みんなでプラス メニューへ移動 メインコンテンツへ移動

みんなでプラス

「そのエコ、本当ですか?」企業に正面から聞いてみると……

“エコ”なバッグに“サステイナブル”なTシャツ、そして“SDGs”……

暮らしの中で目にしない日はないエコな商品やサービス。環境問題への意識がさほど高くない私たちは、「これって本当はどれぐらいエコなんだろう」というモヤモヤを抱えながら生活していました。

取材してみるといま世界では環境に良いものなどに積極的に投資を行おうという「ESG投資」が拡大、本質的なエコを目指す気運が高まっていると知りました。特に欧米では“見せかけのエコ”に対して、環境を意味するグリーンとごまかしを意味するホワイトウォッシュを掛け合わせた造語で「グリーンウォッシュ」と呼ばれ、そうした製品やサービスを国が罰する例もあるというのです。

私たちはグリーンウォッシュを指摘された海外企業などに取材を申し込みましたが言葉を出すと態度が硬化したり返信がなかったりしました。欧米に本社を置く企業にとってグリーンウォッシュという言葉は私たちの思った以上にセンシティブなのだと実感しました。

そんな中、2つの日本企業が取材に応じてくれることに。「本当のエコを客観的事実で追求する難しさ」と、「企業の責務」について考えさせられる取材になりました。

(クローズアップ現代「それ本当にエコですか?」取材班)

「地球のミライ」Instagramアカウント(@nhk_sdgs)でも情報を発信中
※NHKサイトを離れます

半世紀つづく植物由来の洗剤 18年前に突然起きた“炎上騒動”

まず訪ねたのは大阪の老舗洗剤メーカー。パーム油を使った自然由来の食器用洗剤は発売開始から50年以上がたち、使ったことがあるという人も多いのではないでしょうか。

この洗剤は1970年代、河川の汚染などが社会問題となる中、自然由来のパーム油を使用することで環境への負担を抑えようと生まれた商品でした。食器用洗剤として初めて詰め替えパッケージを取り入れるなど、環境配慮を先駆的に取り組んでいました。

そんな「環境にやさしい」はずの会社が問題に直面したのは2004年。

洗剤に使っているパーム油の原料、アブラヤシの原産地の東南アジア・ボルネオ島で、ある問題が起きているとテレビで報じられたことがきっかけでした。

“アブラヤシの農園開発の影響で、熱帯雨林が急速に減少している”

“ゾウたちがすみかを失っている”

放送後、この会社にも責任を問う声が相次いだのです。

当時「グリーンウォッシュだ」とも指摘されたこの出来事を、会社はどう受け止め、対応したのか。企業にとって喜ばしい内容ではないこの取材依頼を打診すると、「社長自ら当時について話す」と応じてくれることになりました。

(老舗洗剤メーカー・更家悠介社長と植村ディレクター)

そもそも当時、会社は原料の調達を商社に任せていて、現地の状況は全く知らなかったという更家悠介社長。まさに“青天のへきれきだった”と言います。

更家悠介社長

「いつも“環境にいいものを”と思って、お客さんのことを考えてやってきたのですが、後ろのほう、生産のバックヤードのことはあまり意識していなかったんです。パーム油がどこから、どのようにして入ってくるかは意識になかったですね。代理店や問屋さんに電話したら、タンクの中に入れていただく。そんな感覚でした」

(ボルネオ島に暮らすゾウたち)

専門調査員を雇ってボルネオ島へ派遣 見えてきた現地の実情

「ゾウがかわいそうだ」

「環境にいいと思っていたのに、見損なった」

「パーム油を使うのをやめればいいのでは」

相次ぐ消費者からクレームの電話。このままでは「地球にやさしい」という商品のブランドイメージが崩れてしまう……危機感を抱いた更家さんは、まずは現地の状況を把握しようと、国際協力の経験のある人物を現地調査員として契約。ボルネオ島に3か月派遣することにしました。

(ボルネオ島 現地調査の様子)

