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2024年5月20日(月)

ドジャース大谷翔平・新たなる闘い “止まらぬ進化”とは

ドジャース大谷翔平・新たなる闘い “止まらぬ進化”とは

水原一平元通訳の違法賭博問題で波乱の幕開けとなった大谷翔平選手の新天地でのシーズン。特筆すべきは打率の高さです。両リーグトップに立つなどヒットを量産。最新分析で打撃に“選択肢”が増えていることが明らかに。関係者が「イチロースイング」と呼ぶ打法とは?さらにロバーツ監督が違法賭博問題発覚後、日本のテレビのインタビューに初めて応じました。そこで語った“内面の成長”とは? ゲストは三冠王3回の落合博満氏。

出演者

  • 落合 博満さん (プロ野球・中日元監督)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

ドジャース 大谷翔平

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
メジャーリーグ、ロサンゼルス・ドジャースに、総額1,000億円余りの契約で移籍した大谷翔平選手。バッターに専念する今シーズン、(日本時間)5月20日も、移籍後、初めてとなるサヨナラヒットを放つなど絶好調です。

打率.353(ナ・リーグ1位)
本塁打13本(ナ・リーグ1位)

打率は3割5分3厘、ホームラン13本と、共にリーグトップに立っています。
そして、スタジオには、お孫さんとのお約束でクリスマスまでひげを伸ばしていらっしゃる落合博満さんです。よろしくお願いいたします。

スタジオゲスト
落合 博満さん (元プロ野球選手・監督)
三冠王3回 孫のためクリスマスまでヒゲ増量中

落合さん:
よろしくお願いします。

桑子:
開幕から2か月ですけれども、ここまでの大谷選手の活躍って、どういうふうにご覧になってますか。

落合さん:
本人の中では、もっと数字を上げてもいいとは思っているんだろうと思います。まあ、本人の中では不満なんじゃないですか。

桑子:
さらなる活躍が期待できると?

落合さん:
はい。期待できると思います。

桑子:
進化が止まらない大谷選手。今シーズンの好調の要因は、一体どこにあるのでしょうか。

“新たな進化”の真相

元通訳の違法賭博問題が発覚するという波乱含みのスタートを強いられた大谷選手。本拠地、ドジャースタジアムでの開幕戦。その第1打席。強烈な当たりで、新天地での一歩を踏み出しました。その後も、ヒットを量産。4月21日には打率が3割6分8厘に達し、両リーグトップに立ちました。
今シーズンの大谷選手。特筆すべきは、この打率の高さです。

ドジャース 大谷翔平選手
「ヒットが出ているし、振る振らないの判断を含めて、比較的クオリティーの高い打席」
「基本的にはチャンスメークをすることと、チャンスがきたら返すこと。バッターって、それだと思うので」
大谷翔平選手
「自分が感じが悪いなと思ったときに、改善できる引き出しというのは、毎年、年を重ねていくごとに、経験するごとに、これをやればこういうふうになって、改善されていくんだなというのはわかると思うので、進歩はだいぶしているかなと思います」

大谷選手の高打率を生み出しているのが、変化球への対応力です。

変化球打率
2024年(5月18日時点):.341
2023年までの6年間 :.240

変化球の打率は、ここまで3割4分1厘。2割4分ほどだった2023年までより、1割以上も高くなっています。

MLBデータアナリスト デビッド・アドラー氏
「ストレートはこれまでもうまく打ち返してきましたが、今シーズンは変化球も打てるようになっています。カーブ、スライダー、チェンジアップ、スプリットもよく打っているので、これまで以上の数字を残せています。シーズンを通して、この調子で打っていけば、三冠王やMVPも夢ではありません」

近年、変化球は新たな球種が次々と開発され、打ち崩すのが難しくなっています。

実況
「空振り、三振」

大谷選手も例外ではありませんでしたが、今シーズンは一気に改善。
いったいなぜなのか。先週、メジャーリーグが初めて公開した最先端のデータに、その秘密が隠されていました。

