
知ってほしい「ヤングケアラー」のこと
「自分の進路より家族が優先―」
脳性まひの母親を介護している高校1年生の言葉です。
家族の介護、ケア、身の回りの世話を担っている18歳未満の子どもたちは、「ヤングケアラー」と呼ばれています。介護や家事に追われ、勉強や友だちづきあいする余裕がない子どもも少なくありません。悩みを抱えていても相談できる相手がおらず、ひとりで抱え込んでいるケースも。
2月11日(木)放送の「おはよう日本」では、ヤングケアラーの当事者や経験者に集まってもらいオンライン座談会を行いました。父親を介護していた経験のある、お笑い芸人のキンタロー。さんも参加してくれました。家族のこと、進路のこと、将来のことなど、3時間かけて語り合いました。
(ヤングケアラー取材班)

ヤングケアラーの高校生が心に抱えるモヤモヤ
座談会は、親の介護やケアをしている2人の高校生・優輝くんと凛さんが悩みを打ち明け、それに対してヤングケアラーの先輩たちが経験を元にアドバイスをする、という形で進みました。

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優輝くん・仮名(高校1年生)
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▶脳性まひの母親の介護
▶ヘルパーは週に数日、それ以外の介護と家事を担う
▶母親と弟(小4)の3人暮らし
▶介護と家事に追われ、部活や勉強がままならない状態
▶成績は上位 先生からは「大学に行ける」と言われている
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凛さん・仮名(高校2年生)
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▶精神疾患を抱える母親の世話
▶多いときで週6回の家事
▶母親と2人暮らし
▶母に付き添い学校も休みがちに
▶本や音楽が好きで大学で芸術を学ぶのが夢

「もちろん家のことはやらないといけないんですけど、それに時間を全部使っていると 自分の時間がまったくなくなって疲れちゃうんですよね。
もちろん友達とも遊びたいし、自分のやりたいこともあるし、だけど家のことはやらないとダメだし、みたいな感じで。まず何をしなければならないのか悩んだりもしますね」

「心の不調を抱える母親のケアをしています。聞いてみたいのは、『未来を描いていいのかどうか』ということと、ケアをする上での家族への葛藤などについて。気持ちの共有ができたらなと」

「ヤングケアラーの当事者でもあったキンタロー。さん、どうお考えですか?」
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キンタロー。さん(お笑い芸人)
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▶精神疾患を抱える父親を介護していた経験を持つ

「高校生だと家に帰っても学業だけじゃなくて、家のことを全部やらなきゃいけない。時間が絶対足りないと思うんですよね。家のことやってるだけで1日過ぎてしまう。
自分の将来や進路を決めなきゃいけない。考える時間も必要だと思うんですけど、ゆっくり自分と対話して、何になりたいか考える暇もないんじゃないかなって思う。
周りの友だちは学校の勉強に専念できるし、家に帰ったら親が全部やってくれてるって考えると、すごい心の葛藤があるというか」


「母は気分が落ち込んでいるときは布団から出なくて、ちょっと起きたと思ったら、また布団に戻るみたいな感じです。仕事はしていて、毎朝行きたくないと言いながら出かけています。障害年金などの支援を受けた方がいいと私は提案しているんですが、母自身が病気だという認識がなく『私はそんなんじゃない』と言っているので、経済的な支援が受けられないんです」

「わかります。本人は精神疾患を認めたがらないし、『まさか自分が』っていう思いがあるんですよね。『人を病人扱いするな』みたいなところがありますよね。
やっぱり育ててもらった親だし、大変なときは『わたし人生を捧げなきゃいけない』とか考えるんですけど、毎日父親と一緒に暮らしていると、距離が近すぎて、ちょっとしたことで傷つくこともあります。『何でそんなことするんだろう』と思って言い返すんですけど、お父さんはお父さんで苦しんでるし、もう悪循環。負のループに陥ってしまいました」
「誰にも話せない」 自分で抱えるゆえに生まれる孤独感

高校生の優輝くんと凛さんが語った悩み。大人の介護者であれば、行政やNPOなどが当事者同士の集いを主催するなど、同じ境遇の人たちが互いに悩みを打ち明ける場が増えてきています。しかしヤングケアラーについては、行政もようやく実態を把握しようと動き始めた段階です。座談会に参加した経験者はみな『周囲に理解してくれる人がいなかった』と口をそろえます。
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田中雄介さん・仮名(35)
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▶脳性まひの父親と、ポリオを患う母親の介護をした経験を持つ
▶いまはリハビリ施設で働く

「人から見えないものを抱え込みがちになると思うんですよね。僕は周りに同じ境遇の人がいないっていうのが一番きつかった」
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白井俊行さん(37)
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▶知的障害とてんかんがある兄と高校卒業まで同居
▶兄のケアにあたっていた母親が精神疾患を発症
▶いまは、エンジニアとして働く

