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2023年9月20日(水)

“台湾有事”めぐる攻防 米中対立・最前線で何が

“台湾有事”めぐる攻防 米中対立・最前線で何が

台湾統一に強い意欲を示す中国。近年、軍事力を拡大し、“世界最強”の米軍にとっても大きな脅威に。こうした中、アメリカは軍の再編を進めています。小規模な部隊で構成する「海兵沿岸連隊」を創設、極秘裏に戦地に展開する戦術を打ち出します。同盟国と連携した“拠点の構築”にも注力。その最前線のフィリピンを独自取材すると、市民からは「戦争に巻き込まれる」と反発の声も…。台湾有事めぐる攻防は、今後、日本にどう影響していくのか。

出演者

  • 小原 凡司さん (笹川平和財団 上級フェロー)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

“台湾有事”めぐる攻防 そのとき日本は…

桑子 真帆キャスター:
沖縄県、与那国島から僅か110キロに位置する台湾。その台湾を巡る米中の対立が深まっています。

中国軍は、今や艦船の数ではすでにアメリカをしのぎ、世界1位。今後、さらにその差を広げると見られています。
一方のアメリカは、外交を重視するとしていますが、同時に取材から見えてきたのはもう一つの動きでした。

「多国間連携」進める米軍

アメリカが急速にすすめる、多国間の連携。その現場を取材しました。

8月から9月にかけ、アメリカとインドネシアが主催した合同軍事演習。参加したのは過去最多の19か国。アメリカの呼びかけで2022年から日本の自衛隊も参加しています。

水陸機動団 西田喜一 連隊長
「より複雑かつ難しい状況を作為して訓練レベルを上げていくことが大事」

行われていたのは、敵に占領された島を奪還するという想定の訓練です。

アメリカ陸軍 ジェレッド・ヘルウィッグ 少将
「演習を拡大し、より多くのパートナーを引き入れることが目的です。こうした演習で築き上げる相互運用や結びつきは、インド太平洋地域で必要な密接な連携につながります」

背景にあるのは、中国の急速な軍備増強です。グアムを射程に収める精度の高いミサイルなどを多数保有するとみられ、脅威を増しています。さらに台湾を核心的利益とし、統一のためには武力行使も辞さない姿勢を示しています。

北京2022年10月 習近平 国家主席
「平和的な統一を堅持するが、決して武力行使の放棄を約束せず、あらゆる必要な措置をとる選択肢を残す」

こうした中、アメリカが打ち出した戦略が「統合抑止」です。中国などと対じするには従来の戦力だけでは十分ではなく、同盟国や友好国との連携が不可欠だとしています。

8月まで海軍の制服組トップを務めていたマイケル・ギルデイ氏は、アメリカの意図を明らかにしました。

アメリカ海軍 前作戦部長 マイケル・ギルデイ氏
「今すぐ有事が起こる兆候はありませんが、その可能性はいつでもあるのです。高い即応能力を維持すると同時に、アメリカだけではなく日本などの同盟国や友好国と共に部隊を近代化し続けることが重要です」

“台湾有事”シミュレーション そのとき日本は…

台湾を巡る米中の攻防。2023年、アメリカの民間シンクタンクは台湾有事を想定した軍事シミュレーションを公開しました。

アメリカの現役の軍人や安全保障の専門家などが複数のシナリオをもとに各国の動きを検討。どのケースでも日本を含む各国が「大きな代償を払うことになった」と結論づけられていました。

中でも可能性が高いとされた想定では、中国によるミサイル攻撃で有事が始まります。中国は台湾への上陸を試み、艦船も出撃させます。これに対し、アメリカは即時参戦すると想定されています。

シミュレーションでは作戦を展開する際、日本政府が在日アメリカ軍基地の使用を許可することが前提となっています。中国はアメリカ軍の艦船やグアムなどの基地を攻撃。在日アメリカ軍基地を使用した作戦が進んだ場合、中国が日本への攻撃に踏み切る可能性が高まるという結果が。その対象としてあげられたのは、嘉手納や岩国などのアメリカ軍基地です。

