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若くして介護を経験したキンタロー。さん ヤングケアラーへのメッセージ

お笑い芸人として活躍するキンタロー。さんは、実はかつて「ヤングケアラー」の当事者でした。小学生の頃に父親が精神疾患を発症し、さらに母親が亡くなった20代の頃には仕事をしながらの介護も経験するなど、右も左も分からない中で、ひとりで悩みを抱え込んでしまったこともありました。
今回「おはよう日本」(2月11日放送)の企画で「ヤングケアラー」の座談会に参加し、経験者だからこそ理解し合える悩みや葛藤について、語ってくれました。

(ヤングケアラー取材班)

父親のそばを離れていいのか 葛藤した10代

父・武士さん(仮名)に、双極性障害(※うつ状態と躁《そう》状態という、正反対の状態が繰り返す病気)の症状が現れるようになったのは、キンタロー。さんが小学校高学年の頃でした。自営業を営む武士さんは元々繊細な性格でしたが、経営者としてのプレッシャーから、事業がうまくいかなくなるたびにうつ状態になっていました。

その一方で躁状態のときは、突拍子もない行動に家族が振り回されることもありました。ある日突然、家族に相談もなく近隣の土地やホテルの一室を購入したこともあったといいます。

キンタロー。さん

「私はお金がもったいないと思ったし、家族みんなで反対したんです。買っちゃだめ、絶対やめてって、手紙まで書いて懇願したんですよ。それなのにホテルを買っちゃったりして、すごいショックでした」

高校生の頃、武士さんの反対を押し切り、半年間カナダへ留学に行きました。武士さんの病状が悪化してしまい、キンタロー。さんは自分の行動が原因だったのではないかと悩み続けました。
その後、県外の大学を受験しようと考えたときも、キンタロー。さんは、病気の父親を残して家を離れることへの後ろめたさを感じていました。

キンタロー。さん

「私の場合は独り立ちしたい思いが強かった。お父さんが双極性障害でうつ病になりやすいというのはわかっていて、私がお父さんのもとから離れたら病気が余計に悪化する可能性もあったけど、反発して大阪の大学に行っちゃったんです。そういう行動に走った自分にとても罪悪感を持っていますね、ずっと。」

仕事と介護の両立 自分で抱え込むように

キンタロー。さんは大学卒業後、不動産会社の事務の仕事を始めました。
その後、母親が亡くなったことをきっかけに、武士さんのうつ病の症状が再発。足腰も弱くなってきたため、日中仕事をしている間はデイサービスに預けるようになりました。しかしキンタロー。さんの心配はつきませんでした。

キンタロー。さん

「介護センターから電話かかってきて、『取っ組み合いの喧嘩をしている。そういう行動を取る方は受け入れられない』と言われて、引き受けてもらえなくなったことがありました。他にも私の部屋に入って、書類をバーッと見て、職場の電話番号を見つけて電話かけてきたこともあった。やっと見つけた仕事だったので、親が意味不明な電話を職場にかけてきて、クビを切られるんじゃないかとすごく不安になりました。『何だこいつ』って思われるんじゃないかって。お父さんには申し訳ないんですけど、そういう気持ちが出てきちゃったんです」

キンタロー。さんは当時を振り返り、誰に相談していいのかわからず、ひとりで抱え込んでしまい、つらかったと話します。

キンタロー。さん

「行政などの支援窓口に相談に行った時に、介護に関してのマニュアルがギチギチに決まっていて、それに当てはまらないとサービスが受けられないということを経験したんです。『父は健康に見えるかもしれないけど、徘徊をして危ないんです』と説明しても、『こういう規定の中に入らないので、介護サービスが受けられないんです』って。『えっ、じゃあ本当に誰も助けてくれないんだ』っていう恐怖を感じたこともあって…。どんどん先が見えなくなってきて『わたしはこの先どうしたらいいんだろう』っていうところまで思い悩みました。でも、周りの同世代の子たちはそんな悩みとは無縁で、幸せそうに見えて余計焦るし、取り残された気分になっていました」

「家族の介護」優先か「自分の将来」優先か 人生の選択をどうする?