これは、大谷選手のバットの軌道です。ボールを打った瞬間のバットの位置、「ミートポイント」に着目します。

ホームランの場合で見てみると、その多くは、ミートポイントがホームベースよりも前、ピッチャー寄りであることが分かります。

ところが、1本だけ、ミートポイントがホームベースの中央付近だったものがありました。この時の球種はスライダー。変化球でした。

ミートポイントは画面右の時より、およそ50センチも後ろ。スライダーの球筋をギリギリまで見極め、十分に引き付けて、ボールを捉えていることが伺えます。

MLBデータアナリスト デビッド・アドラー氏
「スライダーやチェンジアップをギリギリまで見極めています。より長くボールを待てれば、変化球への対応も楽になります。大谷選手はボールの到達を待って、うまく当てているのです」

大谷選手のバッティングを最も近い位置で見ている、相手のキャッチャーは。

ジャイアンツ ブレイク・セイボル選手
「打てるぎりぎりのタイミングでバットが出てきます。だから、タイミングをずらしても打ち返されてしまいます」

時には、こんなハプニングもありました。

実況
「おっと、何か、大谷がちょっとアピールをしていたんですが…」

ボールをギリギリまで引き付けた結果、大谷選手のバットがキャッチャーのミットに接触。打撃妨害で出塁となりました。

この打法を、大谷選手はどのように習得したのでしょうか。

2024年、春のキャンプ。大谷選手は、ミートポイントをイメージするかのように、スイングの軌道を繰り返し確認していました。
この練習を指導したベイツバッティング(打撃)コーチです。

ドジャース アーロン・ベイツ打撃コーチ
「ミートポイントのところで止めるのです。スローモーションのようにして、フォームを確認します。バットの軌道を感じ、スイングを分解し、再構築します」

試合中も、似たようなしぐさを繰り返します。

実況
「今、大谷が腕の使い方を確認しながら帰ってきました」
大谷翔平選手
「どういう見え方、軌道で振った方がいいのかというのをイメージしておかないと、やった直後がいちばん落とし込めるかなとは思います」

ベイツコーチは、大谷選手のこの打法を、独特の呼び方で表現しました。

ドジャース アーロン・ベイツ打撃コーチ
「我々はイチロースイングと呼んでいます」

巧みなバットコントロールで、メジャーリーグで2回首位打者を獲得したイチロー選手。レジェンドの名前を呼び名につけて、チームは、大谷選手の飽くなき挑戦を後押ししています。

ドジャース アーロン・ベイツ打撃コーチ
「大谷選手は多くの武器を持っています。出塁する方法も、スイングも複数持っているのです。状況によって、長打を打ったり、イチロースイングをしたり、球種を絞ったり、見ていて楽しいです。彼が成し遂げることに限界はないと思います」
大谷翔平選手
「打球の角度とか自体はスイングの軌道で決まるとは思っているので、スイングの軌道は構えから決まっていますし、なので、僕は構えが大事だというのが、僕の考え方ではあるので、構えが決まれば、軌道もよくなるし、力の伝わるスイングになるし、というところですかね」

今、メジャーリーグでは、ホームランだけをねらい、ホームランを打てなければ三振でも構わない、というバッターが増えているという指摘があります。
そうした中、ヒットを打ち、ホームランも打ち、さらに、盗塁もできる大谷選手は、ベースボールのだいご味を体現する貴重なシンボルなのではないか。そんな見方が広がっています。

地元紙ドジャース担当 ビル・プランケット記者
「ホームランが増え、それに伴って三振も増えています。三振かホームランか、そんな試合をファンは喜ぶでしょうか。私はいろいろなプレーが見たいです。アクションが多いほど、エキサイティングに見えます。大谷選手は特別な存在なのです」

落合さんが解説 構えとスイング

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
今シーズンは変化球の打率がよいということでしたけれども、落合さん、なぜ、それが実現できているのか。そちらのバットを使って教えていただけますか。

落合さん:
結局、自分が打てる高さ、コース、その幅が広がったんだと思います。

構えたときに、状態のいい時というのは、腰の上に必ず上体が乗っていて、それで自分の目線とバットの目が一致して、振っていく。

悪くなってきたとき、こうやって、くの字になって、先に体が行ってしまって、バットの目線がここにあって、自分の目線と一致してないというところが空振りする原因であって。それがだんだん、VTR見てても、引くやつでも、自分の目線とバットの目線が合うように合うようにバットを振っていっている。それが変化球を打てるコツなんだろうと思います。