シミュレーションでは日本の政治判断に委ねられるとした上で、その後、自衛隊が戦闘に参加することも想定されていました。

戦闘の結果、台湾の自治は守られたものの死傷者・行方不明者は中国軍2万2,000人、アメリカ軍1万人近くに上るとされました。

シミュレーションを行った専門家は、日本が在日アメリカ軍基地の使用を認めないと想定した場合、アメリカ軍は作戦を効果的に行えなくなると指摘します。

シミュレーションを行った戦略国際問題研究所 上級顧問 マーク・カンシアン氏
「アメリカが台湾を守るためには日本が不可欠であることが分かりました。アメリカ軍の戦闘機は、台湾に近い沖縄や岩国を拠点にしなければならないからです。有事による損害は、日米が70年間経験したことのない規模となるでしょう」

中国にどう対抗 加速する米軍再編

こうした中、アメリカはかつてない軍の再編を急いでいます。中国の軍事力を念頭に海兵隊に新たに創設された「MLR=海兵沿岸連隊」。最小では10人ほどの小規模な部隊で展開し、機動性の高さを重視しています。

MLRは、有事が起きる前に敵に近い位置の離島に上陸。相手が武力行使に踏み切れば、攻撃をかいくぐりながらただちにミサイルなどで迎え撃ちます。こうした戦力を敵の近くに展開することで「武力行使に踏み切らせない」ことがねらいです。

カムフラージュ用テントで軍用車を覆い隠すなど、離島に潜伏しながら作戦を展開するMLR。これまで主力だった戦車を伴う大部隊を廃止。相手と直接対じすることを想定した大規模な再編です。

海兵隊員
「木が倒れた良い(潜伏)場所があったんです」
「まさにそれだ。そこに20ケースの食糧を隠せるか?」
海兵隊員
「そう思います」

MLRは、沖縄にも2年後までに配備される方針です。

アメリカ海兵隊 前総司令官 デビッド・バーガー氏
「相手が事を起こせないと思うほどの高い防衛力を持たなければなりません。最大の抑止は強力な存在感を示すことです」

シミュレーションから見えてきたもの

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは、中国とアメリカの軍事、そして日本の安全保障にも詳しい小原凡司さんです。

今回アメリカの民間シンクタンクが行ったシミュレーションでは、もし有事が起きた場合、シミュレーションでは日本が在日アメリカ軍基地を使った作戦を許可することが前提とされており、中国から攻撃されれば実際に自衛隊が戦闘にも参加することが想定されていました。
ただ、そもそも在日アメリカ軍基地をアメリカが戦闘作戦のために使用するには日本政府との事前の協議が必要とされていますし、自衛隊の活動も法律で厳しい制約が定められています。

今回見たシミュレーション、私たちはどれぐらい現実的なものと見たらいいのでしょうか。

スタジオゲスト
小原 凡司さん (笹川平和財団 上級フェロー)
中国とアメリカの軍事・日本の安全保障に詳しい

小原さん:
まず、このシミュレーションは、現実世界をそのまま模擬したものではありません。VTRの中でも米軍の元指揮官が言っていましたが、すぐに中国が台湾に対して武力侵攻する兆候はないということです。

「シミュレーション」と日本では呼ばれていますが、表紙にもあったのは「ウォーゲーミング」という言葉です。「ゲーム」だと日本では「遊び」のように捉えられるのですが、ゲームというのはある定められたルールのもとにお互いに「競い合う」あるいは「戦うもの」をゲームと言うわけですが、それぞれのゲーム、あるいはシミュレーションで目的があります。
今回のCSISが行ったシミュレーションは、実際にアメリカと中国が戦争したらどうなるのかが見たいわけです。ですから、その前の段階は少し非現実的であっても、それはお構いなし。実際に戦闘したらこんな被害出ましたよ、だからアメリカ政府はこういう新しい武器が必要ですよ、そういうことを提言するためのゲームだと言えます。

桑子:
あくまで軍事面に特化したシミュレーションということですが、今回のシミュレーションから出た結果が突きつけていることはどういうことだと思いますか。

小原さん:
政策決定に関する問題を抽出するものではないし、現実性ということに関しては戦闘が始まる以前の部分というのはあまり重視されていないわけです。だからといって、この結果を無視していいわけではないと思います。

例えば、この結果の中で日本政府が在日米軍基地の使用を許可しているということになっていますが、日本政府は本当にそうするのかということをあらかじめ検討しておかなければならない。

