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私たちとインドネシアの火災に密接なつながりが

チョコレートやポテトチップスは好きですか?そうした商品の多くに使われているのがパーム油です。食べ物だけではなく、せっけんや洗剤の日用品などにも広く使われています。

実はいま、そのパーム油の原料となるアブラヤシを生産するインドネシアで異変が起きています。パーム油の需要の高まりによって、熱帯雨林がヤシの畑へと作り変えられた場所で、火災が頻発しているのです。

パーム油を多く輸入している日本も大きく関係しているこの問題。インドネシアで何が起きているのか。専門家とともに現地を回りました。
(社会番組部 ディレクター植村優香)

パーム油の問題はひと事ではない

パーム油が使われている洗剤

私がパーム油に興味をもったのは、クローズアップ現代の番組で環境問題について調べたことからでした。生活していて、よくみる「エコ」の文字。

書いてはあるけれども「本当のところはどうなんだろう?」という疑問から、番組ではエコをうたっている商品やサービスが実態を伴っていないケースを取材して放送しました。(それ本当にエコですか?徹底検証!暮らしの中の環境効果)

そうした問題を調べていくうちに知ったのが、さまざまな食品や日用品に使われているパーム油でした。パーム油は安価で日本でも多く輸入していますが、生産現場では頻繁に火災が起きていて、現地で生活している人々の生活を脅かす事態になっていると知りました。そこでこのパーム油の問題についても取材したいと思いました。

パーム油生産のため開発広がる「泥炭地」

パーム油の原料となっているアブラヤシの生産のため、開発が広がっている森林地帯があります。それは「泥炭地」という土地です。泥炭地とは、樹木や草などが長年にわたって堆積してできた土地です。

インドネシアでは、世界の泥炭地の半分程度を保有するとされていて、「泥炭湿地林」とよばれる森林が広がっています。

実は、泥炭地に広がるこの土は地球温暖化の対策として重要だといわれています。通常の土壌の20倍もの炭素を含んでいるという試算もあり、炭素を貯蔵する役割があります。

泥炭地とは実際、どんな土地なのか。インドネシアで泥炭地での火災を研究している京都大学の甲山治教授のチームが行っている現地調査に同行させてもらいました。

訪れたのはインドネシア・スマトラ島のリアウ州。広大な泥炭地が広がっているエリアです。首都ジャカルタの空港から飛行機で2時間弱移動したあと、車で調査地を回ります。甲山教授の案内で泥炭地に入っていくと、まず、地面の柔らかさに驚かされました。

右・京都大学 甲山治教授

ジャンプすると、地面がふかふかと揺れました。空気を多く含んでいるためです。

さらに、長い木の棒を刺してみると・・・ずぼずぼと地下深くまで沈んでいきました。深いところでは、約5メートルにもなるといいます。

木の棒の黒くなっているのが地下まで沈んだ部分
甲山治教授

「一見普通に砂とか土のように見えるのですが、細い木のくずのようなものがいっぱい含まれています。これが泥炭地の特徴で、通常の土壌とはだいぶ異なった特性を持ちます。


泥炭地の場合は1メートルごとに1000年ぐらいの歴史を持つといわれていて、例えば4メートルぐらいあると一番最下層は3000年ぐらい経過した炭素が含まれている。


もしこの場所が燃えてしまうと、今の社会が発達する前の時代の炭素を放出したといえると思います。」

滞在中、移動の車窓から見えたのはひたすらに緑の木々。一見豊かな自然ですが、実はインドネシアではこの数十年で自然林は激減し、人工的に植物を植えている場所が増えています。

訪れた泥炭地にもヤシや果物の木が植えられていました。もともと、泥炭地は植物の栽培には適していませんが、インドネシアでは経済発展とともに開発できる土地が減ったため、泥炭地にも及んだといいます。

アブラヤシの木と実

特に多く植えられていたのが、パーム油の原料になるアブラヤシです。

日用品やお菓子など数多くの商品に使われているパーム油は、世界の生産量の6割近くをインドネシアが占めています。日本も年間約64万トンを輸入していて、1人あたりにすると年間約5キロのパーム油を消費している計算になります。

画像提供・パランカラヤ大学国際熱帯泥炭管理センター

なぜ火災が? “炭素爆弾”の脅威

近年、インドネシアでは、この開発された泥炭地で火災が絶えません。2019年に起きた大規模火災では、1週間で8万を超える地点で火災の発生を観測。2015年には、210万ヘクタール、東京都の面積の約10倍が焼ける大規模な火災に発展しました。

このときに排出した二酸化炭素の量は、日本が1年間に排出する量に匹敵するという研究もあります。泥炭地はふだん多くの炭素を蓄えていますが、ひとたび燃えてしまうと大量の二酸化炭素を排出してしまうことから “炭素爆弾”と呼ばれているのです。