「仮に同じ境遇の人が周りにいたとしても、そういうことは話さないので分かりません。周囲からは隠れているんです。だから『病気の母親のためにごはん作ってさ、面倒くさいんだよね』みたいな愚痴を言うことはできず、結構しんどい。理解してくれないことも多くて、兄弟に障害があるというと『じゃあ助けてあげなくちゃね』とかすぐ言われてしまうことがあって」
ヤングケアラーの高校生たち 「進路」の悩みに直面


「本音を言うと大学に行きたいなって思っているんですけど、やっぱり経済的に難しいのと、母が入院することになったらどうなるんだろう、と。母の調子によって生活の度合いが変わってくるので、近い未来への不安がすごく大きいです」


「自分の進路を優先するか、それはほどほどにして家のことを優先するかで、悩んだりします。今はお母さんと弟と3人暮らしなんですが、自分が進路を優先して家を出たら、弟とお母さんの2人になるじゃないですか。そうなると、家のことができるのが弟だけになっちゃう。弟には『同じ経験をしてほしくない』って思うので、自分の進路を優先してもいいのかって」
進路に関する2人の悩みに対して、ヤングケアラーの先輩たちはー
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宮﨑成悟さん(31)
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▶16歳から難病の母親を介護
▶いまは、家族の介護をしている20〜30代対象の転職⽀援サービスを運営

「高校卒業後、いったんは大学に行くのをあきらめて、家で家事をしていました。その経験を生かして『調理師になろう』と思い、専門学校に行こうとしたんですよね。でも親戚と相談したら『自分のやりたいことをやった方がいいんじゃないか』って言われて、再び大学進学を志しました。
介護と自分の人生をてんびんにかけると思いますが、てんびんの間にはいくつもお皿があって、そのなかで選択をしていくということが大事だと思うんですよね。介護に偏るてんびんなのか、もしくは自分の人生に偏るてんびんなのか、選択肢は2つだけではなくて、介護と両立できる一番いい選択肢を見つけていくのがいいと思うんですよね」

「僕も就職するときにひとり暮らしをするかどうかで悩みました。姉から『あなたはまだ若いんだから、社会の厳しさを味わって自分をしっかり見つけていきなさい』と言われ、外に出ることにしました。家族が共依存になるとみんながダメになってしまいます。みんなで自立するという意味で、親兄弟であっても線を引かなきゃいけないなって、いまは感じてます」

「僕は、精神疾患になった母親は介護しなかったんですが、それは自分の選択で後悔はありません。自分の人生を捨てるか、親の介護を取るかみたいな心境になってしまったら、もう1回よく考えてみたほうがいいんですよね。
『そういう選択肢もあるんだよ』というのを知ってほしいなって思います。まずはケアや介護のことは一回忘れて、自分の好きなことを大切にして、それをやり続けるにはどうしたらいいかっていう思考で、いろいろ考えてほしいです」

「自分だけで考えていると『家族のためを思って』という風になりがちなので、色々な人に相談して、新しい視点というのをどんどん入れてもらいたいなって思います」

「過去の自分にも言いたかったんですけれども、まずは本当に自分がやりたい事をやった方がいいです、絶対に。家のことがすごく大変なのはわかるんですが、なるべく自分を大切にすることを学んでいった方がいいと思います。自分が幸せにならないと家族も幸せには絶対なれないので」
ヤングケアラーの中には、育ててくれた「親や家族」だから、「きょうだい」だから、「自分が介護やケアをするのが当然」と思い込んでしまうケースが少なくありません。友達や学校の先生、行政の窓口にもどう相談すればいいかわからない、という悩みを抱えがちです。先輩たちは「自分だけで悩みやつらさを抱え込んでしまう前に、同じ境遇の人たちとつながることができるコミュニティなどを見つけて気持ちを打ち明けてほしい」とアドバイスします。
そしてキンタロー。さんはー

「どっちに進んでもやっぱり葛藤が存在するので、どっちが正解かわかりづらいところがあるんですけど、結果、自分が選んだ道が正解なんじゃないかなって思いますね。迷いは常に出てきます、だけどそう思います、わたしは」
「自分」が幸せになることが家族の幸せにつながる

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優輝くん
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「いままでは、自分の進路より家族が優先っていう考えがあったので、『自分が幸せにならないと家族が幸せにならない』と聞いて、『ああ確かにな』と思いました。家族を幸せにするためには、自分が幸せにならないといけないなって」

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凛さん
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「介護も大事にしていいし自分の人生も大事にしていいし、その中で考えていけばいいよという話しだったんですけど自分の夢があったらそっちに進んでもいいんだという、何か肯定された気持ちになりました。すごくほっとしたというか、温かい気持ちになりました」
今回の座談会に参加してくれたヤングケアラーのみなさん、ご協力本当にありがとうございました。取材班では、みなさんと悩みを共有し、課題解決につなげるための取材を続けていきたいと思います。