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Road to Rio vol.68 4度目のパラリンピック出場へ!競泳・鈴木孝幸選手、イギリスから挑む。(前編)

2016年02月17日(水)

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ロンドン在住のライターの鈴木祐子です。
アテネ、北京、ロンドンと3大会連続でパラリンピックに出場し、北京での金メダル(50m平泳ぎ)を含む5つのメダルを獲得している競泳の鈴木孝幸選手。実は現在、イギリスに留学中です。リオイヤーの今年、鈴木選手はどう迎えているのか?イングランド北東部に位置する都市、ニューカッスルのノーサンブリア大学へ行ってきました。

 

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こちらはノーザンブリア大学の外観!

 

プレミアリーグサッカーのニューカッスル・ユナイティッドの本拠地としてご存知の方も多いかもしれません。実際鈴木選手も何度かニューカッスルを応援に行ったそうですが、見に行く度に負けてしまうのでもう見に行けないのだとか(笑)。

 

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約2年前に渡英し、この9月からは大学生としてスポーツ・マネージメントを勉強している鈴木選手は、学業とトレーニングを両立させる忙しい毎日を送っています。早稲田大学出身の鈴木選手ですが、日本での大学時代より勉強しているそうで、課題をやりながら図書館に泊まってしまったこともあるとおっしゃっていました 。



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取材にお邪魔した日も、鈴木選手は朝7時半にSport Centralという大学のトレーニング施設へやってきました。緯度の高いイギリスでは夜がまだ明け切っていません。この施設にはプールとジムが同じ建物内に併設されていて、移動に時間をかけずにトレーニングをすることが出来るので便利なのだそうです。


009_IMG_8196_R.JPG010_IMG_8197_R.JPGプールサイドにやってきた鈴木選手はまず入念なストレッチから始めます。


011_IMG_8193_R.JPGその隣ではニール・バウワーコーチがホワイトボードに今日のメニューを書いています。大学の水泳部には健常者の他の部員もいますが、パラリンピックを目指す鈴木選手ともう一人の選手は別メニューです。飽きないように毎回少しずつメニューを変えているのだとか。


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鈴木選手と同じメニューでトレーニングをするのがリンドン・ロングホーンさん。20歳の彼は鈴木選手と同じように障害があるスイマー。鈴木選手のチームメイトですが、パラリンピックの金メダリストでもある鈴木選手は憧れの存在で、鈴木選手を目標に頑張っているそうです。

まずは各自ウォームアップとして好みのスタイルを泳ぎ、練習メニューへと移っていきます。


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ホワイトボードにはそれぞれの目標タイムが書かれています。

Tがタカ(鈴木選手)、Lがリンドンさん。青字で書かれた目標タイムは「4分17秒」。

そして折り返し地点でのタイムは「3分59秒」!リンドンさん、なんだか速くないですか?!

コーチは「カメラが入ってるからだよ~!」と苦笑い。鈴木選手はいつも通りペース配分をきちんと考えて泳いでいるようでした。


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016_IMG_8341_R.JPGコーチ曰く2人の性格は全く正反対。確かに落ち着いていて物静かな鈴木選手とやんちゃなリンドンさんはコーチから見てもなかなかいい組み合わせのようです。


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10歳近く年下で元気よすぎるリンドンさんを時々めんどくさそうに(?)あしらう鈴木選手ですが、それも多分仲の良い証。「お二人で一緒にトレーニングしてるの楽しそうですよね!」と言うと一瞬「え・・・」という鈴木選手でしたが、「仲良くないんですか?!」と聞くと「仲はいいです。」とのこと。ほら、やっぱり(笑)。

 

 

今は3月6日に静岡県で行われるパラリンピック代表の選考会に向けて、ハードなトレーニングの中でも自分のフォームを維持し、レース後半の苦しい場面でもスピードを落とさないで泳げるようにしていく練習をしているそうです。また鈴木選手の持ち味であるスタートからの勢いを最大限に生かすために、最初の15mのスピードアップにも取り組んでいます。飛び込みから入水への角度についてコーチと話している姿も見られました。

017_IMG_8349_R.JPGそもそも鈴木選手がニューカッスルを拠点に選んだのはルイーズ・グレイアムさんというコーチの元でトレーニングをするためでした。でも実はルイーズさんが昨年産休に入ったため、以前からルイーズさんと一緒にコーチングに関わっていたニールさんがコーチになりました。大会経験も豊かな鈴木選手の方がニールさんよりよい方法を知っていることもあるそうで、ニールさんも鈴木選手と話をし、一番良い方法を一緒に模索しながらの挑戦が続きます。



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019_IMG_8373_R.JPGプールでのトレーニングが終わると今度は同じ建物内のジムに移動。紙に書かれたメニューをこなしていきます。ジムではニックさんというトレーナーと一緒にトレーニングを行っています。現在は体幹部分の強化と下半身の脚力の強化に取り組んでいるそうです。



020_IMG_8358_R.JPG最初、鈴木選手はジムでのトレーニングに懐疑的だったといいます。筋肉を大きくすることはスピードを落とすことにも繋がるからです。でもジムのトレーニングはそればかりが効果ではありません。メニューは水泳コーチとも連携の上、筋肉を大きくしないようにしながら鈴木選手のニーズに合ったものが組まれて、その結果タイムのアップにも繋がっているそうです。


021_IMG_8401_R.JPG023_IMG_8408_R.JPG024_IMG_8395_R.JPGジムでも、他の様々な競技の選手たちが、健常者・障害者問わず一緒にトレーニングしています。とにかくみんなアットホームで雰囲気がいいです。そこでもやっぱりリンドンさんは無邪気にあちこち走り回り、そして鈴木選手にもすごい勢いで絡みます。鈴木選手、リンドンさんに本当に愛されているんだなあと思いました(笑)。ちなみに3枚目の、二人が笑顔の写真が私の一番お気に入りです!


