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2023年11月7日(火)

緊急報告・ガザ内部で何が 死者1万人超・停戦への道は

緊急報告・ガザ内部で何が 死者1万人超・停戦への道は

イスラエル軍地上部隊の接近に脅えるガザ市の中核病院。仲間を殺された怒りに震えるガザの若手ジャーナリスト。通信遮断や電力不足の中、抗うように送られてくる映像から見えてきた“報復攻撃”のリアルな実態とは。一方イスラエルでは「報復やむなし」という声が大勢を占めています。何が停戦を阻んでいるのか。ガザで起きている深刻な“大量殺りく”を止めるために日本と国際社会に何ができるのか。独自入手の内部映像と共に検証しました。

出演者

  • 鈴木 啓之さん (東京大学大学院特任准教授)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

緊急報告 ガザで何が 市民から届いた「映像」

桑子 真帆キャスター:

イスラム組織ハマスがイスラエルに奇襲攻撃を仕掛けてからきょう(11月7日)で1か月。イスラエル軍はガザ地区に地上部隊を投入し、南北を分断。爆撃が始まった当初と異なり、通信が頻繁に遮断され、ガザの中で今何が起きているのかを知ることは日に日に難しくなっています。

こうした中、内部の現状を伝えたいと僅かにインターネットがつながった間に市民たちが、私たちのもとに映像や写真などを届けてくれています。まずは北部。イスラエル軍による地上侵攻によって人々が追い詰められています。

病院に弾丸が 深刻化するガザ北部への攻撃

中東の現地代表としてガザ市内の病院と連絡を取り続けている、日本赤十字社の松永一さん。現地スタッフとのやり取りが日増しに難しくなっています。

日本赤十字社 中東地域現地代表部 松永一さん
「『今、大丈夫か?』と(メールを)送りました。通信の途絶っていうのは頻繁に起こってます」

松永さんたちが4年前から技術支援に当たっているクッズ病院はガザ北部の中核病院の一つで、付近には500人近くが爆発で亡くなったとされるアハリ病院や、イスラエル側が「ハマスの拠点がある」として攻撃を強めるシファ病院があります。イスラエルは病院を狙った攻撃さえも正当化。クッズ病院でも危機感が高まっています。

11月5日

イスラエル軍 ハガリ報道官
「ハマスが病院の背後に隠れている。ハマスの病院悪用を終わらせなければならない」

イスラエルによる攻撃が始まったことで病院の景色は一変。1万4,000人の住民が駆け込み、毎日多くの負傷者も運び込まれるようになりました。

松永一さん
「この彼ですけどね。『早く南部に行け』とは言ってたんですけど、『患者さんを見捨てるわけにはいかない』と。『病院には残る。爆撃があってもいるんだ』って言ったあとに送ってきた写真で。これ見たときに胸詰まりました」

その後、病院のスタッフから送られてくる映像には攻撃が差し迫っている様子が映し出されるようになりました。そして先週、事態はさらに深刻化。

松永一さん
「今病院にいて、周りにスナイパー(狙撃手)がいて人々を撃ってると」

「ただちに退避せよ」。イスラエル軍は病院も例外ではないと警告。病院内に弾丸が撃ち込まれたといいます。松永さんは、中立的な立場で人道支援を担ってきた赤十字の病院まで狙われるとは考えていませんでした。

松永一さん
「明らかな(国際)人道法の順守の否定が行われている。実力行使には出ないんじゃないかと思ってたんですけど、実際きょうはこういう形で実力行使に出てきていますので、非常にまたちょっと一段階厳しい段階に入ったのかなと」

イスラエル軍に包囲され、攻撃が激化するガザ北部。通信の遮断が頻発する中、病院のすぐ近くに住む夫婦がきのう(11月6日)状況を伝えてくれました。

サイード・マカドマさん
「昨晩はずっと戦車や戦闘機による攻撃を受けていました。この3日間は地下の駐車場で寝泊まりしています。きょうで(貯蓄した)飲み水も底をつきます」
妻 サミーラさん
「もう限界です。どのくらい耐えられるかわかりません」

ジャーナリスト・映像作家が訴えるガザ南部の現状

イスラエルが退避先としているガザ南部。ここでも危機が深まっています。

ムハンマド・マンスールさん(27)は、2023年4月からフリーのジャーナリストとして活動しています。イスラエルからの攻撃があればすぐに現場に駆けつけ、リポートや被害の様子を撮影。1日のうち、通信がつながる時間を見つけては私たちに映像や音声を送り続けています。

