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2023年6月21日(水)

学童落ちた!仕事どうする? 追跡“学童保育クライシス”

学童落ちた!仕事どうする? 追跡“学童保育クライシス”

学童保育に落選し、仕事に影響が…。そんな悲鳴が全国で相次いでいます。共働き家庭が7割にのぼる今、放課後、学童保育に通う児童は過去最多の139万人。「#学童落ちた」がSNSで話題を集めるなど、親の働き方にも影響する「小1の壁」が浮き彫りに。一方、「待機児童ゼロ」を目指し、子どもが過密状態となって目が行き届かないなど、安全性に問題がある現場も・・・。学童保育にいま何が?問題をどう解決?徹底検証しました。

出演者

  • 池本 美香さん (日本総研上席主任研究員)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

学童落ちた!その裏で… “過密・危険”の実態

桑子 真帆キャスター:
「#学童落ちた」。この言葉がこの春、SNS上で話題になりました。学童保育を申し込んでも、利用を断られたという声が相次いだのです。

学童とは、正式には「放課後児童クラブ」といいます。どういうところかというと、学校が終わり、子どもたちが友達と遊んだり、宿題をしたりして過ごす場所です。児童館などの公的施設が使われることが多く、「支援員」と呼ばれる大人が子どもたちを見守ります。

共働き世帯が増え、仕事が終わるまで子どもを預けたいという需要も高まり、利用する児童はこの20年で3倍以上に増えています。

そうした中で相次ぐ「学童落ちた」の声。一体何が起きているのでしょうか。

学童落ちた!の悲鳴 なぜ全国で相次ぐ?

2023年、小学校に入学した息子が学童の募集に落ちた、佐々木さん(仮名)の家族。

夫と共働きで、フルタイムで働いてきた佐々木さん。20年続けてきた仕事を諦めるべきか、悩んだといいます。

息子が学童に落ちた 佐々木さん(仮名)
「辞めることも頭をよぎりました。役職もついているので終業時に困っている人がいたりしたら、『ごめんね』って帰るのが後ろめいたいところがありますので」

仕事を続けるために利用を決めたのが、放課後に子どもを預かる民間のサービスです。手厚いサービスが受けられますが、学童に比べると利用料は高額。佐々木さんは、毎月およそ6万円を支払っています。

佐々木さん
「大きな額だなと思います。痛いですね、毎月かかる額が全然桁違いですので。女性の管理職を増やそうとかいろいろ女性活躍支援とか出ていると思うけれど、実際の支援するようなインフラがまだ追いついていないのかなと感じる」

学童の定員が満員だと知り、申し込みを諦めた家族もいます。

都内に住む富田さん(仮名)の家族。小学2年生の娘を放課後は自宅で見守ることにしました。

保育士をしている富田さんは仕事を週5日から2日に減らし、娘の下校時にはなるべく家に居るようにしています。

留守番中の女児をねらった事件が多いと知り、娘を1人にできないという思いも。

学童の申し込みを諦めた 富田さん(仮名)
「いまは子どもが1人で家にいると思うと、すぐ帰ってこなきゃと焦る気持ちがあるので」

月に数回学童の一時利用はできますが、友達と遊ぶ機会が減った娘を心配しています。

取材班
「友達と遊ぶのは放課後どれぐらいの多さ?」

「あんまりいない。友達の用事が多いから」
富田さん
「家にて、ずっと1人でゴロゴロしているのも本当に時間がもったいないと思って。正直、学童のことでここまで悩むと思っていなかったですね」

学童に入りたいという切実な声に、受け皿が追いついていない現実。しかし、ただ受け入れを増やせばいいのかというと、そうとも限らない現実も。

今回、NHKが学童の実態に迫ろうと行ったアンケートに寄せられた440件余りの声から浮かび上がったのは、待機児童を減らそうと無理な受け入れを進めた結果引き起こされた事態でした。

「狭いなかで すしづめ」

子どもが過密な状態に置かれ、安全が脅かされているという訴えが数多く寄せられました。

アンケートに声を寄せた人から入手した横浜市内の施設の映像では、部屋に入りきらなかった子どもたちが廊下にあふれ出していました。トイレの前の床に座り込んで遊ぶ姿も。利用者数に見合うスペースの確保が追いつかず、定員の2倍、200人余りが利用しているといいます。

