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2022年7月11日(月)

安倍元首相銃撃 事件の“背景”に何が

安倍元首相銃撃 事件の“背景”に何が

選挙戦の最中、安倍元総理大臣が銃撃され、死亡した未曾有の事件。逮捕されたのは山上徹也容疑者(41)。逮捕後、山上容疑者は「特定の宗教団体に恨みがあった」「母親が宗教団体にのめり込み、多額の寄付をするなどして、家庭生活がめちゃくちゃになった」などと供述。なぜ宗教団体に恨みを持ったのか?なぜ安倍元総理大臣を銃撃したのか?事件の背景にいったい何があったのか?独自取材で深層に迫りました。

出演者

  • 藤井 孝充 (NHK記者)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

緊急報告・安倍元首相銃撃の衝撃

桑子 真帆キャスター:
許しがたい凶行に及んだ、山上徹也容疑者。捜査に対し、銃の製造や母親の破産、宗教団体への恨みなどについては供述していますが、母親が破産した20年前から直近までの様子は分かっておらず、いまだ事件の全容は明らかになっていません。

7月11日、宗教団体の世界平和統一家庭連合(旧統一教会)は会見を行いましたが、番組にも独自に回答を寄せました。少しずつですが、事件の背景が見えてきました。

"宗教団体に恨み" 銃撃事件の深層は

中学時代はバスケットボール部。高校時代は応援団。成績優秀でおとなしかったと言われている、山上容疑者。

なぜ凶行に至ったのか。事件の2か月前まで、山上容疑者と同じ工場で一緒に働いていた社員が取材に応じました。

社員
「入って半年ぐらいから不平不満を言い出した。『なんで俺が動かなあかんねん』とか、『その作業者と一緒に仕事したくない』とか、どんどん態度が悪くなってきた。『やってよ』と言ったら『なんでせなあかんねん』、『おまえがすれば』と」

容疑者は、フォークリフトで荷物をトラックに積み込む派遣社員として、1年半あまり勤務していました。当初の仕事ぶりは真面目で、責任感もあったといいます。しかし、採用から半年ほど過ぎた去年4月ごろから、仕事の手順を守らないことが目立つようになったといいます。

その後、体調不良などを理由に週に1~2回ほど欠勤するようになった容疑者。5月半ば、仕事を辞めました。

社員
「正直信じられないというか、こういうようなことをやるタイプには見えなかった。驚きでいっぱいでした」
社員
「拳銃まがいなものを、うちに勤務しているときにつくっていたというのがあって、恐怖すごい感じました」

仕事を辞めてから2か月後に起きた事件。

容疑者は、犯行の動機について次のように供述しています。


「特定の宗教団体に恨みがあり、安倍元首相がこの団体と近しい関係にあると思い、狙った。母親が団体にのめり込み、多額の寄付をするなどして、家庭生活がめちゃくちゃになった」

山上容疑者の供述より

7月11日、都内で急きょ会見を開いた宗教団体、「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)」です。事件について次のように述べました。

世界平和統一家庭連合 田中富広会長
「第一に、山上徹也容疑者は当法人の信者ではございません。過去においても、当法人の信者であったという記録は存在しておりません。第二に、山上徹也容疑者の母親は当法人の教会員であり、これまでも1か月に1回程度の頻度で教会の行事に参加してまいりました。献金問題に関しましては、現在警察が捜査中であると思われますので、この場での言及は避けさせていただきます。これに関しては、警察からの要請があれば、全面的に捜査に協力させていただきます」

容疑者の実家は、建設会社を経営。父親は亡くなっています。経営を引き継いだ母親は、1990年代後半に宗教団体に関わるようになり、その後、入信。献金を続けてきました。母親がどれほどの献金を行っていたのか、詳細は分かっていません。