桑子:
ホームランとヒットって、打ち分けているものなんですか。

落合さん:
いや、大谷くらいになると、打ち分けてはいないと思います。全部自分のポイントに来たボールを、ホームランを打つポイントにもってきて、それで、ポイントがずれたやつが打ち損じでヒットになっているということなんだろうと思います。

桑子:
基本的には、すべてホームランを打ちに行っているということですか。

落合さん:
というのがバッターの習性であると思います。ホームランバッターであれば。

桑子:
そうですか。大谷選手、まさにそうということですよね。

そして、大谷選手の空振り率なんですけれども、2023年と比べて、2024年(5月18日現在)26.2%ということで、かなり低くなっているんですよね。この要因って、どういうふうに考えていらっしゃいますか。

落合さん:
これは、2023年にエンジェルスで野球をやっていて、2番打っていて、3番がトラウト。どうやっても求められるのはホームランですよね。ホームランにならないボールでも無理に振りにいって、低いボールとかというのを空振りしてたけども。今、ドジャースの打線を考えてみると、後ろに打てるバッターが何人かいますよね。だから、打線の中で自分の役割分担というのは、ここはホームランでもいい、最悪ヒットでもいいという割り切り方ができたんだろうと思います。

桑子:
気持ち的に割り切れるようになった。

落合さん:
無理して打ちに行かなくても、自分は塁に出ればいいんだということで、徹しているんだろうと思います。

桑子:
本当に非の打ちどころがないのかなと素人目線で思ってしまうんですけれども、まだまだ伸びる余白というか余地というのはあるんですか。

落合さん:
野球やめるまで伸びる余地はあると思います。

桑子:
やめるまでですか。

落合さん:
はい。本人、構え方が大事だって言っていたでしょう。俺も野球やめてもう二十何年になるけど、構え方、どこで構えたら自分でちゃんとしたスイングができるのか、いまだに答えは出ていませんもん。

桑子:
いまだにですか。

落合さん:
だから、大谷も、やめるまで、やめてからも、自分はどこで構えたらちゃんと打てるのかという答えは見つからないと思います。

桑子:
それが野球なんですね。ありがとうございます。
さまざまな点で大きな進化を遂げ続けている今シーズンの大谷選手ですけれども、変わったのはプレーだけではありません。移籍早々に異例の事態に見舞われた中、どう乗り越えていったんでしょうか。

大谷翔平“内面の変化” 監督らが明かす舞台裏

大谷翔平選手
「僕自身も信頼していた方の過ちというのを、悲しくというか、ショックですし、今はそういうふうに感じています」

開幕直後に起きた、水原一平元通訳の違法賭博問題。連日、多くのメディアがこの問題を取り上げ、大谷選手には好奇の目が向けられました。睡眠が十分に取れない日もあったといいます。
7年前、一緒にアメリカに渡り、以来ずっと共に歩んできた2人。「体調はどうか」「試合には出場できるか」といった日々の情報のやりとりをする際には、常に水原元通訳が間に入っていました。

エンジェルス ジョー・マッドン監督(当時)
「一平を介して、翔平と私は翌日の予定について話します」

チーム側と大谷選手側とのこうした関係性は、2023年12月にドジャースに移籍して以降も引き継がれてきました。
ドジャースのロバーツ監督です。問題の発覚後、初めて日本のテレビのインタビューに応じました。

ドジャース デーブ・ロバーツ監督
「彼が初めて春のキャンプに来て、我々の中に入ってこようとしたときは、距離を感じる部分がありました。すべて水原元通訳を通していた感じでした。チームメートとも、コーチやメディアとも。しかし、この1か月で彼はオープンになり、信頼関係を築けたと思います」

試合中のひとこまです。大谷選手が、自分でチームメートに話しかけています。時には、1対1で話し込む場面も。エンジェルス時代には、ほとんど見られなかった光景です。

ドジャース デーブ・ロバーツ監督
「今は自主性が高まってきていて、とてもいい傾向です。これまでとは環境が異なるので、居心地が悪いことがあるかもしれません。ですが、彼は成長し、大人になったと思います。それを私は誇りに感じます。人は経験を積むものですが、今回はつらい教訓になりました。今は以前より、インタビューに応じていますし、彼がどんな人間であるかを見せています。“緩衝材”(水原元通訳)がなくなった今、翔平の真の姿を見られるようになりました。それは、私にとって楽しいことです」

