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群馬 一家3人殺人事件 未解決続く今 SNS発信始めた長女の思い

  • 2023年04月27日

25年前の1998年に群馬県群馬町(現在の高崎市)の住宅で最愛の3人の家族を失った長女がいます。長女へのストーカー行為の末、起きたとされる事件は未解決のままです。長女は事件後、深い苦しみを抱え生きてきました。事件から25年がたったことし、事件解決への糸口になればと、みずからSNSで情報発信を始めました。その投稿には、事件のことを忘れないでほしいと当時の出来事について思いがつづられていました。

(前橋放送局 記者 長谷川将万/2022年12月~2023年3月取材)

群馬一家3人殺人事件とは

1998年 当時の群馬県群馬町三ツ寺(現在の高崎市)の住宅で、家に住む夫婦と母親の3人が刃物で刺されるなどして殺されました。警察は夫婦の長女に交際を迫っていた元トラック運転手の小暮洋史容疑者(53)を殺人の疑いで全国に指名手配し、捜査を続けています。

真冬の夜 長女が見た事件

事件の前、長女は容疑者からストーカー行為を受けていたといいます。

取材に応じる長女

遺族の長女
「小暮容疑者は私が勤めているドラッグストアに雑貨や日用品を配送するドライバーでした。無表情で声の抑揚もなく、喜怒哀楽のわからない人だと感じました」

画像提供:群馬県警

長女が仲良くしていた男性社員と容疑者の仲が良く、3人で話すようになりました。

そして、男性社員が別の店舗に移った後も、ご飯などにしつこく誘われるようになったといいます。

長女

「何回断っても、「じゃあ、いつならいいの」とくいついてくるようなところがあって、なんとか断ろうとしましたが、目の前に指を出されて、『この日もだめ?、この日もだめ?』という感じでした」

その後、長女はドラッグストアに相談をして、容疑者が配達をする時は事務所で待機するなど、顔を合わせないように工夫をしました。
 

事件の前には

事件が起きる2週間ほど前の年末。勤務先のドラッグストアに止めた長女の車に容疑者からの手紙が挟まっていたといいます。

長女

「『会って話したい』といった内容だったので、1回は無視をして帰ろうかと思っていました。でもきっぱりと断ろうと思って、店舗のそばに止められていた容疑者の車に向かいました」

容疑者に会うと「なんでもない」とひと言。その場でのやりとりはほんの一瞬でした。

その後、家に車で帰る途中、容疑者は車で後をつけてきて、自宅近くに来ると、ヘッドライトを点滅させ、合図を送ってきたといいます。

その後、容疑者は仕事を辞め、別の人が配達に来るようになりました。

長女

「『これで、もう会うことはないんだ。もう、終わった話になる』そう思っていました」

事件当日

そして、1998年1月14日。雪の降る夜、その日はやってきました。

仕事から帰宅した長女。
部屋に向かうため階段をのぼっていたところ、長女は誰かに腕をつかまれ、振り向くと容疑者がいたといいます。

家族は自宅にいるはずの時間でした。

長女

「大声を出せば家族が気づいてくれると思って、声を出しましたが反応がなかったんです」

その後、長女は階段脇にある祖母の部屋に連れ込まれました。そこで、馬乗りになられ、身動きがとれなくなりました。
 

画像提供:群馬県警(事件の再現CGの一部)
長女

「『好きだ』と言われて、顔が近づいてきました。必死で抵抗すると『何もしないから静かにしろ』と言われました」

その後、容疑者は突然、長女の口をふさぎ、首を絞めてきたといいます。
 

画像提供:群馬県警(事件の再現CGの一部)
長女

「これはまずい状況だと思って、思い切り(容疑者の)手をかんで、そしたら体が離れました」

 その後、容疑者は室内をうろうろしながら、「逃げるんだったら、山に逃げるか、都会に逃げるか、どっちに逃げるか?」と長女に聞いてきたといいます。

そして、容疑者は家の外に逃げていきました。

画像提供:群馬県警(事件の再現CGの一部)

その後、長女は警察に通報し、警察署で調べを受けました。

そこで目にしたのは1枚のメモです。

事件の説明をする長女

遺族の長女
「机の上に遺体があるというメモがあり、そのメモを見て家族3人の死を知りました」

亡くなった家族

亡くなった両親(左)と祖母(右)