宗教団体のハンドブックでは、収入の10分の1を献金することについて書かれています。


「精誠を尽くして10分の1献金をすれば、絶対に飢え死にしません」

「祭物は、自分の生命の代わりに捧げるのです」

信者向けの教材より一部抜粋

元信者の女性は、献金以外にも物品の購入などもしていました。

元信者
「メシア(救世主)が目指している地上の天国だったりとか、そこにお金を差し出すことに感謝をしていました」

6年間で費やしたのは、500万円ほど。信者にとっては救いにつながる行為だといいます。

容疑者が「家庭生活がめちゃくちゃになった」という多額の献金。母親が破産したのは2002年です。

容疑者の母親が通っていた「奈良教会」。ここに長年通い続けているという信者の男性に、話を聞くことができました。

取材班
「母親はご存知でしたか?」
信者
「なんか聞いた名前だなと、時々出てくる名前だなとは思いましたけど」

男性は、母親の献金については分からないとしたうえで、自身の経験として「かつて多額の献金をたびたび行っていた」と語りました。

信者
「私も両親も多額の献金と言えば、家を1軒売るぐらい献金をしてきて、田んぼとか家屋敷、みんな抵当に入ったりして、二束三文になるわけですよ。それでもやっぱり親父のことだから、2,000万、3,000万は出していたんじゃないですかね」

宗教団体は、7月11日の会見で「今は過剰な献金はない」と説明しました。

田中富広会長
「過去、献金に関してトラブルがあったということは、報道関係者の皆様方も周知の事実かと思います。2009年だったでしょうか、時の当法人の会長が記者会見をし、そして声明文を発表いたしました。それから13年が経ちました。この声明文で一番強調されたのが、コンプライアンスでありました。それ以降13年、当法人も末端に至るまで、コンプライアンスの徹底を進めてまいりました。そういう面でみれば、当法人も大きく、献金に対する姿勢も含め、変わってきたというふうに思っております。2009年以降の案件で、そのようなトラブルはありません」

母親が宗教にのめり込む姿を目の当たりにしてきた、山上容疑者。母親の破産後、家族は地域でどのように過ごしていたのか。20年間の詳しい状況は分かっていません。

信者
「(容疑者は)やっぱり嫌な思いをしたんと違うかな。取られたような、自分のものを取られていくような。俺も子どもを持っているから、子どもに(信仰の意味を)伝える難しさ。お母さんがやればやるほど、熱心にやっていれば、子どもとしてはさみしい思いをしてたんとちゃう」

なぜ安倍元首相? 銃撃事件の深層は

宗教団体への一方的な恨みを供述で語った山上容疑者。その矛先が安倍元総理大臣に向かったのは、なぜなのか。

山上容疑者は「安倍元総理が宗教団体と近しい関係にあると思い、狙った」と供述しています。

これに対し、宗教団体は。


「安倍元首相が、当法人と直接的な関係があったという事実はありません。一方で、安倍元首相がUPFの主催する行事に祝電や、ビデオメッセージを送った事実があることは承知しています」

宗教団体

UPFとは、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と創設者を同じくする関連団体です。この団体が去年9月、韓国で開催したイベントには世界中から数百万人がオンラインで参加。アメリカ・トランプ前大統領や各国の要人と共に、安倍元総理大臣のビデオメッセージも紹介されました。


安倍元首相
「演説する機会をいただいたことを、光栄に思います。UPFの平和ビジョンにおいて、家庭の価値を協調する点を高く評価致します」

UPFのホームページより

このビデオメッセージに関し、宗教団体は、7月11日の会見で次のように述べました。

田中富広会長
「多くの世界の指導者と共に推進されていらっしゃる世界平和運動に対しては、(安倍元首相は)賛意を表明してくださっておりました。ただ、宗教法人『世界平和統一家庭連合』の会員として安倍元首相が登録されたこともありませんし、また、顧問にもなったことはございません。いずれにせよ、教会に対する恨みや、そこから安倍元首相の殺害に至るということは、とても大きな距離があって、私たちもその理解に少し困惑をしております」

