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寄せられたコメントに専門家が徹底回答!

10月に放送したクローズアップ現代「電気代の不安 住宅用太陽光パネルで“創エネ”暮らしどうなる?」の関連記事「ホントにお得?実は環境に悪い? 気になるギモンを専門家にぶつけました」に、たくさんの疑問や質問のコメントをいただきました。貴重なご意見、どうもありがとうございます。寄せられた質問にお答えすべく、さらに専門家に聞きました。
(クローズアップ現代取材班)

【関連番組】

質問に回答していただいたのは、前回に引き続き、建物の断熱や省エネが専門の東京大学工学系研究科建築学専攻の 前 真之 准教授です。

東京大学工学系研究科建築学専攻 前 真之 准教授

前回の記事はこちら👇
ホントにお得?実は環境に悪い?  気になるギモンを専門家にぶつけました

周辺機器の寿命と採算性についての疑問

――みなさんから寄せられたコメントには、太陽光パネルの設置を検討しているが二の足を踏んでいるという方もいれば、採算性があることが信じられないという懐疑的な意見もありました。

中でも多かったのが、パネルや周辺機器のメンテナンス費用や耐久年数が考えられていないのではないか?そうしたものを考えた時に採算性があるのかという疑問です。

「太陽光パネルの使用可能期間と故障等の際の交換の費用についてお聞きしたい。現状は、結果的に損をすると考えるためです」

「30年間の支出と収入を比較すると、最大140万円のメリットを得られると試算されていますが、太陽光発電装置の耐久年数及び部品交換などメインテナンスにかかる費用が記載されておらず、さらに廃棄の際の費用も考慮すると採算性に疑問があります」

――メンテナンス費用や修理費用を考えた際に、採算は取れるんでしょうか?

前 真之さん:
元が取れるかどうか、採算の問題が気になるのはもっともです。東京都環境局が公表している「太陽光パネル設置に関するQ&A 令和5(2023)年9月22日」(以下、太陽光Q&A)には、太陽光発電に関する多くの情報がまとめられています。

👇参考資料:「太陽光パネル設置に関するQ&A 令和5(2023)年9月22日」
『東京都環境局 太陽光ポータル』画面中部Q&Aより(※NHKサイトを離れます)

太陽光パネルとパワーコンディショナー(パワコン)などの周辺機器を含め、メーカーはシステムの保証期間を10年以上としており、15年が一般的です。パネルについては改良により長寿命化が進んでおり、15~40年と長期間の保証を提供するメーカーもあります。「太陽光Q&A」の19ページでは、パネルは交換なし、パワコンは1回交換27万円として、30年間で100万円の経済メリットがあるとしています。

【太陽光パネル設置の経済性試算】(令和5年8月の試算結果)
「太陽光パネル設置に関するQ&A 令和5(2023)年9月22日」p19より

太陽光発電の採算については、「初期費用」「パワコン交換費用」とともに、「買電料金」「売電単価」、そして発電した電気を自分で使う「自家消費率」も影響します。最近では買電料金が値上がり傾向にある一方で、FIT終了後の売電単価については、電力会社やプランによっては比較的高めに設定されているものも出てきています。さらに昼間沸き上げ形エコキュートなどを取り入れて自家消費率を高くすると、採算が取れやすくなります。

廃棄にかかる必要は、太陽光Q&Aの19ページでは、約30万円の費用が発生(撤去費含む、屋根のふき替え等と合わせて実施した場合)するとされ、今の時点では取り外すコストがそれなりの金額となるようです。現状では、実際に取り外されるパネルが極めて少ないため、収集運搬してリサイクル工場に運ぶコストがかさんでいるからです。東京都はリサイクル費用の一部を補助していますが、今後は効率化によるコスト削減が期待されます。

都が行う太陽光パネルのリサイクル支援はどのようなものでしょうか? 
「太陽光パネル設置に関するQ&A 令和5(2023)年9月22日」p51 より

太陽光発電の採算を悪化させる要因もありますが、前述のように採算性を改善する手段もあるので、あまり悲観的になる必要はないのではないでしょうか。今後の電気代の値上がりやレジリエンス対応など、多くのメリットも考えれば十分元がとれるでしょう。
また、どうしても初期コストの負担が難しい場合は、初期コストをかけずに設置するサービスもあるので検討してみるとよいでしょう。

初期設置費用について 太陽光パネルの初期費用を抑える方法はありますか?
「太陽光パネル設置に関するQ&A 令和5(2023)年9月22日」p53より

――蓄電池についての疑問も来ていますがいかがでしょうか?

