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Road to Rio vol.68 4度目のパラリンピック出場へ!競泳・鈴木孝幸選手、イギリスから挑む。(後編)

2016年03月01日(火)

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013年からイギリスのニューキャッスルでトレーニングしている鈴木孝幸選手。前編ではライターの鈴木祐子さんの取材記をお伝えしました。後編では鈴木選手のインタビューを。
練習の様子、鈴木選手が考える“パラリンピック”をお伝えいたします。


①イギリスについて

イギリスに来てもう二年ほどになりますね。イギリスのどんなところが気に入っていますか?

【鈴木選手 以下略】大会で何度か来ていて、街並みとか、場所的にも風景とかも好きでしたし、実際来てみて、みなさんすごく温かい方たちが多くて助けてもくださいますし、そういうところが好きですね。

 

なぜニューキャッスルに?

留学ができることになった時にコーチをいろいろ探しまして、このニューキャッスルでルイーズというコーチとうまく話がつき、それで来ました。

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普段は大学生ということで、どんな生活を送っているのですか?

日によってもまちまちなんですが、基本的には、朝練に7時半ごろきて、ジムは週3回。ジムがある時はジムに行くと、だいたいそれで午前中が終わります。そして午後に大学の授業を受けて帰る感じです。

 

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朝7時半、1月下旬のイギリスは緯度が高いため、夜がまだ明けきりません。

 

 

遊びに行ったりは?

もうあんまりしないですね。来たときは「いろいろまわろう」と思ったんですけど、2年経ちましたので、今はあんまり遊びに行かずに学校の予習復習を頑張っています。

 

大学ではどんな勉強を?

スポーツマネジメントを学んでいます。スポーツに関わる企業や組織で働くために必要な情報を色々学ぶものです。


日本とイギリスの、特に、練習環境やトレーニング環境として、良い部分と悪い部分をどう感じますか?

イギリスの良い部分は、特に僕の通っているこの施設では、プールもジムもマッサージとかのケア、あとフィジオ(理学療法士)も含めて全部一つの建物に入っているので、すごく移動がしやすくて使いやすいことですね。日本にいた時はそれぞれ別の場所にあったので、当時は仕事が終わってから車で移動して…という状況だったので、今はすごくアクセシブル(行きやすい)でいいかなと思っています。



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大学のトレーニング施設・Sport Central

 

あと大変なところというとやっぱり語学面でのフィーリングとか、そのあたりを細かく伝えるのがなかなか難しくて一番苦労していますし、うまく伝わらなくて結局違うセッションや、ちょっとずれた目的のセッションをやったりしたことも過去には何度もあったので、コミュニケーションの部分は多少苦労します。

 

でももう2年経ったので、ちょっとずつ語学では快適になってきたのでは。

トレーナーやコーチが僕の英語に慣れてきているので、だいぶ言葉足らずでも色々汲み取ってもらえるようになってきていると思います。

 

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練習中、トレーナーのニールさんとのやりとり。

 

 

②競技について

今は3月6日の記録会に向けて、一番ご自身が課題だと思っていること、取り組んでいらっしゃることはありますか?

3月は非常に大切な大会()ですけれど、そこにすごく照準を合わせているという感じではなくて、あくまでも“9月の本番”に向けてトレーニングを進めているところです。勿論、3月のために多少調整はしますけれど、9月に向けては、今のところはまだ“ベースを作り終えた段階の後のステップの始まり”なので、徐々に練習量や質も上げていくと思います。その中でしっかりとフォームを意識して、自分のやりたいフォームを、自分のやりたいときに出来る…そういう泳ぎを身につけていきたいと思っています。

多分、3月の大会が終わってから9月に向けてが、一番ハードな泳ぎこみをする予定です。

※補足:平成27年度春季静岡水泳記録会は、リオデジャネイロパラリンピック派遣選手選考会となっています。


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背泳ぎ。それぞれの四肢の状態から水平に保ち、速く泳ぐように。


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クロール。異なる左右の腕の長さの力を、最大限に生かして。

 

(2013年からイギリスに移ってトレーニングをされているということで)リオに向けて新しい戦略は?