また、この中には触れられていませんけれども、南西諸島、先島諸島にお住まいの方をどのように守るのか、輸送するのか。台湾にいる邦人をどう輸送するのか。こういったことも含まれていないのだとすると、日本としては「いや、アメリカはそこにもちゃんと注意してくださいよ」と。「日本はここをやりますよ」ということを言わないと、それぞれ誤解を招く結果にもなるということだと思います。

桑子:
もし台湾有事が起きてしまった場合、どうするのか。
日本の周辺で有事が起きた際の対応というのは、2015年の安全保障関連法成立で大きく変わりました。

重要影響事態、存立危機事態、武力攻撃事態、3つの段階に分けて事態を認定し、日本が攻撃を受けていない場合でも「存立危機事態」と認定されれば集団的自衛権を行使し、必要最小限度の武力行使が可能になるとされています。
こうした中で、もし台湾有事が起きた場合、日本はどこまで関与する可能性があるのでしょうか。

小原さん:
在日米軍基地が攻撃されれば、日本の領土に対する攻撃だと認識をして「武力攻撃事態」と認定される可能性がありますし、台湾周辺で軍事衝突が起こっただけでも重要な影響を及ぼすとして「重要影響事態」と認定される可能性はあると思います。

桑子:
さまざまなシミュレーションの想定がある中、自衛隊が武力を行使する可能性もあるということですが、有事の際の対応を考えるうえで在日アメリカ軍基地が集中する沖縄で安全保障について研究している専門家は「国民をどう保護するのか」という視点を忘れてはならないと指摘しています。

琉球大学 山本章子准教授
「日本の場合は国土が戦場になるということが台湾有事の場合は可能性として高いと言われているので、国土が戦場になるにもかかわらず国民に被害が出る、インフラに被害が出る、そういった想定をしない軍事シミュレーションというのは無意味だと思う。
(沖縄は)米軍、自衛隊の訓練に毎日見られるような場所にいるからこそ、いま平時でもこれだけ訓練やっていて、有事になったらどれぐらいこの島は軍事要塞化するのか不快感があるわけです。
抑止、抑止と言うけれども、何もいまできていないのかというとそうではない。不十分だ、不十分だと言うけれど、どれだけやれば十分なのか。自治体との協力関係、国民を守るという強い意思表示、そのための法整備、こういったものを同時に進めない限り、国民の不安をいたずらにあおるだけだと思います」

桑子:
台湾有事を巡る住民の不安は現実のものとなっています。台湾のすぐ南に位置するフィリピンでも急速にアメリカ軍との協力関係が深まる中、さまざまな葛藤が生まれています。

米中対立 揺れる住民

住民の頭上を通るのは、アメリカの高機動ロケット砲システムから撃たれた実弾です。

アメリカは今、フィリピンで軍事演習の規模を拡大。関与を急速に深めています。

新たにアメリカ軍の拠点が置かれたフィリピン北部のカガヤン州は、台湾からおよそ300キロに位置しています。

コロナ前は中国人観光客でにぎわっていた、この町。中国の食品を専門に扱う商店も。

カガヤン州のマニュエル・マンバ知事。就任して7年になります。これまで州内の経済活性化のために独自に訪中を重ねるなど、中国との関係を重視してきました。コロナ前の2017年には、27万人以上の中国人観光客をカガヤン州に呼び込みました。

