群馬 視覚障害者を救う「声」 “黄色い点字ブロックに理解を”
- 2023年10月20日
「危ないですから、黄色い点字ブロックまでお下がりください」
駅のホームでよく聞く、注意を呼びかけるこのアナウンス。この中の「黄色い点字ブロック」という表現を強調すること。これが、視覚に障害がある人にとってはとても重要だということをご存じでしょうか。視覚障害の当事者2人と「黄色い点字ブロック」の理解を広げるために取り組む現場を取材しました。
(前橋放送局 記者 兼清光太郎/2023年10月取材)
階段から転落…「まさか」
黄色い点字ブロックの上を歩くのは、前橋市に住む全盲の茂木勤さん(71)です。ことし2月、JR新前橋駅の階段から転落してケガをしました。
「(人が)集団で点字ブロック上にいたので、その人たちをよけて迂回するような形で歩いて行ったんです。そうしたら、1つ目のエレベーターに向かう点状ブロックを発見できなかったようで(そのまま階段の方に向かってしまった)。まさかと思って、気づいたら滑り落ちていました」
視覚障害者にとって欠かせない点字ブロック。理解がまだ足りない現状にショックを隠しません。特にホーム上では常に不安との戦いだといいます。
茂木勤さん
「(駅のホームは)例えれば“欄干のない橋”です。点字ブロックが視覚障害者を誘導するためのものだということが、世の中になかなか理解していただけない状況です」
状況打開目指すも“課題”
この状況を打開しようと、JR東日本が進めているのがこちらの呼びかけです。
「危ないですので“黄色い点字ブロック”の内側に下がってお待ちください」
実はもともとは“黄色い点字ブロック”ではなく“黄色い線”と表現されていました。
状況に応じて駅員や機械が呼びかけるこのアナウンス。"黄色い点字ブロック”と明確に表現することで、人々の意識や行動を変えようという狙いがあります。この取り組みをJR東日本は5年前から進めていますが、まだ徹底し切れていないことが課題です。
“徹底”訴えに駅員が動いた
そこで、全盲の茂木さんは去年11月、JR高崎駅で視覚障害者を対象に行われた駅の利用訓練の場で、駅員たちを前に「黄色い点字ブロック」とのアナウンスの徹底を訴えました。それに応えたのが、駅員の1人の竹内雄亮さん(28)です。みずからも視覚に障害があります。
中学生のころ、目の難病の「レーベル病」を発症し、視力が急激に低下した竹内さん。その頃から、駅のアナウンスの大切さを実感していたといいます。
JR高崎駅 駅員 竹内雄亮さん
「特に駅のパネルなどの情報を目から得られないので、駅のホームの放送や点字ブロックにすごく助けられていると感じています」
茂木さんの訴えを受けて、竹内さんは駅員によるアナウンスでの“黄色い点字ブロック”という表現の統一を上司に提案。駅での徹底を図ってもらいました。
「癖で“黄色い線”と言ってしまう駅員もいるので、『"黄色い点字ブロック”に改善していこう』と声かけをしたり、点呼や勉強会の際に『アナウンスを統一していこう』と呼びかけてもらっています。もっともっと点字ブロックの認知を広げていきたい」
高崎駅の利用客
「"黄色い点字ブロック”と聞いたほうが、その人のためを思って行動しなきゃと思うので、その方がいいと思います」
盲学校の子の呼びかけも
さらに、同じJR東日本管内の神奈川県にあるJR平塚駅では、盲学校の子どもたちが呼びかける取り組みも行われています。
子どもたちの声
「平塚盲学校からのお願いです。私たちは、黄色い点字ブロックを頼りに歩いています。迷っていたり、危ない様子を見かけたら、声かけをお願いします。ホームでの転落事故防止のために、皆様のご理解・ご協力をお願いします」
平塚駅の利用客
「すごく、伝わってきます。お手伝いできることがあったらやらせていただけたらなという気持ちになります」
専門家「ひとりひとり、小さな行動でいい」
アナウンスでの表現方法を工夫することによる効果について、視覚障害者の支援に詳しい専門家は、こう指摘しています。
慶応大学・中野泰志教授
「視覚障害者の存在に気を配ってくれるようになるんじゃないかと思いますし、点字ブロックの上に立ち止まることなく『荷物を置いてはまずいかな』と気づく人が増えてくるのではないか。ひとりひとりは、小さな行動でいいと思うんです。たとえば『何かお手伝いできることはありませんか』という声かけでもいいし、見守りでもいいかもしれません。ただ、すごく危なそうだと思った時には『白じょうの人止まって』と声をかけられるような、そういった気持ちを全ての人が持っていただけるといいなと思います」
“黄色い点字ブロック”は命綱
ホームを「欄干のない橋」と呼ぶ全盲の茂木さん。そこを歩くための「命綱」とも言える「黄色い点字ブロック」への理解の広がりを強く願っています。
茂木勤さん
「『これは点字ブロックというんですか』と話しかけられたことがあったので、やはり放送にひと言入れてもらうだけで、少しずつであっても変わっていくのかなと、その時に期待感を抱きました。(視覚障害者を見かけたら)ためらわずに声をかけていただくのが一番ありがたいし安全だと思います」
「”黄色い点字ブロック”までお下がりください」
JR東日本は、アナウンスでの「黄色い点字ブロック」という表現の徹底を図っているものの、各駅での自動音声のアナウンスについては、設備の交換のタイミングで順次、変わるとのこと
まず、自分自身の行動を改めて見直そう
去年11月、私(記者)は、JR高崎駅で視覚障害者を対象に行われた駅の利用訓練を取材しました。そこで出会ったのが、今回取材した全盲の茂木さんでした。訓練の終了後、茂木さんは大勢の駅員を前に「アナウンスの統一」を、ひとり、直訴していました。その姿とともに、私の心に深く刺さったのが、駅のホームをたとえた「欄干のない橋」ということばでした。
そして、茂木さんの声に反応して動いたのが、同じく視覚障害がある竹内さんだったことも胸を打ちました。当事者が動きだした中で、私は『点字ブロックに対する理解と視覚障害者への協力がさらに広がるように』と、突き動かされるように取材を進めました。
取材を通じて感じたのは、何よりもまず、自分自身の行動を改めて見直そう、ということでした。危ない状態にあったり、困っていたりする視覚障害者がいれば、すぐに手を差し伸べられる人間でありたい。そう強く感じさせられた取材でした。