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2023年5月31日(水)

あなたの服選びが変わる!循環型ファッションで廃棄物ゼロへ

あなたの服選びが変わる!循環型ファッションで廃棄物ゼロへ

「新作を出し、余った在庫は廃棄する」という従来のファッションビジネスを新たなアイデアで変えようとするビジネスが今、次々と誕生。若者から人気の古着リメイクブランド。リサイクルや修理事業に乗り出した大手アパレル。さらに自社の服を定価の2割で買い取りリメイクして再び販売するブランドなど斬新な取り組みが。先進地オランダのデニムブランドも取材。環境にも客にも生産者にも好評の循環型ファッションの可能性を探りました。

出演者

  • 安居 昭博さん (サーキュラーエコノミー研究家)
  • 桑子真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

循環型ファッション 大量廃棄を変える

桑子 真帆キャスター:

南米チリの砂漠に広がる大量の衣服。世界各地から持ち込まれ、不法投棄されたものです。その量は実に10万トン。いわば“ファッションの墓場”となっています。
この大量の廃棄、日本もひと事ではありません。日本では1年間に80万トン近くもの衣服が新たに出回る一方で、48.5万トンが廃棄されていると言われています。
この状況を変えようと、今リメイクやリサイクルを通して衣服や素材を循環させ、廃棄物をなくそうという“循環型ファッション”が広がっているんです。

環境とおしゃれの両立

京都にある古着店です。古着に斬新な“リメイク”を施すことで、環境とファッション性の両立を目指しています。


「形がオリジナルなので、すごいかわいくて。1点ものって感じがして、着ててもわくわくします」

材料は、そのままでは買い手が付かない生地や販売しても売れそうにない服です。リメイクしてから販売することで廃棄を減らす、“循環型ファッション”です。

古着屋 井垣敦資さん
「例えばこれも商品にならないようなスーツ。これはもともと堀田さんが着ておられたスーツみたいですね」

店内にあるスタジオで、企画やデザインから製作までを行っています。

こちらは、男性物のビジネスシャツなどを組み合わせたワンピース。

1点1点リメイクする手間がかかるため、価格は2万円から。もともと廃棄されかけていた古着たちが、またたく間に売れていきます。

このサービスに出会い、リメイクの良さに気付いた人も多いといいます。


「納得がいかなかったら着なくなるのが今までの自分のスタンスだったけど、変えたら着れるじゃんって(この店の)おかげで気付いた。これも破れちゃって、そのままやと着られなくなったのを、全部ほかのレースを張り付けてもらって。これは墓場まで持って行くか、娘に譲るか、どっちかの予定です」
井垣敦資さん
「古着が本当にかっこいい、かわいいと思うからが大前提で、その延長で捨てられて終わりっていうよりも、すでにあるものを長く愛着を持って着ていただけるものを作っていきたい」

リメイクも含めた中古の衣類は、今世界中の人々から注目されています。背景にあるのは、ファストファッションや高級ブランドの大量廃棄。イギリスなどでは、1年間新品の衣類を買わないと呼びかける大規模なデモが行われました。

アメリカでは、中古衣類の市場が拡大。今後5年間で1.5倍に。10年以内には新品の販売を追い抜くと予測されています。

そうした中、日本でも2022年10月にユニクロが“リメイクコーナー”を併設した店舗をオープン。循環型のビジネスに取り組んでいます。

柳井正さん
「このままでは地球はいまの世代で終わりになってしまうかもしれません。われわれは本気で行動することをお約束します」

小売りだけでなく、古着を卸す流通システムでも廃棄を減らして循環させる動きが始まっています。

古着などを回収するこの卸業者は、環境に配慮した仕組みに変えることで利益を増やすことができました。

選別スタッフ
「レディースとか、はやりが早いのか違う流行になっちゃうと買い替えたりという形で出てくるのが多い」

これまでこの会社では、集めたものを汚れや傷み具合などの状態だけで分類し、主に輸出していました。しかし、その一部が現地で店に並ぶこともなく捨てられていたのを知り、従来のやり方を変えました。

目利きができるスタッフを常駐させ、アメリカ系の古着や高級系など、50種類以上のジャンルやランクなどに細かく選別。それぞれのジャンルが、どこの地域や店で売れ行きがよいか見極め、出荷先とマッチングさせます。例えば夏物のシャツたちは引き合いがあるマレーシアの古着屋向けに出されます。こうして選別された古着は売れ行きがよく、利益が上昇。出荷先での廃棄も減らすことにつながっています。