祖母のトメさんは長女にとても優しかったといいます。

長女

「商売をしていた人で、気を張って生きているような人でしたが、孫の私にはとても優しく、顔をくしゃっとさせて笑うおばあちゃんを思い出します」

父の武夫さんは真面目で厳しい人だったといいます。

長女

「父は真面目で厳しい人でした。ただ、娘の私には甘かったんですね」

母の千津子さんは優しく明朗快活な人だったといいます。

長女

「親子げんかはしばしばしていましたが、思い返せば母が好きだった尾瀬散策に誘われたとき、一緒に行って景色をみれば良かったなと思います」

遺族の長女
「死ぬのは私1人でよかったのではないか、何で私をつけ回していたのに、私の周りの人が死ななければいけなかったのか。私のせいで殺されてしまったという罪悪感があり、押しつぶされるような思いに耐えながら生きてきました」

警察の捜査

群馬県警では小暮容疑者を殺人の疑いで全国に指名手配し、いまも行方を捜査しています。

情報提供を求める警察官
小暮容疑者の車の目撃情報

事件当日の14日から15日にかけては栃木県佐野市、水戸市で小暮容疑者の乗る車が目撃されています。そのおよそ1週間後の21日夜には群馬県太田市、埼玉県熊谷市で車両の目撃情報が。
さらに、事件からおよそ3週間後の2月4日には、みどり市内の駐車場で車両の目撃がありましたが、それを最後に行方はわからなくなっています。

車両に関する情報を受け確認に向かう捜査員

県警では寄せられた1つ1つの情報をもとに捜査を続けています。
容疑者の年齢にあわせて似顔絵を作成するなど情報提供を呼びかけ、これまでに3000件以上の情報が寄せられていますが、いまだ容疑者や車両の発見につながる有力な情報はありません。

この日は、容疑者が逃走に使ったとみられる黒い日産シルビアと似た車があるという情報をもとに捜査へ。しかし、年式も色も異なる車でした。

シートをめくり確認したが違う車両だと判明
群馬県警 重要事件特別捜査班 髙橋 稔 班長

群馬県警 重要事件特別捜査班 髙橋 稔 班長
「遺族に対してまだ検挙の報告ができないことは悔しいし、申し訳ないという気持ちもある。1日も早い解決、検挙を報告したいという気持ちです」

“今だから伝えられる、発信できる”

SNS(インスタグラム)で情報提供を求める長女

未解決のまま事件から25年となることし。
長女は、事件のことを広く知ってもらい、事件解決への糸口になればとSNSのインスタグラムによる発信を始めました。
アカウント名は「未解決事件があるという事実を伝えたい」という思いから未解決を表す「cold_case_1.14」にしたといいます。

インスタグラムでの投稿を作成する長女

インスタグラムには赤裸々な心情や思いがつづられていました。

発信する理由

「ごめんなさい 私のせいで家族が大変な目に遭ってしまった。私のせいだ」
「再び襲い来る喪失感と後悔にさいなまれた」
「いままでの自分の何もかもが一瞬で消えてしまったように思えた」
「当時はPTSDだという自覚もなく、ただの現実逃避、無責任な人間だと自分を責め続けていた」

長女は事件の後、事件のショックから息切れや不眠、事件の詳細が思い出せなくなるなど、さまざまな症状に悩まされ続けてきました。
それでも投稿を始めたのには理由がありました。

情報提供を求める投稿

遺族の長女
「容疑者が捕まって始まることもたくさんある。自分も子どもの親なので、子どもが巻き込まれるという心配もしたくないですし。捕まって解放されるものが自分の中に大きくあると思います。少しでも多くの人に事件への関心をもってもらい、記憶に残り続けるようにすることが1日も早い解決につながると信じています」

25年「ことしも捕まらなかった」

家族の眠るお墓に花を手向ける長女

長女は、ことしも家族が眠るお墓を訪れ、手を合わせました。事件解決の報告ができない年が1年、また1年と過ぎ、25年。

遺族の長女
「『25年が経つことについて報告したのと犯人逮捕の報告ができず、ごめんなさい』と伝えました。事件のことを思い出して、体調が悪くなることもあるけれども、事件と向き合って、胸を張って『解決したよ』と自分で報告できるように頑張らなきゃという気持ちの方が今は強いです」

取材を通じて

長女の話を聞く

私は23歳で事件が起きたあとに生まれました。
指名手配のポスターなどを目にすることはありましたが、事件の詳細は知らずにいました。
今回、取材を通じ、家族を失った悲しみや罪悪感を抱え続けてきた時間が自分の生きてきた時間よりも長いという事実に、未解決のままとなっている事件の深刻さを痛感しました。
淡々と質問に答えていましたが、時折、声の奥に震えを感じ、さまざまな思いを抱えながらも取材に応じてくれたのではないかと感じました。
1日も早く、事件解決の報告が長女のもとに届くことを切実に願っています。

  • 長谷川将万

    前橋放送局記者

    長谷川将万

    2022年入局。記者2年目で県警・司法担当。大学から住む群馬での勤務。高校生の自転車事故防止に向けたヘルメット着用の動きなどを取材。

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