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群馬 高校生が学校生活で抱いた“違和感”を知事に政策提言

  • 2024年04月18日

群馬県は若い世代の声を県政に反映させようと、政策を提言してもらう取り組みを始めましたが、今回、特別な思いで応募した高校生がいます。
生徒が訴えたのは「どうして性別に応じて制服や髪型が決められているのか?」という学校生活の中で抱いた“違和感”です。
勇気を出して知事に意見をぶつけた高校生を取材しました。

(前橋放送局 記者 中藤貴常/2023年12月放送)

高校生が知事の相談役に

11月に行われた、政策提言の発表会。
さまざまな意見が出されました。

高校生

「校則を変えることができる仕組みを作りたい」

高校生

「“サイクルツーリズム”を推進して、県の観光を活性化させたい」

プレゼンしているのは、全員、高校生です。
群馬県が初めて導入した「高校生リバースメンター」と呼ばれるこの事業。
知事の相談役として高校生を任命し、若者目線で政策提言を行ってもらう取り組みです。

〈高校生リバースメンター事業〉
・県内在住の10人の高校生を知事の相談役に任命。
 →応募者の中から面接などを経て選抜。
・提言が採用されると予算化され、事業展開へ。(9月補正予算に500万円計上)

自分らしい格好とは?

今回の事業に、特別な思いで参加した高校生がいます。
提言者の1人、朝井葵さん(仮名)、17歳の高校2年生です。

体は女性ですが、男性用の制服を着用しています。

朝井葵さん
「女性用制服を着用していた頃、急にうつ病と不安症になり、理由がわからないまま学校に行けなくなりました。理由を考えたときに、制服が一番ネックでし。男になりたいとか、女になりたいとか、そういうことではなくて、ただ『自分らしい格好とは』と聞かれたときに、女子の制服は嫌ということがあったので、まずそこから変えていこうと」。

応募した背景にはつらい体験

今回、朝井さんが勇気を振り絞って、応募した背景には自身の過去の体験がありました。
かつて、制服について教師に相談したところ、返ってきたのは心ない言葉だったといいます。

「中学の時、先生に女性用スラックスを履きたいと言ったところ、言われたのは『お前は女なんだからなんでズボンを履くんだ』とか、『お前は男になりたいのか』などの返事でした。あとは男性用の制服の着用をお願いしたときには、『コスプレしたいだけだろ』とも言われました。けっこうきつかったです」。

さらに、校則にもとづいた頭髪の検査では男性と女性、どちらの基準で判断するかをめぐり、たらい回しにされることもあったといいます。

こうした周囲の対応にずっと心を痛めてきた朝井さん。当時は理解してくれない大人たちに怒りを覚える一方で、何を言っても無駄だという無力感も感じていたといいます。
しかし、高校に入学してから転機が訪れました。

転機は信頼できる人の存在

それは、信頼できる教師との出会いでした。その1人、現在の担任教師の岡野良先生(仮名)です。

岡野良先生

「ふだんからよくお勧めの本を紹介してもらったり、雑談をしたりしています。朝井さんの気持ちは本人にしかわからないと思いますが、こういう考え方もあるのだと、日々、自分も勉強させてもらっています」。

無力感を感じていた朝井さんの考え方にも、少しずつ変化が生まれていったといいます。

「中学当時は『わかってくれない人が敵だ』みたいに思っていました。でも今はわかってくれない人にも事情があるし、それぞれの価値観があるとわかった。人の価値観を変えるのではなくて、こういう人もいるんだと受け止めてもらえる世の中になればいいなと感じるようになりました」。

“誰かが伝えないと世の中は変わらない”

そうした中、夏休み前に岡野先生から紹介されたのが「リバースメンター」でした。
知事と話をして自分と同じような人たちも生きやすい社会をつくりたい。
その思いとは裏腹に、当初は性に対する違和感を周囲にさらけ出すことに怖さもありました。

しかし、「誰かが現状を伝えないと世の中は変わらない」と考え、今回の提言に挑むことにしたのです。

「いつまでも嫌だ嫌だといっていても世の中は変わらないし、県知事がみんなにこうしてくださいと言ってくれれば何かが変わるかもしれないと思いました。少しでも『救われた』と思う人が出てきてくれるのなら、自分ができるところまでやってみようかなと思って。怖いけど、やっています」。

あえて自身の苦しい過去に目を向けて

HP引用:笑下村塾

8月から始まった、提言に向けた準備。
誰もが生きやすい社会をつくるために、当初はジェンダーレストイレの普及についての提言を考えました。

しかし、準備にあたってさまざまな人からアドバイスをもらう中で、自身の問題意識と向き合うようになりました。
考え抜いた上で出した結論は、あえて苦しい過去に目を向け、実体験を元にした提言を行うことでした。