焼け跡

甲山教授が数か月前に火災で大きく焼けたという土地の映像を見せてくれました。ドローンを飛ばして上空から見てみると、一面は真っ黒。

このあたりにも一面アブラヤシが植えられていたといいますが、跡形もなく焼け焦げてしまっていました。

近くで暮らす近所の人たちの話によると、雨が全く降らなかった期間に遠くから回ってきた火が次第に大きくなり、1週間近く燃え続けたといいます。

泥炭地が燃え広がり続けるのは、消火活動が難しいという点にあります。土地に含まれる木片などを伝って地下深いところで燃え広がり、くすぶり続けるからです。

甲山先生に過去の火災の映像を見せてもらいました。

右・赤外線カメラの映像  
画像提供・京都大学 甲山治 教授

表面に炎は見えず火災が収まっているように見えます(画像左)。しかし、右側の赤外線カメラで見ると、高温の場所がはっきりと確認でき、地中で燃え広がっているのが分かります(画像右)。

そのため、消火活動が難しく火災が長引くケースも多いということです。泥炭地の火災は、二酸化炭素を排出するだけではなく、現地の人々の暮らしにも大きな影響を与えていました。

アブラヤシ農家の女性

「去年このあたりで大きな火災が起き、私たちのアブラヤシの畑も4ヘクタールが全焼してしまいました。火は遠くからやってきて制御することはできませんでした。これ以上火事が起きないといいのですが、どうしたらよいのか分かりません」

開発で人為的な火災も

甲山教授が火災の大きな原因になっていると考えているのは、農園を開発することによる「乾燥」です。湿った泥炭地にそのまま植物の苗を植えると腐ってしまうため、泥炭地の水分を抜いて植物を育てるケースが多いといいます。

しかし、多くの木質を含む泥炭地は、乾燥するとそれらが燃料となり燃えやすくなってしまいます。高温で雨が降らない日が続き、火の気があるところでは土地の表面に火がつきやすくなるのです。

さらに、農園開発のための野焼きも火災の原因になっています。法律で禁止されているにもかかわらず、後を絶たないのです。取材中にも、野焼きをしたと思われる土地を見つけました。地元の人によると、「夜のうちに誰かが焼いたと思われる」と話していました。

甲山治教授

「新しい農地を開発する際に、機械を使うと将来得られる農業収入の3割ぐらいを地ならしに使わなきゃいけないという試算もあります。住民からすると非常に経済負担が大きいため、お金がかからない火を使って野焼きを行うケースもあるようです」。

「泥炭地」を守るために 始まった現地の取り組み

インドネシアの人々にとってアブラヤシの栽培が生活の一部になっている中、多大な量の炭素を貯蔵する泥炭地を守るにはどうしたらよいのでしょうか。

10年以上インドネシアで研究を続けている甲山教授は、現地の産業を守りながら火災を防ぐ道筋を現地の研究者や農家たちと協力しながら模索する必要があると考えています。

甲山教授が火災の対策でひとつのカギになると考えているのは、アブラヤシ農園での「水位管理」です。植物が腐ることを恐れて、必要以上に水位を下げてしまっているケースが多いといいます。

甲山教授のチームは、リアウ州内の複数のアブラヤシ農園の近くに、地元の農家や企業と協力して水位を調節できる水門の設営を行いました。

設置した水門

さらに、いまインドネシア政府の機関と協力して、火災のリスクを予測するためのアプリの開発も進めています。

インドネシアでは雨雲レーダーなど気象の情報が十分に共有されていない現状があるため、独自でレーダーなどを設置し、天候の状況を収集・分析し、住民から寄せられる火災発生の情報などと併せて、大規模な火災のリスクを察知しようというものです。

甲山教授は、泥炭地火災の問題は、生産地であるインドネシアだけの問題ではなく、パーム油の消費国である日本も積極的に解決に携わるべきだと考えています。

甲山治教授

「インドネシアのパーム油の生産において、日本は昔から一緒に開発をして日本に輸出をしてきた重要なプレーヤーです。


日本からも積極的に新しいルール作りなどにも携わって、 インドネシアの社会に沿うような形でよい方向に議論が進んでいったらいいと思います」。

私たちにできることは?

泥炭地火災を防ぐために、日本で暮らす私たちにもできることがあります。アブラヤシから作られるパーム油が原料となっている製品は日本にあふれていますが、その製品が作られるプロセスで、環境破壊や火災につながるような開発が行われていないかに気をつけることです。

例えば、製品がRSPOという持続可能なパーム油の生産・利用を目指す国際認証を取っているかどうかが判断材料のひとつになります。認証マークがある製品は泥炭地を新たに開発していないことを表しています。

RSPO認証マークが入っている商品

日本企業の多くは、自社の製品が使っているパーム油の生産プロセスを把握していないなど、パーム油の問題への対応に遅れをとっているといわれてきました。

今、大企業などでは個別に企業のウェブサイトで対応の進捗(しんちょく)状況を公開しているところもあるので、確認してみるのもよいでしょう。

ふだん手にする商品がどのように作られているのか。私たち消費者が関心を持っているという声を企業に届け、消費を通して意思表示をしていくことが必要だと思いました。

あなたが食べ物や日用品を購入するときに気をつけていることはありますか?
コメントで教えてください。

担当 地球のミライの
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この記事の執筆者

報道局 社会番組部 ディレクター
植村 優香

福岡県出身、2017年入局。名古屋局・おはよう日本を経て現所属。
社会の多様性に目を向けた番組を作るべく、現在は医療・福祉や環境問題などを中心に取材

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