ここ10シーズン、観客動員数トップを誇る超人気球団、ドジャース。選手たちは、ファンの熱い視線を常に浴びながら戦っています。
移籍早々、大谷選手は違法賭博問題について、みずからの言葉での説明を求められました。その会見の最中、チームメートたちは、ある行動をとっていました。

この場に来る予定がなかったはずの仲間たちが姿を現したのです。

ドジャース キケ・ヘルナンデス選手
「翔平のそばにいて、支持を表明するべきだと思いました。『これは僕たちにとって、集中を妨げる要因にはならず、問題にもならない』。そのことを、彼に確実に伝えたかったのです」

大谷選手に連帯の姿勢を示したチームメートたち。その後、大谷選手と接する中で気付かされたことがあるといいます。

ドジャース ジェームズ・アウトマン選手
「驚いたよ。フィールドの外で、あんな気がめいるようなことが起こっているのに、時速100マイル(161キロ)の速球を打ち返せるなんて、そんな選手なかなかいないよ。野球をするのが僕らの仕事、グラウンドにいるときは、そこが仕事場、そういうものなんです」
ドジャース ミゲル・ロハス選手
「彼はプロフェッショナルで、すべてにうまく対応していました。球場にも変わらず来ていました。彼はやるべきことに集中できるタイプです。今回の事件で、翔平がどんな人なのか、困難に直面したときに、どういう対応をとる人なのか知ることができました」
大谷翔平選手
「最初の1か月が1か月だっただけに、逆に僕からしたら、気にしないでほしいというか、むしろ笑いに変えるくらいのコミュニケーションというか、そこを別にグラウンドに持ち込んでほしくもないと思っていますし、そこはそこで自分で処理すればいいだけなので、もうチームメートには、普通に冗談も言い合える雰囲気というのが、すごく僕にとっては楽かなと思います」

落合さん語る“進化”“これから”

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
落合さんも、監督という立場で多くの選手と接してこられたと思いますけれども、この大谷選手の変化って、どういうふうに感じていらっしゃいますか。

落合さん:
自分で会見を開いて、自分の一連のことに関しては、すべて第三者に任せたでしょう。そこで一区切りつけたんだと思います。

桑子:
自分で区切りをつけた。

落合さん:
人がつけるんではなくてね。あとは司法の場に任せると。だから、自分の仕事は何なのかということになったときに、自分は10年契約で1,000億の契約を結んでいるわけですから、野球をやるのが自分の仕事なんだというところに切り替えたんだろうと思います。

桑子:
落合さんも、さまざまな選手がいる中で、もちろん野球だけではなくて、プライベートで波のある選手もいたはずです。どういうふうに、そういう選手たちを束ねていらっしゃったんですか。

落合さん:
やっぱり選手は野球をやるのが仕事で、グラウンドで、いかにして数字を残すかということだけを追い求めていって。あとは、他のことに関しては、自分たちで処理しなさいという。だから、グラウンドでは、そういう姿は一切見せるなというようなことを、無言のうちに言ってましたね。

桑子:
言葉で言うのではなく。

落合さん:
成績が悪ければ2軍に落とすし、よければ使い続けるというようなことをしていましたね。

桑子:
それで選手たちも感じ取って、仕事は仕事というふうに割り切っていらっしゃったんでしょうかね。

さあ、ドジャースは現在、順位を見ますと、ナショナルリーグの西部地区で首位ということで、この調子で行けば、大谷選手自身初となるプレーオフの進出、そして、ワールドシリーズも期待できると考えていいでしょうか。

落合さん:
地区シリーズは確実に優勝すると思います。その先というのは短期決戦ですから、必ずしもワールドシリーズに出て優勝できるとは限りませんけれども、最善の努力はすると思います。

桑子:
そして、大谷選手個人に期待されることはどんなことでしょうか。

落合さん:
日本人ではいちばん難しいホームラン王を2023年にとっていますから、ぜひとも、まだ話題にするのは早いけども、三冠王というものを大いに期待したいと思います。

桑子:
まだ早いけれども。ただ、それをやってくれるんじゃないかという気にさせてくれる選手ですよね。

落合さん:
そうです。

桑子:
ありがとうございます。今夜は落合博満さんをお招きしました。

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