沼田市 げた作り一筋70年 85歳いまなお“進化中”の職人魂
- 2023年11月16日
群馬県沼田市に、なんと70年も前からげたを作り続けている1人の職人がいます。御年85歳。コロナ禍を乗り越え、いまも時代のニーズに合わせた新商品を精力的に生み出す職人のこだわりに迫りました。
(前橋放送局 記者 兼清光太郎/2023年10月取材)
「一生つぎこんだ」げた作り
沼田市鍛冶町に住む丸山勝美さんです。中学卒業後の1953年から、実に70年にわたってげた作りに打ち込んでいます。
丸山勝美さん
「一生かけた仕事ですからね。お客さんに喜ばれて“履きいいですよ”といわれて、ありがたい仕事だなあと思いますね」
いまでは沼田で唯一のげた職人となった丸山さん。長い年月をかけて磨き上げてきた匠の技が評価され、県の「ふるさと伝統工芸士」にも認定されています。手がけるげたの種類は40にのぼります。
丸山さんが語る「伝統工芸」
そんな丸山さんにもコロナ禍の影響が。外出する人が減り、売り上げが例年の2割ほどにまで激減したのです。しかし、そこは百戦錬磨の丸山さん。新たなアイデアを取り入れ、コロナ禍を乗り切ってきました。
それがこちらのげた。自宅で過ごす人が増えたことに目をつけ、げたの裏に平らなクッション材を取り付けた室内用を作ったのです。
さらに、去年には、鼻緒を通常よりも3倍も太くしたげたを制作。外反母趾に悩む女性から相談を受け、履きやすさを追求して作り上げました。これらのげたがヒットし、いまでは売り上げは以前と同じ程度にまで回復しています。
丸山勝美さん
「いくら昔からの伝統工芸だと言ったって、ある程度時代の波で新製品を開発しなければだめだよ。喜んでもらえるということは一番大事ですから。それを忘れてはだめだ」
客や“弟子”に囲まれて
取材したこの日、丸山さんの工房には、げたを買い求めに、客が次々と訪れていました。
桐生から訪れた客
「すごく丁寧に作られていると思いますよ。全然違いますね」
太田から訪れた客
「あたたかいし、ぬくもりがあるので。ぜひぜひ、履き心地はそれは最高です」
さらに、訪れるのは客だけではありません。桐生市に住む川口賢一さん(71)です。丸山さんが作るげたに魅せられ、5年前から丸山さんのもとで学んでいます。この日は、自らの手で作った自信作を丸山さんにチェックしてもらっていました。
「見てみてください」
「上手にできているよ。俺より上手かもしんねえ。きれいにできているよ」
川口賢一さん
「まだまだまだ。これからですよね。まだ5年じゃ、丸山さんの70年と比べたら。俺も丸山さんの年くらいまでできるように、これからずっと、教えてもらおうかなと」
丸山さんが語る「誇り」
げた作り一筋70年。コロナ禍のピンチを乗り切った職人の心にいつもあるのは、客への思いです。
丸山勝美さん
「笑顔を見るのが一番楽しみ。俺のげたが出世して出て行くんだなと。あまり高く売ると一般市民には届かないですからね。安いんですねといわれてさ、喜ばれることが、それが一番誇りですよね」
取材を終えて
丸山さんがまだ職人として駆け出しだった頃、げたづくりは工程ごとの分業制だったそうです。1足のげたを作り上げるまでに関わる職人は7人ほど。丸山さんは、自分が納得できるげたを自らの手で作るため、それぞれの職人のもとに弟子入りし、懸命に技術を学んでいったと話していました。
70年間、職人一筋の丸山さんの仕事に対する考え方、そして誇りに感銘を受けるとともに、私も、新たなことにチャレンジする気持ちを常に持ち続け、人に向き合う記者という仕事を謙虚に続けていこうと心に誓いました。