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群馬 サラメシ③ 「尾瀬」の力持ち “歩荷”の力の源とは?

12月22日(金)「ぐんまスペシャル サラメシ 群馬特別編」 放送直前企画
  • 2023年12月20日
歩荷 萩原雅人さん

12月22日(金)「ぐんまスペシャル サラメシ 群馬特別編」の放送に合わせ、群馬で働く人たちのランチをさらに取材してお伝えしています。3回目の今回は、番組で舞台になっている「尾瀬国立公園」からもう1人ご紹介。山小屋に届ける荷物を運ぶ“歩荷(ぼっか)”のお昼ご飯です。尾瀬の麓・片品村出身の歩荷 萩原雅人さん(30)の1日を取材しました。

(前橋放送局 ディレクター 宮内智子/2023年10月取材)

荷物の重さ100キロ以上!? 歩荷の萩原さん

朝7時、尾瀬の入り口「鳩待峠」で荷づくりが始まっていました。尾瀬は貴重な動植物を守るため、車は入れません。そのため尾瀬で営業している山小屋から依頼を受け、歩荷が荷物を運んでいます。現在、歩荷として活動しているのは6人。萩原さんの積み荷を見せてもらうと…。

トマトやレタスなどの生鮮食料品のほか、うどんやステーキソースなど計70キロほど。この日は登山客も少なくなった10月中旬のため軽い方なんだとか。ピーク時は100キロ以上になることもあるそうで、壊れてしまった冷蔵庫やプロパンガスを交換するために運んだことも。依頼があれば背負える範囲のなかで何でも運びます。

実は萩原さん、歩荷のかたわらプロスノーボーダーとしても活動しています。

萩原雅人さん
「プロスノーボーダーとして活動している先輩が歩荷をやっていたんです。歩荷で鍛えられた足の筋肉がかっこよくて憧れましたね。雪がない夏の足腰のトレーニングになりますし、収入にもなるので始めたんです」

1年目はスノーボードで染みついた体の癖があり、けがをしてしまいましたが、体のバランスを意識し、毎日指先のトレーニングを欠かさず行ったところ、2年目の夏ごろには今の重さの荷物が運べるようになりました。

とはいえ大人の男性1人分以上の重さ。積み方にコツがあるんです。それは荷を背負った時、自分の頭を境に荷物の重さを半々にすること。頭より下に重心があると腰を痛めてしまい、頭より上に重心があると歩くときに横に振られコントロールが難しくなります。自分の背丈よりも高く積み上げるのは、バランスをとるためなんです。

“歩荷YouTuber” 尾瀬への恩返し

荷物の準備ができたら、さあ出発!

ここから片道10キロほどの「見晴」地区にある山小屋を目指します。萩原さんは、雪が解け始め山小屋の営業が始まる4月下旬から、営業が終了する10月までおよそ半年間、雨が降ろうとほぼ毎日、荷を背負い尾瀬に向かいます。

萩原さん、ことしから新たな試みを始めました。尾瀬に敷かれている木道の修繕費用を集めるクラウドファンディングです。

生きものの保護を目的に敷かれた木道。大勢の登山客が歩き、冬の雪の重みでズレたり穴があくなど耐久年数は10年程度と言われています。1セット(4メートル)直すには10万円以上かかり、総延長およそ64キロにも及ぶため修繕は追いついていないといいます。木道を通って荷物を運ぶ歩荷だけでなく、観光に来た登山客にとっても怪我の元になりかねません。

萩原雅人さん
「自分たちが歩荷を続けられるのは、山小屋に来てくれるお客さんがいるからなんです。だからこそ何かの形で恩返ししたいとずっと考えていました。お客さんがどうすればもっと尾瀬を楽しめるか考えたとき、考えついたのが木道を直すことだったんです」

とはいえ、知名度もなく資金集めをしてもうまくいかないと考えた萩原さん。まずは、歩荷や尾瀬のことを知ってもらえるように去年からYouTubeを始めました。

なんと…荷物を担ぎながらの撮影!
慣れるまでは苦労したそうですが、今ではトークをしながらカメラワークもお手のもの。

この日のトークテーマは「今までで一番歩荷をしていて大変だった日」について。
歩荷の五十嵐さんとの会話をそのまま撮影し、気心知れた仲間だからこそ撮影できる自然体の歩荷の姿を届けています。その時に出会った動植物など季節の話題も織り交ぜた動画は好評となり、今では登録者数が1万人を超えました。尾瀬で歩荷をしていると1日に3~4組から声がかかるといいます。

萩原雅人さん 
「視聴者の方からはいつも”元気が出る”っていわれるんです。『どんなにつらい、重たい荷物でも一歩一歩進めば必ずゴールにたどり着く』と教わってきたんで、何事も前向きに楽しんでやっています。それが伝わって、みなさんの毎日の頑張るエネルギーになっていればうれしいです」

山小屋ランチ

歩くこと4時間。ようやく目的地の山小屋に到着です。山小屋の平野てるみさんが迎えてくれました。

平野てるみさん
「きょうも雨の中で来てくれて本当に助かりました!ヘリで運ぶこともできるんですけど、風や天候次第で運んでもらえないこともありますし、腐りやすい食材などはその都度お願いできるので、歩荷さんが来てくれないと山小屋は回らないですね」

ちょうど時刻は12時過ぎ。ひと仕事終えた萩原さんのランチはこちら!

山小屋のスタッフが作った「明太クリームパスタwith生姜焼き」。
少しでも多くの荷物を届けるために、歩荷のみなさんはお弁当をもっていきません。
重い荷物を運んでくれた萩原さんへ、山小屋からの感謝を込めたあったかランチです。

萩原雅人さん
「80キロとか運ぶとおなかもペコペコなので本当にありがたいですね。尾瀬は山小屋がいくつかあるので山小屋によって出てくるランチが違うのも楽しみの一つです」

ここの山小屋はとにかくたくさん食べさせてくれるそうで、パスタにプラスして名物の舞茸ご飯も提供!仕事でスカスカになった胃袋をパンパンに満たし、消費したカロリーをしっかり補給できました。

帰りも10キロの道のり。帰りの道はYouTubeの撮影などにあてて時間を有効活用しているそう。着実にファンを増やし、ことし実施した木道修繕のクラウドファンディングは2000万円以上の寄付金を集めることにも成功しました。萩原さんすでに来年に向け、次の仕掛けを考えています。

萩原雅人さん
「来年の秋には木道の工事も始まりますし、YouTubeで発信するだけでなくどんどん自分が出向いていこうと思っています。尾瀬の代名詞と言えば水芭蕉ですが、いつの日か尾瀬と言えば歩荷と言ってもらえるよう取り組んでいきたいです」

ぐんまスペシャル「サラメシ 群馬特別編」も、ぜひご覧ください。
12月22日(金)19時30分~(群馬県内)

  • 宮内智子

    前橋放送局ディレクター

    宮内智子

    2018年入局 
    群馬県に赴任して4年目。
    海なし県の群馬だからこそ山のおもしろさに気が付きました!

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