〈朝井さんの提言内容〉
①制服、頭髪に関する男女の区別の撤廃。
②教員向けのLGBTQに関する 講演会・講習会の必須化。

「別にずっとジェンダーレストイレをつくりたいとか、変えたいとか言っていたわけじゃなくて、本当は一番自分が苦しんだ頭髪と制服を変えたい。今こんなに困っていることがあるんだから、いま高校生のうちに言わなきゃもったいないなと」。

プレゼン時間は3分 どう伝えるか

準備を進める中、提言発表会での1人の持ち時間が10分間に決まりました。
最初の3分間がプレゼンテーションで、残りの7分は知事との意見交換の時間です。

3分間という短い時間の中で、どれだけ自分の思いを伝えられるか。
放課後に岡野先生などに相談しながら提言の内容を固めていく朝井さん。
伝えたいことは数多くある一方で、その難しさを感じ始めていました。

「自分はどうしても感情論になっちゃうんですよ。ただ、感情だけでは伝わらないことを岡野先生から学びました。なので、いろいろなことを勉強して、知識がないと誰も説得できないと思うようになりました」。

そこで、朝井さんはプレゼンまでの4か月間、専門家に話を聞いたり、本を読んだりするなどして、勉強を重ねました。
知識を増やした上で、自身の感情をうまく入れ込めるよう、原稿の修正作業をぎりぎりまで続けました。

「原稿のベースになっているのは中学時代に誰にも相談できなかったことを書いた日記です。ことばが強ければいいってものじゃないし、感情的に話せばいいというものでもないと思いますが、見に来た人たちが家に帰った時に、『こういうこと言っている子いたな』と、みんなの印象に残ってくれるようなプレゼンをやりたいです」。

いよいよプレゼン本番

迎えたプレゼン当日。
会場には知事や県の担当者など、多くの人が集まりました。

そして、ついに朝井さん順番が。

朝井さんプレゼン 一部抜粋
「私は中学時代、学校、教員、制服、生徒会、大嫌いでした。今もそれが全部なくなったわけではありません。高校に入学する前、きっとここでも否定されるんだって、そう思って入りました。ですが私はいま、ここに立てている、今の学校の先生方に出会えたおかげです。ありがとうございます。
受けてもらった恩をほかの誰かに、そんな思いといつまでも文句を言ってても何も変わらないので、自分から行動していこうと思い、リバースメンターになろうと思いました。

いま多数派であるあなたたちに問います。自分が少数派である世界を想像したことがありますか?いわゆる世間一般と少し違うから、そんな理由でわがままだと言われ、否定される日々が続く。そんなことを皆さんが考えてくれるような社会になっていってほしいです。
私が群馬県に提言したいことは、制服、頭髪に関する男女の区別の撤廃、教員向けのLGBTQに関する講演会・講習会に強制力をもたせてほしいということです。
これは高校生である私だけでは実現することはできません。どうか私に力を貸してください。

私の話を理解してほしいとか、受け入れてほしいとは思いません。
今の高校生がこんなふうに思っているんだ、こんなつらいことがあるんだということを受け止めて帰っていただければいいなと思います。ご静聴ありがとうございました」。

ひと言ひと言しっかりと、感情をこめながらも冷静に語り続けた3分間。
この提言に対し、山本知事は。

山本知事
「初めて高校生からこういう話を聞くことができた。本当に頭に入れて、県の政策を作っていかないといけないなと感じています。LGBTQに関する講演会というか、認識を持ってもらうという機会は、県庁だけでなくて学校などでも増やしてもらいたいと思うので、できることからしっかりやっていきたい」。

現状を変えようと、投げかけた提言。
1人の高校生の勇気が大人たちに新たな気づきを与えました。

「知事がちゃんと考えてくれるのがわかったのでありがたかったです。自分の知らなかったこともたくさん知れて、すごい経験をさせてもらったと思っています。それぞれの人の価値観を無理に変える必要はないと思っていて、その人の個性をちゃんと受け止める、受け入れるんじゃなくて、こういう人もいるんだと受け止めてくれる。それが変われば自分以外の悩んでいる子も、もうちょっと生きやすくなるのかなと思います」。

  • 中藤貴常

    前橋放送局 記者

    中藤貴常

    警察・司法などを担当後、現在は県政担当。行政・スポーツなどを幅広く取材。

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