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インタビュー・地域づくりへの提言

日本をリードする知の巨人たち。社会が大きく転換しつつあるいま、時代を拓くカギは地域にあると指摘します。持続可能な未来へのビジョンを語っていただきます。

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2016年08月12日 (金)

ひとりひとりが主役のダイバーシティー(多様性)な地域へ⑥【社会学者・萩原なつ子さん】

ひとりひとりが主役のダイバーシティー(多様性)な地域へ⑤はこちらから

豊島区が目指したのは、様々な住民が互いに快適に住めるダイバーシティ世界。その推進力となるのは、ある分野に長けた特定のプロや研究者の能力を第一にするのではなく、まずは“いち住民”という距離感でそれぞれが関わっていくことが重要と、萩原さんはいいます。誰でも入ってくることができる、緩やかな距離感。その緩やかさがあってはじめて「多様な人が存在できる」ということも実感できるというのです。


--多様だからこそ、あるひとつの課題についても様々なとらえ方ができ、いろいろな解決策も思いつけるわけですね。

萩原氏 「としまF1会議」での、豊島区内の公園をどうするかということについてもそうですよ。ホームレスの方たちがいるっていうことに対してどうするんだとか、そういう話も出てくるわけです。公園にどういう人がいるのか。「こういう人たちにも、ちゃんと何かサポートできる方法はないかしら」となってくるわけですよね。それはまだ具体的な提案までには至っていませんけれども、話として出てくるわけです。そういう話を行政職員が聞くっていうのはすごく大事ですね。

そういう中から、「おはようバナナ!」というアイデアも出てきたんですよ。朝食をとっていない子どもたちのために、通学路に「バナナ・スタンド」をつくって、登校する時に配ろうと。きっかけは、公園で遊んでいると「うるさい」って苦情があるという話があったじゃないですか。地域の人たちが、子どもをないがしろにするような。その話がいっぱい出てきたんですよ。それで子育て中の女性たちに話を聞いてみると、社会が非常に子どもにもママにも冷たいって。それって結局、高齢者に対しても、ホームレスに対しても冷たい社会ってことなんじゃないかって。そういう視点が出てくるわけですよ。
それで、地域の自主的な取り組みとしてまずはやってみようということで、豊島区内で「要町あさやけ子ども食堂」をやっている栗林知絵子さんという方たちが、実際に「おはようバナナ!」をやったんですね。地域の人たちの有志がバナナ持って、子どもたちに配ったんです。そうしたら、子どもたちに配るという行為によって、地域の方たちは「ああ、うちの地区にはこんなに子どもたちがいたのか」ってわかるわけですよ。そして「この子たちは次世代を担ってく重要な宝だよね」っていう気持ちもわいてくる。

栗林さんは自称F1なんですが、年齢としては“元”F1なんですね。会議への参加は“元”F1もOKにしていたのです。やっぱり、多世代でいろいろ話し合うっていうことが大事ですから。みんな一律の年代では、これはつまんない。自分たちが子育てをした時はこうだったとか、いまは高齢者がいてこういう問題があるとか、そういう話し合いができないと。地域は多様な人たちが存在するんだということを前提にして、その人たちの意見を本当の意味で吸い上げるような「仕組み」「場」を、たくさん作っていくっていうことだと思います。それは、障害のある方が社会参加していくきっかけにもなるわけですね。いまはどうしても「障害を持った人はこう」とか、なっちゃうけれども、これまでの地域って必ずそれぞれの人にそれぞれの役割があって、みんながすごく大事にしていましたよね。「あの人は、なんか草刈りが上手」とか。それで、子どもたちもそういう目で見ていたり。障害を持っているとかそういう話じゃなくて、それぞれ地域での居場所とか出番というものがみんなあって、まさにインクルージョンですよね。そういう地域社会が、かつてはあったんです。
そういう関係が、いままた新しく生まれ始めてもいます。特に食という分野、食べるものを作るっていうことに関わるのは、すごく人とのコミュニケーションにもつながったりしますからね。私の大学院で修士論文を書いた小平陽一さんという方は、化学の先生から家庭科の先生になった方なんですけれども、いま小平さんは、埼玉県の飯能で農業をやっているんです。それで、その方の作物が、ある地域の子ども食堂に卸されているんです。つながったんですよね、農業がそうやって福祉的なところと。ご本人は「自分の作ったものが、こういうかたちで生かされるとは思っていなかった」とおっしゃられていました。ただ単に自分が食べるものが余ったから誰かにあげるじゃなくて、子ども食堂に提供してくれないかっていうことで、まさに「農福連携」というか。
このケースは個人ベースでの話なんだけれども、そういうことが起きてくると、例えばフードバンクのようなものもね。豊島区って宮城県のアンテナショップがあるんですが、私は「賞味期限切れの直前のものを子ども食堂に入れて」って提案してみたの、まだ実現はしていませんが。そういうことだってあるわけじゃないですか。フードロスの問題がこれだけ言われているわけですし。いい意味で本当にその仕組みを作ってしまえばよくて。また一方で、ホームレスの人たちが置かれている状況についても、食べるものがあれば他はそのままでいいかっていうと、そういうことじゃなくて、何かそこに関われるような「小さな生業」を作っていけばいいんだと思います。ちっちゃいのを集めていくみたいな。1千万円、2千万円という大きい金額を取ろうとか儲けようとかじゃなくて。「小さな生業」をいっぱい集めればいいんです。