まさに「イギリスに来た」というのが新しい試みですね。生活環境も凄く大きく変わりましたし、トレーニングも全くと言っていいくらい違ってきましたし、その中でもタイムは一応キープ出来ているというのと、あとは、昨年かな?平泳ぎでも49秒台の前半というところが出せたのが。

それは本当に北京以降なかなか出せなかったタイムで、昨年の世界選手権、決勝では負けましたけど、一応予選では9秒5っていうなかなかいいタイムが出せたので、そういう実績的な部分でも「ここでのトレーニングは間違ってないんだな」というのを自分の中で把握出来ましたし、自信にも繋がっているので、スランプの中にいた“ロンドンパラ”の時とは違って、明らかに自分の気持ちの面でもポジティブにいられています。

 

環境を変えたことでポジティブになれることもありますよね。

何故環境を変えたかったかっていうと、私の場合はアテネから、生活環境がちょうど4年区切りでうまくかわってきて良かったんです。でも、社会人になって北京以降は、うまく生活の変化もないし、コーチも変えるつもりがなかった。そうするとトレーニング環境でもあまり大きな変化がなくなってしまったんですね。継続的にしっかりと自分の身体に刺激を与えていくために、今までは4年に一度何か“変化”をつけられていたんですけど、そういう意味で、当初一年留学する予定だったんですが…いろんな御縁があってリオ以降もこちらにいられることになって、凄くありがたいことだと思っています。

 

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ジムで筋力トレーニング中の鈴木選手。体幹を鍛えているのでしょうか?チームメイトのリンドンさんと。


 

今、少しお話されていた昨年の世界選手権の決勝についてですが、ご自身では結果をどう分析されていますか?

いろんな要素があるかなと思うんですれど、ひとつはこちらに来てから泳ぐ量が少し、と言っても一回平均1000メートルくらい少なくなったので、体力面にも多少、体力が落ちたというか。フィーリング的にはそんな感じはなかったんですけれど、一週間以上ある大きな大会の連戦を泳ぎきる体力が少し欠けていたのかな、というところですね。

 

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後、考えられうることをあげると…大体、決勝は午後にあった中で、午後の練習の機会というのが多くなかったことも。午後に万全な身体にする、泳ぐ準備をすることに身体が慣れていなかったんじゃないかな。今は、朝練がメインとは言いましたけど、夜や夕方の練習も少し量が増えていますし、1回で泳ぐ量も、コーチに言って少し増やしてもらっています。これから選考会以降も、代表になることができれば遠征がありますので、しっかりとどういう変化があるのか、カバーできているのかという確認をしていきたいと思っています。

 

 

③パラリンピックについて

イギリスといえばパラリンピック発祥の地ですが、何か、印象的なエピソードはありますか?

最初、パラリンピック選手だということを伝えた時に、こちらのみなさんがオリンピック選手に会ったかのような眼差しで見てきて、「じゃあロンドンに出たのか?」「あの会場にいたのか?」とかすごく興奮気味に話してきて。パラリンピック選手もオリンピック選手と同じように、障害者というよりもスポーツ選手として見られているなというのはすごく感じました。

 


鈴木選手が思う、パラリンピックの面白さとは。

水泳に関して言えば、違う障害があるひとたちが一緒に泳いで、0コンマ何秒を競うのは凄く面白みがあると思いますし、それぞれの障害の特性によって多少戦略などが異なってくるので、健常者のレースよりも大逆転劇などが、みられると思いますね。

そこが、楽しいことのひとつかな。

 

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水泳の道具は健常者と同じものを使いますけど、他の競技によっては、車いすや義足などを使って、陸上だと飛んだり、車いすを漕いだりというのも健常者にはない部分で面白いかなと思いますね。単純にスピードとしても、例えば陸上だったら、健常者よりも速く車いすの選手は走ったりするので、トラックを自転車が走っているようなスピード感があります。マラソンも健常者より速いですね、タイムとしては。スピード感も、決して劣らないと思います。あとは、自分の障害があってもそれを“克服”とかいうレベルではなく、凄く“スポーツ”にまで昇華出来ているトップ選手はたくさんいるので、ぜひ見てもらわないと。逆に見てもらえればそれだけで伝わると思います。

 

パラリンピックを日本でもっと認知させる為には、どのような施策が必要だと思いますか?