回収・卸会社 代表 川野輝之さん
「まだまだお洋服として使えるものが本当にたくさんあるので、そういったものはなるべく国内で、お洋服のままで使っていただこうというのがここの趣旨になります。しっかり選別することによって高いものは高いところに売っていく。経済価値と環境負荷低減っていうのを両立しなきゃいけない。そういう意味で選別をしています」

古着を資源に戻す 日本のリサイクル技術

リメイクや出荷できない衣類は、資源に戻すリサイクルに回されます。今、この分野で日本の伝統的な技術が注目されています。

ウールのセーターなどから再び繊維を作る“反毛”。環境に配慮した素材だと評価され、2022年、アメリカのアウトドアブランドからも採用されました。

反毛の技術は60年以上、愛知・一宮地域で受け継がれてきました。

まずは材料の仕分け。化学繊維が多く含まれるものは、繊維にリサイクルはできません。触っただけでどんな素材で作られているか見抜き、色ごとに仕分けをし、リサイクルできない部分を取り除いていきます。

繊維リサイクル会社 社長 井手新一郎さん
「機械でやるわけいかないですから、こいつだけは。全部手仕事ですから。私たちの若い時、子ども時分はもうボロボロになるまで着らんと親に怒られてしまって」

これを反毛機という特殊な機械にかけることで、再び毛糸の原料にまで戻すのです。

反毛業者 松本忠雄さん
「私、81です。やめたいけど、なかなかね。老骨にむち打ってやっております」

かつては2次利用の安物といわれ、後継者が減ったこのリサイクル技術。それが今の時代に再び求められているのです。

毛織物卸・販売会社社長 大鹿晃裕さん
「もう本当60年以上も前からあるこちらの地区で当たり前のようにやってる技術で、消費者の人たちに直接この技術を、仕事の中身をアピールしないことにはやはりこの技術が守られないなと思って。作ったものを届けていきたいなと思っています」

服選びが変わる!循環型ファッション

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
古着をよみがえらせて再び活用するということで、実は今回私が着ている服も古いビジネススーツをリメイクした服です。

きょうのゲストは、循環型のビジネスに詳しい安居昭博さんです。安居さんも今回全身リメイクということで。ただリメイクとリサイクル、もともとある考えですよね。今どういう段階にあると見ていますか。

スタジオゲスト
安居 昭博さん (サーキュラーエコノミー研究家)
循環型のビジネスに詳しい

安居さん:
やはり、経済合理性に非常に変化が訪れているところは間違いないポイントかなと思っています。

例えば従来、そしてこれまでに思われてきた経済合理性といったところが、現段階、そして未来を見据えたときにこれまでと同じ状況ではなかなか経済合理性が取れなくなってきている。

また短期的、そして長期の両方の視点で見た時、経済合理性といったものを改めて考えていく必要があるといったとき、リユースであったり、リサイクルのようなものは従来なかなかビジネスとして成り立ちにくかったのですが、むしろ企業の成長戦略に位置づけられてきている。そういった変化が生まれてきているのかな思っています。

桑子:
そこに、利用者側の気持ちも追いついてきたと言えるでしょうか。

安居さん:
それは間違いないですね。やはりファッションですので、これまでは「購入する」ということが主なアクションだったと思うのですが、そこに「修理」であったり「染色」、「染め直しをする」といったファッションとの新しい関わり方が消費者間でのニーズとして生まれてきて、企業としてもそういった新しいビジネス、サービスを展開していく流れになってきているかなと思います。

桑子:
その背景には、ファッションというのが環境に大きな影響を与えていることが知られるようになったのも大きいと思います。
その背景には、ファッション業界特有の構造があるんです。

これまでは原料から製造段階でシーズンごとの新作が「大量生産」される。販売後、使用されても買い替えによって「大量廃棄」。そしてセールで値下げされ、売れ残った場合も廃棄につながるというような構造だったのです。

これを「循環型」に変えようという動きが今進んでいて、そこでポイントになるのが「Reduce(リデュース)・Reuse(リユース)・Recycle(リサイクル)」ということです。

