群馬 日系人高齢化 介護サービス提供に課題 伊勢崎の事業者は
- 2023年11月06日
群馬県には6万人以上の外国人が暮らしていて、特に太田市や大泉町などの東毛地域には、日系人が多く住んでいることで知られています。きっかけは1990年。当時、深刻な人手不足に悩んでいた日本は、日系人の就労を幅広く認めるために出入国管理法を改正し来日を促しました。しかし、受け入れ開始から30年以上が経過し、当時働き盛りで来日した人たちの多くが高齢化しています。こうした日系人や外国人への介護サービスの提供をめぐる課題を取材しました。
(前橋放送局 記者 西山典男/2023年9月取材)
“手続きわからない…”
伊勢崎市で5月にオープンした介護事業の運営会社。
この日、ここを訪れていたのは埼玉県に暮らす日系ペルー人の女性です。わざわざ群馬まで来た理由は、75歳になる父親の介護サービスについての相談でした。
「どのように手続きしていいか分かりません」
彼女の父親は30年以上前に来日。2年ほど前に大病を患って、会社を辞めた後、生活リズムが崩れたためか問題のある行動が目立つようになったといいます。
食事や薬を決まった時間にとらないこと以上に家族を困らせたのは、時間を持て余した父親が1日に何度もかけてくる電話でのやりとりでした。
「私たち姉妹はそれぞれ家族も持ち、仕事もあるので、とても対応できません」
知人の紹介でこの会社に相談に来た女性はアドバイスを受けて市役所にも相談。デイサービスを申し込んで、利用しながら父親の様子を見ることになりました。
介護の相談に来た日系ペルー人の女性
「介護保険はペル-にはない制度なので、どうしていいかわからずに困っていました。スペイン語で説明してくれるところは埼玉では見つけられなかったので、相談できてとてもありがたかったです」
介護保険の存在すら知らない日系人も
この会社で社長を務める小澤エリサさんは、自身もアルゼンチン出身の日系人で、介護の仕事に長く関わっています。小澤さんは、周囲の日系人が高齢化する一方、介護保険についての知識が乏しいことに危機感を覚えていたと言います。
小澤エリサさん
「介護保険の使い方がわからないだけでなく、それこそ介護保険制度があることすら知らない方もいます。いま日系人・外国人は高齢化し始めていますから、これからはどんどん、こういった相談に対応する必要が出てくると思います」
日系人受け入れから30年
バブル景気に沸いた1980年代後半、日本は製造業などの分野で深刻な人手不足に陥りました。この局面を打開するため、国は1990年に出入国管理法を改正。日系人とその家族の就労を幅広く認めたことで多くの人が来日しました。
それから30年以上が経過。
当時、働き盛りだった人たちは高齢化してきています。しかし、日系人などの中には、介護保険の保険料を支払っているものの、言葉の問題などで介護サービスを受けづらい人が多いのが現状だといいます。
苦い経験が動機に
実際、こうした介護の課題に直面した人も、今回の介護事業所立ち上げに関わっています。資金面で協力した日系ペルー人の相沢正雄さん。伊勢崎市を拠点に、保険業や中古車販売業などを幅広く手がける事業家です。
相沢さんは8歳の時に家族で来日。伊勢崎市で暮らしていましたが、祖母が15年ほど前に、認知症を患い、介護が必要になりました。ところが、祖母は日本語があまり得意ではなかったこともあり、安心して通える介護施設を見つけることができず、ペルーに帰さざるを得なかったといいます。
「結局、ペルーで父の兄弟が面倒を見ることになった。帰国後、一度も会うことができないまま祖母は亡くなってしまいました」
来日当初、ことばの問題から友達ができなかった時、いつも一緒にいてくれた、優しく、大好きな祖母でした。このとき、いつか外国人が利用できる介護サービスを自分で作ろうと誓ったといいます。
相沢正雄さん
「日系人・外国人に向けての介護サービスを充実させることで、日本で高齢化した人たちが、家族から離れることなく、いつでも会える状況を作っていきたいです」
課題に直面
高齢化した日系人たちに救いの手を。
そう考えて会社を設立した、小澤さんや相沢さんですが、早くも課題に直面しています。設立以来、数か月が経過していますが、この会社の介護サービスを利用する日系人や外国人はまだ1人もいません。そもそも、介護保険の存在自体を知らない人も多く、潜在的な需要は高いことがわかっていても、実際の利用につなげられていないのです。
小澤エリサさん
「今は、一生懸命広報して、皆さんに知っていただくことから始めないといけない」
打開に向け開く介護予防教室
こうした中、新たに始めたのが、日本の介護保険などを知ってもらうための取り組みです。この日、小澤さんたちが開催したのは、介護予防教室です。参加しているのはおよそ40人の日系人や外国人たち。
介護予防の活動を行いながら、いざというときに介護サービスが受けられることを知ってもらおうと、制度をスペイン語や優しい日本語で紹介するパンフレットを配っています。
小澤さんたちは今後もこのような催しを開きながら、日本の介護保険の制度やサービスの利用について周知する活動を地道に続けていくことにしています。
小澤エリサさん
「介護保険のことを知らないとか、何かあったときにどうしたらいいという課題がたくさんある。あと何年かはこの状況が続くし、外国人に向けた介護サービスは、今後さらに必要になってくると思います」