このとき、会社には3つの選択肢があったといいます。

①ほとぼりが冷めるのを待つ
②ほかの油を使う道を探る
③改善に取り組む

環境配慮を貫いてきた会社として、①はあり得ない選択肢でした。
②にするか、③にするか……決定的だったのは、現地に派遣した調査員からの報告でした。

“プランテーションの開発による熱帯林の減少は間違いなく起きている”
“野生動物にも影響を与えている”
“しかし現地の人たちにとって、アブラヤシの産業は既に欠かせないものでもある”

現地を調査した中西宣夫さん

「現地の方々にとってアブラヤシ産業は収入の手段として大きなもので、現地の方にとっては悪いばかりのものではないと感じました。現地の人と一緒に現地で情報を集める。それは日本で座っているだけ、文書見ているだけでは分からないことが多いなと思いました」

“地球にやさしい”と言い続けるための責任と行動

中西さんからの報告を受け、更家社長は会社をあげてボルネオ島の保全活動に取り組むと決めました。

パーム油は、生産の効率の良さと安さから、既に多くの企業が使用している状況。自分の会社だけがパーム油の使用をやめたとして、この問題の解決には繋がらない。だったら現地の産業を改善し、森の保全に取り組もうと考えたのです。

現地の団体と始めたのが「緑の回廊プロジェクト」。商品の売り上げの1%をつかって、プランテーションの一部を買い取り、森に再生。寸断された森と森をつなぎ、ゾウたちが通れる道にするものです。

また、「RSPO」という国際的な認証制度に参加し、持続可能なパーム油を調達して製品を製造する取り組みも行っています。

問題に直面してから20年近くが経った今も現地への調査員派遣を続け、現地の最新状況を把握しながら、「地球にやさしい製品だ」と言い続けられるよう取り組んでいます。

更家悠介社長

「グリーンウォッシュという批判があり、これを無視することはできません。一方で、それを100%そのまま聞くことも、行動を誤る可能性があると思っています。やはり“客観性”がいりますよね。現地の情報を自分の目で確認するプロセス、その余裕がやっぱり必要だと思っています。その中で何を選択するか、それが企業にとって重要なことだと思いますね」

二酸化炭素削減に向けた取り組み でも実験では意外な結果が……

取材を進めると、私たちが常識的にエコだと思っていたサービスの中にも意外な事実があることが分かりました。

ディレクターの私は、毎日会社近くのコンビニでカフェオレを買うのが日課。そこで最近使われ始めたのがステンレス製のリユースカップです。客はカップを持ち帰ることができ、後日指定の店舗に返却する仕組みです。容器ゴミを減らすことで二酸化炭素=CO2を削減し、環境負荷を下げようと開発されたサービスで、大手コーヒーチェーンやコンビニで実証実験が行われています。少しでもエコになるならと、私もたびたび利用しています。

専門家からも“CO2排出量を細かくデータ分析し、しかも公開している先駆的な取り組みだ”と聞き、取材を申し込みました。

リユースカップを使うことで、どれくらいエコに貢献できているんだろう……とサービスの開発担当者に質問をすると、思いがけない答えが返ってきました。

「一概にこちらのカップの方が完全にエコとは言えないんです」

(梅本ディレクター[左]と、サービスを開発した企業の吉村祐一さん[右] )

いったいどういうことなのか。

この会社では現在、リユースカップの使用がどれほどCO2削減に効果があるのか実証実験を行っています。実験では、使い捨てプラスチックカップとリユースカップについて、1回の利用あたりに排出されるCO2を計算して比較。その結果、リユースカップを100回使っても、使い捨てプラスチックカップと比べて1回の利用当たりのCO2排出量が多い場合があると分かったのです。少し言い換えると、リユースカップを100回使用したときのCO2排出量÷100と、使い捨てプラスチックカップを1回使用したときの比較で、リユースカップの方がCO2排出量が多い場合がある、ということです。

CO2排出量をデータ化 製造から廃棄までを徹底分析する

そもそも、どういう計算でCO2排出量を比べているのか。
このサービスの全工程を見せてもらうと、その答えが少しずつ見えてきました。

まずは「輸送」
このサービスでは加盟しているコンビニやカフェなど約40店舗から週に3回カップを回収し、1時間ほど離れた洗浄工場まで車で運びます。そのとき排気ガスとしてCO2が排出されるのです。