その後、キンタロー。さんは芸能界にデビュー。ケアワーカーのアドバイスもあり、在宅介護をやめて武士さんは介護施設に入所することになりました。ようやく「自分の人生を大切にしてもいい」という気持ちにたどり着いたといいます。

今回、親の介護を担う「ヤングケアラー」たちの座談会に参加してくれたキンタロー。さん。は、家族の介護と進路の選択の間で悩む高校生たちの話を聞き、自分も同じような経験をしてきたと、語りかけました。

(左から2番目 優輝くん 左から3番目 凛さん)
優輝くん(高校3年・脳性まひの母親を介護)

「もし自分の進路を優先して家を出たら、弟とお母さんの2人暮らしになるので、弟が大人になるまでは、自分は家を出ちゃだめなのかなって思いました」

凛さん(高校2年・精神疾患を抱える母親を介護)

「私のお母さんは、気分が落ち込んでいるときは、ほんとに布団から出られません。進路の悩みもあるんですが、未来を描いていいのかどうか悩んでいます」

渡辺健太アナウンサー

「キンタロー。さんは、自分の可能性に自分で枠をはめてしまったことはありますか?」

キンタロー。さん

「自分は幸せになっちゃいけない人間なんだって、当時は思っていました。『わたしは自分の人生を諦めて父に捧げているんだ』って恩着せがましくなって。自分がやらなきゃいけないことを放っぽり出して世話しているのに、『ありがとう』も言ってもらえないと『もう何だよ』という気持ちになる。お父さんの方も『そんな顔で世話されても』となってしまう。全員が幸せじゃない状態が続いた時期もありました。どちらに進んでも葛藤があるので、どれが正解かわかりづらいんですけど、結果的に自分が選んだ道が正解なんだと思っています。常に」

ヤングケアラーが頼れる場所が増えてほしい

キンタロー。さんの父、武士さんは6年前に亡くなりました。
自分自身の経験から、ヤングケアラーの子どもたちが孤立しないよう、社会で支える場が増えてほしいと考えています。

キンタロー。さん

「ヤングケアラーという言葉自体がまだ浸透してないように、それを経験する人もまだ多くない。『ヤングケアラーです』って言っても理解してもらえないと、やっぱり取り残された気分になってしまう。ネット上などでもっと頼れる場所がたくさん増えてほしいですね。
わたし自身、どうしたらいいのって悩んでいたときに『大変でしたね、大丈夫ですか』って声かけてくれたり、手を差し伸べてくれた人の存在は今でも覚えてるし、その時の気持ちもずっと覚えています。本当に苦しかったら自分一人で考え込まずに、ネットなどを使って、もっと相談できる人を広げていってほしいなって思います。そういう相談できる場がもっと増えることを期待しています」

<キンタロー。さんと当事者の座談会>
2月11日(木)7:30~「おはよう日本」で放送
https://www.nhk.jp/p/ohayou/ts/QLP4RZ8ZY3/

<あわせて読みたい>
・『ヤングケアラー』から届いた切実な声
・知ってほしい「ヤングケアラー」のこと
・高校生の25人に1人が『ヤングケアラー』 初調査で見えた実態
・学校生活や将来の選択に影響も…「ヤングケアラー」をどう支える?

みんなのコメント(3件)

とんび
50代 女性
2021年2月18日
ヤングケアラーに注目が集まってきたのは良い事と思う。が、「あなたの人生が大事。がんばってね」と言われても、では明日からどうすればいいの?に答えられる支援者がまわりにどのくらいいるのでしょうか?福祉サービスの制度の谷間に落ちて支援が得られず困っている人は若年者に限らずたくさんいます。そういう状況をぜひ、今後も取材していってほしいです。
ノリコオバサン
60代 女性
2021年2月11日
キンタローさんはそんなに深いご苦労があったのですね。私も双極性障害二型で、長い間悩まされてきましたので、その様子が想像することができ娘のキンタローさんの気持ちを思うと心が痛みました。
良いお父様だったんでしょうね。
深い悲しみや苦しみを知っている人は、そのことが糧となって成長できると思います。これからの活躍を応援しています。
ヤングケアラーなんだ私って、明るく言える
世の中がきますよう
ひがチャン
70歳以上
2021年2月11日
ヤングケアラーを社会が支えるんじゃない。ケアを必要としているを支えるんだよ。もし誰かのケアをやることになった人がいたらヤングだろうが年寄りだろうがなんだろうが、社会が支えてやらないといけない。その中で若い人特有の問題に焦点を当てるんなら良いけど、そもそもお粗末な福祉の問題を話さない。ピントはずれてる。