたち。
春に向けて、学校内の最も危険な場所である、校門前の坂道にギミックアートを作ることになりました。学校のみんなが、「走らずに歩きたくなるには?」「つい校門の前で止まりたくなるには?」この2つについて、アイデアを出し合い、金久保さんと一緒に事故のない学校を目指していきます。
1ミリ革命では、引き続きこの取り組みについて取材を進めていきます。
一体どんなギミックアートが蓮池小学校に生まれるのか、こうご期待!