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地域の課題はそこで暮らす方々みんなの課題なんですから、自分のこと=「ジブンゴト」として始めていきましょうよ。きっと、今までは思いもつかなかったようなことが、そこから次々と生まれてくるはずですし、みなさん一人ひとりが、そんな力を秘めている地域の「主役」なのではないでしょうか。


ひとりひとりが主役のダイバーシティー(多様性)な地域へ①はこちらからお読みいただけます

インタビュー・地域づくりへの提言

萩原なつ子さん

1956年、山梨県生まれ。立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科教授。環境社会学、男女共同参画、非営利活動論等が専門。お茶の水女子大学大学院家政学研究科修了。博士論文では多くの市民活動団体の取り組みを分析。現在も様々な分野の人々との広範なネットワークを活かし、ユニークで斬新な企画・社会システムを提案し続けている。主な著書に『講座 環境社会学 環境運動と政策のダイナミズム』(共著・有斐閣、2001年)、『ジェンダーで学ぶ文化人類学』(共著・世界思想社、2005年)、『市民力による知の創造と発展-身近な環境に環する市民研究の持続的展開』(東信堂、2009年)、『としまF1会議 消滅可能性都市270日の挑戦』(生産性出版、2016年)など。(財)トヨタ財団アソシエイト・プログラム・オフィサー、東横学園女子短期大学助教授、宮城県環境生活部次長、武蔵工業大学環境情報学部助教授等を経て現職。認定特定非営利活動法人日本NPOセンター副代表理事。

コメント(1)

豊島区在住。朝やけ子ども食堂に個人で缶詰送ったことあります。事業所の備蓄品の期限近の食べ物だから会社名で送ると社内手続きで多分通らないから一旦私がもらって送付。送料で3000円越えちゃったからこれなら寄付した方がいいな、と反省しました。目的は達成したけれど。
東久留米での農業ボランティアでも、収穫時に廃棄する野菜がたくさんでる。どうにか子ども食堂などと連携できないものかと思いつつも個人の点と点を繋ぐ線の手繰り寄せ方がわからない。廃棄することで採算がとれる場合もありますが。SNSが発達していろいろな人と繋がっているようで実生活はそうでもない。その線って行政の役割のような気もします。
農業ボランティアに立教のゼミ生。授業の一貫で参加したりしてました。知ってましたか?

私は独身で50才になりますからf 1でも、元f1にもなりません。
ただ。人より荷物が軽い分。未来の世代のために少しでも役に立てばと寄付行為したり妄想するんです。そういう人見えないけれど結構います。

いろんな世代、いろんなライフスタイルがあっての地域コミュニティだと思っています。
豊島区でも、区民呟きの場とか拾い上げてくれる部署ないかしら?

投稿日時:2016年08月19日 21時22分 | なるー

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