「蓄電池の寿命などを考えると果たしてメリットはあるのでしょうか?」

前 真之さん:
太陽光発電の電気を昼に貯めて夜利用する蓄電池が、すでに累積で70万台以上普及しているようです(日本電機工業会集計)。太陽光の売電単価が安くなる設置後11年目以降のFIT後に増設される場合が多いようですが、最近では新築で標準搭載されるメーカーもあるようです。

蓄電池の採算性ですが、2021年の検討においては、蓄電容量1kWhあたり7万円であれば元がとれる採算ライン(ストレージパリティ)とされていました。現在では買電単価が上昇しているので、10万円程度でもペイするかもしれませんが、多くの製品はそこまで低価格を実現できていないと思われます。停電対応にメリットを感じたり、自治体が補助金を出してくれる場合には設置するのも良いですが、そうでなければ今後の低価格化を待つのも合理的な選択かもしれません。

👇参考資料:定置用蓄電システム普及拡大検討会の結果とりまとめ
経済産業省HP 第4回 定置用蓄電システム普及拡大検討会 資料4より(※NHKサイトを離れます)

リサイクルについての疑問

――続いて、リサイクルについての質問がきています。先日の記事では太陽光パネルは、リユース、リサイクルできるとお聞きしましたが、本当にリサイクルができているのか、疑問の声が寄せられています。

「太陽光発電の場合、使用済み時の廃棄方法が確立されているのか。課題はないのか」

前 真之さん:
必要がなくなった太陽光パネルは、まず別の場所でリユースできるかを検討します。難しい場合に廃棄されることになりますが、単に破砕・埋め立てに回してしまうのではなく、リサイクルに回すことが望ましいのはもちろんです。

太陽光パネルというと、ずいぶん特殊な製品というイメージがあるかもしれませんが、ほとんどはアルミとガラス・樹脂といったありふれた素材です(太陽光Q&A 50ページ)。

リサイクルについて 太陽光パネルはどのようにリサイクルされるのでしょうか?
「太陽光パネル設置に関するQ&A 令和5(2023)年9月22日」p53より

首都圏にもリサイクル施設は多くあるため、技術的には十分に対応できると考えられます(太陽光Q&A 47ページ)。セルなど一部の部品には鉛などの有害物質が含まれていますが、こちらも専門業者によって適切に処理されます(太陽光Q&A 45ページ)。

課題があるとすると、廃棄するときにきちんとリサイクルされるルートに乗るのか、必要な費用が確実に負担される仕組みが整備されるか、という点だと思われます。こうした課題は経産省・環境省合同の「再生可能エネルギー発電設備の廃棄・リサイクルのあり方に関する検討会」で議論が進められているので、参考にされるとよいでしょう。

環境省は、2035~37年には太陽光パネルの排出量がピークを迎え、年間約50~80万tが排出されるとしています。ずいぶん多く感じますが、日本では産業廃棄物が3億トン以上発生しています。他の産廃問題と同じく、太陽光パネルの適切な処分方法の整備が進められることを期待しましょう。

👇参考資料:再生可能エネルギー発電設備の廃棄・リサイクルに係る 現状及び課題について
環境省HP 再生可能エネルギー発電設備の廃棄・リサイクルのあり方に関する検討会(第1回)資料3より(※NHKサイトを離れます)

屋根が重さに耐えられるのかという疑問

――続いて多く寄せられたのが、屋根に太陽光パネルをのせて大丈夫かという疑問です。

「太陽光パネルを載せて設置するように設計されてないので住宅が損壊しても保証できないと言われました。設置するなら最初にそれ用に強化した屋根にしないといけないと言われましたがどうですか?」

「日本の住宅に太陽光パネルを載せるときには屋根に取り付けることになると思います。この取り付けで屋根に穴をあけたり、屋根をパネルが覆うことで屋根のメンテナンスができなくなって雨漏りにつながることはないでしょうか?」

――屋根の上に太陽光パネルを後載せすることに問題はないでしょうか?

