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群馬 視覚障害者用の信号機故障相次ぐ スマホアプリ支援開始も

  • 2024年03月15日

 

視覚に障害がある人が道路を横断する際、信号が青になったことを知るためには欠かせない「音響式信号機」の故障が群馬県内で相次ぎ、中には、復旧まで2年かかった信号機もあることがわかりました。音が出ず、復旧に時間がかかっていた高崎市の横断歩道では去年、視覚障害者がひかれそうになったケースがありました。その一方で、支援のために、スマートフォンのアプリを活用した新たなサービスも始まっています。

(前橋放送局 記者 兼清光太郎/2024年3月放送)

「ひかれたな、と」…現場で何が

盲導犬と一緒に歩く高崎市の星博之さん(53)です。徐々に視力が低下する「網膜色素変性症」という病気で、今は視力がほとんどありません。

車にひかれそうになったのは去年6月の通勤途中。高崎市の中心部、交通量の多い交差点の横断歩道を渡り始めたときでした。

星博之さん
「右から来た車に思いっきりクラクションを鳴らされてしまいました。ひかれたなと思いましたね」

星さんにとって欠かせない信号機からの「音」。ただ、この時は鳴っていませんでした。やむなく車の音でその動きを探り渡ろうとしましたが、赤信号だったのです。

星博之さん
「とても怖かった。ここだけはどうしても(通勤で)通らなくてはいけないので、とても困った」

装置は当時故障していて、星さんは早期の復旧を警察に求めていましたが、かなわず。その「音」がようやく戻ったのは、8か月たったことし2月のことでした。

星博之さん
「誰かが事故に遭ったり、けがしたりしないと動いてくれないのかなと。壊れたからそのまま放置されているというのは、とても憤りを感じる。(今後は)迅速に直してもらいたい」

県警「原因究明や部品の調達に時間」

群馬県警に取材したところ、こうした音響式信号機の故障が群馬県内で相次いでいることがわかりました。ことし1月の時点で県内に241か所ある音響式信号機のうち、前橋市や高崎市、太田市のあわせて5か所で音が出ない状態になっていたのです。

このため群馬県警は、2月から工事を急ぎ、3月上旬までにすべて復旧させましたが、復旧までの期間はJR前橋駅近くの交差点では2年。そのほかの4か所でも半年から1年8か月ほどかかっていました。「交通弱者」の切実な訴えに対して、群馬県警は「原因究明や部品の調達に時間がかかっている」と主張しています。

群馬県警 交通規制課 石川泰彦課長補佐
「決して放置しているわけではない。故障している原因に応じた対応をするということなので、どうしても時間がかかってしまった。視覚障害者の方の声を重く受け止めて、安心して安全に移動できるような交通環境の整備に努めていきたい」

「信号は青です」…AIが視覚障害者を助ける

装置の状態に関係なく、どんな時でも「音」を頼りに歩けるように。デジタル技術を生かした最先端の取り組みも始まっています。

こちらは、ことし2月下旬から前橋市限定で使えるようになったスマートフォンのアプリです。AI=人工知能が道路の状況を認識して障害物や信号機の色の変化を音声で伝えてくれます。国から採択を受けて前橋市が進めるデジタル関連事業の一環として、企業が1億円あまりの補助金も活用して開発しました。

このアプリを記者が体験してみたところ、信号が赤から青に切り替わった直後にAIが「信号は青です」と読み上げていました。

さらに、アプリにはオペレーターが道を案内してくれる機能もあります。いずれも利用は無料です。

オペレーターの案内
「まっすぐ進んでいただきますと、自転車が来ました」

開発企業「誰1人取り残さない」

当事者の声を反映させて、より使いやすいアプリにするために、2月下旬に体験会が開かれました。

全盲の茂木勤さんです。誤って赤信号を渡り、車と接触した経験があります。アプリを体験し、率直な意見を企業側に伝えていました。

「こういう感じですか。難しい。カメラに入らない」

「信号のところでこんな姿勢取っていたら、それだけで疲れちゃう」

茂木勤さん
「あまりカメラの位置などに気を取られてると、ほかの感覚からの情報を見逃してしまうリスクがある。例えば『前に横断歩道あり』とか『右方向に自転車がありますよ』とか、そういう具体的な指示があると非常にわかりやすいと思う」

まだ、できたばかりのこのアプリ。開発企業は、当事者の声に真摯に耳を傾け、改良を重ねていきたい考えです。

 

アプリの開発企業 後藤堅一さん
「『誰1人取り残さず、豊かな社会を作っていくんだ』と。厳しい意見も含めて、利用者が増えることによっていろいろな意見が出てくるし、これから製品ができていく、始まったばかりということで捉えている」

視覚障害者は願う

デジタル技術を生かした支援が進む一方で、車にひかれそうになった星さんは、これまで通り周囲の人のサポートが続くことを願っています。

星博之さん
「視覚障害者の人は、大体いつも困っている。信号の手前で止まっていても『赤かな、青かな』って迷っている。盲導犬を連れてる人に『何かお手伝いすることはありますか』とか、白いつえをついてる人に『何か困っていますか』というふうに、声をかけてもらえたらすごくうれしい」

安全な交通環境の整備「人」も担いたい

紹介した前橋市で利用できるアプリ「めぶくEye」は、3月上旬の時点ではiPhoneでの使用に限られています。また、このアプリには困っている視覚障害者と手助けできる人をマッチングさせる機能もあるということで、共に助け合う「共助」の輪がもっと広がることにも期待したいと思います。

音響式信号機の整備やアプリの改良によってより安全な交通環境が築かれることを願うとともに、危ない状態にあったり、困っていたりする視覚障害者がいれば、すぐに手を差し伸べられる自分でありたい。改めてそう感じさせられた取材でした。

  • 兼清光太郎

    前橋放送局記者

    兼清光太郎

    2015年入局
    札幌局、帯広局を経て現在は前橋局で遊軍担当。

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