ページの本文へ

ぐんまWEBリポート

  1. NHK前橋
  2. ぐんまWEBリポート
  3. 群馬 ウクライナ避難者 終戦の日に核兵器の悲惨さ学ぶ

群馬 ウクライナ避難者 終戦の日に核兵器の悲惨さ学ぶ

  • 2022年09月07日

終戦から77年となることしの8月15日。ロシアによる軍事侵攻が続く中、ウクライナからの避難者たちが訪れた場所があります。原爆投下直後の惨状を描いた絵画「原爆の図」が展示されている埼玉県にある美術館です。軍事侵攻で核の脅威が高まる中、避難者たちは「原爆の図」から何を感じたのか。
「人間はいつも同じ間違いをしてしまいます」
「平和のことについて子どもたちに伝えることが大切です」
戦火を逃れてきた1人のウクライナ人女性が、私に伝えた思いです。

(前橋放送局記者 兼清光太郎/2022年8月取材)

群馬で暮らし始めた避難者

ことし7月、群馬県に避難してきたウクライナ人チェヴソワ・アリナさん(21)です。

一緒に避難してきた友人2人とともに、前橋市で暮らしています。

奪われた日常…家族はいまもふるさとに

アリナさんは、ロシアによる軍事侵攻の前までは、首都キーウにある大学で日本語や日本の歴史を学んでいました。

日本語の授業の様子

「(大学は)とてもおもしろくて楽しかったです。漢字とか日本語のことばをいろいろ教えてくれました」

しかし、軍事侵攻が日常を奪いました。アリナさんのふるさとはウクライナ東部のルハンシク州。激しい戦闘が繰り広げられてきた地域の1つです。
自宅での様子を取材したこの日、アリナさんはふるさとで暮らしている父親と連絡をとり、家族の安否を確認していました。

ウクライナに残る父親と電話

「大変なミサイルで攻撃されるようになると思いますので、両親はできるだけ早く避難すればいいと思います。会いたいです」

“核の脅威”に直面する世界

長期化するロシアの軍事侵攻。アリナさんが強く懸念しているのが「核の脅威」です。
ロシア軍が掌握する原子力発電所では、砲撃が相次いでいます。
さらに、軍事侵攻のあと、ロシア側は核による威嚇を繰り返すなど、世界は現実的な「核の脅威」に直面しています。

アリナさん
「ウクライナだけではなくてロシアもベラルーシもヨーロッパも恐ろしい障害が起きるおそれがあります。悲劇が起こるとみんな、普通の人たちは何も出来ません」

8月15日 “原爆の悲惨さ”学ぶ

核の脅威に対する危機感が高まるなか迎えた8月15日。被爆国・日本で現実に起きた核兵器の悲惨さを学ぼうと、アリナさんは友人たちと埼玉県東松山市にある「原爆の図 丸木美術館」に向かいました。

展示されているのは、原爆投下直後の様子を描いた「原爆の図」です。
原爆で人々が苦しみ、亡くなっていった惨状が生々しく描かれています。

「原爆の図」
                   

アリナさん
「悲しさを感じます。日本も戦争で子どもたちと若い人々が亡くなってしまいました。いま(ウクライナでも)政治の争いのせいでただ普通の人々が亡くなってしまっています」

すべての作品を見終えたアリナさん。
私が「特に心に残った絵はありましたか」と尋ねると、すぐさま1枚の絵をあげました。
その絵に描かれていたのは、しおれた「ひまわり」でした。

アリナさん
「ひまわりはウクライナ人にとって自由という意味があります。そして平和です。ウクライナにもこのひまわりのようなことが行われています」

核兵器の脅威を77年前の惨状を描いた絵画から学んだアリナさん。私たちに率直な思いを語りました。

アリナさん
「人間はいつも同じ間違いをしてしまいます。戦争で勝った国と負けた国もないと思います。
平和のことについて子どもたちに伝えることが大切です」

夢に向かって 群馬で歩み出した1歩

さまざまな不安を抱えながら、群馬での生活を始めたアリナさん。
前橋市内の専門学校で日本語の勉強を続けていて、「日本語の通訳の仕事に就きたい」という将来の夢を持っています。

日本語の勉強

取材した8月下旬、アリナさんは夢に向かって新たな1歩を踏み出そうとしていました。
アリナさんが始めようとしていたのは、ファストフード店でのアルバイト。接客を通じ、通訳に必要な日本語の自然な話し方を積極的に学ぼうとしています。

アルバイトの研修を受けるアリナさん

取材の最後、アリナさんは、日本とウクライナの懸け橋になりたいという思いを語ってくれました。

「日本のことについて、いろいろなことを知りたいです。もっと得意になって、日本語の通訳者としてウクライナのために手伝うことができると本当にうれしいです」

人間が同じ間違いをしないためにも

戦火を逃れるため、アリナさんは21歳の若さで母国から避難せざるを得ませんでした。ふるさとにはいまも両親と妹が暮らしていて、毎日心配しながら群馬で過ごしています。そのことを思うと胸が痛みます。

インタビューでは、勉強中の日本語を使って、一生懸命に自分の思いを私たちに伝えようとしてくれたアリナさん。その懸命な姿から私たち日本人に、「いまウクライナで起きていることを知ってほしい」という切実な思いを強く感じました。これからもウクライナ情勢に関心を持ち続け、群馬で暮らす避難者の思いを伝えていきたいと思います。

  • 兼清光太郎

    前橋放送局記者

    兼清光太郎

    2015年入局
     札幌局、帯広局を経て現在は群馬県警担当。

ページトップに戻る