カガヤン州 マニュエル・マンバ知事
「中国は人口が多いにもかかわらず、非常に豊かです。中国は私たちにとって大きな可能性を秘めています」

2022年まで中国との協力関係を重視してきたフィリピン政府。

2016年 フィリピン ドゥテルテ前大統領
「中国は多くを提供し、金をくれると言った。だからアメリカよ、さらばだ」

しかし、中国は南シナ海で次々に人工島を造成。フィリピンの巡視船の進路を妨害するなど、中国の海洋進出は強まる一方でした。

こうした事態を受け、2022年、新たに就任したマルコス大統領はアメリカとの同盟関係を重視する外交方針へと大きく転換。

2023年2月には、アメリカ軍が使うことができる拠点を新たに4か所増やすことで合意。そのうち2つが台湾に近いカガヤン州に置かれることになったのです。

そのひとつ、カガヤン州の民間空港。もともと中国人観光客でにぎわっていた場所が一変、アメリカ軍とフィリピン軍の合同訓練が行われるようになりました。

第3海兵沿岸連隊
「この空港だけでなく、ルソン島北部自体が多くの理由から戦略的な場所です。最適な訓練の場になっています」

市民の生活にも変化が起きていました。

地元の漁師が手にしているのは月収の2倍もするスマートフォン、さらに最新の魚群探知機も。これらはすべてアメリカから無償で供与されたものだといいます。

漁業者 エディ・アガサさん
「いまは海で魚を捕るのが難しいですが、これのおかげでたくさん捕ることができています。これをくれたことに感謝しています」

機器の供与と引き換えに収集していたのが、このアンケート。

「いつ外国の船を見たか」「どの国の船だったか」など、情報を提示するよう求めています。戦略的なこの要衝で、情報収集のネットワークを広げるねらいがあるものとみられます。

漁業者 エディ・アガサさん
「アメリカが私たちを支援してくれると信じています。助けてもらうために見たことを何でも報告します」

一方、中国との関係を重視してきたマンバ知事は危機感を強めていました。

この日も、自宅で開いたみずからの誕生日を祝う会食に中国政府関係者を招待していました。アメリカ軍の存在感が増すことで、今後、中国との関係が悪化し、有事に巻き込まれるのではないかと不安を感じています。

マニュエル・マンバ知事
「ある者は中国が脅威として捉え、自衛すべきだと考えます。そのために同盟国に来てもらい、われわれを守ってもらおうと。しかし私は別の見方をしています。中国と良好な関係を築いていない同盟国がわれわれと一緒になれば、磁石のように攻撃を呼び寄せてしまいます」

州内で繰り返されるアメリカの軍事演習。カガヤン州の人々は米中のはざまで複雑な思いを抱いていました。

「ここに兵士がたくさんいても私たちは怖くありません。私たちを守ってくれる人がいたほうがいいと思います」
「怖いです。私たちが巻き込まれるかもしれませんから。フィリピンは台湾に近いですから」

“台湾有事”防ぐために いま必要なことは

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
抑止を掲げた軍事の強化で逆に攻撃を引き寄せてしまうのではないかという声がありましたが、軍事による抑止だけでいいのでしょうか。

小原さん:
いえ、もちろんそれだけでは不十分だと思いますし、実際に政府は軍事的な抑止の前に外交的な努力もしています。この外交の中には国際的に支持を得るために外国と協力することですとか経済的な関係を深めることも含まれています。

ただ、相互依存を深めればお互いに戦争をすることはなくなるという考えは間違いだったということがロシアのウクライナ侵攻で分かったとされています。
では、直接最後どうやって落としどころを見つけるかというところですが、実はこれがいちばん難しいです。どちらか一方が満足した状態というのでは落としどころは見つからないんです。お互いに、ある程度不満を持ってる状況でないと、お互いに対等だと思えないということですが、外交というのは自分たちの権益を少しでも拡大するために行うものですから、そうするとお互いのせめぎ合いの中で少しでも自分がいいポジションを取ろうとする、そこで落としどころを見つけなければいけないということになります。

そうした中で最終的にどうしても軍事的に頼らなければいけないと相手が思った時、やはり自分たちの軍事力を見せなければいけないんです。ですが、だからといって必ずしも有事を想定するわけではない。そのためにウォーゲーミングとは異なる「ピースゲーミング」というものをやろうと思っています。これは必ずしも軍事衝突を想定しない、どうしたら回避できるか、そのためにどういうシグナルを送ればいいのか、「抑止」に対応する言葉とすれば「回避」を考えるということなんだと思います。

桑子:
とにかく有事を起こさないということが大切になってくるわけですが、こうした中で今、私たちが考えなければならないことはどういうことでしょうか。

小原さん:
私たちはあまりにいろんなことを知らなさすぎるのだと思います。ですからこうしたゲームシミュレーションというものが頻繁に行われているのですが、その一部しかこうして出てこない。
しかし、政府も地方政府とどう協力するのか、ゲームあるいはシミュレーションする必要がありますし、そうしたものをもっと広く国民に知らせていく、私たちもそれを自分たちから求めていく必要があると思います。

桑子:
ひとたび戦争が起きると住民の犠牲は計り知れません。そして世界に広がる負の連鎖もまさに今、私たちは目の当たりにしています。新たな有事を防ぐために何ができるのか。今こそ問われています。

見逃し配信はこちらから ※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

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