"宗教団体に恨み" 銃撃事件の深層は

安倍元総理大臣を銃撃した、山上容疑者。時間をかけ、入念に準備を進めていたことも取材から見えてきました。

マンションの同じ階に住む男性は、およそ1年前から異変を感じていたといいます。

同じマンションの住人
「生活音としては、あり得ない音。キュイーンっていうのかな。パイプを切るような音、想像つくでしょ」

男性によると、このマンションでは夜間に金属を切断するような音がたびたび発生。連日の騒音に、クレームを入れた住民もいたといいます。

同じマンションの住人
「それが3日続いて、4日続いたら管理会社に相談しますわね。『電気道具を使った音がうるさい』ってクレームがあったので、心当たりのある方は、なんやかんやって管理会社から通達されていました」

マンションの別の部屋です。間取りは容疑者のものと同じワンルーム。

部屋の中で何を行っていたのか。

NHKのカメラには、形状が異なる3つの銃が押収される瞬間が映されていました。長年、銃器について取材している評論家の津田哲也さんは、事件に使われたもの以外にも手製の銃が複数見つかった事実に、計画性の高さや犯行への執着を感じたといいます。

銃器評論家 津田哲也さん
「最初、研究段階から入って、自分なりの工夫を重ねて試行錯誤を重ねていくと、やはりかなり時間をかけたと思いますね」
津田哲也さん
「異様ですね、この形状からしても。これは普通の人の発想では到達できないものだと思います」

山上容疑者は次のように供述しています。


「2本の鉄パイプを粘着テープで巻きつけてつくった銃のほか、鉄パイプを3本や5本、6本にした銃も製造した」

山上容疑者の供述より

また、容疑者の車からは、穴の開いた1メートル四方の木の板や、アルミホイルが巻かれたトレイが押収されました。


「板は試し撃ちのために、トレイは火薬を乾かすために使っていた」

山上容疑者の供述より
津田哲也さん
「本人もそれなりにシミュレーションして、どの程度の距離かも測って、あの状況だったらこの武器を選んで、どう撃てばいいか、そこまで計算してやったと思う。こういうふうに完成させてしまった、しかも殺傷力も十分にあったわけですから、これはやっぱり犯行に対する執念が本当に尋常じゃないと思います」

当日、演説の1時間以上前に現場を下見し、襲撃の機会をうかがっていたとみられる山上容疑者。事件の数日前に、姿を目撃したというマンションの住民はその表情が忘れられないといいます。

同じマンションの住人
「(7月)5日ですかね。エレベーターの前であいさつも会釈もなくて、もう悲壮感というか、まるで人がいないような、自分だけの世界みたいな人だったので。悩みがあるんだろうなって、すごく印象に残っている」

"許されない事件" 広がる衝撃

宗教団体への恨みや、一方的な思い込みが背景にある凶悪な事件。信者や関係者の間に衝撃が広がっています。

6年ほど前に信仰をやめた元信者です。自身は宗教団体と距離を置いていますが、離れて暮らす両親は今も信仰を続けています。最も懸念しているのが、容疑者と境遇が重なる自分たちにいわれなきひぼう中傷が向けられることです。

元信者
「私たちの家庭は平和になれるからと親が本気で信じていて、自分の生活費とか学費とか、そういうところも全部献金につぎ込んでしまう。親と信じるものが違うって、こんなにつらいんだって。自分じゃどうしようもできないことだと思う。宗教のせいで家庭がバラバラになってしまった。それぐらい強い怨念を生んでしまった。犯人の供述が、まるで自分の周りで起きていたこと、周りの人たちが経験してきたこととまるで同じことを言っていて、それがとんでもなく苦痛ですね」

それでも、どんな境遇であったとしても暴力に訴える行為は決して許されないと強く語りました。

元信者
「山上(容疑者)のやった暴力は、絶対断固として認めない。どんな立場であろうが。非難という言葉じゃ表せないほどの強い憤りを犯人に感じています。これは私だけではなくて、こうやって苦しんでいる似たような境遇の人たちにも共通する意見です」

旧統一教会からクロ現に回答が

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
私たちは宗教団体に対し、11日の記者会見とは別に取材を申し込みました。宗教団体側は私たちの質問に対し、書面で回答しました。こちらで整理していきます。

