クローズアップ現代 メニューへ移動 メインコンテンツへ移動
2023年10月18日(水)

解散命令請求“その先”に何が~旧統一教会と新たな難題~

解散命令請求“その先”に何が~旧統一教会と新たな難題~

政府から解散命令請求が出された旧統一教会。裁判所の審理を経て解散命令が確定した場合、教団は宗教法人格を失うことに。だが、そこには数々の難題が。教団の財産保全は?被害者への返金は?信者が教団を離れたときの受け皿は?…信者の親をもつ2世たちは危機感を強めています。一方、現役2世信者からは、差別や偏見が強まるのではないかという不安の声も。解散命令請求を受けて新たなフェーズに入った旧統一教会問題を検証しました。

出演者

  • 櫻井 義秀さん (北海道大学教授)
  • 江川 紹子さん (ジャーナリスト)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

「解散命令請求」の裏で…岐路に立つ旧統一教会

桑子 真帆キャスター:
16日、教団側は会見を開き「請求は遺憾で、信教の自由のみならず人権にとって深刻な事態だ」などと国の対応を批判したうえで全面的に争う姿勢を示しました。

今回、解散命令請求が出されたことで、今後は裁判所が命令を出すかどうか判断することになります。もし解散命令が確定すれば、宗教法人格が剥奪され、税制上の優遇措置などが受けられなくなりますが、任意の宗教団体として、布教活動や献金を続けることはできます。

高額献金などの問題が積み残されるのではないか。被害の救済は確実に行われるのか。信者の親のもとで苦しんできた2世たちは危機感を募らせています。

旧統一教会“2世”は今

旧統一教会の2世である、杉本さん(40代・仮名)です。10月、親と暮らしている実家を離れることを決めました。

元信者の2世 杉本さん(仮名)
「教会のことがあって家を離れざるを得ないというのは、非常につらいところがあります」

きっかけは、献金のために両親の借金が膨れ上がったことでした。30年以上信仰を続けている両親。献金の総額は1億円を超え、借金の残高は1,000万円に上るといいます。過去には杉本さんにも借金をするよう頼んできたこともありました。

杉本さん
「サラ金とかカードをちょっと作ってくれないかと。全部で7社、合計借りた金額は300万円近くになります」

杉本さんは、せめてこれからは献金を控えてほしいと両親に訴えました。しかし…

杉本さん
「『献金はこれからもやっていく』。かなり激しく言い合いになりました。『私たちのことで迷惑をかけない』『縁を切ってもいい』とまで、このとき母は言いました」

仮に解散命令が確定しても、収入があれば献金を続けるという両親。自分の家族の生活を守るため、杉本さんは妻や子どもと家を出ることを決めました。

杉本さん
「本当は親子仲はいいですし、協力してやっていきたいという思いはあるんですけれども。あの調子でこれからも(献金を)続けてしまったら間違いなく共倒れになりますので、たもとを分かつしかないという決断をせざるを得なかった」

高額献金などの問題を受けて改革を進めているとする教団。借金などをしての過度な献金をしないよう指導を徹底し、本部がある韓国などへの送金を凍結するとしています。

その改革の実効性に疑問があると訴えている2世もいます。多額の献金を行う両親に自身の貯金から数百万円を渡したという田中さん(30代・仮名)です。

元信者の2世 田中さん(仮名)
「教会の(グループ)LINEの中で献金基準変更の案内ということで」

2023年8月、教団から信者に送られてきたメッセージ。韓国での研修に参加する際の献金方法が記されていました。

田中さん
「修練会に参加する方は、献金は振り込みせず、直接日本円を持参して受付をするようにしてください」

海外送金は凍結するとした一方で、韓国に直接持ち込まれていく献金。教団の方針に矛盾を感じている田中さん。今後、教団の財産も海外に移され、被害者の救済が滞るのではないかと危惧しています。

田中さん
「統一教会の内部での自浄能力はもうないんだ。これから改革していこうという意思は全く感じられないですね」

田中さんが仲間と立ち上げた宗教2世を支援する団体のシンポジウム。高額献金の問題だけでなく、信仰の自由などさまざまな権利を奪われてきた実態など、2世が抱える苦悩の声が訴えられました。

田中さん
「この解散(命令)請求が終わりではないし、(2世の)目に見えない被害として心の傷っていうものが、ものすごく深いですね。一生引きずっていくものだと思います」