映像を提供してくれた人は「子どもたちがぶつかって“けんかが絶えず”、廊下やトイレの前で食事を取るなど“不衛生”だ」と話しています。

この実態について横浜市を取材したところ、


希望者全員を受け入れているので 待機児童は出ていない
適切な環境を整えられるよう 改善を検討していきたい

横浜市

と回答しました。

学童職員らが告白

受け入れだけを進めることは、果たして子どものためになっているのか。日々、子どもと向き合う職員自身が危機感を募らせていることも明らかになってきました。

ある職員は、勤め先の学童で国の基準を超えて希望した全員を受け入れたことで、トラブルが多発しているといいます。

首都圏の学童職員
「『質より量だ とにかく』っていって、市が受け入れをするので。こっちはもう来た子を受け入れるしかないっていう状態の中どんどん膨らんでいって、ぎゅうぎゅうづめの中、過ごしている。なんて言っていいかもう“戦場”」

160人分のスペースに対して、およそ220人が利用しているこの学童。しかし、スペースを広げる見込みはないといいます。

職員は、耳鳴りがするほどの大音量だと音声を聞かせてくれました。音量91デシベル。工事現場では耳栓が必要なレベルです。

一人一人に目が行き届かない実態を明かした職員。ストレスを抱える子どもがいても何も出来ないと自らを責め続けています。

首都圏の学童職員
「自分の思い通りにならないと物にぶつけるか人にぶつけるかをするので、助けてっていう悲鳴が行動にかわっているだけで。ただ、助けられない。でもそれはもう私たちの力では本当に悔しいんですが、限界。もはや“学童崩壊”だなって」

こうした無理な受け入れが、実際のけがや事故につながっていると訴える親からの声も寄せられました。

学童で遊んでいるとき、息子が遊具から落下したという母親。

学童で息子がケガをした母親
「意識混濁の可能性があるので、かなり危ない状態だったんです。私がそばにいたらパニックになるくらいのケガだと思うので」

外遊びに立ち会う職員がいない中、うんていから落ちて頭を強打。重度の脳しんとうを起こし、入院したといいます。

学童に通う小学5年生
「その時は記憶もなくて、友達に聞くと『白目になって血を吐いてた』って。『えっ』ってびっくりしちゃって」
学童で息子がケガをした母親
「少ない人数で定員をかなり超えている人数を見てくださっているので、先生方の負担はかなり大きい。安心して預けられる環境に早くなったらいいなと思います」

学童落ちた!一方で過密 “異変”の真相とは

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは、子ども・子育て政策が専門の池本美香さん。そして、学童の問題を取材している首都圏局の氏家記者です。

まず池本さんに伺います。学童が不足していて、利用できたとしても心配な状況にある。なぜこういうことになってしまっているのでしょうか。

スタジオゲスト
池本 美香さん (日本総研上席主任研究員)
子ども・子育て政策が専門

池本さん:
一つは、これまで待機児童問題というのは、学童にもあるのですが保育園のほうがずっと多かったんです。なので、とにかく保育園の待機児童をなくすということで、そこに集中してしまった。実際、保育園のほうは減ってきたのですが、学童の待機児童は後回しになってきたということです。

どうしてかというと、保育園に通う子どもは1人では絶対に家に置いておけないですが、小学生だったら1人で、それも学校が終わった少しの時間だったら留守番できるのではないかという思いがどうしてもあり、学童の待機児童が減っていないのです。

もう一つは、保育園が整備されたことによってフルタイムで働き続ける人が増えてきたので、これまで小学校のお母さんは学校にいる間だけ働くことも多かったのですが、フルタイムで働く人が増えてくると、その分、学童が必要になってきていることもあると思います。

桑子:
受け入れが追いつかず、すし詰めの状態が起きているということで、すし詰めの背景にどういうことがあるか。国の仕組みが関係しているんです。

実は、学童の受け入れには国の基準があります。児童1人につき、1.65平方メートル以上の広さは確保するというものです。ただ、この基準が「参酌基準」というもので、あくまで目安という意味で、強制力がない基準なんです。

取材をしてきた氏家さん、なぜこの「参酌基準」になっているのでしょうか。

氏家寛子記者(首都圏局):
地域によって、待機児童の数や使える施設の状況など実情が異なるうえ、財政力にも差があります。そのため、一律に従うべき基準が作れないという状況がありました。
ただ、こうしたことがなし崩し的に子どもたちを受け入れる土壌になったと言えます。実際に保育に当たる現場からは何とかしてほしいという声が多く上がっています。VTRでご紹介した職員の方も、自治体に改善を訴えていると話していましたが、なかなかうまくいかないようです。

