ホントにお得?実は環境に悪い? 気になるギモンを専門家にぶつけました
太陽光発電は、環境にやさしい、電気代の節約になるという話を聞く一方で、実は環境にやさしくない、お得ではない、火災や災害時のリスクがあるという説も耳にします。実際のところはどうなのか。気になる疑問を専門家にぶつけました。
(クローズアップ現代取材班)
質問に回答していただいたのは、建物の断熱や省エネが専門の東京大学大学院工学系研究科建築学専攻の前真之准教授です。
太陽光パネルは本当に “環境にやさしい”?
ーー太陽光発電は、実は環境破壊につながるという話を聞きます。山林を切り開いて造成したメガソーラーなどの映像も目にします。太陽光発電は本当に環境にやさしいんでしょうか?
まず太陽光発電を、大きく2つに明確に区別したほうがいいと思うんです。メガソーラーなど開かれた土地に設置する「野立ての太陽光」と、建物の屋根に設置する「屋根のせの太陽光」の2つです。山林の大規模な伐採などの問題が指摘されているのは、前者の「野立ての太陽光」なんですよ。
2012年にFIT、固定価格買取制度(※)が始まって、太陽光など再生可能エネルギーの電気が高く買い取られるようになりました。当時、収益性を最優先した一部の人たちが「野立ての太陽光」を無理に広げてしまい、太陽光発電全体の印象が悪くなってしまったというのは事実です。ですが、再生可能エネルギー自体は当然環境にもいいものです。再エネの代表である太陽光発電は、脱炭素社会の実現のためにも、しっかり普及させる必要があります。
現在では「野立ての太陽光」も制度が改善されていて、トラブルも起きにくくなっています。ただ新たな適地が減ってきている中で、大幅な増加が難しくなっています。そのため新たな土地が必要なく、他にも様々な利点が多い「屋根のせの太陽光」の普及が求められているわけです。
※固定価格買取制度・・・再生可能エネルギーからつくられた電気を、電力会社があらかじめ決められた価格で10年間買い取ることを義務づけた制度。1kWh当たりの買い取り価格は、制度の開始当初は42円と高く設定された。
本当にお得? 初期費用の元は取れる?
――「屋根のせ太陽光」の普及が大事ということですが、固定価格買取制度での余剰電力の買取価格は年々引き下げられています。買取価格の引き下げに従って、お得になる度合いが減ったということではないでしょうか?今でも太陽光パネルを屋根のせした場合に、設置費用の元は取れるんでしょうか?
確かに、いまは太陽光発電の電気を売っても以前のようにはもうかりません。太陽光発電の余剰電力の買取価格の1kWhあたりの単価は、FITが開始した2012年には42円と高額でしたから、当時は発電した電気をなるべく売電するほうが有利でした。一方、2023年の現在では買取価格が16円まで下がっているので、電気を売ってもあまりもうかりません。でも現在は電力会社から買ってくる時の電気代が1kWhあたり30〜40円くらいまで上昇しているので、発電した電気をなるべく自分で自家消費して買ってくる分を減らせば、十分にお得なんですね。かつての「太陽光は売って稼ぐもの」という古い認識に留まっている人が多いのですが、「太陽光は自家消費して高い電気を買わずに済ませるもの」という新しい事実に、認識をアップデートすることが大切です。
現在では、太陽光発電の採算性は、初期費用である設備&設置コストがどれだけ安くできるか、昼間に発電した電気をどれだけ自家消費できるか、という2点がポイントになります。初期費用を下げて自家消費を増やせば、10年程度でペイすると、はっきり言い切っちゃっていいかなと思っています。
例えば東京都では、一般家屋用の4kWの太陽光パネルを設置した場合、初期費用115万円が13年(現行の補助金を活用した場合8年)程度で回収可能。また30年間の支出と収入を比較すると、最大140万円のメリットを得られると試算しています。
――太陽光パネルを設置するのに向いているのは、どのような家屋なんでしょうか?
極端に屋根面積が小さい住宅や冬に積雪量が極端に多い地域でなければ、大概の家では太陽光パネルを設置したほうがいいと考えています。先に、自家消費を増やしたほうがお得といいましたが、住宅は昼間にあまり人がいない場合も多いですよね。昼間に電気を貯めて夜に使う「蓄電池」は自家消費を増やすには最強のアイテムですが、設置コストがまだ高額です。昼間沸き上げ形のヒートポンプ給湯機を選ぶ、洗濯乾燥機や食洗器などを昼間にタイマー運転するなどの工夫が有効です。
太陽光の自家消費を増やすという意味では、昼間家にいる人、つまり退職後の人やテレワークしている人などには、特に有利といえます。そういう意味では、実は学校とかオフィスとかにも、太陽光は非常に向いているんです。電気を昼間しか使わないので。
――経済的なメリットの長期的な予測はどうなんでしょうか?
初期費用のうち、半分以上を占める太陽光パネルなど部材の価格は、世界的に年々下がってきた実績があります。余剰電力の買取価格が引き下げられたのは、こうした低コスト化を反映したからなんですね。ただ日本の場合は設置コストが依然として高いので、施工のさらなる効率化が求められます。一方、電力会社から買ってくる電気代の方は、日本が発電に必要な化石燃料の大部分を輸入しているため、産油国の生産調整や円安の影響を受けてさらに高くなっていくことを覚悟すべきでしょう。太陽光の初期コストが下がる、買ってくる電気代は高くなる、ということを考えると、太陽光発電はますますお得になっていくと考えるのが自然です。
パネルの廃棄に問題はないの?