前 真之さん:
確かに新築時に、太陽光発電をはじめから載せるのが理想ですが、適切に施工すれば後からでも載せることが十分に可能です。

屋根が金属板の場合には掴み金物で固定する工法、瓦の場合には支持瓦を用いる工法であれば、屋根材や防水層に穴を開けることなくパネルを固定することができます。屋根材や防水層に穴を開ける工法であっても、適切に工事を行えば雨漏りのリスクはまずありません。雨漏り保証を付けているメーカーもあります。

万一、雨漏り等が発生した場合でも、新築では10年、住宅の構造と防水の欠陥に関する修理が必要な場合は住宅供給業者が修理を行う義務があり、修理費用は当該業者の加入する保険から賄われます(太陽光Q&A 52ページ)。この「瑕疵(かし)担保責任保険」は新築では加入が必須なので安心です。また中古住宅でも、任意で「既存住宅売買瑕疵(かし)保険」に入ることができます。

この瑕疵(かし)担保責任保険を提供している日本住宅保証検査機構によると、直近10年の約100万件の契約において、太陽光発電が原因の雨漏りは2件のみということなので、ほぼゼロリスクと考えてよいでしょう。

後でパネルの下の屋根材をメンテナンスする必要がある場合は、パネルを一時的に取り外すことになります。後で再設置できるので問題はありませんが、なるべくメンテナンスの手間が少ない屋根材で、かつシンプルな面構成の屋根の方が有利になります。

以下の資料に、既存住宅に太陽光発電システムを設置する場合の検討・留意事項が詳しくまとめられていますから、参考にしてください。

👇参考資料:戸建住宅の太陽光発電システム設置に関する Q&A
一般社団法人 環境共生住宅推進協議会HPより(※NHKサイトを離れます)

――耐震性についてはいかがでしょうか?

「通常の民家はコストを削減するために最低限の耐震強度で設計していることが多いだろうから、後付けで設置したら耐震性に問題が出ることも多そうに思う」

前 真之さん:
家を新築する場合は、太陽光パネルの搭載を前提に構造計算を行うので、耐震性能は十分に確保できます。問題は既存住宅に後載せする場合ですね。

1981年以降に建設された住宅には「新耐震基準」が適応されており、一定の耐震性能を持っているので、太陽光を後載せしても大きな問題はないと思われます。太陽光パネルの面積1㎡あたりの重量は10~15kg程度ですが、これは雪が5~7cm程度積もった重さにすぎません。瓦は同50~60kgもあるので、太陽光パネルはずっと軽いのです。

👇参考資料:戸建住宅の太陽光発電システム設置に関する Q&A
一般社団法人 環境共生住宅推進協議会HPより(※NHKサイトを離れます)

ただし、住宅の多くは南側に窓が多く壁が少ないために、建物の重心に対して剛芯(建物の強さの中心のこと)がずれる「偏心」となり耐震性が低下しがちです。南側の屋根に太陽光パネルを載せるとこの偏心が悪化するリスクがあります。自治体などが耐震診断を実施しているので、専門家に見てもらって判断してもらい、必要に応じて耐震補強を実施すると良いでしょう。重たい瓦を、同5~6kgと軽量な金属葺きに替えることで、耐震性を改善しつつ太陽光を後載せすることが十分可能です。

新築着工数が減少する中、既存住宅の省エネ普及は重要です。耐震診断と補強、断熱改修および太陽光発電の後載せを一度にまとめて進めていくことが求められます。以下のパンフレットも参考にしてください。

👇参考資料:省エネ×耐震リフォーム ~同時に行う省エネ・耐震リフォームのススメ~
一般財団法人 日本建築防災協会HPより(※NHKサイトを離れます)

日照時間が少ない地域では?

――日照時間が少ない地域では難しいのではないかという声も届いています。

「太平洋側に比べ日本海側は冬になれば曇り空や雪などで日照時間が短いため、太陽光発電の導入は難しいと思いますが!」

「石川県在住です。日本海側ですので、これから冬から春先にかけ雨も多く導入に踏み切れません」

前 真之さん:
たしかに日本海側は冬は太陽に恵まれないので、太陽光パネルがちゃんと発電するのか心配になりますね。実際にどれだけ発電しているのか。経産省が公開しているゼロエネルギー住宅(ZEH)の実績から、都道府県別の太陽光発電の容量1kWあたりの年間発電量を見てみましょう。全国平均では1,234kWhで、トップの和歌山県は1,483kWh、最も少ないのは青森県の1,033kWhでした。石川県は1,172kWhなので全国平均より少し少な目ですが、東京の1,191kWhと、実は大して変わりません。

出展:ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス実証事業調査発表会2023「都道府県ごとの平均年間一次エネルギー消費量及び太陽光発電による平均年間創エネルギー量 実績データ」

一般に日射が少ないと思われる日本海側でも、多くの県では春から秋にかけて十分に発電ができているので、太陽光発電を載せて大丈夫だと思います。ただし、メーカー保証が受けられない一部多雪地帯では、搭載を避けたほうがいい場合もあるので、慎重に検討なさってください。

気温が高いと発電効率が悪くなるのでは?

