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青森県知事選挙 自民党青森県連・自主投票決定の裏側

執筆者早瀬翔(記者)
2023年04月04日 (火)

青森県知事選挙 自民党青森県連・自主投票決定の裏側

6月に投開票を迎える青森県知事選挙。
5期20年知事を務めてきた三村氏が、立候補しないことを表明し、「青森の次の顔」は誰になるのか。
県選出の国会議員のほとんどを占め、県議会でも過半数を維持する自民党の対応に注目が集まっていた。
一時は「青森市長を推薦」という方向でまとまったものの、結論は「自主投票」。対応が覆った背景に何があったのか。

始まりは突然に

青森県庁

推計人口で120万人をついに割り込んだ青森県。
人口減少や産業の創出などの課題がある青森県では、ことしは知事選がある。
現職の三村知事が、知事選に立候補するかどうかを明らかにしないまま、年越しとなり、県政キャップとして煮え切らない年末年始を過ごしていたが、取材のスタートは突然だった。
1月6日(金)、地元紙にむつ市の宮下宗一郎市長(当時)が立候補するという報道が出た。

宮下氏

現職が態度を表明しない中、自民党関係者も驚くタイミングだった。
三村知事はどうするのか、ほかに誰が出るのか。本腰を入れて取材しないと。
そう思っていた週末、今度は青森市内のある議員から「青森市の小野寺市長が『三村知事が勇退するなら立候補する』と挨拶回りしている」と連絡があった。

小野寺氏

宮下氏も小野寺氏も、知事選に関心があるのはつかんでいたが、宮下氏の動きに刺激を受けたかのように、小野寺氏も動き出した。

そして、その2週間後、三村知事は次の知事選に立候補しないことを表明した。

三村知事

三村知事は「県政には若い感性が必要だ」などとして、退任の理由を明らかにした。
現時点(3月末)で、小野寺氏と宮下氏以外に立候補を表明した人はおらず、一騎打ちの構図となっている。

「青森の顔」と、候補者の「顔」

青森の人以外は、あまり馴染みのない3人。ここで少しだけ紹介したい。

三村知事「知事というより営業マン」

河野氏のtwitterより 三村知事

「青森県知事、襲来」。スーツの裏柄は世界遺産に登録された縄文遺跡関連の写真でいっぱい。河野太郎氏が投稿した三村知事の写真付きのツイートは大きな話題を呼んだ。

「知事と言うよりは名営業マン」という声も聞かれる三村知事。
これまで青森の誇る魚や果物などを「攻めの農林水産業」と銘打ってPRし、盛り上げてきた。

こうしたスーツ以外にも、県名産のリンゴやホタテなどがプリントされたTシャツを重ね着して、1枚ずつ脱いでPRする姿は県民なら誰もが見たことはあるというレベルだ。

宮下氏

宮下氏 GoToトラベル「人災」発言

新型コロナ対策として行われた「GoToトラベル」。
「キャンペーンによって感染拡大に歯止めがかからなければ、政府による人災だ」と苦言を呈し、全国的に注目を集めたのが、むつ市長だった宮下氏だ。
選挙では、これまで自民党からも支援を受けてきた。
国土交通省の官僚出身で、急逝した父の後を継いで立候補。
8年余り市長を務めたが、まだ40代前半で県内でも知名度の高い首長の1人だ。
核燃新税導入など、改革派のイメージも強く、「新しい未来への挑戦を旗印に県民主体の政治実現」と訴える。

小野寺氏「三村県政を正しく引き継ぐ」

小野寺氏

宮下氏の高校の先輩にあたる、青森市長の小野寺氏。
自民党などの支援を受けて当選し、現在2期目。
中核市では初となる小中学校の給食費無償化や、ICT教育に力を入れるなど、厳しい財政状況の中で、メリハリのついた予算執行などを行うその手腕は、自民党関係者からの評価も高い。
また、「三村学校の生徒」を自認し、「私は美辞麗句を並べるタイプではない。青森市で実現した政策を全県に広げたい」と訴える。

立候補を表明した2人は、いずれも40代で元官僚だ。

悩める自民党にさらなる混乱「誓約書」

自民党青森県連

年明けに動き出した、青森県知事選。
その裏で判断を迫られたのが、自民党青森県連だ。
県議会では48議席中29議席(3月30日時点)、衆院の選挙区選出は全議席を抑える「自民党王国」で三村県政を支えてきた。
しかし、直近の参院選では公認した新人候補が立憲民主党の現職に敗れた。
全県選挙で、2連続で敗れることはあってはならない。