先週、国は「こども未来戦略方針」を発表し、学童についても言及しているのですが、この基準の見直しなど改善に向けた具体策は示されていません。

桑子:
そして、気になるデータもあります。

事故が増加しているということで、学童でけがなどの重大事故が報告された件数です。この7年間で2倍に増え、今475件、年間の数字になっています。
学童を利用する児童全体も増えていますので、この数字、氏家さん、どういうふうに見たらいいでしょうか。

氏家:
けがの発生率で見ても、増えていることが明らかになっています。子どもに目が行き届きにくく、安全に気配りする余裕がないことが背景にあると思います。
しかも、この報告は骨折など、治療に30日以上かかった大けがに限られているんです。日常的なけがなどは含まれず、この数字は氷山の一角といえるかもしれません。

桑子:
こういった事故も含めて、まさに“学童崩壊”が起きている。池本さん、この背景にどういうことがあるのでしょうか。

池本さん:
まず1つは、学童保育というのは昔は必要なかったんです。地域にたくさん一緒に過ごす人がいましたし、おじいさん、おばあさんと住んでいる人もいて、また犯罪の危険ですとか交通事故なども昔はなかったので。学童の制度ができたの自体が保育所と比べて50年も後なんです。1998年と最近のことなので、学童が必要だということがまだ認識されていなくて、そこにきちんと予算が投じられていないんです。
そうなりますと、働いている方の処遇も十分ではないので人手不足になるということで余裕がない。

あともう一つは、「参酌基準」で集団の規模は40人ぐらいが適当ということで言っています。

参酌基準
集団の規模=おおむね40人以下

先ほどVTRにあった200人とかになりますと、やはり子どものほうもストレスがたまる、支援者にきちんと話を聞いてもらえないということで崩壊の状況になっているのではないかと思います。

桑子:
この現状、どう解決すればいいのか。学校と地域が連携し、放課後の居場所づくりをしている取り組みがあります。

“学童崩壊”どう防ぐ? カギは地域のリソース

千葉市では、放課後も小学校の校舎を活用して子どもたちがやりたいことを選べる居場所を作っています。

「家庭科室で、おうちごっこをします」
「図工室で英語をやります」

勉強したり、体を動かしたり、思い思いの放課後を過ごすことができます。さらに、追加料金を支払えば受けられる特別プログラムも。

その1つ、体操です。

地元で体操教室をしている男性が講師に招かれ、“市民先生”として指導にあたっています。

小学3年生
「(親に)自分でやりたいって言いました。倒立が2秒止まれるようになった」
地元で体操教室を営む男性
「この小学校みたいに開放をして、私たちみたいに一般市民の指導員が入ることによって、専門的に指導することによって、子どもたちも本当に正しいやり方とか成長につながっていると思う」

市に運営を委託されたNPOは、地域の人材を発掘。“市民先生”としてさまざまなプログラムに協力してもらっています。

放課後NPOアフタースクール 平岩国泰代表理事
「子どもたちのために尽くしたいという地域の方は多いですので。地域の市民の方とか、企業の方とか、社会的な資源が放課後入りやすいので、社会みんなで子どもを育てる」

午後5時までは、親の就労にかかわらず誰でも利用でき、費用は月3,500円(追加料金は別途)。親が働いている子どもは午後7時まで利用でき、費用は月8,500円です(追加料金は別途)。

保護者
「子どものやりたいことを尊重してくれているのが1番かなと思います」
保護者
「私がフルタイムで働いているので、親としては大変助かっている」

放課後の居場所づくりのためにNPOと連携した学校。子どもたちの可能性を広げる機会が増えればと期待しています。

NPOが記録した子どもたちの放課後の様子を知り、新たな発見もあったといいます。

千葉市立稲浜小学校 平川紀子校長
「アフタースクール(NPO)とのやり取りをするファイルになります。ふだん目立たない子がすごく生き生きとしているのをみると、ああ、こういう面があったんだって。放課後、子どもたちがいい意味でわがままが言える場所になってほしい」

どうする“学童崩壊” 解決へのヒントは

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
子どもたちが本当に伸び伸びしていましたが、子どもの放課後、よりよくしていくためにどうすればいいのか。
“縦割り”の打破が必要ではないかということで、池本さん、どういうことでしょうか。