親が信じる宗教の信仰を強いられ、生きづらさを抱えてきた2世たち。

解散命令請求をきっかけに、親と直接向き合うことを決めた人もいます。

元信者の2世 吉田さん(仮名)
「この3種類を主に服薬していて」

10年ほど前に信仰を離れた、20代の吉田さん(仮名)です。心療内科に通う日々が続いています。

吉田さん
「不安症が出てきたりとかパニック障害を抱えたりとか、それは心の奥底に消えないものとしてずっと存在してはいます」

高校生になったころ、教団内で行われる高額献金などに悪質さを感じたことをきっかけに、自身の生い立ちに違和感を抱くようになったといいます。

吉田さん
「教団のトップが(信者の)写真を見ただけで結婚させた間で僕が生まれているので、僕の出自を僕自身が拒否するというか、全部崩れたという感じ、感覚はすごいありました」

2022年、安倍元総理大臣が銃撃された直後、吉田さんは一度、父親に宛ててメッセージを送ったことがあります。

吉田さん
「『ここまでの人生で、一つでも違う道を歩んでいれば、私も山上のようになっていたでしょう、間違いなく。』というふうに書いています」

被告の境遇に自身を重ねた吉田さんの言葉。

しかし、父親からは納得のいく答えは返ってきませんでした。

吉田さん
「なんで分かってもらえないんだろうっていう気持ちがまず第一にきて。分かってくれよっていう怒りもわいてきた」

教団のあり方が厳しく問われている今なら父親も向き合ってくれるのではないか。吉田さんはふるさとに戻ることにしました。

吉田さんの父親です。およそ40年前に教団に入りました。信仰を続ける父親に、これまで直接話せなかった思いを打ち明けました。

吉田さん
「俺の命って、文鮮明氏の手が介在しないと生まれていないのは分かるでしょ。俺としては自分の命の価値って何だろう、自分が生まれてきた意味、何だろうって考えたときに、1世の教団の教義の実践のために生まれてきたんだと思わざるを得ない。だから自分の命にはそれほど価値はないだろうと思っちゃう。そのあたりはどう思ってるの?」
父親
「ただ教会を信じる、神を信じるとかっていう以上に、夫婦になるということ、子どもを育てるっていうことが、ただ本当にうれしかった、幸せだったっていうね」
吉田さん
「こういうふうに自分のルーツを知って苦悩を抱える。そういう(2世の)苦悩を想像できなかったのかと思うわけ」

吉田さんはさらに、家族のこれからについて問いただしました。

吉田さん
「(家族)みんながどこに行ったらいいか、路頭に迷っているような状態だと俺は思うんだよ」
父親
「うん」
吉田さん
「私たちの家庭はどこに向かっていけばいいのか」
父親
「まあ、そこはこれから、これからだよな。どういうふうにすればいいのかってのは。これからじゃないかな」
吉田さん
「これから?うーん。いまこの機会を再出発の機会として、どういう家庭が望ましいのかを考える。解散(命令)請求が発せられるっていうことは、脱会2世、脱会1世、現役2世、現役1世、みんなにとって大きな意味を持つことなんじゃないか」

旧統一教会の「解散命令請求」残された課題とは

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは、旧統一教会の元信者への聞き取りを行ってきた櫻井義秀さん。そして、長年、新宗教の取材を続け、オウム真理教に解散命令が出された際の経緯にも詳しい江川紹子さんです。

まず櫻井さんに伺いますが、今後、もし教団に解散命令が出されたとしても、献金を続ける親の経済的負担が子どもにのしかかる問題というのがある。どうしていけばいいと考えていますか。

スタジオゲスト
櫻井 義秀さん (北海道大学教授)
30年以上にわたり旧統一教会を研究

櫻井さん:
VTRにもあったのですが、親としっかり向き合われて話をされている子どもさんの姿が印象的だったのですが、きょうだいの方含めて、家族でしっかり話し合うことが大事だと思います。
しかし、家族で話し合えない家庭もあると思います。その場合は第三者といいますか、行政の方とか精神福祉の方とかですね、あるいは社協の方に入っていただいて、親御さんの老後をどうするのかということをしっかり話し合うということが大事だと思うんです。ここは現実的に考えていただきたいなと思っております。

桑子:

