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高崎市 ヤングケアラーSOS事業 サポーター無料派遣で家事支援

  • 2023年05月11日

家事や家族の世話などを日常的に担っている子どもたち、いわゆる「ヤングケアラー」を支える全国でも先進的な取り組みを高崎市が昨年度から始めました。

その名は「ヤングケアラーSOS」という事業です。

「サポーター」と呼ぶ人たちを無料で自宅に派遣して、家事などの負担を減らすことが目的です。母親を突然亡くしてヤングケアラーとなり、「SOS」を発した高校生の自宅で取材しました。

(前橋放送局 記者 岩澤歩加/2023年4月取材)

高校入学直後 突然ヤングケアラーに

高崎市内の高校2年の男子生徒です。

去年6月、母親を脳腫瘍で亡くしました。
腫瘍が見つかったのは、そのわずか2か月前。高校に入学してすぐのことでした。

3人きょうだいの高校生。当時、父親は仕事が多忙で連日、帰宅が遅く、姉と弟はともに受験生でした。そのため高校生が家事全般を担うことになり、小中学校で続けてきたサッカーは、やむなく断念しました。

ヤングケアラーの男子高校生
「つらかったです。誰かやってくれるかなって最初は思ったんすけど」

勉強と部活動、そして、友だちづくり…。同級生たちの当たり前の日常は遠い存在となり、ヤングケアラーとして過ごす日々が、その「心」を限界に近づけていました。

ヤングケアラーの男子高校生

「お母さんのものも家にまだいっぱいあったんで、まとめるものもあったし、家事もしないといけないし、ご飯もどうするの?みたいな感じで大変でしたね」

“SOS”したらサポーターがわが家に来た

母親を亡くして5か月後。高崎市の新たな取り組みを知った父親の勧めを受けて、高校生がSOSを発しました。

それからは週に2日。

「サポーター」が自宅に来て、炊事や洗濯などをしてくれるようになりました。

「(これからも)自分ひとりでやっていくのかなとちょっと思っていたので、楽になるのであれば利用してみたいなと思った」

“先進的” 高崎市の支援の枠組みは

ヤングケアラーたちのSOSをいち早くキャッチして支える高崎市の取り組み。最大の特徴は、市を中心に関係する団体が一丸となって支援する枠組みです。

ヤングケアラーの子どもたちや保護者に加え、学校や地域の人からのSOSを教育委員会などがキャッチすると。

実態調査を行ったあと「ワーキングチーム」を結成。その後、有識者の委員会が各家庭の状況を把握して支援内容を決めサポーターの派遣を始めます。

ワーキングチームを作るのは市の複数の部署や学校、児童相談所、医療機関、それに、サポーターの派遣事業者などの担当者。1つの家庭を最大20人でサポートしています。

高崎市教育委員会 ヤングケアラー支援担当 金井克代係長
「子どもらしい時間を持ってもらうための支援を使ってもらうように心がけて、サポーターの派遣もスピーディーに行うことを心がけて継続していきたい」

サポーターが作る“温かい食事”がもたらすのは

ヤングケアラーの高校生を支援しているサポーターの2人は、この日の夕食に、彼の好物のハンバーグを作りました。

「少しでも気持ちが楽になれるように、お手伝いができれば」

その思いで取り組んでいるといいます。

食卓に並んだ温かい料理。
週に2回のこの時が、彼にとって自分の今、そして、将来を考えられる貴重な時間となっています。

ヤングケアラーの男子高校生
「前は、レトルト食品、インスタントラーメンなどそういう食事だったんですが、やっぱり健康的でおいしいご飯を、週に2日だけですけど食べられてるんで、よかったなと思っています。(家事を)自分1人でやるっていうのはすごい大変というか、やっぱり気持ち的にもあれ(大変)だったんで」

専門家 ”高崎市の実績・実践 全国に発信を”

全国的にも珍しいという高崎市の取り組みを専門家は評価しています。

ヤングケアラーの研究を行う 大阪公立大学 濱島淑恵 准教授
「家事というのは、負担の大きいケアの1つだと思う。そういった中で無料でヘルパー派遣をしてもらえ、いろいろな職種・領域の方たちが集い、ヤングケアラーという視点で、どういったアプローチをしていくかを考えることができる、非常に有効な取り組みではないかと思う。まだその段階までいっていない自治体の相談窓口がいくつもあるので、高崎市が実績や実践を積み重ねて全国に発信してもらいたいなと思う」

子どもたちの“SOS”を適切な支援に

取材した高校生は特別なケースではありません。

高崎市に去年1年間に寄せられた相談は64件。その多くに共通するのが「料理をしている」、「幼いきょうだいの世話をしている」といった家事の負担の大きさでした。

この取り組みについて、国や県はどのように受け止めているのか、取材しました。

こども家庭庁
「とても先進的な取り組みだ。実績を積み上げて周りの地域をけん引してほしい」

群馬県
「モデル的な取り組みだ。ほかの市町村が同様の支援をする場合、後押ししていきたい」

子どもたちが発する「SOS」をきちんと受け止めて適切な支援につなげる。取材を通して、このような取り組みが広がっていってほしいと感じました。

  •  岩澤歩加

    前橋放送局記者

     岩澤歩加

     2020年入局 警察取材を経て現在は行政やシングルマザーなどの福祉を中心に取材

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