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鈴木選手はイギリスが気に入っている理由の一つとして、パラリンピック選手をオリンピック選手と変わらない目で見て興味を持ってくれたということを挙げていらっしゃいました。周囲の人は「2012年に、あの会場にいたの?」「あの舞台に立っていたの?」と憧れの眼差しで聞かれるのだと言います。世界の頂点を目指すアスリートの姿はやっぱりオリンピアンと同じくらいかっこいいんですよね。

 

 

大会と言えば、昨年7月のイギリス・グラスゴーでの世界選手権、鈴木選手のメインの種目である50m平泳ぎの決勝を覚えていらっしゃる方はいるでしょうか?私はレース直後ミックスゾーンにやってきた鈴木選手の困惑のような表情をよく覚えています。そう、予選で大会記録49.55秒を出しながら、決勝でライバルのスペイン人選手ミゲイル・ルーク選手に負けてしまったのです。




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世界選手権でレース直後にインタビューを受ける鈴木選手

鈴木選手のタイムは50秒51。インタビューではかなり悔しい“銀メダル”とお話し下さいましたが…。こちらから試合とインタビューをご覧いただけます。

 

 

敗因について冷静に分析し、泳ぐ量が少なくなっていたことで体力が落ちていたこと、午後の練習の機会が少なく決勝に合わせて万全な体に持っていけていなかったことなどをおっしゃってくださいました。

それらを踏まえた対策を講じている鈴木選手ですが、金メダル奪還への自信や手応えについて聞くと、「今のところは、まだあまり自信はないですね。」という意外な答えが返ってきました。良い時と比べるとフィーリングもまだまだとのことで、これから積み上げていく中で自信がついてくるのではないかと思う、という冷静な口調でした。

 

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英語もネイティブレベルに上手くなりたい!と話していた鈴木選手、コーチやチームメイトたちとコミュニケーションを取っている姿は至ってスムーズでしたが、わからないと思うこともまだあるようです。でもそれは、ジョーディー・アクセントと呼ばれるニューカッスルの訛りが強いからかもしれません・・・。実は取材中、私も時々聞き取れず苦戦しました(苦笑)。昨年の大会で行ったグラスゴーの訛りほどではありませんでしたけど、 なかなか難関だと思います。

 

 

それより訳あって真冬の強風の屋外でインタビューをお願いすることになってしまった時、薄着にもかかわらず「イギリスに住んでいたら慣れましたよ!寒くないです。」と快活に言ってくださった鈴木選手。完全にイギリス人化している、と妙に感心してしまった私でしたが、気を使って言って下さっただけだったら本当にゴメンなさい!

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取材の後は自宅に戻って勉強とおっしゃっていました。学業も本当に大変そうですが、時々は趣味だという楽器演奏や絵画などでリフレッシュしながら、リオへの準備を進められるといいですね。夏までに自信を掴んで金メダル奪還となるように、影ながら応援させていただきます。

 

 

後半は、鈴木選手のインタビューを。アスリートとしてイギリスで過ごす日々と、鈴木選手が考える「パラリンピック」を伺います。
Road to Rio vol.68 4度目のパラリンピック出場へ!競泳・鈴木孝幸選手、イギリスから挑む。(後編)


鈴木孝幸選手 プロフィール

1987年1月23日生まれ。静岡県浜松市北区出身。

早稲田大学教育学部卒業。2009年、株式会社ゴールドウイン入社。

 

小学校から水泳を習い始め、高校で本格的に競泳に取り組み、2004年、高校3年生の時には日本代表としてアテネパラリンピックに出場。100m自由形、150m個人メドレーでのメダル獲得はならなかったが、団体で出場した200mメドレーリレーでは銀メダルを獲得。200mフリーリレーでも4位入賞を果たした。

2008年の北京パラリンピックでは150m個人メドレー、50m平泳ぎ、50m自由形、100m自由形、200m自由形に出場し、50m平泳ぎで金メダル、150m個人メドレーで銅メダルを獲得した。平泳ぎの予選では48秒49の世界記録を打ち立てている。

3大会連続の出場、2大会連続で競泳チームの主将を務めた、2012年ロンドンパラリンピックでは、150m個人メドレー、50m平泳ぎで銅メダルを獲得した。

パラリンピアンとして2020年のオリンピック・パラリンピック招致のアンバサダーも務め、立候補ファイルを提出するなど招致活動に尽力した。



◆関連情報

障害者水泳 世界選手権(2015年7月・グラスゴー)

Road to Rio(競技編)パラリンピックを理解して楽しもう!~競泳~

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