んー難しいですね。

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日頃からもうちょっと障害者のスポーツに健常者が触れる機会っていうのが多くなったらいいんじゃないかなと思いますね。




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特別、パラリンピックだけじゃなくても、国内でもいろんな大会がありますし、国際大会でも、世界選手権なりアジア大会なり、パラリンピックだけじゃない、他の国際的な大会はいっぱいあるので、そこで世界のトップで活躍している他の選手とかも見られますので。国際大会は日本よりも凄く競った争いもしますし、そういったものをもっともっと見てもらえるといいんじゃないかな。すぐに出来ることではないので、やっぱりこれから4年間、時間をかけてやってもらいたいです。

 

 

鈴木選手はパラスポーツを純粋な、スポーツとして見て楽しんでもらいたいと考えられていますが、そのために、どういうことが必要だと思いますか?

気持ちというか、皆さんの見る目というか…スポーツや他の状況でも障害者を“弱者”としてみるのではなく、少し個性の強い、だけど同じ“人”としてみて頂けるということが一番かなと思います。勿論、障害があるがゆえに出来ないこととか、人の手を借りないとなかなか困難なこともあるのですが、逆に手を借りなくても出来る部分も沢山ありますので、「障害者は何が出来て何が出来ない」などは、「健常者でも何が苦手で何が得意か」があるのと同じように、障害者には少しその差が大きいだけかなと思うので、そういうことを理解してもらえることがまず、皆さん誰でも出来ることかなと。そうすれば、自然とパラリンピックもスポーツとしてとらえることは難しくないんじゃないかなと、僕は思っています。


 

以前の番組で、鈴木選手は「凄く負けず嫌い」とおっしゃっていましたが、そのような心の強さを持てない人はいると思うんです。そういう方に、パラリンピアンとして伝えられるメッセージはありますか?

そうですね。どうしても障害者は手を貸して頂く事が多いので、甘えてしまうことが多いことはとても感じます。なので、やっぱり自分の出来ることはしっかりと自分でやるべきだと思いますし、あとは、出来ないならばその意思表示をしっかりと自分から発信していくっていうことが必要と思います。それが、結局自立というものにもつながっていって、“共存”の第一歩なんじゃないかなと思います。

202_Acam3006_01.MP4.Still001.jpg「自分でできること」とは少し意味合いが違うかもしれませんが、鈴木選手、練習前に服をきれいに畳んでいるのが印象的でした。きっと部屋もきれいなのでしょうね…。


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練習後、車いすを引っ張っていく鈴木選手。車いすという道具は、漕いで移動することもできれば、荷物を置いて引っ張って持ち歩くことも可能ですね。なにげないシーンでしたが、鈴木選手の日々の意思を強く感じました。


 

イギリスではソフト(ヒト・心)の面でのバリアフリー化が進んでいるように感じられますが、日本が同じようにソフトのバリアフリー化を実現していくには何が必要だと思いますか。

スポーツに限らず、分野によっては障害を持ったかたもいっぱいメディアに出たりしていますけれど、例えば…もっと、障害を持った歌手の人が、健常者と同じように音楽番組に出るとか、障害はあるけどお笑いをやってる人がお笑いのネタの番組に出るとか、単純に、一般的な社会ですと会社にも障害がある方が同僚として働いている状況もあるとは思いますが、そうではないひともいっぱいいるのも事実だと思うんです。もっと、健常者と同じように障害者も多方面で活躍するのもひとつかな、と思いますね。難しいし、時間も凄くかかることだと思うんですけど、だからこそ、2020年に向けてひとつやって頂くのは凄くありがたいことで、重要なのはそのあとも継続してそういう取り組みがされていくのが大事かなと思います。


今は選手として水泳中心の生活をしていらっしゃいますが、「もし、水泳を辞めたら」「引退したら」やりたいことなど、ありますか?