池本さん:
VTRにあった小学校は、学校施設をフル活用していたのですが、全国の状況ではないんです。
なぜ学校の活用が進まないかというと、学校は「文部科学省」の担当で、学童保育は「こども家庭庁」の担当というふうに、担当する省庁が違うんです。なので、ここの連携がうまくいかないために学校施設が十分に活用できていないというところがあります。
ただ「こども家庭庁」は4月にできましたがすべての子どものために司令塔となって頑張ると言っていますので、やはり学校施設の活用について「こども家庭庁」がリードしながら今のような例を全国に広げていってほしい。
そしたら、すし詰めのようなことはなくなるのではないかなと思いました。

桑子:
ただ現状、“縦割り”がある中で千葉市は実現できているわけですよね。取材をした氏家さん、どうしてでしょうか。

氏家:
まず、自治体トップのリーダーシップが大きいと思います。さらに千葉市では、今の二元行政を解消するため福祉部門と学校側が6年ほど前から話し合いを重ねたといいます。
いちばんのネックは「安全管理の役割分担だった」ということですが、これについては両者でマニュアルを定めて施設の施錠からトラブルが起きた際の対応まで責任の範囲を決めることで連携が進んだといいます。

桑子:
こうした取り組み、他の地域にも進めていきたい、広げていきたいと思いますが、ここで海外の取り組みをご紹介しようと思います。

イギリスの事例
・全ての学校に学童(~18時)
・多様なプログラム
・親の支援
・子どもの幸せ

イギリスの事例ですが、池本さん、どういうものなのでしょうか。

池本さん:
イギリスは、2004年に日本のこども基本法のような形で子どものためにやっていこうという法律ができました。学校のやり方も子どものためを考えたらどうやったらいいのかということで、すべての学校に学童を18時までやろうということ、それから先ほどの小学校のようにいろんなプログラムが自由に選べるようにしようということ。
それから、やはり家庭の状況がうまくいかないと子どもにとってはいろいろマイナス面が生じますので、親を予防的に支援していく。例えば経済的に困っているとか、健康面とか、いろんな親の悩みも一緒に解決していこうというトータルなプランができました。それによって、学校のほうの負担も軽減していこうというようなことになりました。

桑子:
これは、学校の教員が担うわけではないんですか。

池本さん:
むしろ学校の先生が授業に専念できるようにしようということで、子どもの育ちにいろんな人たちが関わってチームでやっていこうという考え方に転換したんです。
学校は、勉強するためだけではなく、子どもの育ちのためにどう活用するかという考え方に転換していったということです。

桑子:
そして、何よりいちばん大切なことは子どもの幸せを考えること。

池本さん:
そうですね。先ほど言ったように、子どもの幸せ、子ども法ができたことでイギリスもこうやって変わったんです。日本はちょうど4月にこども基本法ができて、子どもの幸せ、すべての子どもの幸せ、それから子どもの意見を聞くということで法律ができましたので。

こども基本法(4月施行)

イギリスと全く同じ状況を考えますと、日本の学童も同じように整えていく。今非常に重要な時期ではないかなと思います。

桑子:
現実的に考えたときに、実際に日本でも実現できますか?

池本さん:
まさに千葉の例はそれに近いと思います。やってできないことはないと思います。イギリスの場合は、こういう形で全国でやるということを政府が決めて、そこが非常に大きかったんです。目標も定めましたし。先ほど言ったように、自治体がたまたまリーダーシップがあるということではなくて、国でそれをやっていこう、こんなすし詰めをなくそうということをきちんと発信してほしいなと。

桑子:
発信とともに、そこに伴う財政・支援ということももちろん。

池本さん:
財源は必要です。

桑子:
ありがとうございます。子どもたちが放課後どう過ごしたいかというのは本当にそれぞれ異なりますので、その選択肢を大人がどう作ってあげられるか、本当に求められていると思います。最後は、思わずはっとさせられる子どもたちの声をお聞きください。

子どもたちが求める 放課後の居場所とは

「放課後にしたいことは?」

子どもたちに聞きました。

小学3年生
「鬼ごっこが好きです。鬼ごっこをいっぱいします」
小学3年生
「学校終わったらずっと楽しいことしていたい。勉強なんかしたくない」

学童で聞いてみると。

小学4年生
「一緒に宿題すると、なんか宿題が楽しくなる」
小学3年生
「ひとりぼっちは寂しいけど、みんながいるといつも遊べて楽しい。いつも遊んでくれて、ありがとう」
小学4年生
「おうちの人がいなくても優しい大人とかおもしろい人がいっぱいるし、(私の話を)聞いてくれてうれしい、安心する」
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