ジャーナリスト ムハンマド・マンスールさん
「このメッセージが世界に伝わるのが私の願い。私たちの権利に対する犯罪が行われています」

幼いころからイスラエルの爆撃などで何度も自宅を奪われてきたムハンマドさん。日本のNPOの支援を受け、ジャーナリストを志すようになりました。

11月5日、送られてきた数枚の写真。添えられていたのは「心が折れてしまった」という言葉でした。結婚したばかりのムハンマドさんが、2022年、借金をして建てた新居が破壊されたと伝えてきました。

ムハンマド・マンスールさん
「ミサイル1発で全財産も思い出も潰されてしまいました。何もなくなった家を前に、ぼう然としました。イスラエルはパレスチナ人に何を望むのでしょうか。(ハマスによる攻撃が起きた)10月7日の罰なのでしょうか。その報復として子どもたちが殺されるのが当然なのでしょうか」

かつてガザ地区にあった日常。それが失われた責任は国際社会にある。そう訴える映像作家がいます。自宅を壊され、南部の親類の家に身を寄せるユーセフ・ハンマーシュさんです。

映像作家 ユーセフ・ハンマーシュさん
「国際社会は自分たちの役割をまったく果たしていません。私たちを人間として扱う責任を果たしていないのです。私たちの味方になってくれとは言いません。何の支援もいりません。ただ、この狂気を止めるために、あなたたちの力を使って欲しい。それだけです」

10年近くにわたり、命の危機と背中合わせに生きるガザの人々を記録してきたユーセフさん。今もみずから撮影した映像をSNSを通じて世界に発信し続けています。

ユーセフ・ハンマーシュさん
「きのうの私は生まれたばかりの住民に出会った。新生児のいる生活は、どんなにいいときでも大変だ。しかし少なくとも、このしばらくの間は、この家族は戦争のことを忘れ、新しいメンバーとの時間を楽しもうとするだろう」

この1か月、伝えようとしてきたのは生きようとするガザの人々の姿。次第に脅かされていく営みにカメラを向け続けています。

ユーセフ・ハンマーシュさん
「夜になると新たな悪夢が始まります。眠れる者はほとんどいないだろう。眠れたとしても、あす起きられるかどうかは誰にもわからない。誰もが毎日、食べるものを探す闘いに直面している。この受け入れがたい状況の中で、世界は私たちを見捨てています。私たちは包囲され、電気も燃料も水もありません。攻撃が始まってからは爆撃がやむ時間は1秒もありません。いつ自分に(死ぬ)順番が回ってくるか、常に感じています」

死者1万人超 停戦は

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは中東の近現代史が専門で、パレスチナ情勢に詳しい鈴木啓之さんです。電気も燃料も水もないという訴えがありましたが、今のガザの状況をどう感じていますか。

スタジオゲスト
鈴木 啓之さん (東京大学大学院特任准教授)
中東近現代史が専門 パレスチナ情勢に詳しい

鈴木さん:
非常に悲しい事態が続いている、受け入れがたい事態が続いているのが率直な印象、感想です。ガザ地区において今、失われてしまった命というものが1万人以上に達しています。

それだけではなく、今ガザで起きているのはこの地域に暮らす220万とも言われる住民たちの全体の命が脅かされているということです。電気、水道といった生活のライフラインが遮断されています。安全な飲料水が確保できない。それはすなわち命に関わることなわけです。

ガザ地区においてですけれども、今、イスラエル軍としては北部地域に部隊を展開している状態にありますが、そこから南部に避難できていない住民もたくさんいます。そうした人々の命が、今この瞬間も危機にさらされている。こうした事態が起きているわけです。

桑子:
そもそもハマスの奇襲攻撃というのは到底容認できないわけですが、その報復としてこれだけの命が奪われ、子どもの命もこれだけ奪われている。これも許すことはできないですよね。

鈴木さん:
そうですね。現在、ガザ地区の中でですが、イスラエルとしては特に現在、軍事行動を行っている、集中的に行っている北部地域の住民に対して、複数回にわたり避難勧告、通告を行ってきました。この点で人道主義的なポーズというのを見せてきているわけですが、今、実際にガザで起きていることというのは民間の学校であるとか病院であるとか、または避難所、シェルターのようなところに対して攻撃がなされてしまっているという現実です。

もし、こうした民間の施設に対して意図的に攻撃をしているということになりますと、国際法が禁じている、そうした違反行為が行われているということが強く疑われる状況にあります。

桑子:
国際法に違反しているとなると、なぜそれを止めることができないのでしょうか。

鈴木さん:
非常に悲しいことですけれども、国際法に関して言えば法的拘束力というところに問題があるわけです。それを守らせるような枠組みというものがなかなか確立できていない。これは、これまでのさまざまな地域紛争でも指摘をされてきました。今、ガザで起きていること、まさにその問題が改めて浮き彫りになっている、そういうふうに言っていいのだろうと思います。