えー!?まぁ仕事にするかってどうかっていうのは全然考えていないですけど、趣味というか気晴らしになるものとしては、楽器を吹くとか弾くとかするのも凄く好きですし、絵を描くのも好きですし、あと写真も撮るのも好きなので、一眼レフのカメラを持って写真撮りに行ったりとか…そういったのが一応好きではあります。

仕事に関しては、今もスポーツマネジメント学んでいますので、いずれそれを武器に出来るようなところでやっていきたいですね。

 

 

楽器とは?

中学の時に吹奏楽でフレンチホルンを吹いていました。楽器は日本の家にあるので、帰ったときに吹いたり。あとはほんとに遊ぶ程度でキーボードとか、楽器を鳴らすっていうのが好きですね。聴くよりもどちらかといえば演奏するとか、ほんとに趣味のレベルで、人に聴かせられるものではないですが、自己満足でも時間を凄く忘れられるので、趣味としては凄くいいな、と思います。

 

水泳の激しいトレーニングの間の気持ちのリフレッシュになったり?

そうですね、リラックス出来ますし、時間を忘れてなにか没頭できますし。僕の中ではトレーニングとのオンオフの切りかえがしやすいので、役立っています。

 

 

パラリンピックイヤーに入っている現時点で、リオパラリンピック金メダルへの自信や手ごたえはいかがですか?

今はまだそんなに。これから自信をつけていきたいかなという感じですね。


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水泳練習時、最後の飛びこみ練習場面

 

そうなんですか??

はい。これからじゃないですかね。自分の中でいいときと比べるとまだまだなので。これから積み上げていって、「良くなっていく」と信じていますけど、だんだん自信がついてくるんじゃないかなと思います。

 

 

平泳ぎの目指すところは世界トップだと思うのですが、2016年1月時点で世界ランキング5位の、150メートル個人メドレーはどうですか?

今まで世界選手権でもメダルは取れていた種目だったので、去年の世界選手権で5位になってしまったのは、凄く悔しい部分はありました。なので、リオではもう一度メダルを狙えるようにトレーニングしていきますし、そのためには、ベストの記録をださなきゃいけないので、しっかりトレーニングしていきます。


ありがとうございました!


このインタビューを企画したのは、パラリンピックを3度経験しているパラリンピアンとして、そして一人の人間として、今、イギリスという“多様性が生きる街”に住んでいる鈴木選手の言葉を聞いてみたいと思ったからでした。2020東京が決まり、わたしたちの暮らす環境も変わりゆく中で、鈴木選手が今後、何を見つめ、どんなメッセージを発信してくれるか?活躍と共にいずれまたお伝えできればと思っています。

前半はこちら⇒Road to Rio vol.68 4度目のパラリンピック出場へ!競泳・鈴木孝幸選手、イギリスから挑む。(前編)


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鈴木孝幸選手 プロフィール

1987年1月23日生まれ。静岡県浜松市北区出身。

早稲田大学教育学部卒業。2009年、株式会社ゴールドウイン入社。

 

小学校から水泳を習い始め、高校で本格的に競泳に取り組み、2004年、高校3年生の時には日本代表としてアテネパラリンピックに出場。100m自由形、150m個人メドレーでのメダル獲得はならなかったが、団体で出場した200mメドレーリレーでは銀メダルを獲得。200mフリーリレーでも4位入賞を果たした。

2008年の北京パラリンピックでは150m個人メドレー、50m平泳ぎ、50m自由形、100m自由形、200m自由形に出場し、50m平泳ぎで金メダル、150m個人メドレーで銅メダルを獲得した。平泳ぎの予選では48秒49の世界記録を打ち立てている。

3大会連続の出場、2大会連続で競泳チームの主将を務めた、2012年ロンドンパラリンピックでは、150m個人メドレー、50m平泳ぎで銅メダルを獲得した。

パラリンピアンとして2020年のオリンピック・パラリンピック招致のアンバサダーも務め、立候補ファイルを提出するなど招致活動に尽力した。


◆関連情報

障害者水泳 世界選手権(2015年7月・グラスゴー)

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