まず、事件の受け止めについて。

Q1.事件の受け止め
A.山上容疑者の当法人に対する不満などが原因で、
安倍元首相に対する理不尽な蛮行が行われたのだとすれば、
その結果について大変重く受け止めている

そして、容疑者と母親の入信状況については、

Q2.容疑者と母親の入信状況
A.山上容疑者は入信したことはない。
母親は1990年代後半に関わるようになり、
近年は定期的なイベントに参加している状況

また、容疑者の母親の献金実績については、

Q3.容疑者の母親の献金実績
A.今後の捜査に関わるので回答を控える

そして、安倍元総理大臣との関係については、

Q4.容疑者の母親の献金実績
A.安倍元首相が当法人と直接的な関係があったという事実はない。
一方で、安倍元首相がUPFの主催する行事に祝電やメッセージを送った事実があることは承知している。
安倍元首相は特定の宗教団体に対する支持をしたのではなく、UPFの主催する平和運動に対し賛同してくださったのだと理解している

と回答しています。まだまだ分からないことが多いのですが、捜査の最新状況はどうなっているのか。社会部の藤井デスクに聞いていきます。捜査の中で新たに分かってきたことはどんなことでしょうか。

スタジオゲスト
藤井 孝充 (NHK記者)
社会部デスク

藤井:
まず、山上容疑者は事件の前日に奈良市内にある宗教団体の施設に向かって、試し撃ちをしたと話しています。

桑子:
前日に?

藤井:
警察が11日にその現場を確認したところ、施設の入る建物で撃ち込まれたような跡が見つかりました。近くに住む人は、「午前4時頃に破裂するような音を聞いて飛び起きた」と話しています。

ただ、なぜ前日にあえて目立つようなことをしたのかについては分かっていません。それから、さらに前の時期ですけれど、山の中で試し撃ちをしていたと話しています。容疑者の車からは、穴の開いた木製の板が複数枚見つかっています。

桑子:
ここまで動機についてさまざまな供述をしているようですが、その供述はどこまで信ぴょう性があると考えていますか。

藤井:
宗教団体を恨んでいたという供述については、現時点では容疑者のこれまでの行動と矛盾はないと思います。ただ、2005年に海上自衛隊をやめたあと、2020年に派遣会社で勤務を始めるまで15年間あるのですが、その期間については分かっていないことが多いのも事実です。ですから、動機につながる何らかのきっかけがあった可能性もあると思います。

桑子:
その期間のことが分かれば、なぜ今犯行に及んだのかというのが分かってくるかもしれないですね。

藤井:
そうですね。それが捜査の焦点の1つになります。母親が破産したのが20年前。それから恨みを募らせていったと見られていますが、なぜこのタイミングだったのか、それについては具体的には分かっていません。容疑者の家族関係や生育歴、職歴、生活状況などを調べて事件に至る動機や、背景について解明を進めていくことになります。

桑子:
今後、捜査はどう進められていくのでしょうか。

藤井:
容疑者は10日に送検され、これから本格的に取り調べが始まります。一方で宗教団体は11日の会見で、「警察からの要請があれば応じる」と話しています。ですから、警察は詳しい経緯について確認を進めるものと見られます。また、凶器の手製の銃ですが、実験を行うなどしてどのくらいの殺傷能力があるのか分析を進めるものと見られます。

桑子:
今回、選挙期間中にあってはならない事件が起きてしまったわけですが、二度と起きないようにするために何が必要でしょうか。

藤井:
やはり街頭演説ですと、聴衆との距離が近いので、警備上は非常に難しい面もあると思います。私も現場に行ったのですが、360度ひらけていまして、どこからも見渡せる場所でした。複数の警備関係者は、背後の警備態勢が十分ではなかったのではないかとしています。奈良県警の鬼塚本部長は、問題があったことは否定できないとしたうえで、態勢や配置、また緊急時の対応について、それぞれ課題を検証し、見直すとしています。来年には広島県でG7のサミットが、各地で関係閣僚会合も開かれる予定です。対応を急ぐ必要があると思います。

桑子:
クローズアップ現代、今夜はこれで失礼いたします。


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