桑子:
こうしている間にもガザでは犠牲者が増え続けています。そうした中で世界各国で今、停戦を求めるデモが相次いでいます。国際社会からの批判が高まる中で、なぜ停戦は実現しないのでしょうか。

イスラエル世論は今 強硬姿勢の背景は

11月5日、空軍基地を激励に訪れたネタニヤフ首相。

イスラエル ネタニヤフ首相
「“停戦”という文字は、われわれの辞書から抜き取った。ハマスに勝利するまで継続する」

イスラエルが強硬な姿勢を続ける背景には国内の世論があります。ハマスの奇襲攻撃のあと、イスラエル軍はハマスの戦闘員が市民を殺害する動画などを公開。メディア各社もハマスの残虐性を繰り返し伝えています。

世論調査では地上作戦を“必要”とする声が8割近くに上りました。

イスラエル市民
「私はハマスを破滅させ、打ちのめしてほしいのです」
イスラエル市民
「ハマスは全員を殺そうとしている。狂っています。(ハマスを)完全に終わらせるべきだ」

ハマスに人質を取られた家族の中にも停戦に反対する人がいます。

娘と息子が人質に取られているイラン・レゲブさんです。このひと月、デモや集会に参加し、解放を訴え続けてきました。

娘と息子が人質 イラン・レゲブさん
「私たち家族は苦しい時間を過ごしています。とても彼らが恋しく、泣いています。私は彼らのことを本当に愛しています」

人質となったのは、21歳のマヤさんと18歳のイタイさんです。当時、音楽イベントに参加していた2人。マヤさんがハマスの襲撃のさなかに撮影した動画が残されています。

マヤさん
「お父さん、彼らが私を撃っている」
レゲブさん
「いまどこにいるんだ?」
マヤさん
「彼らは私たちを殺すつもりよ」
イラン・レゲブさん
「10月7日を境に人生が変わりました。自分の体の一部が死んでいるようです。何ひとつ興味が持てません。ただ子どもたちを取り戻したいだけです。毎日、地獄にいるようです」

レゲブさんは子どもたちの無事を祈りながらも、停戦はせず、ハマスを追い込むことで人質の解放につなげてほしいと考えています。

イラン・レゲブさん
「地上作戦で何が起きるか分からないですが、私は軍を信じています。つらいです。子どもが心配ですが、それでも停戦はしないでほしい。(ハマスが)停戦を望むならば、子どもたちを解放すべきです」

一方のハマス。隣国レバノンで取材に応じた政治部門の幹部は、イスラエルとの戦闘をやめる意思はないと明言しました。

ハマス 政治部門幹部 オサマ・ハムダーン氏
「イスラエルは依然として虐殺を行い、この地域で容認できない存在だ。抵抗はゆるぎない正当な選択肢であり、イスラエルによる占領が終わるまで続く。ネタニヤフ政権はパレスチナ問題の一方的な清算を試みており、戦いは重要性を増している」
取材班
「多くの犠牲が出ていることに責任は感じないのか?」
オサマ・ハムダーン氏
「命を落としたのは同胞だ。責任を問われる筋合いはない。殺りくの直接的な責任はイスラエルにある。われわれの責務はこれまでパレスチナで流れた血に対する復しゅうを行うことだ」

国際社会の使命は

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
こうして見ますと双方の考えは全く相いれません。であるならば第三者である国際社会が何か解決を目指すべきだというところではあるのですが、なかなかその糸口を見いだせていないわけですよね。どうしてだと考えていますか。

鈴木さん:
イスラエル・パレスチナに関して実効力のある形で働きかけができる第三者といいますと、まずアメリカが考えられるわけですが、アメリカとしては今回の事態に関してイスラエルを支持するという姿勢を当初から示し、かつ、それを今も堅持しているという段階にあります。ハマスによる行為をテロリズムであると非難をし、かつイスラエルの自衛権を認める、擁護していくという姿勢を示したわけです。

一方で、ガザ地区の中では住民たちに対してライフラインが止められていく。これはある意味で集団懲罰といっていいような状態にあるわけですが、これに対してアメリカが止め役としての機能を果たしていないという現実があります。これは、国連などの場でも大きく影響を及ぼしてしまっていると言えると思います。

つまり、国連の安保理での動きというのが典型的ですが、ロシア、中国、アメリカなどそれぞれの軸ごとにこの事態に対してばらばらの対応をしてしまっている。その結果、決議すら安保理では採択できないという事態が見られました。