そして今後、経済的な問題でいいますと、裁判所の審理中に教団が財産を処分したり、韓国の本部や関連団体に移動させたりすることで、被害救済の原資がなくなるということも懸念されます。

江川さんに伺いますが、オウム真理教に解散命令が出されたときのことも踏まえると、どういうところが問題だと考えていますか。

スタジオゲスト
江川 紹子さん (ジャーナリスト)
オウム真理教など取材 解散命令の経緯にも詳しい

江川さん:
被害救済のための資産ですよね。それを保全するということがとても大切になってくると思います。オウムの場合も資産隠しというのをずいぶんやりましたので、いろんな手を尽くしてお金をかき集めたりしたのだけれども、被害者に払うべきものの4割ぐらいしか払えなかったと。そして後継団体がそれを引き継いだのですが、払い渋り、あるいは資産隠しということで今に至るまで解決してないんですよね。

そのことを考えると、やはり統一教会の問題も解散命令が出た時のことも考えつつ、早めに「資産の保全」ということについて何か手続きを考えなければいけないのではないかと思います。

そうしないと、被害者がお金を取り戻せないとなると、その子どもの2世の負担がすごく増すわけですよね。あるいは、無年金のまま高齢化していく人を税金で支援するということになると社会の納得感というのも得にくいということなので、やはり教団から取り戻すべきものは取り戻せるようにということを今のうちから考えておかないといけないと思います。

桑子:

そして財産に関しては教団は16日の会見で「財産隠しが行われ、被害者の救済が滞るのではないか」という指摘に対して「財産隠しはない。財産の移転もない」という回答をしています。櫻井さん、この回答はどう見たらいいでしょうか。

櫻井さん:
財産はないかもしれないと。それほど資産は持ってないんだと。そういうことを言われる可能性もあると思います。

財産よりも、やはり献金が問題だと思うんです。統一教会は長らく信者にも献金の記録をさせない。領収書、受取書を渡していないということがありましたし、信者自身が韓国の研修に参加し、そこに手持ちの献金を持っていくということがあったのですが、この構造自体が問題なんです。これをやめないかぎり、教団の窮状、特に信者が過度の献金を強いられ、親御さんが窮状に陥るという状況は変わらないと思うんです。

その意味で教義とか、教団構造、これを変えていく。簡単にいいますと、日本の統一教会が韓国の従属を離れて自立していくということが必要じゃないかと。ただし、これは極めて難しいと思っております。

桑子:
江川さんにも伺いますが、今回見た内容の中には自分の出自を拒否するというところまで精神的な苦しみを抱えている方もいました。この問題、どう支えていけばいいでしょうか。

江川さん:
抱えている問題というのは人によって異なり、多様だと思うんです。ただ、現行制度でもいろいろサポートできるところはあると伺っています。ですから、今のサービスと本人たちをつないでいく役、社会福祉士とかいろんな立場の人がいますけれども、その人たちがもっと2世の問題についての特性をよく理解する機会を設けて、理解したうえでサポートできるようにすることが必要かなと思います。

桑子:
解散命令請求を機に今、新たな課題も指摘されています。それは現役の2世が訴える差別や偏見の問題です。

“現役2世”と社会の分断

2023月1日、都内で行われたシンポジウム。

現役の2世信者たちが立ち上げた団体が、社会に対して自分たちの声を届けたいと開きました。

2世信者
「解散命令の請求が出るということが、結構、自分たちは犯罪者だと言われているような感じをすごく感じて」

2世たちは、信者に行ったというアンケートの結果を公表。

この1年で苦しかった経験・今後の不安は?
・不動産業者に退去を迫られた
・宗教を理由に解雇された
・授業で教会の批判をされ苦しかった
(信者の人権を守る二世の会)

など、差別や偏見に対する不安の声が多く寄せられたといいます。

子どもたちの将来に不安を募らせている2世もいます。現役信者の赤山さん(20代・仮名)は、旧統一教会の信者である両親のもとに生まれ、同じく2世である夫と結婚。その後、子どもが2人生まれました。

2世信者 赤山さん(仮名)
「(教義の)本質的なところに対して良さを感じているし、確信を持っている。(それでも)教会の組織のあり方のせいで苦しんでいる人がいるんだったら、そこは教会自身は変わっていかないといけないと思っている」