「Reduce(リデュース)」に関しては、製造段階で資源の使う量を減らす。必要以上の供給をしないということ。
そして「Reuse(リユース)」というのは、販売先ですとか使用者が古着やリメイクとして再び使うというもの。
そして「Recycle(リサイクル)」は最後の手段です。原料に近い形まで戻し、再び資源化するというもの。
この3つの「R」がどのように位置づけられるのが理想でしょうか。

安居さん:
これまでは常に大量生産・大量消費のような形でビジネスモデル、そして商品の設計デザインも、形作られたあとに対症療法のような形で後から「Reuse(リユース)」であったり「Recycle(リサイクル)」が行われてきたのが主でした。

ただ、現在注目されて導入が進められている循環型の新しいファッションでは、3つの「R」などをビジネスモデルの根幹に位置づけ、より「R」の中でも優先度合いが示されているのですが、そういったものをより戦略的にビジネスモデルであったり、商品のデザインであったり、設計に組み込まれてきているといったところも新しい流れかなとは思っています。

桑子:
こうした循環型のモデルを実現しようとする動きが今増えているんです。

5月、原宿でアウトドアブランドなど6つのメーカーが合同で衣服を修理するイベントを開催しました。自社ブランドだけでなく、どんな服でも修理。靴下の穴を繕ったり、Tシャツの染め直しができるコーナーもあるんです。
無料で開催されたそうですが、どういう意義を感じていますか。

安居さん:
冒頭で少しお話しさせていただいたように、ファッションと人との新しい関わり方が「修理」であったり「染め直し」といったところで生まれています。
器を金継ぎしたときなんかもそうかなと思うのですが、自分が「修理」したり「染め直し」したものって、他の人にどうしても伝えたくなると思うんです。やはりファッションは、そういった自分の表現を伝える機能があると思うんです。自分が気に入ったものをきちんと購入をして、一度購入したからには長く使い続けたいので、それを「修理」や「染め直し」をして、他の人にも伝えたいという利用者のニーズが生まれている。そして、そこに対して企業が新しいサービスやビジネスを提供しているというのは非常に自然な流れなのかなと思います。
VTRの中では無料のイベントであったと思うのですが、今後は有料のイベントになったとしてもニーズは間違いなくあるのではないかなと思っています。

桑子:
修理などをベースに、新たなビジネスモデルを作った企業もあるんです。

“捨てさせない”秘けつ 驚きの“古着再利用”

京都のこのブランドは、これまでのセールを前提とした売り方を変えようとしています。その理念は、客に頻繁に買い替えさせるのではなく、1着を長く着てもらうことです。

縫製士
「すごく手間かかってるし、丁寧に作っているから好きでいてくれたらうれしいなって思いますね。作ってる側としては」

このビジネスモデルで利益を生み出す秘訣は、商品を売った後のアフターケアです。まず、服はどんな状態でも何度でも修理や染め直しを引き受けます。

「こちらは虫食いですかね。結構激しく穴空いてしまって」

費用は簡単なもので1,100円から。年間500着以上の修理を行っています。
そしてもう一つの仕組みが、自社製品を「買い戻す」ことです。購入時期や店舗、服の状態に関わらず定価の2割、しかも現金で買い取ります。それを修理して定価と同額か、時にはより高い値段で再び販売ルートにのせます。

膝部分が破れていたズボンは布を足しました。修理自体がデザインになるように直しています。こうした循環型の取り組みによる売上は年々増え、5年前の4倍以上になっています。

ブランドを立ち上げた三谷武さんがこのビジネスモデルを考えたのは、ある出来事がきっかけでした。2013年、バングラデシュでファストファッションの縫製工場が入るビルの倒壊事故が発生。労働者1,000人以上が犠牲になりました。製造業者は、ビルの安全性に問題があると指摘されていながら生産を続けていました。

アパレルブランド代表 三谷武さん
「安くておしゃれでいいもの。そこだけを念頭に置いて消費っていうものをし続けた先が、ラナ・プラザ(縫製工場)の崩落の事故だったので。それはやっぱり繰り返してはいけない」

所有からリースへ 最先端のオランダ

循環型ファッションの取り組みは、海外ではさらに進んでいます。このオランダのジーンズブランドは、客が服を所有するのではなく、サービスの利用者になるというコンセプトを打ち出しています。