次に「洗浄」
衛生面への配慮からお湯が使用されるため、電力などのエネルギーを使用、その際にCO2を排出します。

さらに、製造・廃棄する際にも工場でエネルギーを使用してCO2を排出します。

これらを足し合わせると、
使い捨てプラスチックカップが生産されて1回使用~廃棄されるまでのCO2排出量より、リユースカップ1個が生産されて100回使用~廃棄されるまでのCO2排出量÷100の方が多い場合があるという結果になりました(※トラックの積載量は3分の2程度と仮定した場合)。

吉村さんはこのデータを初めて見たとき衝撃を受けたと言います。

サービスを開発した企業の吉村祐一さん

「ある程度予想はしていましたが、かなり衝撃的な数値で、正直なところ、こんなに繰り返し使わないとリユースカップのほうがエコにならないんだとまず率直に思いました。チームメンバー全体で驚いたのと、そもそもこれを公開していいかという議論にもなりました。しかし、利用者の方にきちんと公開し、繰り返し使うことで使い捨て容器より逆転していくことを伝え、CO2排出量を少し気にしていただける入り口になるのではないかということで公開に踏み切りました」

より本質的なエコ実現へ 全工程からCO2を削減する余地を探す

会社では現在も実証実験を続け、それぞれの過程の中にCO2の排出量を減らす余地がないか、検討を続けています。

この日は、輸送時のCO2を減らすために、輸送ルートを短くできないかというアイデアが出されました。

「利用店舗から洗浄工場までが近くなればなるほど輸送の環境負荷は下がるよね」

「“ホテル”がかなりポイントになると思っていて。ちょっと大きめのホテルだったら絶対宴会場があって、朝食と昼食のあいだって洗浄機が空いている時間があるんですよね。そこを利用させてもらえたらいいなって個人的には思いました」

ユーザーに日々接しているカフェのスタッフからは、こんな意見も。

「今はリモートワークが主の方も多いので、リユースカップを借りてもその日に返せるか分からない。明日も来るか来ないか分からないというところで利用するかしないかの判断をされている方は多いかなと思います」

リユースカップを使える場所や返却できる場所が増えれば、使ってみたいと思う人も増えるかもしれない。CO2排出削減と利便性の向上に向けた模索が続いています。

会社では実証実験で得られた情報を利用者に公開し、リユースカップを使えば使うほど効果が上がることを実感してもらおうとしています。

吉村祐一さん

「しっかりデータを集めて、最適なところがどこかを検討していきたいと思います。“本質的なエコ”を私たちも考えている途中なのですが、なんとなくではなく数値化して定量的に表現してお伝えするのが非常に重要かなと思っています」

取材後記

取材を始めた当初、自分たちの中に「これって本当にエコなのか?」という疑問はあったものの、じゃあ何が満たされていれば本当にエコな製品と言えるのかという自分の中の“ものさし”のようなものもなかったように思います。

エコと呼ばれる商品に携わる企業の姿を見て本当に意味のあるエコを追求することには、相応のコストや手間がかかるのだと実感しました。これからはエコにちなんだ新しい言葉に踊らされるだけではなく、そこに示されている数字や根拠に目を向け、自分で考えていきたいと思います。

また、「本当にエコなのか」という問いは、その商品をどう使っているかという私たち消費者にも向けられたものであるとも感じました。これからますます世の中にエコ商品が増えていくであろう中で、主体的にエコの実現に取り組むためには何をすれば良いか、取材を続けていきたいと思います。

クローズアップ現代 ディレクター 梅本肇・植村優香

10月24日放送 クローズアップ現代「それ本当にエコですか?徹底検証!暮らしの中の環境効果」

レジ袋からエコバッグへ。コンビニやカフェのリユースカップ。実は使い方次第では「エコ」と言い切れない検証結果が!?今、エコをうたう商品やサービスの効果を実証的に確かめ“より効果的なエコ”を追求する動きが広がっている。世界では実態が伴わない商品などが「グリーンウォッシュ」と呼ばれ、見直しを迫られるケースも。“本当のエコ”はどうすれば実現できるのか。暮らしの中で、今すぐ出来る工夫とは。徹底検証!

みんなのコメント(0件)