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日本をリードする知の巨人たち。社会が大きく転換しつつあるいま、時代を拓くカギは地域にあると指摘します。持続可能な未来へのビジョンを語っていただきます。

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2016年08月12日 (金)

ひとりひとりが主役のダイバーシティー(多様性)な地域へ⑤【社会学者・萩原なつ子さん】

ひとりひとりが主役のダイバーシティー(多様性)な地域へ④はこちらから

地域づくりでは、自分たちのまちの良さを、自分たちで発見していくことが非常に重要な要素となってきます。しかし、地元の人ほど、地元の良さや価値が見えなくなってしまっていることが少なくありません。そんな時には、“よそ者”による刺激がきっかけとなって価値に気づくこともあると、荻原さんはいいます。


萩原氏 わかっているつもりでも、実はわかっていなかったということが、たくさんあるんですよね。私にこれを教えてくれたのは、赤瀬川原平さんです。赤瀬川さんがある時「萩原さん、千円札を描ける?」って言ったんです。「え、千円札?ちょっと待って」と答えて描いてみようとしたら、これが描けないんですよ。そうしたら赤瀬川さんは「へへへっ!描けないでしょう!それがね“身近な環境”なんですよ」と言ったんです。「身近な環境であればあるほど、実は見ていないんですよ」とおっしゃった。そう、見ていないんですよね。身近な環境であればあるほど。

だから地域っていうのも、身近な環境であるからこそ、実は見ていない。もう1回、見つめなおすためには、調査・研究という手法が重要で、まずはどんなことがあるのか、どういう課題があるのかから、見ていかなくてはいけない。
また、谷川俊太郎さんの言葉ですが「何かを不思議に思ったら、何かを美しいと思ったら、何かをこれじゃ困ると思ったら、それが研究の始まりです」。これ、すごいと思いません?この言葉は、いまも私の中で生き続けているんですよ。お二人とも先ほどお話ししたトヨタ財団の『身近な環境をみつめよう!市民研究コンクール』の審査委員をしてくださっていました。地域の人たちが自分の地域を見つめなおすきっかけとか、場であるとか、機会を持つっていうことが、地域づくりの一番の重要ポイントだと思います。それが、行政と一緒に連携、協働することから施策になって具体的になっていくわけですが、そのためには、きちっとそこの“パイプ”というか、それがないとダメなんですよね。

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谷川俊太郎さんの言葉「何かを不思議に思ったら、何かを美しいと思ったら、何かをこれじゃ困ると思ったら、それがもう研究の始まりです」


--双方が一方通行ではなく、お互いに行き来できる“パイプ”がいるということですね。
萩原氏 行政がただ「聞き置く」だけ、聞きっぱなしにしておくだけだと、住民やいろいろなアイデアを出してくれる人たちにとっては、それが一番やる気を削ぐことになるんです。そうではなくて、一つでも二つでも提案していってもらって、それを協働の手法でやっていく。その点で、もうひとつ私がやってよかったと思うのは、神奈川県大和市ですね。
大和市では、提案型の協働事業の選考委員をやっていたんです。住民側からの提案、それから行政側からの提案、両方あるんですね。それで、住民側からの提案に対しては、関係する部署の人たちが集まって、具体的な施策にしていくんです。行政側からの提案に対しては、住民側の方から「ああ、そこは私たちにできることがあるかも」と発見してもらって、協働でやっていく。両方が協力して事業案をつくっていって、それに予算をつける,助成金を出すというシステムです。「としまF1会議」をやったのはこの経験の後のことになりますが、大和市で具体的に行政の職員が対等な立場で一緒にやっていくことのメリットを実感していたので、これならうまくいくっていうフィージビリティー(=実行・実現の可能性)が私の中であったわけです。豊島区の人たちにしてみると「え?行政職員がメンバー?」みたいな感じだったんですけれど、「大丈夫、前例があるよ」って。