「1年これを借りたので、新しいのを着たいです」
「OK。ではこちらは返却ですね」

ジーンズを売る代わりに「リース」するビジネスモデル。料金は月々およそ10ユーロ(1,500円)です。1年契約で、更新の時には履いているジーンズをそのままもらうか、返却して新たなジーンズを借りるかが選べ、サービス開始から10年あまりで10万本のジーンズを供給。一般的な製造販売方法に比べ、使うコットンを4割減らすことができました。


「学生の私にはありがたいシステムで気に入ってます。12か月、手ごろな料金を払えば済みますので。システムの中でごみが出ないのもすばらしいと思います」

使う素材を減らせるのは、この企業がデニムの循環プロセスをすべて管理しているからです。レンタル中の修理は、地域の修理店をネットワークするベンチャー企業と提携。返却されたものは、すべて古着として「リユース」されるか、自社でもう一度デニムに「リサイクル」されます。

無駄なくリサイクルするため、皮のラベルがある部分はプリントにし、壊れやすいファスナーではなく、再利用しやすいボタンを採用しています。製造段階でも環境に配慮し従来と比べ、CO2の排出を75%削減することに成功しました。

ジーンズメーカー創業者 ベルト・ファン・ソンさん
「私たちは衣類の大量廃棄を解決しようとしています。サーキュラーエコノミー(循環型経済)を作り、コットンを循環させ、常に再利用するのです。現在11年目ですが会社は成長し、事業は拡大しています。」

オランダでは、こうした循環型の取り組みをファッションだけでなく社会全体で行い、2050年にはすべての経済活動を循環型にするという目標を掲げています。

アムステルダム市議会議員 イマーネ・ナディフさん
「その目標は夢のように思えますが早急に取り組むべきですし、必ず実現できると信じています。サーキュラーエコノミーに取り組む人々の熱意をみて、その未来を確信しています」

循環型経済 実現に何が必要か

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
サーキュラーエコノミー、循環型経済というキーワードが出てきましが、なぜオランダが成功しているのか。秘けつを大きく5つ挙げていただきました。

まず「補助金」ですが、修理をする場合に補助金を出したり、税を安くする。逆に、新しい原材料を使うときは税を高くするといったような制度を作る。法律そのものを変えていたり、官民連携していたり、あと「発想の転換」というのがあるのですが、これはどういうことでしょうか。

安居さん:
循環型経済の仕組みが従来であればエコであったり、そういった位置づけだったかなと思うのですが「発想の転換」で国も企業も成長戦略につながるといったポジティブな姿勢が非常に重要かなと思っています。

その中で今、ヨーロッパでは市民に「修理する権利を与える」という観点から、修理ができやすいような製品というものが広まっているんです。

その1つが、私が今回持っているこちらの「フェアホン」というオランダの企業が開発をしたスマートフォンです。利用者自身がパーツの交換であったり修理がしやすいような設計になっているスマートフォンです。
そういった中で「発想の転換」、市民、利用者の面でいいますとパーツの交換であったり先ほどのVTRにもあった修理ができる、そういった新しい楽しみ方やサービスをまずは使ってみたり、享受するといった関わり方も1つ「発想の転換」から生まれている今の流れなのかな思っています。

桑子:
部品が全部分けられていましたが、それぞれで修理ができるようになっているということですね。

安居さん:
そうです。修理であったり、部品ごとの交換ができるんです。

桑子:
交換もできる。そして、日本にいる私たちも何か循環型経済に資するようなことができないかと思うのですが、どういうことができるでしょうか。

安居さん:
例えば、今回のテーマであるファッションで言いますと、最近購入時にタグのところにQRコードが刻まれてきている流れも見られるかなと思うのですが、そういったQRコードを見かけたときに読み込んでみると、これまではなかなか知ることのできなかった原材料であったり、生産場所、環境の詳しい情報が知れたり。そういった新しいサービスであったり、商品との関わり方というものが生まれておりますので、そういったものをまずは気になったところからやってみるのが始めやすいところかなと思っています。

桑子:
そこに楽しさというものが加わると、より進んでいくというのはありますかね。

安居さん:
間違いないですね。そういった新しいサービスであったり、関わり方があることによってこれまでにはなかった楽しみ方を一人一人、個人も企業も見つけていくことができ、国としてはそういった仕組みが進められるような全体的なバックアップがあるといいのではないかなと思います。

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