子どもたちに信仰は強要せず、みずから選んでほしいと考えている赤山さん。それでも、信者の両親のもとで育つ子どもたちが社会に受け入れられるのか危機感を強めています。

赤山さん
「ただそこに所属しているというだけで、よく思われなかったりとか、社会から見放されているというか、否定されているような。そこは心配はありますね、今後」

向き合うべき“課題”

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
櫻井さん、この現役2世信者の人権、どう考えたらいいと考えていますか。

櫻井さん:
宗教法人として解散命令が下されたとしても、信教の自由、教団活動の自由は任意の宗教団体でできますので、これは確保されております。

ただし、自分たちが信じていることが正しいと思って宗教活動をするのであれば、名前を名乗る、教団活動を明らかにする。そして、理解者から献金を募って、その範囲内で身の丈にあった教団活動をするということが大事だと思うんです。これができないがために、信者に過度な献金、あるいは一般の方から霊感商法というような形で資金調達をするという無理が下ったわけです。これに対する行政処分が下されたということは、しっかり反省してもらわなければいけないと思っております。

桑子:
今も信仰を続ける人、それから信仰をやめた人も、みんなが苦しみを生まないためにどういうことが必要なのか。お二人にキーワードを挙げていただきました。櫻井さんにまず伺いますが、教団側に求められることは「共生の作法」ということですね。

櫻井さん:
この「共生」というのは現実でして、これから数十年間、日本社会、旧統一教会は一緒にやっていかなければいけないんですね。そのためにはどうしたら共生できるのかということを、お互いに学び合う必要があると思います。

具体的にいうと、やはり宗教を信じる人、信じない人、さまざまな宗教を信じる方々がおられます。自分のところだけが絶対的に正しくて、他はそうではないという、こういう独善的な考え方では一緒にやれないわけなんです。

どうしたら一緒にやれるのかということと、そのためのコミュニケーションスキルを磨いていくことが私は2世信者に求められるし、これからの教団の将来、あるいは日本社会の将来を担っていく方々はコミュニケーションスキルが非常に大事だと思うんです。そういったものを磨いたうえで共生されていくのであれば、日本社会は受け入れるだろうと思っております。

桑子:
江川さんは、社会に求められることとして「普通の人間関係」という言葉ですね。

江川さん:
オウムのときの反省があるからなのですが、やはりオウムの時にあれだけ大きな事件でしたので社会のほうも衝撃が大きくて、オウム関係者を排除するという側に動きました。現役信者は、その自治体が住民票を受け入れない、あるいは元信者も差別されるので、必死に隠さなきゃいけないという中で、せっかく戻ってきたのだけれども、また教団に行ってしまったという人もいました。

ですから、やはり信者を差別したり、排除したりするということは、いいことは1つもないと思うんです。結局、社会から排除されれば教団のコミュニティーしか居場所がなくなってしまうということにもなるわけですから、やはり教団の活動については受け入れませんよと。だけど、あなた一個人としては個人として尊重して努めて、普通の人間関係を保っていくということが大事なのではないかなと思います。

教団が言うよりも、一般社会というのはもっといいところだったねと思ってもらった方が、社会にとってもプラスなのではないかなと思います。

桑子:
それを作っていくのが社会の役割でもあるということかもしれないですね。

江川さん:
そうですね。

桑子:
ありがとうございます。現役の旧統一教会の信者、それから2世の人たちの孤立化、そして社会との分断は防いでいかなければなりません。それをどうしていくのか考え続けなければなりません。最後にご覧いただくのは、親とたもとを分かつことを決めた、元2世信者のその後です。

信者である親と離れて “2世”のその後は…

実家を出て親と離れた杉本さん(仮名)。引っ越し先で新たな出会いがありました。

共通の趣味をきっかけに親しくなった女性。2世であることを特別視せずに受け入れてくれました。

杉本さん(仮名)
「『実は統一教会の2世です』って言ったときに、顔をしかめられたらどうしようかなと思ったんですけども」

「『あ、そうなんだ』って受け入れてくださったのが、一番心がほっとした感じ」
女性
「知ることをしなければ、自分と近くならないじゃないですか。私が経験していない苦しみがすごくあるんだろうなというのは思った」
杉本さん
「社会の方たちとやっていこうという気持ちが初めてでてきた。私にとっては本当の意味で新しい人生の出発になるのかなという気がします」
見逃し配信はこちらから ※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

この記事の注目キーワード
旧統一教会

関連キーワード