――気温が高いと効率が悪くなるのではないかという指摘も届いています。

「年々気温が上昇しております。たとえ晴れていても、35℃を超えては発電効率も落ちるのではないでしょうか?高温でも、効率の落ちない太陽光パネルがあるのでしようか?」

「高温になると効率低下すると聞いてますが、今は低下しませんか。我が家の屋根の気温は夏場40度超えがありますが効率発電されなければどうかな?ということです」

前 真之さん:
太陽光パネルは、温度が1℃上昇すると、効率が0.5%程度低下するといわれています。夏場には若干効率が落ちますが、太陽位置が高いので屋根には豊富な日射量が降り注ぐので十分にカバーできます。前述のZEHの太陽光発電の実績を見ても、東京都の各月の平均発電量は99kWhですが、真夏の8月でも107kWhと十分に発電できていることが分かります。

出展:ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス実証事業調査発表会2023「都道府県ごとの平均年間一次エネルギー消費量及び太陽光発電による平均年間創エネルギー量 実績データ」

ますます夏が暑くなる中で必須となる冷房は、実は太陽光発電と相性が抜群です。冷房が一番電気を使う晴れの昼に、太陽光も一番発電できるので、電気代を心配せず快適に過ごすことができますよ。

太陽光パネルの生産国や人権についての疑問

――生産国や労働環境についての疑問も届いています。

「主な生産国は、中国です。将来太陽光パネルが急に必要となった時、中国が日本に輸出交渉に使う可能性があります」

「太陽光パネルはどこで作ったものですか?中国製がほとんどだと聞いています。それが環境に優しいのでしょうか」

前 真之さん:
大前提として、我々が必要とする様々な物品やサービスが、どこかの国や地域に過度に依存することは望ましくありません。また、他国の人々の人権や環境を破壊しないよう努めることも当然です。

太陽光パネルについては、中国の一部地域、特にウイグル地区において生産が集中しているとされ、人権問題が懸念されています。太陽光発電協会は「太陽光発電産業のサプライチェーン等における人権尊重に係る取組ガイダンス」を策定し、メーカーが使用する製品に人権問題がないことを担保することを求めるなど、様々な取り組みが行われています(太陽光Q&A 54~56ページ)。合わせて、太陽光パネルという重要部品が特定の国・地域に偏在しているリスクが明らかになったため、世界的にサプライチェーンの分散化、多様化が進められています。

まとめ

前 真之さん:
現在、我々が膨大に消費している化石燃料は、採掘時に大きな環境汚染を引き起こすとともに、排出するCO2が地球温暖化を激化させ、多くの人々の生存権を脅かしています。私たちが当たり前と思っている日々の生活は多くの犠牲の上になりたっており、このまま続けていくことは許されません。太陽光発電は課題もありますが、他に代えられない大きなメリットがあり、化石燃料に代わって今後の主力エネルギーとなることが期待されているわけです。世界中の人々の人権や環境を守るために何をしなければならないのか、我々みんなで、少しずつでも良くしていく方法を見つけていうことが大事ではないでしょうか。

――ありがとうございました。

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みんなのコメント(2件)

感想
かずき
19歳以下 男性
2024年2月9日
 NHKのテレビ番組では、猛暑、台風、大雪などの自然災害と気候危機は切り離して放送されますが、それではダメだと思います。おそらく日本人の多くは、気候危機が日本にも大きな被害をもたらすとは思っていないでしょう。
 メディアは、気候危機の伝え方を変えなければならないと思います。自然災害のニュースなどで災害と気候危機を結びつけて、視聴者に危機感を持たせる伝え方にするべきです。そうすることで、太陽光発電の必要性も伝わるのではないでしょうか。
 僕は今中学生ですが、将来気候危機がどれだけの命を奪うのか不安で仕方ありません。住宅用太陽光パネルの特集も大事ですが、それだけではいけません。気候危機の伝え方を工夫して、より多くの人に関心を持ってもらえるよう努力することもメディアの責任なのではないでしょうか。
質問
kazu301248582
50代 男性
2024年1月22日
ペロブスカイト系の太陽電池が広く実用化されるようになったら、この民間を巻き込んでのシリコン系太陽電池の事業に投資した土地やらお金やらはどこへ消えてしまうのでしょう。