その自民党県連に、小野寺・宮下両氏から推薦届が届いた。
県連会長は「津島派」で知られる津島雄二氏の息子、津島淳氏。
津島氏は知事選について「県民にとって、よりよい候補者を決めていくことが第一」と、当初は1月中に推薦する候補を決める考えを示していた。
ただ、県連の中では早くから「甲乙つけがたい候補だ」、「党内がまとまらない可能性がある」と不安視する声も根強かった。

自民党県連は、選考委員会を設置し検討を開始。
1月下旬には、2人を青森市のホテルに呼び込み、それぞれ政策や知事選立候補への思いなどを聴取した。
ところが、その際に出てきた1枚の紙が、自民党関係者を更なる混乱へと陥れる。

誓約書の内容 神田潤一衆院議員のブログより

そこに書かれていたのは、「自民党本部及び自民党青森県連の選考結果に従い、決定後は党推薦候補者の当選に向け最大限の協力をすることを誓約する」という文言だった。

「誓約書」は踏み絵?

小野寺氏、宮下氏

自民党関係者や県議の間でも、驚きと戸惑いを持って受け止められた「誓約書」のこの文言。
「自民党が候補者を決めるから、選考から漏れた方は立候補を取り下げてくれ」とも読み取れる内容に、ハレーションは少なくなかった。

会合後、小野寺氏は「署名する」、宮下氏は「署名しない」と対応が分かれた。

さらに、誓約書が表面化すると、県議選を前にした県議からは「自民党がもめている印象で票を下げたくない」とか「ただでさえ、国政で自民党にマイナスの声もある中、これ以上評判を下げないでほしい」と批判的な意見や懸念の声が相次いでいた。

神田潤一衆院議員のブログより

衆院青森2区選出の神田潤一衆院議員も、自身のブログ上で「踏み絵やパワハラと捉えられるおそれがある。誓約書が候補者の心理に対してどのような意味を持ち、自民党員や青森県民がどう感じるか」と自身の考えを表明。
「『県民にとってよりよい候補』選び」は、混迷を深めた。

記者会見

想定より2週間ほど遅れた2月11日。
「選考委員会」で、小野寺氏推薦の方針が満場一致でまとまった。
理由は「総合的な観点」だった。

1月から始まった知事選の動き。あとは、自民党県連の「役員会」と「総務会」で選考委員会の結論を決定し、党本部に上申するという手続きが淡々と進むと思われていたが、最後にどんでん返しが待っていた。

自主投票決定で、また…

選考委員会の方針が報じられると、県連内で、また不満の声が表面化した。
宮下氏の地元であるむつ市周辺はもちろん、むつ市から車で3時間も離れた県内第3の都市の弘前市選出の県議からも、「除名覚悟で自主投票を求めたい」などとする声が出た。

津島淳氏

2月中旬、本来なら、手続きだけで済むと思われていた総務会は、予定の時刻を大幅に超え、2時間近くの議論が行われた結果、「決定持ち越し」という異例の判断が下された。
ある自民党関係者は「一寸先は闇と言うことなんだなと思い知った」と振り返った。
関係者によれば、総務会でこうした方針がひっくり返されたのは初めてではないかという。
「これまでもなんだかんだあったが、自民党はうまく一枚岩にまとまってきた。こういう事態になると、そういう時代も終わったのかもしれない」。

そして2週間後に再度開かれた会合で、決まった方針は「自主投票」。
「県民にとってよりよい候補」は選べなかった。

津島県連会長は「県内の党内世論を二分する、さまざまな意見が出た。組織を預かるものとして、分裂をいたずらに進めることはあってはならない」と苦渋の決断だったことを明かした。

一方で、県連の関係者は、それだけが理由ではないと指摘する。
党が行った調査で「宮下氏優勢」とする調査結果が出ていたことや、自民党をこれ以上分裂させてはいけないという「中央の声」があったのではないかというのだ。
さらに、知事選のおよそ2か月前には、青森県議選もある。
地方・中央ともに、さまざまな思惑が揺れ動く中で「決める」決断から「決めない」決断に至ったとみられる。

どうなる県知事選

自民党が青森県知事選で特定の候補を支援しないのは24年ぶりだという。
県連内からは、「分裂は避けられた」という安堵の声が聞かれる一方、支援する候補が別れることから事実上の分裂を懸念する声も多い。

すでに宮下氏を支援する姿勢を明確にする、むつ市周辺の首長や議員もいる一方で、青森市では市議団が超党派で、小野寺氏を支援する方針を示している。

津島県連会長は、「緊密に意思疎通コミュニケーションをとって、ノーサイドに」と党内融和に注力する考えを示したが、現実は厳しいという見方も少なくない。

次の「青森の顔」を決める県知事選挙まで、あと2か月を切った。
自民党県連のある幹部は「自民党も世間と同じく多様性の時代に入っただけ。求心力の低下ではない」と強調したが、果たして。これから迎える県議選、県知事選の行方とともに、追いかけていきたい。

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