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群馬 熱中症と闘う夏 記録的猛暑 搬送者急増の中で命を守る

  • 2023年09月07日

全国的にも暑いここ群馬県でも、ことしは、特に暑い夏となりました。7月の熱中症の搬送者は去年より40%あまり多くなり、その数は、7月と8月をあわせて1000人を超え、太田市では90代の女性が亡くなりました。命に直結する熱中症。対策が急務となる中、その危機を回避しようと、最前線で対応に当たる民生委員や教育現場の奮闘が続いていました。

(前橋放送局 記者 辻智史/2023年8月取材)

87歳 その時異変が

前橋市で1人暮らしをしている87歳の小嶋冨美子さんです。この夏、熱中症が疑われる危険な症状になりました。

小嶋冨美子さん(87)
「年をとると、水分が足りないとかなんとか考えない」

それは、7月19日の夕方6時前でした。ほぼ毎日、小嶋さんを訪ねるという民生委員の高木百合子さんが訪れると、すぐに異変に気づいたといいます。

民生委員 高木百合子さん
「目がドロンとしていて…」

当時、エアコンには電源が入っておらず水分をとった形跡もありませんでした。看護師でもあった高木さんは、ぐったりした様子の小嶋さんを見て「脱水症状」と判断。すぐに近所の自宅から経口補水液を持参して飲ませ大事には至りませんでした。しかし、2人の許可を得て私たちが取材をしていたこの日も再び異変があり、表情を見た高木さんが呼びかけました。

民生委員 高木百合子さん
「脱水症状があったんだよ、冨美子さんは朝から。お昼(ご飯)食べたくなかったんだもんね。だるくて食欲がなくて頭が重いとか、吐き気もそうなんですよ、脱水(症状)の1つ」

再び、脱水症状だと判断し、すぐに経口補水液を飲ませました。

小嶋冨美子さん(87)
「ゆりちゃん(高木百合子さん)は一生懸命やってくれるので私は助かっています」

民生委員 高木百合子さん
「ふだんと違っているかどうかを見る、観察してくるというのが私の使命だと思っています。(とにかく)声かけと見守りです」

“住居”に危険が潜む

記録的な猛暑のこの夏。熱中症は急増し、県内で7月に搬送された人は去年より40%あまり多い736人に上りました。その半数以上を占めているのが、小嶋さんのような高齢者です。

また、搬送された場所で最も多かった41%が小嶋さんもいた「住居」でした。「安全」と思われがちな「住居」に危険が潜んでいました。そして、3番目に多かったのが「道路」です。

目の前で高齢者が…その時、高校生は

去年のケースではありますが、その路上で倒れていた高齢者を救った高校生たちが今回、取材に応じてくれました。

女子生徒
「この辺で高齢の男性が倒れていました」

太田市の路上で正午ごろ、通学していた3人は80代の男性が倒れているのを見つけました。

男子生徒
「近くに日陰があったので、そのまま支えながら向こうの石段に連れて行きました」

顔が真っ赤で、ろれつが回らない状態だったという男性。高校生たちがすぐに動きました。

女子生徒
「『危険な状態だな』という風になったので、119番通報することにしました」

男子生徒
「水を渡して飲ませてあげたという感じです」

3人が素早く対応した結果、男性の命に別状はなかったということです。

女子生徒
「倒れている姿には少し恐怖を覚えますし、本当に恐ろしいものなんだなと、改めて再確認しました」

学校現場も闘う夏 生徒の「命」を守るために

そして、この夏。学校現場でも熱中症と闘う日々が続きました。山形県で部活動帰りの女子中学生が亡くなったこともあり、対策が急務となっていました。こちらは、全国的にも暑さで知られる伊勢崎市の中学校です。

サッカー部の顧問を務める下山祐樹先生。この夏は、安全な形での部活動をどう実現させるのか、神経をすり減らすような毎日だったといいます。

この夏休みの運動部活動について伊勢崎市は、「熱中症警戒アラート」が発表された場合には原則、中止にする措置をとりました。その発表がなくても顧問の下山先生は練習前から、その日の予報などを細かくチェック。

また、校庭には「暑さ指数」を測定する機器を設置。その値が「運動は原則中止」とされる「31」以上になればすぐに活動を中断します。

さらに、校庭に面した教室は常にクーラーで冷やし、熱中症が疑われる生徒はすぐにここに運び体を冷やします。

入念な準備をした上で、1つの練習メニューが終わるたびに休憩時間をとり…。

練習中も日陰で水分補給を積極的にさせます。それでも気温は上がり続け、取材した日も午前9時半の時点ですでに35度を超えていました。

生徒
「試合をやらないんですか?」

伊勢崎市立第二中学校 サッカー部顧問 下山祐樹先生
「(暑さ指数計を)見てダメだったら(できない)」

下山先生が暑さ指数のチェックに行ったところ、「中止」となる「31」を超えていました。

伊勢崎市立第二中学校 サッカー部顧問 下山祐樹先生
「これだけ風があって(も)ダメなので、もうこれ以上(指数が)下がらないと思うので」

この日の練習は予定を30分以上早めて終了。ことしの夏休みの練習日のうち、3分の1を超える9日が休みでした。生徒たちが心身ともに大きく成長するはずの「夏」。ただ「命」に代わるものはないと、下山先生は強調します。

伊勢崎市立第二中学校 サッカー部顧問 下山祐樹先生
「命は、一度失うともう戻らないものなので無理はさせない。子どもたちが『やりたい、やりたい』という声は聞こえたと思うので、その気持ちを大事にしつつ、今は『我慢してやれる時に思い切りやろう』というふうに声をかけていきたい」

様子はおかしくないか?周囲に目配りを

今回の取材では、それぞれの現場で命を守ろうとした人たちが立場は違えど、迅速に、その上で、細やかに対応に当たっていた姿が印象的でした。私たちひとりひとりもまずは、年齢に関係なく過信せず、できる対策をすること。そのうえで、周囲に少しでも様子がおかしい人がいないか目を配ること。それを徹底していくことが大事だと感じました。

  • 辻智史

    前橋放送局記者

    辻智史

    2022年入局。警察担当。秋田県出身。取材の難しさを日々感じています。

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