--また、最近だと「プロボノ」(=様々な分野の専門家が、経験やスキルを生かして社会貢献するボランティア活動)による地域づくりの取り組みも始まっていますね。
萩原氏 そもそも「プロボノ」の発想というのは、特定のこの部分について関わってもらうというものなんですよね。地域づくりというよりは、ITならITとか、この法律に関してはこうだとか、会計についてだとか。日本に入ってくるときに、その概念が広がっちゃった部分があるんです。
重要なのは、ひとつの点だけじゃなくて、点と点をつなげて面になっていくようにすることです。いろいろな人たちが、それぞれの思いや課題意識で関わっていけるような仕組みにするってことですね。豊島区の取り組みでは、もちろんある分野のプロや研究者なんかも関わっていたけれど、専門家としてではなくて、いち住民として関わるっていうのがポリシーだったんです。みんなで集まって話をしますが、ずっと後になって「あれ、そういえばあなたはここが専門だったよね」という感じです。それは最初からそう決めていました。あなたたちはこの分野の専門家かもしれないけれど、地域のことが専門じゃないでしょうって。さっきの「千円札を描けますか」って話ですよね。あなたたちはこの地域のことを、どのくらい知っているのですか、知らないですよねっていう。そこを抜きにして、最初から専門家として関わるということでは、もうスタンスが違ってきちゃう。自分たちはプロだからという思いが先に立っていては、対等な立場で話ができませんし、やっぱり浮いてしまいますよね。距離を感じちゃう。だから、どこまで距離を縮められるか。地域づくりにおいて重要なのは、ここの“ええ加減”の程よい距離なんですよね。遠すぎてもダメだし、あまり密着しすぎちゃってもダメ

例えば、二人が固く握手し合ってつながっていたとします。そのギュッと堅く握られた二人の手を引き離して、間に別の人が入り込むのことって簡単にできますか?難しいですよね。でも、緩やかな握手だと、フワッと間に入っていける。これは「スモールワールドネットワーク」においての「強い紐帯の弱さ」、「弱い紐帯の強さ」っていう考え方です。紐帯が強すぎると、もう他の人は入れない。これが実はこれまでの地域だったんですよね。地域にある既存の団体なんかもそう。そこに若い人が、あえて入ってくるわけがないでしょう。
だけど、緩やかにしておけば、誰かが「入れて」って言ったときに、「どうぞ」って入れられる。行政もそれぐらいの緩やかさでいいんですよ。行政は行政だけでやるっていうんじゃなくて、少し緩やかにしておいて、誰かが入ったときに「ああ、こうやってアイデアを入れてもらえた方が楽じゃん」というようにしてやっていく。緩やかだからこそ、ネットワーキングなんです。ネットワーキングっていうのは、ある目的があって、それにつながってくるということです。そう思う人たちが、例えば100人集まってきて、緩やかにつながっていて、何かあるときにノットする=結ぶわけです。で、緩やかなつながりだから、目的が終わったら、離せばいいんですよ。でも、そこで切れるわけじゃなくて、緩やかにつながっているわけですから、別の何かがあったら、またノットすればいい。それは国と国だったり、町と町だったり、人と人、組織と組織、組織と人でもいいわけですよね。


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それから、ワークショップのやり方も何百種類ってあるわけで、その中で適材適所といいますか、きちんとしたものをどう置いていくかですよ。どういうやり方をどこでやるかっていう、そこがデザインなんです。そのデザイナーがいるか、そこにどうファシリテートしていくかなのです。重要なのは、課題を単独で考えてないっていうことなんです。実は全部つながっている。単体で考えようとするから、例えば高齢化だと高齢化の話しかしない。消滅可能性都市っていうとすぐ少子化の話になっちゃって、高齢者を悪者にしてくる。そうじゃないでしょうと。そこに住民として多様な、まさにダイバーシティで多様な人々がいるんだから、その方たち全体でどう町を作っていくかっていう発想が必要なんですよね。ダイバーシティっていうのはすごく重要。農業だってそうですけれど、モノカルチャーにしちゃだめなんですよね。

ひとりひとりが主役のダイバーシティー(多様性)な地域へ⑥に続きます

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インタビュー・地域づくりへの提言

萩原なつ子さん

1956年、山梨県生まれ。立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科教授。環境社会学、男女共同参画、非営利活動論等が専門。お茶の水女子大学大学院家政学研究科修了。博士論文では多くの市民活動団体の取り組みを分析。現在も様々な分野の人々との広範なネットワークを活かし、ユニークで斬新な企画・社会システムを提案し続けている。主な著書に『講座 環境社会学 環境運動と政策のダイナミズム』(共著・有斐閣、2001年)、『ジェンダーで学ぶ文化人類学』(共著・世界思想社、2005年)、『市民力による知の創造と発展-身近な環境に環する市民研究の持続的展開』(東信堂、2009年)、『としまF1会議 消滅可能性都市270日の挑戦』(生産性出版、2016年)など。(財)トヨタ財団アソシエイト・プログラム・オフィサー、東横学園女子短期大学助教授、宮城県環境生活部次長、武蔵工業大学環境情報学部助教授等を経て現職。認定特定非営利活動法人日本NPOセンター副代表理事。

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