――太陽光パネルには有害物質が入っていて、廃棄などの際に環境負荷が問題になると聞いたことがあるのですが・・・
まず事実として撤去された太陽光パネルの多くは、廃棄ではなくもう一度別の場所で利用する「リユース」に回されています。少し前は海外に輸出する場合が多かったのですが、最近では国内でもリユースが増えています。太陽光のパネルというのは頑丈なので、繰り返し使えるんですね。
リユースが難しい場合にはじめて廃棄するわけですが、確かに太陽光パネルには有害物質である鉛などが含まれています。わずかな量であるけど、完全に無害とはいえない。だけど現在では、太陽光パネルを安全に処理・廃棄する技術は準備されています。太陽光パネルのほとんどは、ガラスとアルミとプラスチックでできています。ほぼ窓と同じなんですよね。
私も処理工場を見学したのですが、解体するとき、まずアルミと樹脂の枠を取ります。 次に、表のガラスから裏に付いているシートをはがします。そのシートに鉛などが含まれているわけですが、それは指定業者のほうで適切に分離・処理されます。適切な処理が必要なことは他の産業廃棄物と同じであり、太陽光パネルが特に危険だということはありません。
太陽光発電協会では、適切な処理が可能な業者のリストも用意されていますから、本当に廃棄が必要な場合は相談されるとよいでしょう。
太陽光発電協会HP 住宅用太陽光発電システムの廃棄を検討している方へ(※NHKサイトを離れます)
ページ内にある「使用済住宅用太陽電池モジュールの取外しおよび適正処理が可能な太陽光発電システム施工業者一覧表」を見れば分かりますが、すでに全国でたくさんの業者が対応できる体制になっています。むしろ廃棄パネルの量が少なくて稼働率が低いのが、処理業者の悩みです。
さらに今後太陽光パネルの普及に合わせて、回収体制を整備して家電リサイクル法のように、販売したときにはじめから廃棄費用も負担してもらうような仕組みを整備していけばよいと思います。そういった回収や課金に関する体制も準備が進められています。
災害時に被害を拡大させるリスクは?
――火災が起きる可能性や、地震・台風・水害などの災害時に被害を拡大させるリスクがあるのではないですか?
まず火災について、私は東京消防庁に行って確認してきました。東京消防庁の管内で、太陽光パネルが原因の火事は10年でわずか13件。しかも、そのほとんどは電気を変換するパワコンという部材が焦げただけ。屋根のパネルが焦げたという事例は1件しかなく、家が火事になったケースはありませんでした。他の火災原因と比較すれば、ほぼゼロといってよいレベルです。
地震や台風についても、業者がきちんと屋根に設置していれば問題はまず起きませんし、万一の際にも瑕疵(かし)保険でカバーされます。太陽光パネルの耐風圧はJIS規格で定められていて、風速に換算すると毎秒62mに耐えうる設計となっています。太陽光発電システムが水没・浸水した際に感電による事故などがあるという説もありますが、そうした事例は実際には起きてないと聞いております。
太陽光発電は、むしろ災害時に助けになるというのが実際なんですよね。停電のときにも昼間は電気が使えるので、スマホの充電をしたり冷蔵庫などを動かしたりすることもできます。大災害のときに役立つのが太陽光発電なんです。
信頼できる業者の見分け方は?
――自分の家に太陽光発電を取り付けたいとなったとき、信頼できる業者はどのように見つければいいのでしょうか?
住宅を新築する場合は、家を施工するハウスメーカーや工務店に太陽光の設置をお願いすることになります。「太陽光発電を載せたほうがいいですか」と聞いたときに、「もうペイしないからやめた方がいい」と答える業者は、最新の情報にキャッチアップできていない可能性が高いですね。施工主のことを真面目に考えている業者なら、電気代を大きく下げることができる太陽光発電は「載せた方がいいですよ」と助言すると思います。そうした真面目な業者は、設置コストの値下げの努力もするはずなので元が取れる可能性が高いです。住宅業者を選ぶ際には、太陽光発電への考え方もチェックしておきたいものです。太陽光発電が必須なゼロエネルギー住宅(ZEH)を標準にしている業者なら安心です。
今ある既存の家に後から太陽光発電を載せる場合は、耐震性などのチェックも必要になります。新築した時のハウスメーカーや工務店が引き受けてくれれば、それがよいでしょう。難しい場合は、地域で真面目に実績を積んでいる業者を見つける必要があります。太陽光発電協会では、失敗しない太陽光発電システム選びの資料を公開しているので、参考にしてみてはいかがでしょう。
太陽光発電協会HP 「失敗しない太陽光発電システム選び“始めようソーラー生活”」(ページ内にリンクあり ※NHKサイトを離れます)
――最後に太陽光発電について、まとめをお願いします。
私は、日本で暮らす全ての人が「冬暖かく」「夏涼しい」健康快適で「電気代も安心」に暮らせるために、住宅の省エネルギーを研究しています。
エネルギーの大部分を化石燃料に依存し、またそのほとんどを輸入に頼っている日本においては、もっと太陽光パネルが普及する必要があると思っています。太陽光発電について様々な懸念をおっしゃる人もいますが、住宅で確実に電気代を下げてくれるという意味でこれほど強力なアイテムはありません。
そのために、今後変わって欲しいと考えているのは、お金の流れ。太陽光パネルを載せれば電気代が月に1万円とか浮くわけですから、その分を金融機関や銀行に「みなし収入」として認めてもらって住宅ローンをその分多く借りられるようにすれば、みんなが無理しなくても太陽光パネルを載せることができるようになります。みんなに再生可能エネルギーの恩恵を届ける政策を、国には進めてもらいたいと思っています。
――ありがとうございました。
《インスタグラム「地球のミライ」にも掲載》