現在のガザの情勢に関して、周辺の大国であるとか世界でリーダーシップをとっていくような国が有効な働きかけができていない。そういうふうな事態が今起きていると言えます。

桑子:
なかなか足並みはそろっていないということですよね。

日本の中東和平 3つの柱(イスラエル・パレスチナ暫定自治政府)
・関係者との政治対話
・当事者間の信頼醸成
・パレスチナ人への経済的支援

そうした中で日本という立場を考えた時、日本はこれまで「中東和平 3つの柱」ということでオスロ合意のあと、こうしたイスラエル・パレスチナ暫定自治政府、双方に対して働きかけをしてきています。こうした日本が今の異常事態の中でできることがあるのではないかと思うんです。

鈴木さん:
そうですね。日本としては意外に重要な立場に今あると言えると思います。まさに「3つの柱」というところですが、イスラエル・パレスチナ双方の社会との関係性を日本は維持しています。特にイスラエル社会とは、この10年間程、経済関係が非常に深くなってきています。また、パレスチナ社会に対してはもう70年になりますが、UNRWAという国連のパレスチナ難民救済をメインとしている機関がありますが、そこへの拠出金を出して70年間の関係性がある。さらにはJICAを通した顔の見える形での支援を続けてきました。

そうした両者との関係性を通して、当事者間の対話を模索していこうじゃないか、それが日本の立場だったわけです。両方の社会に日本は声を届けることができる、そういった位置づけにあります。もちろん政府レベルでハマスとの関係はありません。しかし、ハマスが根ざしているパレスチナ社会では日本の声が響く形になっているわけです。

であるならば、この立場を使って日本として停戦を求めていく。または現在の事態、少なくとも民間人の命や財産が脅かされている、さらにこの先失われていく可能性がある。この事態に対して許容できないという声を上げていくのは重要なのではないかと思います。

桑子:
重要な役割を持っている中で、現状はどう評価されていますか。

鈴木さん:
現状としては少し厳しいことを言わざるを得ません。国連総会での人道的休戦を求める採決というのに日本としては「棄権」をしています。第三者的な立場を貫くのだということが理由であったわけですが、中東和平の3つの柱を見ますと、両方の当事者との関係性を構築していくということで言いますと、より踏み込んだ形での働きかけができないのかということは問われていくことだと思います。

桑子:
そして、このあと戦闘がどうなっていくのか本当に心配なわけですが、世界が手をこまねいている間にも犠牲は増え続けている。このあとの展開というのはどのように見ていますか。

鈴木さん:
ガザ地区での犠牲というのは日々増えていきます。それは非常に悲しいことです。そして、この事態を受けて同じくガザ地区と同じくですが、パレスチナの暫定自治区を形成しているヨルダン川西岸地区の情勢が非常に緊迫をしていると言えます。

今回の出来事が起きる前の段階で、過去16年間で最大の死者がヨルダン川西岸地区で出ていたんです。ヨルダン川西岸地区情勢が非常に緊迫化していると分析をしてきました。それが今回の10月からのガザでの動きを受けて、ヨルダン川西岸地区で100人を超える方々がまた亡くなっているわけです。明らかに波及をしています。

それだけではなくて、イスラエルとしては懸念すべきは北部ですね。レバノンというのがイスラエルの北側にありますが、ここを拠点にしているヒズボラという武装組織がイスラエルとの間で戦闘を交えている状態にあります。今のところ限定的な応戦ということは双方になされているわけですが、これが本格化しないという保証はないわけです。

ヒズボラの代表であるハサン・ナッスルッラ書記長という方がいますが、この人物が今のところは本格参戦はしないという宣言、演説をしました。しかしながらあくまで今のところということです。

ガザ地区情勢というのは、このヨルダン川西岸地区、そしてレバノンとイスラエルとの間、こういったところに大きく波及する可能性を持っている。この点、私たちは決してこの事態を楽観視はできないのだろうと思います。

桑子:
これが中東全体に及んでいくのか、このあとも注視していく必要があります。出口の見えない戦闘、そして人道危機。私たちも今後、注視していきます。

世界が一人でも多く考えてほしい

ガザ出身 サラ・アラフィフィさん
「ここは東京の渋谷のような通りです。でも全て破壊されてしまいました」

日本に暮らすガザ出身の女性。家族は自宅を空爆され、避難生活を送っています。

サラ・アラフィフィさん
「毎日ニュースに家族の名前が載らないことを祈ることしかできません。世界が『この問題は複雑だ』と言っている間にも人々が亡くなっています。1人でも多く、そのことを考えてくれればと思っています」
見逃し配信はこちらから ※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

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